Hevenly sun
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ハンフリー、サイデリア、マスク・ザ・ハンサム、ビビアン、ファーリス、そして私。
要は結構な大人数だ。
ハンフリー以外は全員比較的小柄な体格をしていたりそもそも女性だったりするのだけど、
大人六人を押し込めるにしては彼の部屋は少しばかりいや失礼ながらかなり狭い。
申し訳程度のゲスト扱いということでファーリスと私がハンフリーのベッドに座り、
他四人は立つことで一応の事なきを得る。
こうしてグロッタ孤児行方不明事件の報告会は幕を開けることとなった。
まず口火を切ったのは闘士代表・ハンフリーだ。
「オレとビビアンは改めてグロッタの調査をした。
…一応アラクラトロの巣も確認したが、異常は見られなかったな」
「アラクラトロ?」
聞き覚えのない単語に、早速ファーリスが反応する。
「…ブギーが侵略するより以前にグロッタに棲みついていたクモの化物だ。イレブンたちが退治してくれたが」
どことなく重たい口調で説明したハンフリーは、いずれにしてもと付け足す。
「アイツの息の根は止めたはずだ。事件には恐らく関係ないぜ」
ふむ、とファーリスは腕を組む。
もう沈黙を決め込んだようだった。
「…とにかく、オレは収穫はナシだ。ビビアンは何か報告はあるか?」
唯一の頭脳労働班が進行を早速放棄したので、代わりにハンフリーが仕切る。
元々闘士たちのリーダー的な存在なのだろう、それに誰も異論は唱えなかった。
「そうねぇ。ビビアンちゃんてば賢いから、あの後カジノに行ってみたの。
あそこなら色んな地方の博打打ちが集まってくるから。
でもでもぉ〜、ビビアンちゃんが改めてかわいいってことしかわかりませんでしたっ」
「そうかそれは良かったな次行くぞ次」
ビビアンちゃんの証言をハンサムが辛辣に流す。
嫌いな私とはまだ必要な会話ができるようだが、ビビアンちゃんは心底苦手らしい。
相手にしたくないオーラをひしひしと感じた。
「ラゴスっ。ビビアンちゃんのお話は最後まで聞いて?」
「だからボクはラゴスではないと」
話が明後日の方に行ってしまう。そんな危惧はあったが、つい口を挟まずにはいられなかった。
「そういえば、ビビアンちゃん。なんでラゴスなの?こいつの本名なの?」
ビビアンちゃんはその問いに首を振る。
「しらなーい」
「知らないのかよ」
サイデリアちゃんのツッコミを無視し、お色気バニーは夢見る口調で続ける。
「でもねっ。子どもの頃の初恋のコに似てるの。
サラサラの金髪、キリッとした青い目の、ちょっと線が細いけどとってもイケメン。それだけじゃないわよ!
レンジャーの名門のお家の子で、まだ小さいのに才能に溢れててちょっぴり照れ屋さんで!
――そんなコの名前がラゴスで、ハンサムはカレにそっくりなの!」
彼女のその説明。
私とサイデリアちゃん、考え事をしていたファーリスまでもがつい、ハンサムの方を見てしまう。
「やめろ!ボクは別人だ!」
「これがレンジャーの切り札」
「今すぐ忘れろ!!!」
半ば絶叫するようにハンサムは怒鳴った。
その必死具合はサバクくじら戦でもついぞ見せなかったものである。
「あー。ラゴス、そろそろ話題を戻してもらっていいか?」
「ハンフリーまで言うか!?」
「スマン、冗談だ。」
いよいよ本気で怒り始めるハンサムになんでもない様子でチャンピオンは返すと、ビビアンちゃんの方を見る。
「それで、何を言うつもりだったんだ、ビビアン。オレたちにも教えてくれないか?」
指名が入ったバニーはネジの切れたおもちゃのように一瞬止まる。
それには特に理由があったわけでなく、ただどう言い回しを組み立てたものか迷っていたらしい。
だからその停止時間が嘘のように、鈴の音が転がりだす。
「はあい、このビビアンちゃんにまかせて、チャンピオン。とっても貴重な情報よん。
…プチャラオ村。そこでも子どもたちが行方不明になってるらしいわ、それも何人も!」
その時のビビアンちゃんの顔は、ごく真剣だった。
彼女は彼女なりに真面目にこの問題に取り組んでいたのだ、
とハンサムも理解したらしく何のツッコミも入れない。
事件の進展に関わる可能性が高いであろう情報に誰もが緊張し、誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。
「そうか…」
腕を組んだまま俯いていたファーリスが小さく呟く。
それは多分隣にいる私にしかわからないくらいに。
「何かわかったの?」
たずねると、彼は俯きがちのままこちらを見た。
わかったというほどではないが、と前置きして彼は仮説を語り始める。
「以前イレブン君に聞かせてもらったんだ。
『開運の壁画』で観光客を誘い、何人も異世界に閉じ込めた魔物がいたという話を。
グロッタでもつい最近、住民が行方不明になった事件があっただろう?
