戦わなければ生き残れない!
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砂漠の国サマディー王国。
昼は暑く冬は寒いという厳しい気候でありながら、巨大なオアシスと無尽蔵の燃料資源でこの国は豊かだった。
そのためか、いわゆる観光地としても随分と名を馳せている。
中でも特にウマレースとサーカスがとても有名であり、この国の経済の重要な部分を占めているのだそうだ。
といってもそれはすでにかつての話。
魔王の誕生をきっかけに命の大樹が堕ち、
ロトゼタシア全土が未曾有の危機に陥ってからはどちらの見世物もすでに取りやめになっていた。
…かと思いきや実は別にそんなことはなかったりする。
いやむしろこんな時だからこそ、とファーリス王子によってどちらも規模こそ縮小したものの続けられていた。
とにかく、この国はそれが可能な程度には魔物による被害は目立って存在しなかった。
ところがここでまたどんでん返し。
旅疲れもあって数日腰を落ち着けようとした矢先、魔物の軍勢が比較的平和なはずのサマディー国を目指して攻めてきているという報告が王の元へ舞込んできた。
敵はかつてサマディー国を震撼させた悪名高き砂漠の殺し屋(私も噂は聞いたことがあった。ちなみに勇者様たちが倒した)で、しかも観測されただけで数十以上いるらしい。
いくらサマディーが騎士の国と言っても、これはさすがに分が悪いとすぐさま傭兵が募集された。
王直々のお触れとあって、さすがに金払いはよく参加しない理由はなかった。
その結果がこの地獄である。
最初は良かった。
私も含め魔法戦士は比較的珍しい存在なのもあり、しかもどちらかといえば支援型ということから前線に立たなくてよかった。
むしろ保護のレベルで大切にされた。
更に砂漠の殺し屋が炎の属性攻撃に弱いのも幸いした。
相手は巨大で驚異的であることには変わりない。
それでも火の呪文や特技、あるいはフォースを用いた上で集団でかかれば、なんとか倒せる存在くらいにはなった。
また、ファーリス王子の功績が大きいのもある。
王子は以前勇者様たちと共に砂漠の殺し屋と戦ったらしいのだが、その内容を後に分析し、弱点を見出し、そして今回的確に指揮をとった。
ちなみにサソリが炎の属性攻撃に弱いと踏んだのも彼である。
こうして人間有利で始まった戦いだったが、いかんせん敵の数が多すぎた。
いくら騎士だ兵士だとは言っても、人間の領域でしか鍛錬していない者たちの体力はすぐに枯渇した。
もちろん、それをサポートする魔法使いや僧侶の魔力についても同様だ。
更に、生まれつき魔力がやたらと豊富で、それを他者に分け与えることが得意な私のような者もいないこともなかったが、さすがに限界はある。
勇者様と肩を並べ戦ったということで腕には少しばかり自信があったが、MPパサーをやりすぎたためかちょっと吐き気がしてきた。軽度ではあるが、完全に魔力中毒症状が出ている。
が、吐くほどの隙を見せてなどいられない。
魔物に容赦なく殺されるだけだ。
だから仕方なしに杖をしまい、剣を取る。
バイキルトやフォースを自分にかけ、前線に立つ。
守られてバフをかけるに徹する戦法も、今やすでに無理があった。
そしてそう判断したのは私だけじゃなかったようだ。
「…奇遇だね。キミも出てくるのかい」
「高みの見物で済まなさそうなので、やむにやまれず」
「違いない」
指揮官兼現場責任者ファーリス王子。
サマディー王国が誇る優秀なはずの軍師様は、気温も高い真昼の砂漠気候のど真ん中にあって、しかし体調を崩したかのような真っ青な顔をしている。
そのくせ引きつったような笑みが浮かぶ。
ボクは決してビビっているわけじゃないと全身でアピールしているのだろうが、残念ながらこれでは逆の意味にしか取れなかった。
