夢新訳:異変後グロッタ
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「おぅおぅエルザちゃん。今日はステージに立つのかにゃ?」
「ニャオスさん…」
普段は魔物や洗脳された人間たちが踊っているグロッタカジノ唯一のステージ。
そこに私はアリスちゃん(と呼べと言われた)と立っていた。
普段絶対着られないようなかわいくて、
でもいざという時動きやすいドレスをシルビアさんに選んでもらい(アンドヘアアレンジアンドメーキャップってか大体全部)、スタンドマイクはグレイグさまに持ち込んでもらうというまさに至れり尽くせり。
なお、ピアノの方は有り物を使わせてもらうことにした。
魔物の持ち物にしては随分と真っ当なものだ。
恐らくどこからか奪ってきたものなのだろうと思うと気分は悪かったが、顔には出さないことに努めた。
これを今から弾くアリスちゃんの嫌悪感とは比較にならないはずだからだ。
…もちろん覆面を被った彼の表情を窺い知れるはずもないが、
少なくとも愉快な顔はしていないだろう。
シルビアさんとグレイグさまはすでに勇者様たちと合流を終え、VIPルームに向かう準備を整えているはずだ。
私たちの元を去る際シルビアさんは、アリスちゃんにも私にも、いざというときは自分の身を最優先で守るように言った。
暴れる魔物が外に出る可能性については、街に残っていた闘士たちになんとかしてくれ、
と依頼しているから気にしないでともつけ加えて。
いずれにしても、暴れる魔物の矛先がいつ向かってくるかは全く読めない。
こればかりはどうしようもなかった。
ぶるり、と震える。
「緊張しているのかにゃ?」
「うん」
「リラックスするにゃー。俺、絶対最後まで見るからにゃ。
楽しみにしてるにゃん」
「ありがと。ニャオスさん」
これから何が起きるか、ニャオスさんはまだ知らない。
これから彼をも陥れようとしているのだと思うと、どうしようもなく罪悪感に見舞われた。
勇者様たちには話してないけど、私が人間であるにも拘わらず良くしてくれる魔物も意外といたからなぁ…。
「エルザちゃん。そろそろでがす」
ピンクの覆面男・アリスちゃんはこう見えてかなり万能である。
現在の本職はシルビア号専属の航海士(その道ではかなり有名人らしい)だそうだが、
雇用主の影響もあって最近は芸事も嗜むらしく、最近の特技はピアノだと言う。
人並みに歌こそ歌えても楽器ができない私にとっては、今回まさにおあつらえ向きの相方だと言って良い。
『一回聴いた曲は大体弾けるのよ、ね?アリスちゃん』
というシルビアさんの言にはさすがに狼狽えていたけれど。
…マスクを被ったままでもわかるほどに。
「そうね…。やっちゃいますか、アリスちゃん!」
初ステージの筈なのに、私たち自身知名度がないはずなのに、歓声があがる。
なぜか。
(ニャオスさん…それにナスティさんも…!!)
会場の下で、仲良くなった魔物たちが盛り上げてくれているからだった。
(メイジももんじゃのももたろうさん…くさった死体のジョンさん…サタンフーラーのネンテンさんまで…!!)
