Hevenly sun
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カジノに出向いた時から人数を増やし、ハンサムの先導で孤児院に帰ってきた私たちを迎えたのは、
ファーリスの真っ青な顔だった。
「消えたのは、パルナ・マチルダ兄妹。それからヨゼフだ。
三人は寝室で寝ていたはずだった。…それが忽然と、姿を消した」
「これは一体、どういうことだ!?きちんと見ていたんじゃなかったのか!?」
それでも努めて冷静に報告をする彼に掴みかからんばかりの勢いでハンフリーは怒鳴る。
王子を信頼して大事な子どもたちを預けたのにこの体たらくでは無理からぬことだった。
「やめなよ、ハンフリー。教会の入り口はあたいやハンサムが見張ってた。
寝室にしろ他の部屋にしろ、窓を破られたり新たな入り口みたいなものを作られた形跡もない。
…責めるのは酷ってもんさ」
激昂するチャンピオンを、サイデリアちゃんが諌める。ハンフリーは力なく肩を落とし、膝から崩れ落ちた。
「ごめんなさい、ハンフリー。私があなたを連れて行かなきゃこんなひどいことには…」
「ホントよ、まったく。でもこれこそ結果論よ。
まさか誘拐犯が、出入り口を使わないなんてふつう思わないわ」
私の謝罪にもハンフリーはもはや反応は示さず、代わりにビビアンちゃんがフォローめいたことをしてきた。
彼女自身勝手にカジノに出向いてきたのもあって、もしかしたら負い目を感じているのかも知れない。
そして、誰しもが疑問に思っていることを口にする。
「でも、一体どうやって…」
そこがわからないことには、話の進めようがなかった。
「教えてやろうか、ビビアンちゃん。
…もっとも、頭の良いビビアンちゃんなら、もう半分くらい勘付いているかも知らねえがな」
一番最初に答えに行き着いたのは、一堂の中で最も悪に近い存在だった。
「間違いねえ。こいつあ魔物の仕業だ。オレ様は人さらいも得意だからわかる、お墨付きをくれてやる。
いくら身体が小さなガキとはいえ、だ。
三人も誰にも気取られずに、しかも建物にキズをつけることなく攫えるなんざ、人間にできる芸当じゃねぇよ」
賞金首になるような大海賊視点の言は的を得ていた。更に続ける。
「案外、カベをすり抜けたのかもな。ほれ、いるだろ、あいつ。
…シャドーだ。ああいうやつらが関わっているのかもしれねえな」
「ちょっと待って」
一同が納得しかけたところで口を挟んだのはサイデリアちゃんだ。
「カンダタの言うことはわかるよ。
でもさ、拐われたパルナたちは、壁なんかすり抜けられないただの人間だ。
あんたの言うやり方じゃ、ちょっと無理なんじゃないか?」
「オレ様はヒントをやっただけだ。それはテメーらで考えろ」
「ええー…」
役に立つのか正直なんとも言えないヒントをいただきつつ、また深く考え込む。
ビビアンちゃんも含め、みな本来は肉体労働が専門である。
早々子どもを攫ったらしき犯人に行き着くわけもなかった。
しかし一人だけ、停滞状態を撃ち破る男がいた。
「…そうか!わかったかも知れない!」
何がだ、と誰かが聞き返すより先に、ファーリスは半ば独り言のように持論を語る。
「子どもを攫ったのは、子どもたち自身かも知れないんだ」
即座に何言ってんだこいつ、という空気が流れたし、私もそう思った。そんな視線も彼はほとんど気にしない。
「…回りくどい表現失礼した。しかし、こうだとボクは思う。カンダタくんの持論にプラスする形になる。
恐らく主犯は壁をすり抜けられるタイプの魔物。被害者は」
「だから人間は壁をすり抜けられないって」
「本当にそうかい?」
涼し気なファーリスの瞳はぐるりと周囲の人間を見渡し、私で止まる。
「これ以上は恐らく、エルザくんや、グロッタに住むキミたちの方が詳しいだろう」
私と、闘士たちの共通点。聡明なファーリスよりも詳しい事柄。
そんなものは一つしかなかった。
「魔物化…!?」
私が出した答えは正解だったらしいが、今度ばかりはファーリスは笑わなかった。ただ、重たく頷く。
「そうだ。同じような魔物になってしまいさえすれば、壁抜けの問題はクリアできる。
あとは洗脳でも魅了でもすれば良い。それこそ魔物の本領だ」
ファーリスの仮説を妄想だと笑うことはできなかった。
何せ、ここにいる大人たちの過半数は魔物化経験済みである。
むしろもっとも無理のない推理とすら思えた。
「……無論、ボクの考えが完璧に正しいとは思っていない。
けれど、魔物の仕業だとほぼ確定した以上、やはりプチャラオ村には行くべきだと思う。
もっとも、徒労になる恐れもあるが…」
推理としては筋が通っていても、地図からしてかなり遠いメダチャットを目指す根拠としては弱い。
任務が緊急性をより増したためだ。
そのことをファーリスは自覚しているのだろう。少し弱気だった。
「しかし、手がかりがそれしかないんだろう?…なら行くしかないじゃないか」
そんな彼を諭したのはハンサムだった。余計なことは言わず、ただ王子を鼓舞するに己の意見を留めた。
「おい!お前ら元々メダチャットに行くためにオレ様を雇ったんだろうが。
今更弱気になんかなってんじゃねえ!」
更にカンダタが言う。
目の前で今しがた子どもが行方不明になった以上当初とは状況が違うわけだが、そんなことは彼には関係がなかった。
「ハンフリー!!」
これ以上時間のロスは出せない、ということは皆理解していてそれでもそれを覚悟の上であえてプチャラオ村を目指さなければならない状況。
「何腑抜けてんだテメーは!!このオレ様に偉そうに啖呵切ったのを忘れやがったか!?