ちょっと微妙な気分にさせてくれる王子様だが、それでもせっかく前線に立ってくださっているのだ。
無粋に揶揄することもあるまいと私は王子にもバイキルトを唱え、フォースを付与する。
「すまない。さて…せいぜいあの人に恥ずかしくない戦いでもしようか」
「あの人?王子、いい人がいるんです?」
「そうじゃないけど、尊敬する素晴らしい人物なんだ。この戦いから無事生き残れたら、エルザくん。君にも紹介しよう」
この雑談でファーリス王子の緊張は少し解けたらしい。饒舌になっていた。
とはいえ全力で死亡フラグを立ててのけるのはさすがにすごいと思ったけれど。
シルビアさんなら確実にツッコミ入れてるだろうなと内心で愛しい人を思う。
それで少しばかり口もとが緩み、自分も死地に限りなく近い戦いに緊張していたのだと悟る。
「楽しみにしております、ではお先に」
とはいえもう余裕もないので、殺人サソリに襲いかかる。
巨大な鋏を掻い潜り、フォースの一撃。
狙い目はやつらの堅い外殻のつなぎ目だ。
砂漠の殺し屋だってあくまで生物であり、生きて動かなければならない。
故にどこかは柔らかくないといけない、弱点となり得る箇所は確実に存在する。
だからそこを狙えば効率が良い。
これは少し離れたところで疲弊した騎士たちに混ざり不格好に戦うファーリス王子の受け売りだ。戦闘開始される前段階、最初に召集された際に説明された。
この時私は失礼ながら意外だなと思った。
だって以前、ベロニカちゃんから彼の人格について悪口同然に聞かされていたのだ。
だからその意外なまでのギャップに驚くばかりだ。いや会ったこと自体は初めてだけど。
あの残念王子、どういうわけか知らないけれど中々いい男になったみたいよ、っていつか教えなきゃな。
と、我ながら立派な死亡フラグを立てつつもサソリを屠っていく。
さすがは自分だ強い強いとつい自画自賛したくなる。伊達に勇者パーティーと共闘しているわけじゃない。
あ、これも死亡フラグか?
最近気軽に立てられすぎてるのよ。
「…っらあ!!!」
フォースがちょうど切れたので、火炎斬りで殺人サソリの鋏を落とす。
痛みに悶えるそいつに兵士たちが群がり、集団でトドメを刺す。
…のは最後まで見届けずに、いち早く次の魔物を狙いに走る。
「エルザ殿!」
「はい」
「魔力が枯渇しております!MPパサーをしていただいてもよろしいでしょうか」
水を差された気分だ。
っていうか私もう剣装備。
魔力を強化してくれる杖とは勝手が全く違うが、彼らは知ったこっちゃない。
それに魔法系の人間は魔力がなければ死んだも同然だ――戦略上断る理由は存在しない。
「だいじに、してくださいよ」
そう忠告して、切っ先から魔力の塊を撃ち出す。兵士は礼を言って戦場に戻っていった。
そこまではまだ良かった。
「エルザさんこちらにも!」
「魔法戦士ぃ!」
だがそれを皮切りに魔力を求める声があちらこちらで湧いた。いやお前ら魔法の聖水持ってないのかよとは思ったが、自分の基準で考えてはいけない。
そもそも自分と他人では絶対量が圧倒的に違うのだ。
というか自分、魔力の量だけは某ラムダの天才児にすら匹敵する。
ただし、それを最大限に生かすすべが他人に分け与えるくらいしかないだけで。
仕方なしに供給に走る。
神はどういう気まぐれかおそらく私にそういう役割を与え給うた。
色々と地味すぎて絶対歴史に名前を残さないやつだ。
ああでもせめて、自分のぶんのバイキルトとフォースの魔力は残さねば。
「魔法戦士!」
それすら奪われる。魔法の聖水を飲み干す。
「お、おいキミたちいい加減に…」
ここでファーリス王子の制止が入る。
「いいんだよ!魔法戦士は始めからそういう役割だろ!!」
