Hevenly sun
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騎士の国サマディーにたどり着いたのはダーハルーネを発った翌々日の昼間のこと。
砂漠地帯らしく気温は高く、日差しは強く照りつける。
「まいったな。このままでは変な焼け方をしてしまう」
と、マスク・ザ・ハンサムのご機嫌もすこぶる悪い。
…にこにこしている彼も中々想像できなかったが。
「じゃあ取れば?その仮面。正体隠さなきゃならない相手でもいるの?」
「イヤだ。別に日の下を歩けない人生は送っていないが」
「じゃなんでそんな暑苦しいものを」
「そりゃお前」
ハンサムは気温以外の理由て僅かに頬を上気させた。
「似合うわね素敵よって前シルビアさんに褒められたから…」
「う、うん」
なんかよくわからないんだけど圧倒される。
仮面越しでもわかる、恋する男――むしろ乙女の目。
シルビアさんも罪作りな人だなと自分を棚にあげて思う。
それにしても入れ込みっぷりなら私以上かと思う。私ならこんな暑い日に仮面などつけていられない。
でも、負けないけど。
ひっそりと決意を新たにしつつ、私たちは目的の人物に会うため更に歩を進めた。
『グロッタで最近子どもがいなくなる事件が多発しているんだ。ダーハルーネにもその調査で来ていた。
…ここでも、魔物に襲われる以前に子どもが姿を消す事件が発生したらしい』
振り返ることダーハルーネ。
あの後案外素直にハンサムが吐露してくれたのは、そういう問題。
なんというか、ご時世的にも黒幕は魔物としか思えないような事件だというのが第一の感想だ。
いかにも短気そうなハンサムが、港町でウジウジしていた私に八つ当たりしたくなったのもなんとなく頷ける。
とにかく、そういう話の解決に協力してくれそうな知恵者の知り合いがいると訴え、旅の同行を決める。
これも困っている人は見逃せないというシルビアさんの真似だ。
そういうわけで現在、サマディー王国に至る。
「王宮に入るのは初めてだが…ちょっと開かれすぎていないか?」
絢爛豪華の内装にハンサムは圧倒される。
ブルークォーツを惜しげもなく使った壁に天井。
大小様々な宝石が散りばめられた大量の壺や調度品の数々は、もはや人の家と言うよりも博物館を思わせる。
普段の常にギスギスした感じは何処へと問いかけたくなるような、気の抜けた声。
まさに観光気分なのだろう。
気持ちはすごくわかる。
「サマディーはすごく国民目線の(すぎる)政治をしてるらしいよ。だから、王宮の見学も自由だし」
吹き抜け付きの巨大な広間を通り抜け、目的地に着いた。個室の前。ドアをノックする。
「入ってくれたまえ」
こんな風にやたらと気軽に王族と接見できてしまうんだよな、と思いながらドアを開く。
筋肉質な上半身を晒した金髪の男が、そのタイミングで分厚い本を閉じた。
彼はへらりと威厳もへったくれもない笑みを見せる。
「やあ、エルザくんじゃないか。会えて嬉しいよ」
サマディー国第一王子ファーリス。
「ちょっとぶりです、王子。折りいって今日は相談したいことがあって参りました」
「君に頼られる日がくるなんてね!もちろん大歓迎さ!」
人好きのする態度で庶民派王子は椅子を勧める。
私、それからハンサムと並んで席に着くとほぼ同時。
いつ声がかかったのかメイドさんがお茶を置いてくれた。
外の暑さでほとほと参った身、早速喉を潤すことにする。
高級な味がした。
「…その前に一つ聞いておきたいんだが…、そちらの仮面の方は?」
「マスク・ザ・ハンサムです」
「あー、うん、なるほど。ハンサムくんね。なんかこのノリ知ってる気がする。
…うん、ボクはファーリス。ここ、サマディー王国の第一王子だ、以後よろしく。さて、と」
大量のデスコピオン戦を乗り切り、ファーリス王子はまた一つ成長したらしい。
優しげな垂れ目に確かな自信の光を備えゆっくりと微笑み――王族らしい風格をここに来てようやく発揮する。
「今日はどんな相談だい?ボクの頭脳の及ぶ限りお手伝いしようじゃないか」
しかしそれも一瞬のことで。
ちょっと瞬きした内に雰囲気は崩れ、更に次には眉根が垂れ下がった情けない表情になる。
…恐ろしいことにこちらの方がなんだかしっくり来てしまうのだが。
「…と、言いたいところだがすごいタイミングで来てくれたね、キミたち。お願いだ、助けてくれないか!?」
「アレは『サバクくじら』。この辺りじゃ伝説の怪獣とも呼ばれている」
現場は玉座のバルコニーから臨めた。
ウマレース会場ど真ん中。龍のような山椒魚のような、そんな未知の巨大生物が我が物顔で陣どっていた。
私たちは言われるままにサバクくじらを確認し、そして今一度ファーリスの自室に戻ってきていた。
「退治は…しないんですか?」
「できたら良いんだが…こちらの兵も先のデスコピオン戦でずいぶんと痛手を負ってしまっていてね」
王子は悩ましげにため息をつく。
「傭兵を雇うことも考えたが、何分街のど真ん中。民への被害は絶対避けなければならないだろう?