他にも多種多様な知り合いたちが私たちを歓迎してくれた。
しかもありがたいことに彼らの働きで、普段街の方にばかりいる魔物たちのかなりも来てくれていた。
感激して、涙が出そうになる。
だが、まだ泣くわけにはいけない。
その代わりに声を張る。
「みんな!!!今日はありがとーーーー!!!!」
それをきっかけに、アリスちゃんが力強く和音を叩く。
「エルザの初ライブ!!楽しんでってねーー!!!」
脳内でピアノに併せてリズムを打ち、声を載せる。
最初は怪しまれないようにあえて魔力を込めずサバトと女王降臨を喜ぶ魔女の歌を。
次に地獄の皇太子を崇める悪魔の歌を。
徐々に『たたかいのうた』を発動する魔力を込めて、歌いあげていく。
このあたりの調整は魔法戦士の得意分野だ。
音楽用語で言えばクレッシェンドを使うのが適切だろう。
そして暗黒の生き方を至上のものとする歌を歌う頃には、
ステージの下ではすでに暴力沙汰が起きていた。
私の歌での煽りもあり,間もなくカジノは破壊衝動に駆られた客と、
それ食い止めようと暴力行為に及ぶスタッフという構造の地獄絵図となる。
恐ろしいくらいにシルビアさんの目論見通りだった。
…歌い続けながらも心が痛む程度には。
様子を少しでも把握しようと視線を巡らせたその先には、
私のステージを最後まで観てくれると約束していたニャオスさんが暴れまわっている姿もあった。
仕方ないことだしそもそもこちらが狙っていたこととはいえ約束を守ってもらえず、少しだけ悲しくなった。
それでも、私は勇者様たちのために歌い続けなければならない。
吸血鬼の女性が仇敵を策謀の末なぶり殺す歌。魔力全開。
「エルザちゃん!あれ…!」
曲が終わった合間、アリスちゃんが何かに気づいたようで、私もそちらを見る。
「マルティナさん…!!」
先の作戦会議において顔を見なかったはずの人物が、VIPルームから降りてきた。
セクシーなバニースーツに身を包んだ彼女は、狼狽えたように辺りを見回している。
間もなく状況を把握したらしい。
マルティナさんは顔つきを変えるや否や、暴れる魔物を片端から暴行し、無力化していく。
その様を見て、全て合点がいった。
「アリスちゃん、きれいな女性ディーラーって、マルティナさんのことだったんだ!
道理でみんな戦いたくないって!!」
「な、なんてことでがす!!
だが…ネエさんの作戦通り、こちらに呼び寄せられた!!」
「歌うよ、アリスちゃん!シルビアさんたちのとこには黒幕がいる!」
マルティナさんに事態を収束させ、黒幕の元に帰すわけにはいかない。
もっと暴動を激しくしなければ。
今までは魔物のテンションをアゲるため、暗黒を賛える曲ばかりを歌っていた。
が、ここからは怒りを煽ることとする。
つまり、魔物たちが忌み嫌う希望に溢れた歌を歌えばよいのだ。
もちろん『たたかいのうた』の魔力を発動し続けたまま。
アリスちゃんに目配せする。
ピアノが鳴り響いた。
戦いの勝利。夜明けの歓び。
デルカダール人ならば誰もが知る勇壮な凱歌。
気分が乗り、しかしほどなくしてピシャリと厳しい声がとんだ。
「その不愉快な歌を今すぐやめなさい」
魔物たちは意図したとおりますますひどく暴れたが、
代償として私たちが元凶であることが、マルティナさんにバレた。
どういう事情か今は魔物の手先と化してしまっているとはいえ、マルティナさんはマルティナさん。
『きれいな女性ディーラー』と相対することはもちろん想定内だが、緊張しないわけではない。
シルビアさんの危惧は現実のものになったのだと、今はただそれだけ噛みしめる。
「そうかな。これでもニャオスさんたちからのウケは良かったんだけど」
ちなみにニャオスさんはウケすぎてバーの辺りで血だるまにまでなってのびている。
「迷惑なのよ。ブギー様の」
「ブギー様?あー、黒幕そんな間抜けな名前なのねー」
バニーなんておよそ戦闘向きじゃなさそうな格好をしているが、
