ヘイト・ドッジボール
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本質的なことを言えば、シルビアさんのことが好きな理由は存在しない。
優しいからとか生き方がかっこいいからとか色々言ってはいるが、基本的には全部後付けだ。
およそ無条件に彼が好きになるように私という人間はできているのだと思う。
そして全く逆のことがホメロスさまにも言える。
あの方の顔は線が細く整ってこそいるがいかにも性格が悪そうだ。
…なんて元々良い印象ではなかったが、彼に逮捕されて多少人となりを知ったことをきっかけに、
自分の中にあった悪感情は確固たるものとなった。
当初は自分でも逆恨みかと思ったが多分違う。
およそ無条件に彼を嫌うように私という人間はできているのだ。
多分それは、ホメロスさまがセーニャさんあたりと同じくらい優しかったとしても変わりはしない。
あとそもそも想像したくない。
そして多分ホメロスさまから見た私も同じであり、ある意味彼とは気が合う気がする。
嬉しくないけれど。
さて、そんな方向に思考を飛ばしたのには理由がある。
誰だって意味もなく嫌いな相手のことを考えたりはしない。
気がつけば牢屋に閉じ込められていた。
先ほどまで気持ちよく眠っていたのに、目が覚める程の湿った寒さ。
地下だろうということは想像がつく。
足を伸ばして眠れないこともない空間の床には、申し訳程度の藁が引いてある。
あと意味深な壺。
そんな誰もが想像するような、典型的な牢だ。
見張りがどす赤い骸骨の戦士であることを除けば。
その時点で魔物が黒幕であることは確定である。
六本腕の骸骨戦士に話しかけるか迷っていたところ、
地上から深緑の袋を被ったようないかにも怪しい魔物が降りてきて、彼と言葉を交した。
「娘の様子はいかがですかな」
「お気楽なものさ。たった今目を覚ましたようだ」
「よいよい。よいのです。あの神経質なホメロス様の花嫁とあらば、それくらいの器もなければ」
「違いない。何せあのホメロス様だからな」
ホメロス様の花嫁?何言ってんだこいつら。
私はシルビアさん一筋――いやそうだけどそうじゃなくて。
「さて何か言いたそうですな、娘。そろそろ聞きましょうか」
手を後ろに回した袋がこちらを見た。表情はうかがい知れないが、老獪な笑みを浮かべていそうな気がした。
「答えてくれるの?意外だな」
「ええ、ええ。答えさせていただきますぞ。なにせ貴女はホメロス様の花嫁。特別扱いも当然というものです」
袋の魔法使いは穏やかな物腰でやはり意味のわからないことを言う。
「それ。ホメロス様の花嫁ってどういうこと?私はシルビアさんっていう心に決めた――いやそれはともかく。
なんであんたたち魔物が『ホメロス様』なんて呼んでんの。
なんであんたたちがホメロス様の婚活してんの。なんで――」
「ちょwwwいっぺんに言われても答えられませんがな!」
「エビルマージはこう見えて頭の回転が遅いんだ、少しは遠慮してやれ」
「貴方もフォローになってませんぞ!」
骸骨の戦士と漫才を繰り広げたエビルマージは息をつき、本当に質問に答え始めた。
特別扱いというのは本当らしい。
「まずですな、貴女を拉致した理由から説明しましょうか。
我々はズバリ、貴女の魔力に目をつけたのです」
「魔力?」
「ええ。このエビルマージにすら比肩し得る豊富な魔力量。
…こんな話は聞いたことはありませんかな?
