Hevenly sun
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壁画に引きずり込まれこそしたが、その当初ほどは犯人ことベロリンマンの印象は悪くなかった。
「長いこと閉じ込められていたから寂しくて、ついやっちゃったんだベロローン!」
とか言われて脱力したのもあるけれど、とりあえず悪意はなかった。
いやむしろ子どものような純真ささえ感じる。
「長いことって。どれくらいここにいたの?」
「時計も何もないから、ちょっとわからなかったベロン。ほとんど何も食べなくとも体の調子はむしろ良かったんだがベローン」
「語尾、無理しなくていいよ」
「そいつはありがたい」
ベロリンマン。
仮面武闘会を語るにおいてもっとも謎めいた闘士といえば、本名不詳(ということになっている)のマスク・ザ・ハンサムやレディ・マッシブではなく、この男だろう。
本名も正体も不明で、噂では魔物の血が混ざっているという噂だ。
その真偽を知る者は同じ仮面武闘会の闘士を含めても存在しない。
むしろその人間離れした巨体と、彼の代名詞である『ぶんしん』という特技が、ますます疑惑を深める。
そうでありながらどことなくコミカルな雰囲気と気の良さで主に子どもたちからは人気を得ている、実際のところはそんな闘士だ。
しかし今はモンスターが蠢く謎めいたこの異世界で独り生き残り、ハンフリーからも恐らく疑いの目を向けられている。
もはや第一容疑者と言って差し支えないだろう。
この見た目からは想像もつかない悪人である可能性を考慮し、慎重に接さなくてはならなかった。
「それで単刀直入に聞くけど、ベロリンマンはどうしてここに?」
向こうではファーリスが頭脳労働をしてくれていることだろうが、人任せばかりになるのはいささか落ち着かない。
自分は自分のできることをする、などという甘ったれた言い回しをここであえて用いる。
つまりは情報収集だ。あちらが私たちをどれほど把握できているか見当もつかない以上、これは決して無駄にはならないだろう。
何より、ベロリンマンが敵か味方かをまずははっきりさせる必要がある。
「…グロッタである事件が起きた。子どもが消えるという事件だ。…あんたは知っているか、知らないが」
ベロベロとかいう語尾がない。
やはりあれはわざとだったのかというどうでもいい事実を発見したが黙っていた。
「オレはその日孤児院にいて…。偶然、見てしまったんだ。…赤い影」
赤い影。ファーリスの推理でも及ばなかった単語を口にすると、ベロリンマンは重苦しく頷き、続けた。
「そういう見た目のモンスターが、子どもをさらっていった。子供たちを黒い影にして、壁をすり抜けていったよ。
オレは無我夢中でそいつらを追いかけて行って、気がついたらここにいたってわけだ……ベロン」
落ち着かなかったのかかなり無理矢理な語尾をつけて事情説明を終えるベロリンマン。
はは、ばかなと一蹴はできない。
ファーリスの推理はそれでもほとんどすべて当たっていた。改めて彼の頭脳に脳内で拍手を送る。
そしてベロリンマンを睨む。これが今できる精一杯の威嚇行為だ。
「なるほど。ファーリス王子の推測は正しかったってわけだ」
あえて権力者の名前を出し、遠回しに事態の深刻さをアピールする。動揺を誘うためだ。
「でもベロリンマン、あなた嘘ついてるよね?グロッタからここは今となってはずいぶん遠くなった。
私たちも移動が結構骨だったよ。…ねえ、謎の闘士さん」
数日前下心満載ながら協力してくれた海賊カンダタと対峙したときを思い出す。彼の持つ迫力をなんとか真似しようと声を太く低める。
「どうやって海を渡ったの?」