――もっともこちらは魔物に変えられていたというオチだったけれど。
この二つの事件は似ているとまでは言わないが、共通する点がないとは言えないだろう」
「人が消えたってことかい?」
サイデリアちゃんの答えにファーリスが頷きかけると、ハンサムがそれは違うと否定した。
「まだボクの番は来ていないが、もう先んじて言わせてもらう。
ボクはダーハルーネで調査した。子どもがいなくなったと聞いた。
しかしファーリス、お前が言う人が行方不明になるような事件は、あそこではこれ以前には起こってはいない。
だから恐らくそれは、関係がない」
「その通りさ、だがそうだと結論付けるにはまだ早いのもまた事実だろう。
ハンサムくん、キミの意見も情報もまた有意義かつ貴重だ。しっかり嚥下させてもらうよ」
ファーリスはハンサムの意見を否定するでもなく、ただ受け止めた。
ハンサムは単にいちゃもんをつけたかったのか王子のフォローが良かったのかわからないが、
大人しく引き下がる。
「いずれにしても、ビビアンくんの情報は貴重だ。
プチャラオ村の近くにはメダル女学院もあって子どもの数は他の地方より多いと思われるし、
足を運ぶ意義はあるだろう」
そう締め括る。
次の行動の指針はもう決まったようなものだった。
それでも彼は一応とばかり、今度はサイデリアちゃんの方を見る。
「キミはうちの国を調査していたね。何かわかったかい?」
サイデリアちゃんは微笑みかけた。
「何にもなかったよ。統治が良いんだろうね、サバクくじらの件以外は、平和そのものさ」
ありがとう、とにっこり笑ってファーリスは返した。
「…と、いうことでだ。ボクとしては、明日にでも行動開始したい。
まずはメダチャット地方を目指すことにしよう。
現地ではせっかくの人数だ、二手に分かれてメダ女とプチャラオ村で調査をするべきだとボクは思うが。
…異論や他に案があれば遠慮せずに言ってくれ」
いつの間にかすっかり議論のペースを拐ってしまったファーリスの呼びかけに、早速ハンフリーが挙手をした。
「悪いが、オレは付いていくことができない。…子どもたちを放っておけないからな」
「そうか…いや、当然だ。ぜひそうしてくれ。他にはあるかい?」
グロッタの孤児院の事情までは気がまわっていなかったのだろう。
ファーリスはここで僅かに動揺を見せる。
それを誤魔化すように他の意見を募るも、悲しいかな声が裏返ってしまっていた。
「意見異論ではなく質問だがいいか?」
今度はハンサムが挙手をした。
返事はないことを肯定ととり、そのまま続ける。
「メダチャット地方は噂じゃ地形が変わったせいで外海を周らないと行けないって話だろう。
足はどうするつもりだ?」
「それに困っているんだ」
ハンサムの問いをファーリスは今までのような自信に満ちた笑みではなく、苦い顔を持って受けた。
「ご存知かも知れないが、ウチは陸は滅法強いが海はてんでダメでね、
船はダーハルーネに貿易用の数隻しか置いていないんだ。
軍用船に至っては魔物にやられたのもあって現在所持すらしていない。
…あったとしても、ボクの権限じゃ動かせないが。
おまけにあそこに行くにはムウレアのマーメイドハープが必要だ」
「マーメイドハープって、一度だけ見たことがあるけどさ、かなり…いや滅茶苦茶高かったよな?