ガキどもを守るためならなんでもするんじゃねえのか、吐いたツバは飲まんでおきやがれ!!」
怒鳴りあげるなりカンダタは、ハンフリーにつかつかと歩み寄り強烈な頭突きをかます。
ごちんという鈍器めいた鈍い音。火花が散ったかと思うような強烈な攻撃だ。いかにチャンピオンといえどさすがにたまらず、倒れる。
それを見た回復ができるビビアンちゃんが、ドン引きしつつも慌てて駆け寄った。
「エルザ」
「…はい」
さすがに今の光景を見て恐ろしくなってしまった私の声音は、借りてきたようなごく大人しいものと化していた。
というかビビアンちゃんの横やりがなかったらこいつと戦う羽目になってたんだな、と場違いに思う。
多分いやまず勝てない。あとで彼女にお礼言っておこうと場違いに決意した。
「気が変わった。積み荷の準備はできている。危険は増すが、今すぐ出発するぞ」
「カンダタ…っ!!」
とはいえこの海の嵐のような男は、身勝手極まりない形で無理矢理話を展開していく。
ただしそれは想定外の事態にショックを受けた私たちを、引っ張るものでしかなかった。ここで落ち込んでいる暇などないのだ。
ファーリスの真っ青な顔だった。
「消えたのは、パルナ・マチルダ兄妹。それからヨゼフだ。
三人は寝室で寝ていたはずだった。…それが忽然と、姿を消した」
「これは一体、どういうことだ!?きちんと見ていたんじゃなかったのか!?」
それでも努めて冷静に報告をする彼に掴みかからんばかりの勢いでハンフリーは怒鳴る。
王子を信頼して大事な子どもたちを預けたのにこの体たらくでは無理からぬことだった。
「やめなよ、ハンフリー。教会の入り口はあたいやハンサムが見張ってた。
寝室にしろ他の部屋にしろ、窓を破られたり新たな入り口みたいなものを作られた形跡もない。
…責めるのは酷ってもんさ」
激昂するチャンピオンを、サイデリアちゃんが諌める。ハンフリーは力なく肩を落とし、膝から崩れ落ちた。
「ごめんなさい、ハンフリー。私があなたを連れて行かなきゃこんなひどいことには…」
「ホントよ、まったく。でもこれこそ結果論よ。
まさか誘拐犯が、出入り口を使わないなんてふつう思わないわ」
私の謝罪にもハンフリーはもはや反応は示さず、代わりにビビアンちゃんがフォローめいたことをしてきた。
彼女自身勝手にカジノに出向いてきたのもあって、もしかしたら負い目を感じているのかも知れない。
そして、誰しもが疑問に思っていることを口にする。
「でも、一体どうやって…」
そこがわからないことには、話の進めようがなかった。
「教えてやろうか、ビビアンちゃん。
…もっとも、頭の良いビビアンちゃんなら、もう半分くらい勘付いているかも知らねえがな」
一番最初に答えに行き着いたのは、一堂の中で最も悪に近い存在だった。
「間違いねえ。こいつあ魔物の仕業だ。オレ様は人さらいも得意だからわかる、お墨付きをくれてやる。
いくら身体が小さなガキとはいえ、だ。
三人も誰にも気取られずに、しかも建物にキズをつけることなく攫えるなんざ、人間にできる芸当じゃねぇよ」
賞金首になるような大海賊視点の言は的を得ていた。更に続ける。
「案外、カベをすり抜けたのかもな。ほれ、いるだろ、あいつ。
…シャドーだ。ああいうやつらが関わっているのかもしれねえな」
「ちょっと待って」
一同が納得しかけたところで口を挟んだのはサイデリアちゃんだ。
「カンダタの言うことはわかるよ。
でもさ、拐われたパルナたちは、壁なんかすり抜けられないただの人間だ。
あんたの言うやり方じゃ、ちょっと無理なんじゃないか?」
「オレ様はヒントをやっただけだ。それはテメーらで考えろ」
「ええー…」
役に立つのか正直なんとも言えないヒントをいただきつつ、また深く考え込む。
ビビアンちゃんも含め、みな本来は肉体労働が専門である。