まだ剣に手はかけない。私は魔法使いには滅法強いが、自分より速い武闘家は苦手だ。ましてや時として自在に分身する相手だ。
いくら乱戦が得意とはいえ、さすがに身の程はわきまえる。
つまり何が言いたいかというと、できれば戦闘はまだ避けたい。
「や、やめてほしいベロロン!オレ、女の子と歩くなんて初めてで、テンパって!」
「御託はいらない。あと私彼氏いるから。とにかく、疑われたくなかったら本当のことを言ってよ」
ここまで勝手に動いておいてどの面下げてシルビアさんの恋人を名乗れるのか、と内心自嘲するが、自重はしない。
慌てた様子のベロリンマンはガクリと肩を落とす。なぜかすごく落ち込んだ様子で語り始めた。
「…本当はすぐに魔物に発見されて、つれて来られたんだ。『同士よここで何をしている?』と」
「同士?」
「ご、誤解しないでほしい!魔物の人違いだベロローン!!」
慌てて訂正してくるその様は非常に怪しかったのだが話が進まなくなるのでスルーした。
「オレ、自分の出生すらよく知らないんだが……し、仕方ないとは思うベロン。魔物の血が混ざってるとか言われたこともあるし」
「その見た目と分身能力なら仕方ないかもね」
揺さぶりをかけるため、あえてひどい言い回しまで用いる。
シルビアさんがこの場にいたら、絶対にできないゲスな作戦だが、ベロリンマンはこの挑発には良くも悪くも乗らなかった。
「ああ。ここまでつれて来られて、なんとかスキをついて逃げ出したんだ……」
「…それから幾日ってこと」
「そうだ。おかげで、魔物たちからコソコソ隠れる生活をする羽目になった。
……だがそうしてたある時、どういうわけか人間の…あんたの手が見えたもんで、つい」
ため息を吐く。今度ばかりは嘘っぽくはないぞとベロリンマンの方を見る。
襤褸はまだある――気がする。追求を続けないと。
「ところで。あんたはなんでここに」
「は?」
「あんたはオレのことを疑うが、オレからしたらあんたも悪いが疑わしいベロン。
今度はそっちが話を聞かせるべきじゃないか?」
ぐっと言葉に詰まる。拉致したのはあんたじゃないか、という言葉はなんとか飲み込んだ。
しかし、ベロリンマンというこの男、能天気そうな見た目に反して中々鋭いことを言う。
……まあいいか。
別にやましいことはこちらには何もない。素直に答えてやれば良い。
それで事態が悪化してもその時はその時だ。
「私はグロッタ、それからダーハルーネとブチャラオで子どもが消えたことを知って、仲間と調査と解決に来たの。
まさかこんなところに来るとは思わなかったけど」
辺りを見回す。昼食時ハンサムが言っていた『異世界』と言うにまったくふさわしい禍々しい空間だった。
いくつもの小さな島が宙に浮き、それぞれは階段で立体的に繋がっているものの根本的な仕組みは謎。
遠くは闇色の霧に染まりさして見渡せない。
あちらこちらで蠢く魔物たちにはまだ辛うじて遭遇していないが、そのいずれも強そうだ。
ここに子どもたちが連れて来られ、しかも監禁されているなどと言われたら、問答無用で納得してしまいそうである。
「どうやってここを突き止めたんだ?」
「聞き込み。あとはグロッタの闘士たちと…サマディーのファーリス王子を頼ったの、聡明なことで有名なね」
ゆえに。声には出さず、唇だけ動かす。
息をつき、発声。
「あの王子は噂に違わず優秀だよ。きっと絵の謎も解いてすぐこちらに闘士たちを連れてきてくれる」
だから仮に私を殺したって無駄、と言おうとした。
しかしそれより先にボロボロとベロリンマンが大粒の涙を流すのが先だった。
「う、うおおーーーん!!!」
泣き声というかもはや咆哮。膝を崩して天を仰ぎ、謎の闘士はひとしきり泣きじゃくる。
「よかった!よかったベローーーン!!