勝つというよりもすでに生きるのに必死な男の怒鳴り声。
ちくしょう、その通りだよ。
血反吐を吐きそうになってがんばっても、しょせんこういう扱いだ。
そう考えたらホメロス様はすごいなぁ。
あの方は魔法戦士でも一番有名な部類だけど、他人に魔力を分け与える絵が一切浮かばなかった。
こんなことが考えられるあたり、まだ余裕はある。
新たな砂漠の殺し屋と対峙する。
正直この魔物は人間に比べて単純に力の差が大きい。
だから正面切ってやりあうなら、自分から仕掛けるのは得策ではない。あちらの方が手が多いぶん、対処がされやすいからだ。だからサソリの先制攻撃を誘う。
手数こそ多いがその一撃自体はや大振りで、昆虫めいた見た目通り頭もあまりよくない。
鋏が突き出される。
当然かなりの勢いであり、当たればひとたまりもないことはすでに犠牲になった兵の数を見れば明らかだ。
とはいえ、これくらいなら対処できなくもない。
タイミングを合わせ、剣で鋏を弾く。
きいんと生き物を相手にしたとは到底思えない金属めいた耳障りな音がした。
すかさずメラを唱える。
数少ない使える攻撃呪文で最も威力は低いものの、最も早く出るものだ。
当然そんな呪文で倒せるほど敵は甘くない。が、的確に撃ち抜くことで、優秀な目潰しとなる。
悲鳴をあげ、敵は仰け反った。
そのスキに。
二度飛び、火のフォースを乗せた剣で両の鋏を切り落とす。
これで無力化はほぼ完了である。
とどめは、他の者が刺せばいい。
と言っても手空きの者がいないらしく、誰も来ないが。
それでも次だ、と思ったのが油断だっただろうか。
あるいは、もっと前?
鋏がないはずのサソリしか背後にいなかったはずだ。
それにも関わらず、何者かに腹を刺し貫かれる。激痛が走り理解が追いつかないながらも振り向く。
やはりサソリだった。
ばかな、と思う。
鋏がもう再生したっていうの?
でも刺したのはたぶん、私が倒したはずの敵だった気がする。
鋏が引き抜かれる。そのまま、地面にどうと倒れこむ。
激痛は一周してすでにもうわけがわからない。腹の下がじくじくと濡れていくのさえ理解できたにも関わらず。
「ホイミ」
ああもうこれ死ぬやつだ、寒くなってきた。体温が血液と一緒に急速に流れ出ているのだろう。
…と思っていた矢先、僅かに状態が和らいだ。
ほんの僅かだ。
死ぬか死ぬかが、死ぬか生きるかくらいにはなった。
なんとかそちらに目をやる。いつか魔力を分け与えた僧侶だった。気づけば私と似たような容態になっていた彼女は、しかし私の回復を優先させた上で力なく微笑む。
「ありがとう」
口パクで礼を言う。声を出せるほどは回復してはいない。
彼女は恐らく善意で回復してくれたのだろうが、恐らく死期が延びだけだろうことは戦局を見ればわかった。
魔物はさして数を減らさないのに対し、人間側の軍勢は今や完全に崩れ、ファーリス王子も必死で策を練るが、対応できる人員がいないようだ。
私が行かなければならない。
今私はちょうど手空きだ。
と身体を起こそうとしても力が入らず、あの回復してくれた僧侶は無言で首を振った。
今はどれだけ頑張ったって芋虫のようにもがくのが精々なのだ。
しかし、このままではファーリス王子は殺され、サマディー王国にこの大量のサソリどもがなだれ込んてしまう。
そうしたらお終いだ。
国は滅びなかったとしても、非戦闘員を含めた犠牲者が今の比にならないほど現れるだろうし、とにかく国家存続に関わるほどの致命的なダメージを受けることは容易に想像できた。
それは、いけない。
絶対には避けなければいけない。
だから今動かねば。
動けよ。
動いて。
戦わないと。
昼は暑く冬は寒いという厳しい気候でありながら、巨大なオアシスと無尽蔵の燃料資源でこの国は豊かだった。
そのためか、いわゆる観光地としても随分と名を馳せている。