ちょっと現実的じゃないね」
口を挟むサイデリアちゃん。
マーメイドハープは、私も聞いたことがあった。
本来は海上を進むはずの船を特殊な泡で包み込むことによって潜水を可能にする魔法の楽器。
海底王国ムウレアの特産品にして、超高級品。
出回ることも滅多にあるものではなく、庶民には到底手が出るものではない。
それこそ基本的にはダーハルーネの船持ちでもごく一部の豪商くらいしか所持していないだろう。
つまり。
「またダーハルーネまで戻って、メダチャット行きの連絡船を待つしかないということか」
「…そういうことになる。時間のロスを承知でね」
ハンサムが推察したネガティブな結論を、ファーリスは今度は全面的に肯定するしかなかった。
「えー!?やだやだ!ビビアンちゃんそんなにまーてーなーいー!」
それに抗議したのはビビアンちゃんだった。
可愛らしく首を振ると、頭のうさ耳をゆらゆら揺れる。
「い、いやしかし…キミの情報が今は頼りなんだ。だからちょっとガマンを…」
とファーリスが宥めるも、ビビアンちゃんの駄々っ子よろしくの抗議活動は収まらない。
「だってぇ、こうしてる間にもいなくなったコたちがひどい目にあってるのかも知れないのよ!?
それに残ってるコだっていなくなっちゃうかも知れない…。
ビビアンちゃん、そんなの耐えられない!サイデリアもそう思うでしょ?」
「あ、ああ。そうだ。そうだけど…」
そう言ったきりサイデリアちゃんは黙り込む。彼女も、多分ビビアンちゃんもわかってはいるのだ。
今はブチャラオ村に行く以外、どうしようもないことくらいは。
けれども、納得はできないのだろう。内心気持ちははやるのもわかる。
目の前で死んでいく人たちには当然子どもも含まれる。
彼女らも、他のみんなもこの世界で戦い今日まで生き残っている以上、
そんな光景を幾度となく見てきているはずだ。
だからビビアンちゃんの気持ちは、痛いほどわかる。
ただみんな大人だから口に出さないだけ。ではビビアンちゃんは子どもなのかと言えば、違う。
ただ幼稚の仮面を被ってみんなの代弁をしているに過ぎなかった。だから誰も、彼女を叱咤できない。
「やめろ、ビビアン。こればかりはどうしようもないことだ。
今はせめて…残っている子たちはオレがなんとしても、必ず守る。…それで我慢してくれないか」
それでも、ハンフリーは闘士たちの代表としての務めを果たす。
子どもを守るという役割が一番重くのしかかっている自分が真っ先に現実を受け入れてみせることで、
ビビアンちゃんの暴走を止めた。
口を閉じた彼女は涙を零していたが、多分それはハンフリーの代わりにしたことなんだと、
同じ仮面を被るものとして察する。
「ねえ」
一連の騒ぎがようやっと収まってから、私は遠慮がちに挙手をした。
この意見を出すべきか確実性にあまりにも欠けるために迷っていたけれど、
とにかく気まずい空気を是正するための提案だった。
「絶対こうだ、って保証はないからあまり期待しないで聞いてほしいんだけど。
マーメイドハープを持ってる人、心当たりがあるの。
さっき偶然見かけたんだけど、カジノの方に歩いていった。
当たるだけ、当たってみてもいいかな」
いまいちネガティブな方向に煮詰まってしまった議論の場において、その意見は清涼剤になったらしい。
反論する者は一人もいなかった。
かくして会議は一旦締め括られる。
動く者は動き、守る者は守る。
私は前者だ。
行動開始の時は、迫っていた。
要は結構な大人数だ。
ハンフリー以外は全員比較的小柄な体格をしていたりそもそも女性だったりするのだけど、
大人六人を押し込めるにしては彼の部屋は少しばかりいや失礼ながらかなり狭い。
申し訳程度のゲスト扱いということでファーリスと私がハンフリーのベッドに座り、
他四人は立つことで一応の事なきを得る。
こうしてグロッタ孤児行方不明事件の報告会は幕を開けることとなった。
まず口火を切ったのは闘士代表・ハンフリーだ。
「オレとビビアンは改めてグロッタの調査をした。
…一応アラクラトロの巣も確認したが、異常は見られなかったな」