マルティナさんの実力にはさほど影響を与えなかったようだ。
瞬時に距離を詰められ、強烈な蹴りの一撃。
「…ふざけてんの?」
「ちょー真剣です」
しかしそれくらいならさすがに私でも読めるし、対処もできる。
マイクスタンドで攻撃を咄嗟に受けた。
しかし金属製のそれは、一発で再起不能なほどに歪む。
これはやばい。
「あわわ…大変なことになってきたでがす…!」
「アリスちゃん!!」
青ざめるアリスちゃんを生意気を承知で一喝する。
「伴奏よろしく。まだやめるわけにはいかないでしょ?」
容赦なく新たな攻撃を加えてくるマルティナさん。
格闘の達人である彼女の攻撃を、
しょせん素人に毛が生えた程度の自分にどこまで受け流すことができるか。
ある意味楽しみではあった。
「それに戦姫とは一度手合わせしてみたかったし」
場合によっては不敬罪でその場で打ち首獄門レベルの発言をしながら、
使い物にならなくなったマイクスタンドを捨てる。
アリスちゃんの伴奏が始まる。
血で血を洗う抗争も最終局面に突入していた。
「ニャオスさん…」
普段は魔物や洗脳された人間たちが踊っているグロッタカジノ唯一のステージ。
そこに私はアリスちゃん(と呼べと言われた)と立っていた。
普段絶対着られないようなかわいくて、
でもいざという時動きやすいドレスをシルビアさんに選んでもらい(アンドヘアアレンジアンドメーキャップってか大体全部)、スタンドマイクはグレイグさまに持ち込んでもらうというまさに至れり尽くせり。
なお、ピアノの方は有り物を使わせてもらうことにした。
魔物の持ち物にしては随分と真っ当なものだ。
恐らくどこからか奪ってきたものなのだろうと思うと気分は悪かったが、顔には出さないことに努めた。
これを今から弾くアリスちゃんの嫌悪感とは比較にならないはずだからだ。
…もちろん覆面を被った彼の表情を窺い知れるはずもないが、
少なくとも愉快な顔はしていないだろう。
シルビアさんとグレイグさまはすでに勇者様たちと合流を終え、VIPルームに向かう準備を整えているはずだ。
私たちの元を去る際シルビアさんは、アリスちゃんにも私にも、いざというときは自分の身を最優先で守るように言った。
暴れる魔物が外に出る可能性については、街に残っていた闘士たちになんとかしてくれ、
と依頼しているから気にしないでともつけ加えて。
いずれにしても、暴れる魔物の矛先がいつ向かってくるかは全く読めない。
こればかりはどうしようもなかった。
ぶるり、と震える。
「緊張しているのかにゃ?」
「うん」
「リラックスするにゃー。俺、絶対最後まで見るからにゃ。
楽しみにしてるにゃん」
「ありがと。ニャオスさん」
これから何が起きるか、ニャオスさんはまだ知らない。
これから彼をも陥れようとしているのだと思うと、どうしようもなく罪悪感に見舞われた。
勇者様たちには話してないけど、私が人間であるにも拘わらず良くしてくれる魔物も意外といたからなぁ…。
「エルザちゃん。そろそろでがす」
ピンクの覆面男・アリスちゃんはこう見えてかなり万能である。
現在の本職はシルビア号専属の航海士(その道ではかなり有名人らしい)だそうだが、
雇用主の影響もあって最近は芸事も嗜むらしく、最近の特技はピアノだと言う。
人並みに歌こそ歌えても楽器ができない私にとっては、今回まさにおあつらえ向きの相方だと言って良い。
『一回聴いた曲は大体弾けるのよ、ね?アリスちゃん』
というシルビアさんの言にはさすがに狼狽えていたけれど。
…マスクを被ったままでもわかるほどに。
「そうね…。やっちゃいますか、アリスちゃん!」
初ステージの筈なのに、私たち自身知名度がないはずなのに、歓声があがる。
なぜか。
(ニャオスさん…それにナスティさんも…!!)
会場の下で、仲良くなった魔物たちが盛り上げてくれているからだった。
(メイジももんじゃのももたろうさん…くさった死体のジョンさん…サタンフーラーのネンテンさんまで…!!)