優秀な魔法使いの子はまた優秀な魔法使いとなる」
「聞いたことない」
すてーんとエビルマージも骸骨戦士も転んだ。古風な二匹だ。
「なんとこの娘は学がないのか…才能の持ち腐れだ。
…とにかくですな、魔法は才能なのです。そして特に血の要素が大きい。
そこで貴女が選ばれたのです」
びしり、と指さされる。
その不快感よりも、エビルマージの発言の方がよほど吐き気がした。
「つまり!貴女の優秀な魔力を以ってホメロス様と交わり、優秀な子を成し、魔王軍を更なる高みへと――」
「貴様の仕業だったかエビルマージ」
地下牢よりも更に冷たい、しかし美しい深雪のような声がぴしゃりと魔物の演説を止めた。
「ほ、ホホ、ホメロス様ァーーーー!?!?なんでここが!?」
いつかと変わらない白い鎧に身を包み、ホメロスさまは最悪の機嫌で毒づく
「莫迦者。上で魔物どもが騒いでいた。収拾がつかぬほどにな。まったくくだらん…」
魔物にすら神経質と言わしめたように、イライラと瞼をひくつかせる。
エビルマージも赤い骸骨戦士も、必死に宥めようとしたいた。
「ですがホメロス様、我々はもちろん貴方をお慕いしておりますが元は人間の身。
六魔軍王の頂点に立つ者として、更に大きなチカラを手に入れる必要がありましょう。
なればこ」
「それがくだらんと言っている」
次の瞬間、よく喋るエビルマージは黙った――永遠に。
ずるりと崩れ落ちる袋の魔法使いの背後にいたホメロスさまは、異形の姿となっていた。
元々抜けるように白かった肌は顔色が悪いとされるまでに変色。
あの美形にしか似合わないであろうことは想像に難くない真っ白な鎧も、
禍々しい意匠が施された――あえて例えるならば死神のような衣装に変貌していた。
更に言えば彼は元々闇が深そうな顔つきをしていた。
その切れ長の双眸に宿るのは当時とすら比較にならないほどの邪悪で昏い輝き。
そして何より、まとう雰囲気が瘴気そのものだった。
しかも下手に強力な魔物のそれより邪悪とすら言えた。
更にはホメロスさまはいつか私に向けた美しい剣ではなく、巨大な鎌を携えていた。
その刃先にはエビルマージの新鮮な青色の血液がこびりついている。
それをぞんざいに振って飛ばす。
一連の扱いは素人目にも随分と手慣れていたように思えた。
「そのような下劣な提案はキラゴルドにでもしてやるのだな。
奴は人一倍野心も強いから喜ぶのではないか――おい」
「ヒィ!」
六本腕の骸骨戦士は、悲鳴で返事した。
「鍵を寄越せ。牢の鍵だ」
骸骨戦士はがくがくと頷き、ついでに関節という関節をかくかくと鳴らしながら命令に従った。
ホメロスさまはそれを奪い取ると、おもむろにこの牢の鍵を開ける。
「出ろ、エルザ。お前と子作りするようなイカれた趣味ない」
「…褒め言葉おおいにありがたく受け取ります」
こうして私たちは生理的に受け付けない相手と再会する羽目になったのであった。
優しいからとか生き方がかっこいいからとか色々言ってはいるが、基本的には全部後付けだ。
およそ無条件に彼が好きになるように私という人間はできているのだと思う。
そして全く逆のことがホメロスさまにも言える。
あの方の顔は線が細く整ってこそいるがいかにも性格が悪そうだ。
…なんて元々良い印象ではなかったが、彼に逮捕されて多少人となりを知ったことをきっかけに、
自分の中にあった悪感情は確固たるものとなった。
当初は自分でも逆恨みかと思ったが多分違う。
およそ無条件に彼を嫌うように私という人間はできているのだ。
多分それは、ホメロスさまがセーニャさんあたりと同じくらい優しかったとしても変わりはしない。
あとそもそも想像したくない。
そして多分ホメロスさまから見た私も同じであり、ある意味彼とは気が合う気がする。
嬉しくないけれど。
さて、そんな方向に思考を飛ばしたのには理由がある。
誰だって意味もなく嫌いな相手のことを考えたりはしない。
気がつけば牢屋に閉じ込められていた。
先ほどまで気持ちよく眠っていたのに、目が覚める程の湿った寒さ。
地下だろうということは想像がつく。
足を伸ばして眠れないこともない空間の床には、申し訳程度の藁が引いてある。
あと意味深な壺。
そんな誰もが想像するような、典型的な牢だ。
見張りがどす赤い骸骨の戦士であることを除けば。
その時点で魔物が黒幕であることは確定である。
六本腕の骸骨戦士に話しかけるか迷っていたところ、
地上から深緑の袋を被ったようないかにも怪しい魔物が降りてきて、彼と言葉を交した。
「娘の様子はいかがですかな」
「お気楽なものさ。たった今目を覚ましたようだ」
「よいよい。よいのです。あの神経質なホメロス様の花嫁とあらば、それくらいの器もなければ」
「違いない。何せあのホメロス様だからな」
ホメロス様の花嫁?何言ってんだこいつら。
私はシルビアさん一筋――いやそうだけどそうじゃなくて。
「さて何か言いたそうですな、娘。そろそろ聞きましょうか」
手を後ろに回した袋がこちらを見た。表情はうかがい知れないが、老獪な笑みを浮かべていそうな気がした。
「答えてくれるの?意外だな」
「ええ、ええ。答えさせていただきますぞ。なにせ貴女はホメロス様の花嫁。特別扱いも当然というものです」
袋の魔法使いは穏やかな物腰でやはり意味のわからないことを言う。
「それ。ホメロス様の花嫁ってどういうこと?私はシルビアさんっていう心に決めた――いやそれはともかく。
なんであんたたち魔物が『ホメロス様』なんて呼んでんの。
なんであんたたちがホメロス様の婚活してんの。なんで――」
「ちょwwwいっぺんに言われても答えられませんがな!」
「エビルマージはこう見えて頭の回転が遅いんだ、少しは遠慮してやれ」
「貴方もフォローになってませんぞ!」
骸骨の戦士と漫才を繰り広げたエビルマージは息をつき、本当に質問に答え始めた。
特別扱いというのは本当らしい。
「まずですな、貴女を拉致した理由から説明しましょうか。
我々はズバリ、貴女の魔力に目をつけたのです」
「魔力?」
「ええ。このエビルマージにすら比肩し得る豊富な魔力量。
…こんな話は聞いたことはありませんかな?