まったく頭が痛いよ」
ファーリスは本当に困った様子だった。
しかも彼には私たちと違って背負うものや守るものがあった。身動きが取り辛いというのも、致し方ない話だ。
「あいつが現れたのは昨日今日のことなんですか?」
周囲の環境の荒れてなさ、国民の静かさを見る限りサバクくじら自体はまだ現れて間もないのだろう。
ファーリスは忌々しげ首肯する。
「そうだ。今朝、ヤツはトラックに大穴を開けて現れていた。
今は移動で疲れを出したらしく眠っているが、文献によるとその食欲はずいぶんと旺盛だと言うじゃないか。
…最悪、民に犠牲が出てしまう。そこで提案なんだが」
きらり、とファーリスの目が輝いた。
反射的に嫌な予感がした。
「キミたちの力を貸してほしいんだ!無事サバクくじらを退治できた時、ボクの知恵をキミたちに貸そう!」
「…何ていうか最低だな、あんた」
ハンサムの声は乾ききっていた。
ふつうに、そしてあまりにも無礼だったが、彼は気にした様子もなかった。
ファーリスも当然のようにスルーした。それでいいのか。
「何とでも言いたまえ!民を守るためには手段なんて選んでいられないんだ。
…も、もちろんボクも高みの見物をしないことは…や、約束しよう」
ファーリスは青ざめ、声も体も震えていたが、決意は本物なようだ。
ハンサムはそれで一応納得したらしく、お茶のカップに口をつける。
ファーリスは彼の様子を見届け、安堵したようにため息をつく。
それから二三度ほど深呼吸してから、改めて口火を切った。
「これから作戦を立てるに当たって、ハンサムくん。キミの能力を聞いておきたい。
ざっくりとでいい、自己紹介してくれ」
「そこの女はいいのか?」
「エルザくんのことは前回のデスコピオン戦で頭に入っている。
他に新しい才能に目覚めたのであればぜひ知らせてほしいのだが」
「特にありません、王子」
「了解した!では普段どおり頑張ってくれたまえ!」
そうか、とハンサムは気だるげに返事をすると、少しばかり黙り込む。
「ボクはレンジャーだ」
躊躇いがちな一声目から、意外な職業が出てきた。
「え、マジ?さっき日焼けしちゃう><とか泣き言言ってたくせにレンジャー?