ひとりぼっちでも待ったかいがあったベロローーーーーーン!!!」
ただしそれは裏切りが明らかになったことへの慟哭ではなく、彼なりの希望を見出したことにたいする喜びの涙だった。
少なくとも私にはそう見えた。
見た目や言動に反しベロリンマンがよほどの演技派でもない限りは。
「ねえ、ベロリンマン」
彼の男泣きが落ち着くまで待ってからのち。私は声をかける。
「さっきは失礼なこと言ってごめんなさい。
……私、信じることにする。ベロリンマンのことを」
シルビアさんならきっともっと優しい言い回しをするのだろうが、私の口から出た台詞はわりと上から目線だった。
自分でもどうかとは思ったけれど、それでもベロリンマンは笑った。
「そいつはありがたい!!グロッタの救世主がいれば百人力ベローン!」
「それはちょっと過大評価かな」
苦笑を返し、目付きを変える。
「私たちと、これから来るみんなでこの事件を終わらせる。そうでしょ?」
ベロリンマンは肯定する。すでに彼の目も闘士のそれになっていた。
さて、ここからどうするか。
ここに来て新たな仲間を得たものの、ファーリスたちとすぐに再会できるとは限らなかった。
彼の聡明さは今更疑うべくもないものだが、それでも絵画の謎を解きこちらに追いつくにはまだそれなりの時間を要すだろう。
しかも、メダ女に向かったビビアンちゃんやサイデリアちゃんと再会もしなければならない。
…最悪、黒幕であることがほぼ確定したメルトアとは、ベロリンマンと二人でやり合うことになるであろう覚悟を決める。
彼と対峙するならば相性が悪いが組むとなれば話は別だ、となるべく前向きに考える。
切り札を駆使してなんとか勝負していくしかなかった。
「グロッタの救世主さん」
「エルザでいいよ。私はあの時、歌を歌ってただけだから」
ベロリンマンは一瞬迷った様子を見せ、けれどもエルザと言い直す。
「ファーリス王子や闘士のみんなはいつ来てくれるんだ?ベロローン」
……ただ無邪気に訊いてくる彼に、私は何も答えられなかった。
彼よりも少しだけ長く悩み、それでもまずは必要な情報を出してやらねばならないと口を開きかけた時、ある気配――魔物が近づくのを感じた。
ベロリンマンも同じらしく、コミカルな雰囲気を消し、筋肉を強張らせる。
「エルザ」
「わかってる。話は後、と言いたいところだけど」
耳打ちするためベロリンマンの上着を掴み、引き寄せる。
といっても彼の体格でそれは結構無理な話で、実際は彼が寄ってくれた。
「戦う前に、これだけ言わせて」
「長いこと閉じ込められていたから寂しくて、ついやっちゃったんだベロローン!」
とか言われて脱力したのもあるけれど、とりあえず悪意はなかった。
いやむしろ子どものような純真ささえ感じる。
「長いことって。どれくらいここにいたの?」
「時計も何もないから、ちょっとわからなかったベロン。ほとんど何も食べなくとも体の調子はむしろ良かったんだがベローン」
「語尾、無理しなくていいよ」
「そいつはありがたい」
ベロリンマン。
仮面武闘会を語るにおいてもっとも謎めいた闘士といえば、本名不詳(ということになっている)のマスク・ザ・ハンサムやレディ・マッシブではなく、この男だろう。
本名も正体も不明で、噂では魔物の血が混ざっているという噂だ。
その真偽を知る者は同じ仮面武闘会の闘士を含めても存在しない。
むしろその人間離れした巨体と、彼の代名詞である『ぶんしん』という特技が、ますます疑惑を深める。
そうでありながらどことなくコミカルな雰囲気と気の良さで主に子どもたちからは人気を得ている、実際のところはそんな闘士だ。
しかし今はモンスターが蠢く謎めいたこの異世界で独り生き残り、ハンフリーからも恐らく疑いの目を向けられている。
もはや第一容疑者と言って差し支えないだろう。
この見た目からは想像もつかない悪人である可能性を考慮し、慎重に接さなくてはならなかった。
「それで単刀直入に聞くけど、ベロリンマンはどうしてここに?」
向こうではファーリスが頭脳労働をしてくれていることだろうが、人任せばかりになるのはいささか落ち着かない。
