夢新訳:異変後グロッタ
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「カジノを、潰す?」
私たち以外には誰もいない宿屋の一室。
作戦会議はそこで開かれていたわけだが、
勇者様の目的を一言でまとめればそういうことだった。
ん?今喋ったよな勇者様。
ちゃんと喋ったよな?
とどうでもいいことを疑問に思っていると、ロウさんが引き継ぐ。
「ワシらは、昨日黒幕の元へ乗り込んだんじゃが…」
「VIPルームの?」
「うむ。
…恥ずかしい話、そこのディーラーにあっさりとボコボコにされてしまってのう」
「ああ、きれいなメスの?」
「きれいな女性と言わんか」
呆れたといわんばかりのロウさんの切り返しに、
ちょっと魔物に染まりかけてたかなぁと反省する。
平行して考えるがしかし。
それがカジノを潰すこととどう結びつくのかわからず、ついシルビアさんの方を見る。
「あ、アタシがきれいな女性ディーラーに惑わされたとかそんなこと思ってる?
そんなことないわよ実力で劣ったの!」
そんなこと誰も聞いていない。
「それに、そんなこと言うならアタシよりグレイグが」
「ゴリアテ」
腕を組み壁に寄り掛かっていたグレイグさまが静かに聞きなれない男性名を呟く。
「そいつの本名はゴリアテという。覚えておくといい」
「まー!」
憤慨するシルビアさんことまさかの本名ゴリアテさん。
グレイグさまもまた随分と大人気ないことをしたなと思ったが、
いやよほど核心をつくようなことをシルビアさんが先に言ったのか。
「グレイグなんか真っ先にぱふぱふ食らってたじゃない」
「それを言うか…っ!!」
今は勇者様たちの仲間になっているとは聞かされていたものの、
正直グレイグさまのことは疑っていたのだが…、
シルビアさんとのやり取りを見るぶんには無害そうだ。
そういえばだいぶ以前にグレイグさまの下で二度ほど働いたことがあるが、
私が思っていた以上にこの方は脳筋だったことを思い出す。
現在と照らし合わせる。
…なんというか、残念な気分になった。
おっさんたちの傷の抉りあいは無視することにして、ロウさんに話の続きを促す。
「それでそのきれいな女性ディーラーを私が引き受けたらいいってこと?」
「それなんじゃがのう…」
ロウさんはどことなく曖昧な口調で続ける。
「何を隠そう、ワシらはそのきれいな女性ディーラーとあまり戦いたくない事情があってな。
いやむしろエルザ、お前さんにも戦ってほしくないくらいじゃ。
もっと言えば無傷で捕えたい…それはさすがに難しいじゃろうがな。
いずれにせよまずは黒幕からきれいな女性ディーラーを引き離すのが必須じゃ。
…それを引き受けてもらいたい。
しかし、なぜここでお前さんが出てくるのかはワシにはわからん」
隣で勇者様が静かに頷く。
未だに壮絶な口喧嘩を繰り返すおっさん二人の方に目をやる。
「エルザを見たとき、いけるわとシルビアが言っていたんじゃよ。
詳しいことはあやつに聞くしかない、が…」
ご覧の有様だと言わんばかりにロウさんは言葉を濁した。
私も勇者様にならい無言で頷いた。
「作戦?ふふん、そんなの簡単よ。エルザちゃんに歌ってもらうの」
先の口喧嘩のダメージなど一切見せない顔でシルビアさんがドヤ顔してみせた。
少し離れた所ではそんな彼を睨むように見るグレイグ将軍。
(物理的な意味での)無血試合の勝敗は明らかだった。
「って歌う…?」
「そ。エルザちゃん、結構歌えるでしょう?アタシ知ってるんだから」
確かに、以前酒場のバイトで歌ったことがある。
偶然風邪で声が出なくなった歌姫のピンチヒッターとしてだ。
キャストを変えてでも酒場に歌声を絶やしたくないと考えたマスターの図らいは見事にスベリ、
常連のお客さんからのウケは最悪だった。
あわやブーイングが起こる、と思った目前、
初見の客であったシルビアさんが突然ステージに上がってきて、
なぜかとてもベタ褒めされたのだ。
あの時は完全に助けられたと思う。
思えばあれが出会いかー、と感慨深く思っているのをよそに、
シルビアさんが続ける。
「あの歌声にちょっと魔力を乗せちゃうのよ。
『たたかいのうた』って言うんだけどね。
…うふふ、きっと面白いことになるわぁ」
悪そうな顔でシルビアさんは笑う。
『たたかいのうた』という聞きなれない単語にグレイグさまも含めてみんな反応する。
「…あぁ、『たたかいのうた』って?