あの大自然の戦士レンジャー!?ハンサムくんどの口で言ってるの?」
「初対面で言うのも悪いが、ボクも驚いているよ。てっきり旅芸人か踊り子あたりかと…」
「お前ら本当に失礼だな特にエルザ」
ハンサムはイライラしたドスの聞いた声で制すると、やはり腹を立てたままの様子で続ける。
「武器はブーメランと短剣。
呪文はあまり得意ではないがレンジャーとして最低限の回復蘇生、デバフは可能だ。これで良いか?」
「…ああ。弓はやったことはないのか?」
「かじった程度だ。肌に合わなかった」
なるほど、とファーリスは呟く。眉間に指を当てて目を閉じる。
恐らくもう、彼の中では得た情報に基づき作戦のシミュレーションが始まっているのだろう。
情けない表情を浮かべることも多い王子だが、顔つき自体は整っている。
集中し真剣な表情はかなり様になっており――肉体労働が専門の私は圧倒されるばかりだ。
そして傍らのハンサムも同じような感想を持ったらしい。
多少の驚きと共にファーリス王子を見つめている。
多分彼も思ったことだろう。グロッタの騒動は、おそらくファーリス抜きでは解決できないと。
「ふむ…」
ある程度考えはまとまったらしい。ゆっくりとファーリスは目を開く。
夢見るように、詩でも諳んじるように彼は言葉を紡ぎ始める。
「サバクくじらの特徴特性は文献にある限り頭に叩き込んだ。
キミたちの、そしてボクの戦力を頭の中でぶつけた。
何度も、何度も。何度もだ。その結果」
砂漠の国の王子らしく健康的に焼けたファーリスの顔色は一瞬で真っ白になった。
「割とゴリ押ししかないみたいだね」
ズッコケそうになった。死語である。
「おいどういうことだ、エルザ!こいつ全然頼りにならないぞ!!」
ハンサムはそんな私の胸ぐらを即座に掴み、怒鳴りつける。
女性のような細面の彼だが、結構な迫力があった。
そしてあまりの剣幕――よりも正論に、一切何も返せない。
「あはは、ハンサムくん。ボク一応王子だしこいつ呼ばわりはさすがにやめてほしいかなー」
「うるさい!あんなのと正面からやって勝てるわけがないだろう!!」
ハンサムのキレっぷりにかえって冷静さを取り戻したらしい。
「そして話は最後まで聞きたまえ!
ボクは確かにゴリ押ししかないとは言ったが、何も策はないとは言っていない!!」
ファーリス王子は手のひらを返したように力強く言い切る。
その自信、その風貌、その威厳は、騎士の国サマディーの王位継承者として、
非の打ち所もないほどに立派で、カリスマ性溢れるものだった。
砂漠地帯らしく気温は高く、日差しは強く照りつける。
「まいったな。このままでは変な焼け方をしてしまう」
と、マスク・ザ・ハンサムのご機嫌もすこぶる悪い。
…にこにこしている彼も中々想像できなかったが。
「じゃあ取れば?その仮面。正体隠さなきゃならない相手でもいるの?」
「イヤだ。別に日の下を歩けない人生は送っていないが」
「じゃなんでそんな暑苦しいものを」
「そりゃお前」
ハンサムは気温以外の理由て僅かに頬を上気させた。
「似合うわね素敵よって前シルビアさんに褒められたから…」
「う、うん」
なんかよくわからないんだけど圧倒される。
仮面越しでもわかる、恋する男――むしろ乙女の目。
シルビアさんも罪作りな人だなと自分を棚にあげて思う。
それにしても入れ込みっぷりなら私以上かと思う。私ならこんな暑い日に仮面などつけていられない。
でも、負けないけど。
ひっそりと決意を新たにしつつ、私たちは目的の人物に会うため更に歩を進めた。
『グロッタで最近子どもがいなくなる事件が多発しているんだ。ダーハルーネにもその調査で来ていた。