中でも特にウマレースとサーカスがとても有名であり、この国の経済の重要な部分を占めているのだそうだ。
といってもそれはすでにかつての話。
魔王の誕生をきっかけに命の大樹が堕ち、
ロトゼタシア全土が未曾有の危機に陥ってからはどちらの見世物もすでに取りやめになっていた。
…かと思いきや実は別にそんなことはなかったりする。
いやむしろこんな時だからこそ、とファーリス王子によってどちらも規模こそ縮小したものの続けられていた。
とにかく、この国はそれが可能な程度には魔物による被害は目立って存在しなかった。
ところがここでまたどんでん返し。
旅疲れもあって数日腰を落ち着けようとした矢先、魔物の軍勢が比較的平和なはずのサマディー国を目指して攻めてきているという報告が王の元へ舞込んできた。
敵はかつてサマディー国を震撼させた悪名高き砂漠の殺し屋(私も噂は聞いたことがあった。ちなみに勇者様たちが倒した)で、しかも観測されただけで数十以上いるらしい。
いくらサマディーが騎士の国と言っても、これはさすがに分が悪いとすぐさま傭兵が募集された。
王直々のお触れとあって、さすがに金払いはよく参加しない理由はなかった。
その結果がこの地獄である。
最初は良かった。
私も含め魔法戦士は比較的珍しい存在なのもあり、しかもどちらかといえば支援型ということから前線に立たなくてよかった。
むしろ保護のレベルで大切にされた。
更に砂漠の殺し屋が炎の属性攻撃に弱いのも幸いした。
相手は巨大で驚異的であることには変わりない。
それでも火の呪文や特技、あるいはフォースを用いた上で集団でかかれば、なんとか倒せる存在くらいにはなった。
また、ファーリス王子の功績が大きいのもある。
王子は以前勇者様たちと共に砂漠の殺し屋と戦ったらしいのだが、その内容を後に分析し、弱点を見出し、そして今回的確に指揮をとった。
ちなみにサソリが炎の属性攻撃に弱いと踏んだのも彼である。
こうして人間有利で始まった戦いだったが、いかんせん敵の数が多すぎた。
いくら騎士だ兵士だとは言っても、人間の領域でしか鍛錬していない者たちの体力はすぐに枯渇した。
もちろん、それをサポートする魔法使いや僧侶の魔力についても同様だ。
更に、生まれつき魔力がやたらと豊富で、それを他者に分け与えることが得意な私のような者もいないこともなかったが、さすがに限界はある。
勇者様と肩を並べ戦ったということで腕には少しばかり自信があったが、MPパサーをやりすぎたためかちょっと吐き気がしてきた。軽度ではあるが、完全に魔力中毒症状が出ている。
が、吐くほどの隙を見せてなどいられない。
魔物に容赦なく殺されるだけだ。
だから仕方なしに杖をしまい、剣を取る。
バイキルトやフォースを自分にかけ、前線に立つ。
守られてバフをかけるに徹する戦法も、今やすでに無理があった。
そしてそう判断したのは私だけじゃなかったようだ。
「…奇遇だね。キミも出てくるのかい」
「高みの見物で済まなさそうなので、やむにやまれず」
「違いない」
指揮官兼現場責任者ファーリス王子。
サマディー王国が誇る優秀なはずの軍師様は、気温も高い真昼の砂漠気候のど真ん中にあって、しかし体調を崩したかのような真っ青な顔をしている。
そのくせ引きつったような笑みが浮かぶ。
ボクは決してビビっているわけじゃないと全身でアピールしているのだろうが、残念ながらこれでは逆の意味にしか取れなかった。
ちょっと微妙な気分にさせてくれる王子様だが、それでもせっかく前線に立ってくださっているのだ。
無粋に揶揄することもあるまいと私は王子にもバイキルトを唱え、フォースを付与する。
「すまない。さて…せいぜいあの人に恥ずかしくない戦いでもしようか」