旅芸人の特技よ。
アタシは歌の方が苦手だからできないんだけど。
簡単に言えば、歌で味方を鼓舞して力を強くするの。
言ってみればバイシオンの歌バージョンね。
これを、今回はあえて!
魔物ちゃんたちにかけちゃうのよん」
「…なるほど。さすがはシルビアじゃのう」
得心がいったようにロウさんが唸る。
未だに意図がわからない私も含めたその他三人は、
もう少し説明してくれよと視線で訴える。
「…人間でも、鼓舞したくらいで力がわいちゃうのよ。
これを元々血の気の多い魔物ちゃんたちが聴いたらどうなっちゃうかしらね?」
そうか、と二番目に理解したのはグレイグさまだった。
「大量の魔物どもが暴れ回ることで、収拾がつかなくなるっ!!」
「そうだけど、一々うるさいわよグレイグ。外に漏れたらどうするの。
…とにかく、カジノで勝っても負けても暴れたくなるような連中よ。
場をかき乱してしまえば、
手下であるディーラーを含めた魔物ちゃんたちが対処に追われることになるわ。
そのうち、支配人たる黒幕ちゃんも出てこざるを得なくなってくる。
この作戦はまず成功するとみて良い。
…ただ、エルザちゃんの身に危険は確実に及ぶと思うの。
しかもアタシたちはアナタをまず助けてあげられない。それでも…」
やってもらえるかしら?という言葉を待たずに私は頷いた。
「街を取り戻したい気持ちは私も一緒だよ。
そうじゃなくても傭兵だもん、なんでもやる。その代わり、ちょっと高くつくよ」
「…ありがとう、エルザちゃん。
望むところよ。
さて、この作戦はまだもう少し穴があるわ。
街に暴徒と化した魔物ちゃんが流れ出さないか、とかね。
その辺りの細々したところは一旦ロウちゃんたちに任せましょう」
「え、ワシ?だいぶ大きな問題を投げられた気がするのじゃが」
「だってアタシ、エルザちゃんに『たたかいのうた』教えなきゃならないもの。
丸投げするのは申し訳ないと思うけど…」
両肩にぽん、と手を置かれる。
シルビアさんはにっこりと笑った。
「アタシがこの後作戦会議に参加できるかは、エルザちゃん次第ね。がんばりましょ!」
柔らかい口調と笑顔からすさまじいまでのプレッシャーを全身に受けつつ、私は頷くしかなかった。
早く覚えないと色んな意味でマジで怖い。
私たち以外には誰もいない宿屋の一室。
作戦会議はそこで開かれていたわけだが、
勇者様の目的を一言でまとめればそういうことだった。
ん?今喋ったよな勇者様。
ちゃんと喋ったよな?
とどうでもいいことを疑問に思っていると、ロウさんが引き継ぐ。
「ワシらは、昨日黒幕の元へ乗り込んだんじゃが…」
「VIPルームの?」
「うむ。
…恥ずかしい話、そこのディーラーにあっさりとボコボコにされてしまってのう」
「ああ、きれいなメスの?」
「きれいな女性と言わんか」
呆れたといわんばかりのロウさんの切り返しに、
ちょっと魔物に染まりかけてたかなぁと反省する。
平行して考えるがしかし。
それがカジノを潰すこととどう結びつくのかわからず、ついシルビアさんの方を見る。
「あ、アタシがきれいな女性ディーラーに惑わされたとかそんなこと思ってる?