自分は自分のできることをする、などという甘ったれた言い回しをここであえて用いる。
つまりは情報収集だ。あちらが私たちをどれほど把握できているか見当もつかない以上、これは決して無駄にはならないだろう。
何より、ベロリンマンが敵か味方かをまずははっきりさせる必要がある。
「…グロッタである事件が起きた。子どもが消えるという事件だ。…あんたは知っているか、知らないが」
ベロベロとかいう語尾がない。
やはりあれはわざとだったのかというどうでもいい事実を発見したが黙っていた。
「オレはその日孤児院にいて…。偶然、見てしまったんだ。…赤い影」
赤い影。ファーリスの推理でも及ばなかった単語を口にすると、ベロリンマンは重苦しく頷き、続けた。
「そういう見た目のモンスターが、子どもをさらっていった。子供たちを黒い影にして、壁をすり抜けていったよ。
オレは無我夢中でそいつらを追いかけて行って、気がついたらここにいたってわけだ……ベロン」
落ち着かなかったのかかなり無理矢理な語尾をつけて事情説明を終えるベロリンマン。
はは、ばかなと一蹴はできない。
ファーリスの推理はそれでもほとんどすべて当たっていた。改めて彼の頭脳に脳内で拍手を送る。
そしてベロリンマンを睨む。これが今できる精一杯の威嚇行為だ。
「なるほど。ファーリス王子の推測は正しかったってわけだ」
あえて権力者の名前を出し、遠回しに事態の深刻さをアピールする。動揺を誘うためだ。
「でもベロリンマン、あなた嘘ついてるよね?グロッタからここは今となってはずいぶん遠くなった。
私たちも移動が結構骨だったよ。…ねえ、謎の闘士さん」
数日前下心満載ながら協力してくれた海賊カンダタと対峙したときを思い出す。彼の持つ迫力をなんとか真似しようと声を太く低める。
「どうやって海を渡ったの?」
まだ剣に手はかけない。私は魔法使いには滅法強いが、自分より速い武闘家は苦手だ。ましてや時として自在に分身する相手だ。
いくら乱戦が得意とはいえ、さすがに身の程はわきまえる。
つまり何が言いたいかというと、できれば戦闘はまだ避けたい。
「や、やめてほしいベロロン!オレ、女の子と歩くなんて初めてで、テンパって!」
「御託はいらない。あと私彼氏いるから。とにかく、疑われたくなかったら本当のことを言ってよ」
ここまで勝手に動いておいてどの面下げてシルビアさんの恋人を名乗れるのか、と内心自嘲するが、自重はしない。
慌てた様子のベロリンマンはガクリと肩を落とす。なぜかすごく落ち込んだ様子で語り始めた。
「…本当はすぐに魔物に発見されて、つれて来られたんだ。『同士よここで何をしている?』と」
「同士?」
「ご、誤解しないでほしい!魔物の人違いだベロローン!!」
慌てて訂正してくるその様は非常に怪しかったのだが話が進まなくなるのでスルーした。
「オレ、自分の出生すらよく知らないんだが……し、仕方ないとは思うベロン。魔物の血が混ざってるとか言われたこともあるし」
「その見た目と分身能力なら仕方ないかもね」
揺さぶりをかけるため、あえてひどい言い回しまで用いる。
シルビアさんがこの場にいたら、絶対にできないゲスな作戦だが、ベロリンマンはこの挑発には良くも悪くも乗らなかった。
「ああ。ここまでつれて来られて、なんとかスキをついて逃げ出したんだ……」
「…それから幾日ってこと」
「そうだ。おかげで、魔物たちからコソコソ隠れる生活をする羽目になった。
……だがそうしてたある時、どういうわけか人間の…あんたの手が見えたもんで、つい」
ため息を吐く。今度ばかりは嘘っぽくはないぞとベロリンマンの方を見る。
襤褸はまだある――気がする。追求を続けないと。
「ところで。あんたはなんでここに」
「は?」
「あんたはオレのことを疑うが、オレからしたらあんたも悪いが疑わしいベロン。
今度はそっちが話を聞かせるべきじゃないか?」
ぐっと言葉に詰まる。拉致したのはあんたじゃないか、という言葉はなんとか飲み込んだ。
しかし、ベロリンマンというこの男、能天気そうな見た目に反して中々鋭いことを言う。