早々子どもを攫ったらしき犯人に行き着くわけもなかった。
しかし一人だけ、停滞状態を撃ち破る男がいた。
「…そうか!わかったかも知れない!」
何がだ、と誰かが聞き返すより先に、ファーリスは半ば独り言のように持論を語る。
「子どもを攫ったのは、子どもたち自身かも知れないんだ」
即座に何言ってんだこいつ、という空気が流れたし、私もそう思った。そんな視線も彼はほとんど気にしない。
「…回りくどい表現失礼した。しかし、こうだとボクは思う。カンダタくんの持論にプラスする形になる。
恐らく主犯は壁をすり抜けられるタイプの魔物。被害者は」
「だから人間は壁をすり抜けられないって」
「本当にそうかい?」
涼し気なファーリスの瞳はぐるりと周囲の人間を見渡し、私で止まる。
「これ以上は恐らく、エルザくんや、グロッタに住むキミたちの方が詳しいだろう」
私と、闘士たちの共通点。聡明なファーリスよりも詳しい事柄。
そんなものは一つしかなかった。
「魔物化…!?」
私が出した答えは正解だったらしいが、今度ばかりはファーリスは笑わなかった。ただ、重たく頷く。
「そうだ。同じような魔物になってしまいさえすれば、壁抜けの問題はクリアできる。
あとは洗脳でも魅了でもすれば良い。それこそ魔物の本領だ」
ファーリスの仮説を妄想だと笑うことはできなかった。
何せ、ここにいる大人たちの過半数は魔物化経験済みである。
むしろもっとも無理のない推理とすら思えた。
「……無論、ボクの考えが完璧に正しいとは思っていない。
けれど、魔物の仕業だとほぼ確定した以上、やはりプチャラオ村には行くべきだと思う。
もっとも、徒労になる恐れもあるが…」
推理としては筋が通っていても、地図からしてかなり遠いメダチャットを目指す根拠としては弱い。
任務が緊急性をより増したためだ。
そのことをファーリスは自覚しているのだろう。少し弱気だった。
「しかし、手がかりがそれしかないんだろう?…なら行くしかないじゃないか」
そんな彼を諭したのはハンサムだった。余計なことは言わず、ただ王子を鼓舞するに己の意見を留めた。
「おい!お前ら元々メダチャットに行くためにオレ様を雇ったんだろうが。
今更弱気になんかなってんじゃねえ!」
更にカンダタが言う。
目の前で今しがた子どもが行方不明になった以上当初とは状況が違うわけだが、そんなことは彼には関係がなかった。
「ハンフリー!!」
これ以上時間のロスは出せない、ということは皆理解していてそれでもそれを覚悟の上であえてプチャラオ村を目指さなければならない状況。
「何腑抜けてんだテメーは!!このオレ様に偉そうに啖呵切ったのを忘れやがったか!?
ガキどもを守るためならなんでもするんじゃねえのか、吐いたツバは飲まんでおきやがれ!!」
怒鳴りあげるなりカンダタは、ハンフリーにつかつかと歩み寄り強烈な頭突きをかます。
ごちんという鈍器めいた鈍い音。火花が散ったかと思うような強烈な攻撃だ。いかにチャンピオンといえどさすがにたまらず、倒れる。
それを見た回復ができるビビアンちゃんが、ドン引きしつつも慌てて駆け寄った。
「エルザ」
「…はい」
さすがに今の光景を見て恐ろしくなってしまった私の声音は、借りてきたようなごく大人しいものと化していた。
というかビビアンちゃんの横やりがなかったらこいつと戦う羽目になってたんだな、と場違いに思う。
多分いやまず勝てない。あとで彼女にお礼言っておこうと場違いに決意した。
「気が変わった。積み荷の準備はできている。危険は増すが、今すぐ出発するぞ」
「カンダタ…っ!!」
とはいえこの海の嵐のような男は、身勝手極まりない形で無理矢理話を展開していく。
ただしそれは想定外の事態にショックを受けた私たちを、引っ張るものでしかなかった。ここで落ち込んでいる暇などないのだ。