「アラクラトロ?」
聞き覚えのない単語に、早速ファーリスが反応する。
「…ブギーが侵略するより以前にグロッタに棲みついていたクモの化物だ。イレブンたちが退治してくれたが」
どことなく重たい口調で説明したハンフリーは、いずれにしてもと付け足す。
「アイツの息の根は止めたはずだ。事件には恐らく関係ないぜ」
ふむ、とファーリスは腕を組む。
もう沈黙を決め込んだようだった。
「…とにかく、オレは収穫はナシだ。ビビアンは何か報告はあるか?」
唯一の頭脳労働班が進行を早速放棄したので、代わりにハンフリーが仕切る。
元々闘士たちのリーダー的な存在なのだろう、それに誰も異論は唱えなかった。
「そうねぇ。ビビアンちゃんてば賢いから、あの後カジノに行ってみたの。
あそこなら色んな地方の博打打ちが集まってくるから。
でもでもぉ〜、ビビアンちゃんが改めてかわいいってことしかわかりませんでしたっ」
「そうかそれは良かったな次行くぞ次」
ビビアンちゃんの証言をハンサムが辛辣に流す。
嫌いな私とはまだ必要な会話ができるようだが、ビビアンちゃんは心底苦手らしい。
相手にしたくないオーラをひしひしと感じた。
「ラゴスっ。ビビアンちゃんのお話は最後まで聞いて?」
「だからボクはラゴスではないと」
話が明後日の方に行ってしまう。そんな危惧はあったが、つい口を挟まずにはいられなかった。
「そういえば、ビビアンちゃん。なんでラゴスなの?こいつの本名なの?」
ビビアンちゃんはその問いに首を振る。
「しらなーい」
「知らないのかよ」
サイデリアちゃんのツッコミを無視し、お色気バニーは夢見る口調で続ける。
「でもねっ。子どもの頃の初恋のコに似てるの。
サラサラの金髪、キリッとした青い目の、ちょっと線が細いけどとってもイケメン。それだけじゃないわよ!
レンジャーの名門のお家の子で、まだ小さいのに才能に溢れててちょっぴり照れ屋さんで!
――そんなコの名前がラゴスで、ハンサムはカレにそっくりなの!」
彼女のその説明。
私とサイデリアちゃん、考え事をしていたファーリスまでもがつい、ハンサムの方を見てしまう。
「やめろ!ボクは別人だ!」
「これがレンジャーの切り札」
「今すぐ忘れろ!!!」
半ば絶叫するようにハンサムは怒鳴った。
その必死具合はサバクくじら戦でもついぞ見せなかったものである。
「あー。ラゴス、そろそろ話題を戻してもらっていいか?」
「ハンフリーまで言うか!?」
「スマン、冗談だ。」
いよいよ本気で怒り始めるハンサムになんでもない様子でチャンピオンは返すと、ビビアンちゃんの方を見る。
「それで、何を言うつもりだったんだ、ビビアン。オレたちにも教えてくれないか?」
指名が入ったバニーはネジの切れたおもちゃのように一瞬止まる。
それには特に理由があったわけでなく、ただどう言い回しを組み立てたものか迷っていたらしい。
だからその停止時間が嘘のように、鈴の音が転がりだす。
「はあい、このビビアンちゃんにまかせて、チャンピオン。とっても貴重な情報よん。
…プチャラオ村。そこでも子どもたちが行方不明になってるらしいわ、それも何人も!」
その時のビビアンちゃんの顔は、ごく真剣だった。
彼女は彼女なりに真面目にこの問題に取り組んでいたのだ、
とハンサムも理解したらしく何のツッコミも入れない。
事件の進展に関わる可能性が高いであろう情報に誰もが緊張し、誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。
「そうか…」
腕を組んだまま俯いていたファーリスが小さく呟く。
それは多分隣にいる私にしかわからないくらいに。
「何かわかったの?」
たずねると、彼は俯きがちのままこちらを見た。
わかったというほどではないが、と前置きして彼は仮説を語り始める。
「以前イレブン君に聞かせてもらったんだ。
『開運の壁画』で観光客を誘い、何人も異世界に閉じ込めた魔物がいたという話を。
グロッタでもつい最近、住民が行方不明になった事件があっただろう?