他にも多種多様な知り合いたちが私たちを歓迎してくれた。
しかもありがたいことに彼らの働きで、普段街の方にばかりいる魔物たちのかなりも来てくれていた。
感激して、涙が出そうになる。
だが、まだ泣くわけにはいけない。
その代わりに声を張る。
「みんな!!!今日はありがとーーーー!!!!」
それをきっかけに、アリスちゃんが力強く和音を叩く。
「エルザの初ライブ!!楽しんでってねーー!!!」
脳内でピアノに併せてリズムを打ち、声を載せる。
最初は怪しまれないようにあえて魔力を込めずサバトと女王降臨を喜ぶ魔女の歌を。
次に地獄の皇太子を崇める悪魔の歌を。
徐々に『たたかいのうた』を発動する魔力を込めて、歌いあげていく。
このあたりの調整は魔法戦士の得意分野だ。
音楽用語で言えばクレッシェンドを使うのが適切だろう。
そして暗黒の生き方を至上のものとする歌を歌う頃には、
ステージの下ではすでに暴力沙汰が起きていた。
私の歌での煽りもあり,間もなくカジノは破壊衝動に駆られた客と、
それ食い止めようと暴力行為に及ぶスタッフという構造の地獄絵図となる。
恐ろしいくらいにシルビアさんの目論見通りだった。
…歌い続けながらも心が痛む程度には。
様子を少しでも把握しようと視線を巡らせたその先には、
私のステージを最後まで観てくれると約束していたニャオスさんが暴れまわっている姿もあった。
仕方ないことだしそもそもこちらが狙っていたこととはいえ約束を守ってもらえず、少しだけ悲しくなった。
それでも、私は勇者様たちのために歌い続けなければならない。
吸血鬼の女性が仇敵を策謀の末なぶり殺す歌。魔力全開。
「エルザちゃん!あれ…!」
曲が終わった合間、アリスちゃんが何かに気づいたようで、私もそちらを見る。
「マルティナさん…!!」
先の作戦会議において顔を見なかったはずの人物が、VIPルームから降りてきた。
セクシーなバニースーツに身を包んだ彼女は、狼狽えたように辺りを見回している。
間もなく状況を把握したらしい。
マルティナさんは顔つきを変えるや否や、暴れる魔物を片端から暴行し、無力化していく。
その様を見て、全て合点がいった。
「アリスちゃん、きれいな女性ディーラーって、マルティナさんのことだったんだ!
道理でみんな戦いたくないって!!」
「な、なんてことでがす!!
だが…ネエさんの作戦通り、こちらに呼び寄せられた!!」
「歌うよ、アリスちゃん!シルビアさんたちのとこには黒幕がいる!」
マルティナさんに事態を収束させ、黒幕の元に帰すわけにはいかない。
もっと暴動を激しくしなければ。
今までは魔物のテンションをアゲるため、暗黒を賛える曲ばかりを歌っていた。
が、ここからは怒りを煽ることとする。
つまり、魔物たちが忌み嫌う希望に溢れた歌を歌えばよいのだ。
もちろん『たたかいのうた』の魔力を発動し続けたまま。
アリスちゃんに目配せする。
ピアノが鳴り響いた。
戦いの勝利。夜明けの歓び。
デルカダール人ならば誰もが知る勇壮な凱歌。
気分が乗り、しかしほどなくしてピシャリと厳しい声がとんだ。
「その不愉快な歌を今すぐやめなさい」
魔物たちは意図したとおりますますひどく暴れたが、
代償として私たちが元凶であることが、マルティナさんにバレた。
どういう事情か今は魔物の手先と化してしまっているとはいえ、マルティナさんはマルティナさん。
『きれいな女性ディーラー』と相対することはもちろん想定内だが、緊張しないわけではない。
シルビアさんの危惧は現実のものになったのだと、今はただそれだけ噛みしめる。
「そうかな。これでもニャオスさんたちからのウケは良かったんだけど」
ちなみにニャオスさんはウケすぎてバーの辺りで血だるまにまでなってのびている。
「迷惑なのよ。ブギー様の」
「ブギー様?あー、黒幕そんな間抜けな名前なのねー」
バニーなんておよそ戦闘向きじゃなさそうな格好をしているが、
マルティナさんの実力にはさほど影響を与えなかったようだ。
瞬時に距離を詰められ、強烈な蹴りの一撃。
「…ふざけてんの?」
「ちょー真剣です」
しかしそれくらいならさすがに私でも読めるし、対処もできる。
マイクスタンドで攻撃を咄嗟に受けた。
しかし金属製のそれは、一発で再起不能なほどに歪む。
これはやばい。
「あわわ…大変なことになってきたでがす…!」
「アリスちゃん!!」
青ざめるアリスちゃんを生意気を承知で一喝する。
「伴奏よろしく。まだやめるわけにはいかないでしょ?」
容赦なく新たな攻撃を加えてくるマルティナさん。
格闘の達人である彼女の攻撃を、
しょせん素人に毛が生えた程度の自分にどこまで受け流すことができるか。
ある意味楽しみではあった。
「それに戦姫とは一度手合わせしてみたかったし」
場合によっては不敬罪でその場で打ち首獄門レベルの発言をしながら、
使い物にならなくなったマイクスタンドを捨てる。
アリスちゃんの伴奏が始まる。
血で血を洗う抗争も最終局面に突入していた。