…ここでも、魔物に襲われる以前に子どもが姿を消す事件が発生したらしい』
振り返ることダーハルーネ。
あの後案外素直にハンサムが吐露してくれたのは、そういう問題。
なんというか、ご時世的にも黒幕は魔物としか思えないような事件だというのが第一の感想だ。
いかにも短気そうなハンサムが、港町でウジウジしていた私に八つ当たりしたくなったのもなんとなく頷ける。
とにかく、そういう話の解決に協力してくれそうな知恵者の知り合いがいると訴え、旅の同行を決める。
これも困っている人は見逃せないというシルビアさんの真似だ。
そういうわけで現在、サマディー王国に至る。
「王宮に入るのは初めてだが…ちょっと開かれすぎていないか?」
絢爛豪華の内装にハンサムは圧倒される。
ブルークォーツを惜しげもなく使った壁に天井。
大小様々な宝石が散りばめられた大量の壺や調度品の数々は、もはや人の家と言うよりも博物館を思わせる。
普段の常にギスギスした感じは何処へと問いかけたくなるような、気の抜けた声。
まさに観光気分なのだろう。
気持ちはすごくわかる。
「サマディーはすごく国民目線の(すぎる)政治をしてるらしいよ。だから、王宮の見学も自由だし」
吹き抜け付きの巨大な広間を通り抜け、目的地に着いた。個室の前。ドアをノックする。
「入ってくれたまえ」
こんな風にやたらと気軽に王族と接見できてしまうんだよな、と思いながらドアを開く。
筋肉質な上半身を晒した金髪の男が、そのタイミングで分厚い本を閉じた。
彼はへらりと威厳もへったくれもない笑みを見せる。
「やあ、エルザくんじゃないか。会えて嬉しいよ」
サマディー国第一王子ファーリス。
「ちょっとぶりです、王子。折りいって今日は相談したいことがあって参りました」
「君に頼られる日がくるなんてね!もちろん大歓迎さ!」
人好きのする態度で庶民派王子は椅子を勧める。
私、それからハンサムと並んで席に着くとほぼ同時。
いつ声がかかったのかメイドさんがお茶を置いてくれた。
外の暑さでほとほと参った身、早速喉を潤すことにする。
高級な味がした。
「…その前に一つ聞いておきたいんだが…、そちらの仮面の方は?」
「マスク・ザ・ハンサムです」
「あー、うん、なるほど。ハンサムくんね。なんかこのノリ知ってる気がする。
…うん、ボクはファーリス。ここ、サマディー王国の第一王子だ、以後よろしく。さて、と」
大量のデスコピオン戦を乗り切り、ファーリス王子はまた一つ成長したらしい。
優しげな垂れ目に確かな自信の光を備えゆっくりと微笑み――王族らしい風格をここに来てようやく発揮する。
「今日はどんな相談だい?ボクの頭脳の及ぶ限りお手伝いしようじゃないか」
しかしそれも一瞬のことで。
ちょっと瞬きした内に雰囲気は崩れ、更に次には眉根が垂れ下がった情けない表情になる。
…恐ろしいことにこちらの方がなんだかしっくり来てしまうのだが。
「…と、言いたいところだがすごいタイミングで来てくれたね、キミたち。お願いだ、助けてくれないか!?」
「アレは『サバクくじら』。この辺りじゃ伝説の怪獣とも呼ばれている」
現場は玉座のバルコニーから臨めた。
ウマレース会場ど真ん中。龍のような山椒魚のような、そんな未知の巨大生物が我が物顔で陣どっていた。
私たちは言われるままにサバクくじらを確認し、そして今一度ファーリスの自室に戻ってきていた。
「退治は…しないんですか?」
「できたら良いんだが…こちらの兵も先のデスコピオン戦でずいぶんと痛手を負ってしまっていてね」
王子は悩ましげにため息をつく。
「傭兵を雇うことも考えたが、何分街のど真ん中。民への被害は絶対避けなければならないだろう?