――もっともこちらは魔物に変えられていたというオチだったけれど。
この二つの事件は似ているとまでは言わないが、共通する点がないとは言えないだろう」
「人が消えたってことかい?」
サイデリアちゃんの答えにファーリスが頷きかけると、ハンサムがそれは違うと否定した。
「まだボクの番は来ていないが、もう先んじて言わせてもらう。
ボクはダーハルーネで調査した。子どもがいなくなったと聞いた。
しかしファーリス、お前が言う人が行方不明になるような事件は、あそこではこれ以前には起こってはいない。
だから恐らくそれは、関係がない」
「その通りさ、だがそうだと結論付けるにはまだ早いのもまた事実だろう。
ハンサムくん、キミの意見も情報もまた有意義かつ貴重だ。しっかり嚥下させてもらうよ」
ファーリスはハンサムの意見を否定するでもなく、ただ受け止めた。
ハンサムは単にいちゃもんをつけたかったのか王子のフォローが良かったのかわからないが、
大人しく引き下がる。
「いずれにしても、ビビアンくんの情報は貴重だ。
プチャラオ村の近くにはメダル女学院もあって子どもの数は他の地方より多いと思われるし、
足を運ぶ意義はあるだろう」
そう締め括る。
次の行動の指針はもう決まったようなものだった。
それでも彼は一応とばかり、今度はサイデリアちゃんの方を見る。
「キミはうちの国を調査していたね。何かわかったかい?」
サイデリアちゃんは微笑みかけた。
「何にもなかったよ。統治が良いんだろうね、サバクくじらの件以外は、平和そのものさ」
ありがとう、とにっこり笑ってファーリスは返した。
「…と、いうことでだ。ボクとしては、明日にでも行動開始したい。
まずはメダチャット地方を目指すことにしよう。
現地ではせっかくの人数だ、二手に分かれてメダ女とプチャラオ村で調査をするべきだとボクは思うが。
…異論や他に案があれば遠慮せずに言ってくれ」
いつの間にかすっかり議論のペースを拐ってしまったファーリスの呼びかけに、早速ハンフリーが挙手をした。
「悪いが、オレは付いていくことができない。…子どもたちを放っておけないからな」
「そうか…いや、当然だ。ぜひそうしてくれ。他にはあるかい?」
グロッタの孤児院の事情までは気がまわっていなかったのだろう。
ファーリスはここで僅かに動揺を見せる。
それを誤魔化すように他の意見を募るも、悲しいかな声が裏返ってしまっていた。
「意見異論ではなく質問だがいいか?」
今度はハンサムが挙手をした。
返事はないことを肯定ととり、そのまま続ける。
「メダチャット地方は噂じゃ地形が変わったせいで外海を周らないと行けないって話だろう。
足はどうするつもりだ?」
「それに困っているんだ」
ハンサムの問いをファーリスは今までのような自信に満ちた笑みではなく、苦い顔を持って受けた。
「ご存知かも知れないが、ウチは陸は滅法強いが海はてんでダメでね、
船はダーハルーネに貿易用の数隻しか置いていないんだ。
軍用船に至っては魔物にやられたのもあって現在所持すらしていない。
…あったとしても、ボクの権限じゃ動かせないが。
おまけにあそこに行くにはムウレアのマーメイドハープが必要だ」
「マーメイドハープって、一度だけ見たことがあるけどさ、かなり…いや滅茶苦茶高かったよな?