……まあいいか。
別にやましいことはこちらには何もない。素直に答えてやれば良い。
それで事態が悪化してもその時はその時だ。
「私はグロッタ、それからダーハルーネとブチャラオで子どもが消えたことを知って、仲間と調査と解決に来たの。
まさかこんなところに来るとは思わなかったけど」
辺りを見回す。昼食時ハンサムが言っていた『異世界』と言うにまったくふさわしい禍々しい空間だった。
いくつもの小さな島が宙に浮き、それぞれは階段で立体的に繋がっているものの根本的な仕組みは謎。
遠くは闇色の霧に染まりさして見渡せない。
あちらこちらで蠢く魔物たちにはまだ辛うじて遭遇していないが、そのいずれも強そうだ。
ここに子どもたちが連れて来られ、しかも監禁されているなどと言われたら、問答無用で納得してしまいそうである。
「どうやってここを突き止めたんだ?」
「聞き込み。あとはグロッタの闘士たちと…サマディーのファーリス王子を頼ったの、聡明なことで有名なね」
ゆえに。声には出さず、唇だけ動かす。
息をつき、発声。
「あの王子は噂に違わず優秀だよ。きっと絵の謎も解いてすぐこちらに闘士たちを連れてきてくれる」
だから仮に私を殺したって無駄、と言おうとした。
しかしそれより先にボロボロとベロリンマンが大粒の涙を流すのが先だった。
「う、うおおーーーん!!!」
泣き声というかもはや咆哮。膝を崩して天を仰ぎ、謎の闘士はひとしきり泣きじゃくる。
「よかった!よかったベローーーン!!
ひとりぼっちでも待ったかいがあったベロローーーーーーン!!!」
ただしそれは裏切りが明らかになったことへの慟哭ではなく、彼なりの希望を見出したことにたいする喜びの涙だった。
少なくとも私にはそう見えた。
見た目や言動に反しベロリンマンがよほどの演技派でもない限りは。
「ねえ、ベロリンマン」
彼の男泣きが落ち着くまで待ってからのち。私は声をかける。
「さっきは失礼なこと言ってごめんなさい。
……私、信じることにする。ベロリンマンのことを」
シルビアさんならきっともっと優しい言い回しをするのだろうが、私の口から出た台詞はわりと上から目線だった。
自分でもどうかとは思ったけれど、それでもベロリンマンは笑った。
「そいつはありがたい!!グロッタの救世主がいれば百人力ベローン!」
「それはちょっと過大評価かな」
苦笑を返し、目付きを変える。
「私たちと、これから来るみんなでこの事件を終わらせる。そうでしょ?」
ベロリンマンは肯定する。すでに彼の目も闘士のそれになっていた。
さて、ここからどうするか。
ここに来て新たな仲間を得たものの、ファーリスたちとすぐに再会できるとは限らなかった。
彼の聡明さは今更疑うべくもないものだが、それでも絵画の謎を解きこちらに追いつくにはまだそれなりの時間を要すだろう。
しかも、メダ女に向かったビビアンちゃんやサイデリアちゃんと再会もしなければならない。
…最悪、黒幕であることがほぼ確定したメルトアとは、ベロリンマンと二人でやり合うことになるであろう覚悟を決める。
彼と対峙するならば相性が悪いが組むとなれば話は別だ、となるべく前向きに考える。
切り札を駆使してなんとか勝負していくしかなかった。
「グロッタの救世主さん」
「エルザでいいよ。私はあの時、歌を歌ってただけだから」
ベロリンマンは一瞬迷った様子を見せ、けれどもエルザと言い直す。
「ファーリス王子や闘士のみんなはいつ来てくれるんだ?ベロローン」
……ただ無邪気に訊いてくる彼に、私は何も答えられなかった。
彼よりも少しだけ長く悩み、それでもまずは必要な情報を出してやらねばならないと口を開きかけた時、ある気配――魔物が近づくのを感じた。
ベロリンマンも同じらしく、コミカルな雰囲気を消し、筋肉を強張らせる。
「エルザ」
「わかってる。話は後、と言いたいところだけど」
耳打ちするためベロリンマンの上着を掴み、引き寄せる。
といっても彼の体格でそれは結構無理な話で、実際は彼が寄ってくれた。
「戦う前に、これだけ言わせて」