優秀な魔法使いの子はまた優秀な魔法使いとなる」
「聞いたことない」
すてーんとエビルマージも骸骨戦士も転んだ。古風な二匹だ。
「なんとこの娘は学がないのか…才能の持ち腐れだ。
…とにかくですな、魔法は才能なのです。そして特に血の要素が大きい。
そこで貴女が選ばれたのです」
びしり、と指さされる。
その不快感よりも、エビルマージの発言の方がよほど吐き気がした。
「つまり!貴女の優秀な魔力を以ってホメロス様と交わり、優秀な子を成し、魔王軍を更なる高みへと――」
「貴様の仕業だったかエビルマージ」
地下牢よりも更に冷たい、しかし美しい深雪のような声がぴしゃりと魔物の演説を止めた。
「ほ、ホホ、ホメロス様ァーーーー!?!?なんでここが!?」
いつかと変わらない白い鎧に身を包み、ホメロスさまは最悪の機嫌で毒づく
「莫迦者。上で魔物どもが騒いでいた。収拾がつかぬほどにな。まったくくだらん…」
魔物にすら神経質と言わしめたように、イライラと瞼をひくつかせる。
エビルマージも赤い骸骨戦士も、必死に宥めようとしたいた。
「ですがホメロス様、我々はもちろん貴方をお慕いしておりますが元は人間の身。
六魔軍王の頂点に立つ者として、更に大きなチカラを手に入れる必要がありましょう。
なればこ」
「それがくだらんと言っている」
次の瞬間、よく喋るエビルマージは黙った――永遠に。
ずるりと崩れ落ちる袋の魔法使いの背後にいたホメロスさまは、異形の姿となっていた。
元々抜けるように白かった肌は顔色が悪いとされるまでに変色。
あの美形にしか似合わないであろうことは想像に難くない真っ白な鎧も、
禍々しい意匠が施された――あえて例えるならば死神のような衣装に変貌していた。
更に言えば彼は元々闇が深そうな顔つきをしていた。
その切れ長の双眸に宿るのは当時とすら比較にならないほどの邪悪で昏い輝き。
そして何より、まとう雰囲気が瘴気そのものだった。
しかも下手に強力な魔物のそれより邪悪とすら言えた。
更にはホメロスさまはいつか私に向けた美しい剣ではなく、巨大な鎌を携えていた。
その刃先にはエビルマージの新鮮な青色の血液がこびりついている。
それをぞんざいに振って飛ばす。
一連の扱いは素人目にも随分と手慣れていたように思えた。
「そのような下劣な提案はキラゴルドにでもしてやるのだな。
奴は人一倍野心も強いから喜ぶのではないか――おい」
「ヒィ!」
六本腕の骸骨戦士は、悲鳴で返事した。
「鍵を寄越せ。牢の鍵だ」
骸骨戦士はがくがくと頷き、ついでに関節という関節をかくかくと鳴らしながら命令に従った。
ホメロスさまはそれを奪い取ると、おもむろにこの牢の鍵を開ける。
「出ろ、エルザ。お前と子作りするようなイカれた趣味ない」
「…褒め言葉おおいにありがたく受け取ります」
こうして私たちは生理的に受け付けない相手と再会する羽目になったのであった。