ちょっと現実的じゃないね」
口を挟むサイデリアちゃん。
マーメイドハープは、私も聞いたことがあった。
本来は海上を進むはずの船を特殊な泡で包み込むことによって潜水を可能にする魔法の楽器。
海底王国ムウレアの特産品にして、超高級品。
出回ることも滅多にあるものではなく、庶民には到底手が出るものではない。
それこそ基本的にはダーハルーネの船持ちでもごく一部の豪商くらいしか所持していないだろう。
つまり。
「またダーハルーネまで戻って、メダチャット行きの連絡船を待つしかないということか」
「…そういうことになる。時間のロスを承知でね」
ハンサムが推察したネガティブな結論を、ファーリスは今度は全面的に肯定するしかなかった。
「えー!?やだやだ!ビビアンちゃんそんなにまーてーなーいー!」
それに抗議したのはビビアンちゃんだった。
可愛らしく首を振ると、頭のうさ耳をゆらゆら揺れる。
「い、いやしかし…キミの情報が今は頼りなんだ。だからちょっとガマンを…」
とファーリスが宥めるも、ビビアンちゃんの駄々っ子よろしくの抗議活動は収まらない。
「だってぇ、こうしてる間にもいなくなったコたちがひどい目にあってるのかも知れないのよ!?
それに残ってるコだっていなくなっちゃうかも知れない…。
ビビアンちゃん、そんなの耐えられない!サイデリアもそう思うでしょ?」
「あ、ああ。そうだ。そうだけど…」
そう言ったきりサイデリアちゃんは黙り込む。彼女も、多分ビビアンちゃんもわかってはいるのだ。
今はブチャラオ村に行く以外、どうしようもないことくらいは。
けれども、納得はできないのだろう。内心気持ちははやるのもわかる。
目の前で死んでいく人たちには当然子どもも含まれる。
彼女らも、他のみんなもこの世界で戦い今日まで生き残っている以上、
そんな光景を幾度となく見てきているはずだ。
だからビビアンちゃんの気持ちは、痛いほどわかる。
ただみんな大人だから口に出さないだけ。ではビビアンちゃんは子どもなのかと言えば、違う。
ただ幼稚の仮面を被ってみんなの代弁をしているに過ぎなかった。だから誰も、彼女を叱咤できない。
「やめろ、ビビアン。こればかりはどうしようもないことだ。
今はせめて…残っている子たちはオレがなんとしても、必ず守る。…それで我慢してくれないか」
それでも、ハンフリーは闘士たちの代表としての務めを果たす。
子どもを守るという役割が一番重くのしかかっている自分が真っ先に現実を受け入れてみせることで、
ビビアンちゃんの暴走を止めた。
口を閉じた彼女は涙を零していたが、多分それはハンフリーの代わりにしたことなんだと、
同じ仮面を被るものとして察する。
「ねえ」
一連の騒ぎがようやっと収まってから、私は遠慮がちに挙手をした。
この意見を出すべきか確実性にあまりにも欠けるために迷っていたけれど、
とにかく気まずい空気を是正するための提案だった。
「絶対こうだ、って保証はないからあまり期待しないで聞いてほしいんだけど。
マーメイドハープを持ってる人、心当たりがあるの。
さっき偶然見かけたんだけど、カジノの方に歩いていった。
当たるだけ、当たってみてもいいかな」
いまいちネガティブな方向に煮詰まってしまった議論の場において、その意見は清涼剤になったらしい。
反論する者は一人もいなかった。
かくして会議は一旦締め括られる。
動く者は動き、守る者は守る。
私は前者だ。
行動開始の時は、迫っていた。