そんなことないわよ実力で劣ったの!」
そんなこと誰も聞いていない。
「それに、そんなこと言うならアタシよりグレイグが」
「ゴリアテ」
腕を組み壁に寄り掛かっていたグレイグさまが静かに聞きなれない男性名を呟く。
「そいつの本名はゴリアテという。覚えておくといい」
「まー!」
憤慨するシルビアさんことまさかの本名ゴリアテさん。
グレイグさまもまた随分と大人気ないことをしたなと思ったが、
いやよほど核心をつくようなことをシルビアさんが先に言ったのか。
「グレイグなんか真っ先にぱふぱふ食らってたじゃない」
「それを言うか…っ!!」
今は勇者様たちの仲間になっているとは聞かされていたものの、
正直グレイグさまのことは疑っていたのだが…、
シルビアさんとのやり取りを見るぶんには無害そうだ。
そういえばだいぶ以前にグレイグさまの下で二度ほど働いたことがあるが、
私が思っていた以上にこの方は脳筋だったことを思い出す。
現在と照らし合わせる。
…なんというか、残念な気分になった。
おっさんたちの傷の抉りあいは無視することにして、ロウさんに話の続きを促す。
「それでそのきれいな女性ディーラーを私が引き受けたらいいってこと?」
「それなんじゃがのう…」
ロウさんはどことなく曖昧な口調で続ける。
「何を隠そう、ワシらはそのきれいな女性ディーラーとあまり戦いたくない事情があってな。
いやむしろエルザ、お前さんにも戦ってほしくないくらいじゃ。
もっと言えば無傷で捕えたい…それはさすがに難しいじゃろうがな。
いずれにせよまずは黒幕からきれいな女性ディーラーを引き離すのが必須じゃ。
…それを引き受けてもらいたい。
しかし、なぜここでお前さんが出てくるのかはワシにはわからん」
隣で勇者様が静かに頷く。
未だに壮絶な口喧嘩を繰り返すおっさん二人の方に目をやる。
「エルザを見たとき、いけるわとシルビアが言っていたんじゃよ。
詳しいことはあやつに聞くしかない、が…」
ご覧の有様だと言わんばかりにロウさんは言葉を濁した。
私も勇者様にならい無言で頷いた。
「作戦?ふふん、そんなの簡単よ。エルザちゃんに歌ってもらうの」
先の口喧嘩のダメージなど一切見せない顔でシルビアさんがドヤ顔してみせた。
少し離れた所ではそんな彼を睨むように見るグレイグ将軍。
(物理的な意味での)無血試合の勝敗は明らかだった。
「って歌う…?」
「そ。エルザちゃん、結構歌えるでしょう?アタシ知ってるんだから」
確かに、以前酒場のバイトで歌ったことがある。
偶然風邪で声が出なくなった歌姫のピンチヒッターとしてだ。
キャストを変えてでも酒場に歌声を絶やしたくないと考えたマスターの図らいは見事にスベリ、
常連のお客さんからのウケは最悪だった。
あわやブーイングが起こる、と思った目前、
初見の客であったシルビアさんが突然ステージに上がってきて、
なぜかとてもベタ褒めされたのだ。
あの時は完全に助けられたと思う。
思えばあれが出会いかー、と感慨深く思っているのをよそに、
シルビアさんが続ける。
「あの歌声にちょっと魔力を乗せちゃうのよ。
『たたかいのうた』って言うんだけどね。
…うふふ、きっと面白いことになるわぁ」
悪そうな顔でシルビアさんは笑う。
『たたかいのうた』という聞きなれない単語にグレイグさまも含めてみんな反応する。
「…あぁ、『たたかいのうた』って?
旅芸人の特技よ。
アタシは歌の方が苦手だからできないんだけど。
簡単に言えば、歌で味方を鼓舞して力を強くするの。
言ってみればバイシオンの歌バージョンね。
これを、今回はあえて!
魔物ちゃんたちにかけちゃうのよん」
「…なるほど。さすがはシルビアじゃのう」
得心がいったようにロウさんが唸る。
未だに意図がわからない私も含めたその他三人は、
もう少し説明してくれよと視線で訴える。
「…人間でも、鼓舞したくらいで力がわいちゃうのよ。
これを元々血の気の多い魔物ちゃんたちが聴いたらどうなっちゃうかしらね?」
そうか、と二番目に理解したのはグレイグさまだった。
「大量の魔物どもが暴れ回ることで、収拾がつかなくなるっ!!」
「そうだけど、一々うるさいわよグレイグ。外に漏れたらどうするの。
…とにかく、カジノで勝っても負けても暴れたくなるような連中よ。
場をかき乱してしまえば、
手下であるディーラーを含めた魔物ちゃんたちが対処に追われることになるわ。
そのうち、支配人たる黒幕ちゃんも出てこざるを得なくなってくる。
この作戦はまず成功するとみて良い。
…ただ、エルザちゃんの身に危険は確実に及ぶと思うの。
しかもアタシたちはアナタをまず助けてあげられない。それでも…」
やってもらえるかしら?という言葉を待たずに私は頷いた。
「街を取り戻したい気持ちは私も一緒だよ。
そうじゃなくても傭兵だもん、なんでもやる。その代わり、ちょっと高くつくよ」
「…ありがとう、エルザちゃん。
望むところよ。
さて、この作戦はまだもう少し穴があるわ。
街に暴徒と化した魔物ちゃんが流れ出さないか、とかね。
その辺りの細々したところは一旦ロウちゃんたちに任せましょう」
「え、ワシ?だいぶ大きな問題を投げられた気がするのじゃが」
「だってアタシ、エルザちゃんに『たたかいのうた』教えなきゃならないもの。
丸投げするのは申し訳ないと思うけど…」
両肩にぽん、と手を置かれる。
シルビアさんはにっこりと笑った。
「アタシがこの後作戦会議に参加できるかは、エルザちゃん次第ね。がんばりましょ!」
柔らかい口調と笑顔からすさまじいまでのプレッシャーを全身に受けつつ、私は頷くしかなかった。
早く覚えないと色んな意味でマジで怖い。