まったく頭が痛いよ」
ファーリスは本当に困った様子だった。
しかも彼には私たちと違って背負うものや守るものがあった。身動きが取り辛いというのも、致し方ない話だ。
「あいつが現れたのは昨日今日のことなんですか?」
周囲の環境の荒れてなさ、国民の静かさを見る限りサバクくじら自体はまだ現れて間もないのだろう。
ファーリスは忌々しげ首肯する。
「そうだ。今朝、ヤツはトラックに大穴を開けて現れていた。
今は移動で疲れを出したらしく眠っているが、文献によるとその食欲はずいぶんと旺盛だと言うじゃないか。
…最悪、民に犠牲が出てしまう。そこで提案なんだが」
きらり、とファーリスの目が輝いた。
反射的に嫌な予感がした。
「キミたちの力を貸してほしいんだ!無事サバクくじらを退治できた時、ボクの知恵をキミたちに貸そう!」
「…何ていうか最低だな、あんた」
ハンサムの声は乾ききっていた。
ふつうに、そしてあまりにも無礼だったが、彼は気にした様子もなかった。
ファーリスも当然のようにスルーした。それでいいのか。
「何とでも言いたまえ!民を守るためには手段なんて選んでいられないんだ。
…も、もちろんボクも高みの見物をしないことは…や、約束しよう」
ファーリスは青ざめ、声も体も震えていたが、決意は本物なようだ。
ハンサムはそれで一応納得したらしく、お茶のカップに口をつける。
ファーリスは彼の様子を見届け、安堵したようにため息をつく。
それから二三度ほど深呼吸してから、改めて口火を切った。
「これから作戦を立てるに当たって、ハンサムくん。キミの能力を聞いておきたい。
ざっくりとでいい、自己紹介してくれ」
「そこの女はいいのか?」
「エルザくんのことは前回のデスコピオン戦で頭に入っている。
他に新しい才能に目覚めたのであればぜひ知らせてほしいのだが」
「特にありません、王子」
「了解した!では普段どおり頑張ってくれたまえ!」
そうか、とハンサムは気だるげに返事をすると、少しばかり黙り込む。
「ボクはレンジャーだ」
躊躇いがちな一声目から、意外な職業が出てきた。
「え、マジ?さっき日焼けしちゃう><とか泣き言言ってたくせにレンジャー?
あの大自然の戦士レンジャー!?ハンサムくんどの口で言ってるの?」
「初対面で言うのも悪いが、ボクも驚いているよ。てっきり旅芸人か踊り子あたりかと…」
「お前ら本当に失礼だな特にエルザ」
ハンサムはイライラしたドスの聞いた声で制すると、やはり腹を立てたままの様子で続ける。
「武器はブーメランと短剣。
呪文はあまり得意ではないがレンジャーとして最低限の回復蘇生、デバフは可能だ。これで良いか?」
「…ああ。弓はやったことはないのか?」
「かじった程度だ。肌に合わなかった」
なるほど、とファーリスは呟く。眉間に指を当てて目を閉じる。
恐らくもう、彼の中では得た情報に基づき作戦のシミュレーションが始まっているのだろう。
情けない表情を浮かべることも多い王子だが、顔つき自体は整っている。
集中し真剣な表情はかなり様になっており――肉体労働が専門の私は圧倒されるばかりだ。
そして傍らのハンサムも同じような感想を持ったらしい。
多少の驚きと共にファーリス王子を見つめている。
多分彼も思ったことだろう。グロッタの騒動は、おそらくファーリス抜きでは解決できないと。
「ふむ…」
ある程度考えはまとまったらしい。ゆっくりとファーリスは目を開く。
夢見るように、詩でも諳んじるように彼は言葉を紡ぎ始める。
「サバクくじらの特徴特性は文献にある限り頭に叩き込んだ。
キミたちの、そしてボクの戦力を頭の中でぶつけた。
何度も、何度も。何度もだ。その結果」
砂漠の国の王子らしく健康的に焼けたファーリスの顔色は一瞬で真っ白になった。
「割とゴリ押ししかないみたいだね」
ズッコケそうになった。死語である。
「おいどういうことだ、エルザ!こいつ全然頼りにならないぞ!!」
ハンサムはそんな私の胸ぐらを即座に掴み、怒鳴りつける。
女性のような細面の彼だが、結構な迫力があった。
そしてあまりの剣幕――よりも正論に、一切何も返せない。
「あはは、ハンサムくん。ボク一応王子だしこいつ呼ばわりはさすがにやめてほしいかなー」
「うるさい!あんなのと正面からやって勝てるわけがないだろう!!」
ハンサムのキレっぷりにかえって冷静さを取り戻したらしい。
「そして話は最後まで聞きたまえ!
ボクは確かにゴリ押ししかないとは言ったが、何も策はないとは言っていない!!」
ファーリス王子は手のひらを返したように力強く言い切る。
その自信、その風貌、その威厳は、騎士の国サマディーの王位継承者として、
非の打ち所もないほどに立派で、カリスマ性溢れるものだった。