「あの人?王子、いい人がいるんです?」
「そうじゃないけど、尊敬する素晴らしい人物なんだ。この戦いから無事生き残れたら、エルザくん。君にも紹介しよう」
この雑談でファーリス王子の緊張は少し解けたらしい。饒舌になっていた。
とはいえ全力で死亡フラグを立ててのけるのはさすがにすごいと思ったけれど。
シルビアさんなら確実にツッコミ入れてるだろうなと内心で愛しい人を思う。
それで少しばかり口もとが緩み、自分も死地に限りなく近い戦いに緊張していたのだと悟る。
「楽しみにしております、ではお先に」
とはいえもう余裕もないので、殺人サソリに襲いかかる。
巨大な鋏を掻い潜り、フォースの一撃。
狙い目はやつらの堅い外殻のつなぎ目だ。
砂漠の殺し屋だってあくまで生物であり、生きて動かなければならない。
故にどこかは柔らかくないといけない、弱点となり得る箇所は確実に存在する。
だからそこを狙えば効率が良い。
これは少し離れたところで疲弊した騎士たちに混ざり不格好に戦うファーリス王子の受け売りだ。戦闘開始される前段階、最初に召集された際に説明された。
この時私は失礼ながら意外だなと思った。
だって以前、ベロニカちゃんから彼の人格について悪口同然に聞かされていたのだ。
だからその意外なまでのギャップに驚くばかりだ。いや会ったこと自体は初めてだけど。
あの残念王子、どういうわけか知らないけれど中々いい男になったみたいよ、っていつか教えなきゃな。
と、我ながら立派な死亡フラグを立てつつもサソリを屠っていく。
さすがは自分だ強い強いとつい自画自賛したくなる。伊達に勇者パーティーと共闘しているわけじゃない。
あ、これも死亡フラグか?
最近気軽に立てられすぎてるのよ。
「…っらあ!!!」
フォースがちょうど切れたので、火炎斬りで殺人サソリの鋏を落とす。
痛みに悶えるそいつに兵士たちが群がり、集団でトドメを刺す。
…のは最後まで見届けずに、いち早く次の魔物を狙いに走る。
「エルザ殿!」
「はい」
「魔力が枯渇しております!MPパサーをしていただいてもよろしいでしょうか」
水を差された気分だ。
っていうか私もう剣装備。
魔力を強化してくれる杖とは勝手が全く違うが、彼らは知ったこっちゃない。
それに魔法系の人間は魔力がなければ死んだも同然だ――戦略上断る理由は存在しない。
「だいじに、してくださいよ」
そう忠告して、切っ先から魔力の塊を撃ち出す。兵士は礼を言って戦場に戻っていった。
そこまではまだ良かった。
「エルザさんこちらにも!」
「魔法戦士ぃ!」
だがそれを皮切りに魔力を求める声があちらこちらで湧いた。いやお前ら魔法の聖水持ってないのかよとは思ったが、自分の基準で考えてはいけない。
そもそも自分と他人では絶対量が圧倒的に違うのだ。
というか自分、魔力の量だけは某ラムダの天才児にすら匹敵する。
ただし、それを最大限に生かすすべが他人に分け与えるくらいしかないだけで。
仕方なしに供給に走る。
神はどういう気まぐれかおそらく私にそういう役割を与え給うた。
色々と地味すぎて絶対歴史に名前を残さないやつだ。
ああでもせめて、自分のぶんのバイキルトとフォースの魔力は残さねば。
「魔法戦士!」
それすら奪われる。魔法の聖水を飲み干す。
「お、おいキミたちいい加減に…」
ここでファーリス王子の制止が入る。
「いいんだよ!魔法戦士は始めからそういう役割だろ!!」
勝つというよりもすでに生きるのに必死な男の怒鳴り声。
ちくしょう、その通りだよ。
血反吐を吐きそうになってがんばっても、しょせんこういう扱いだ。
そう考えたらホメロス様はすごいなぁ。
あの方は魔法戦士でも一番有名な部類だけど、他人に魔力を分け与える絵が一切浮かばなかった。
こんなことが考えられるあたり、まだ余裕はある。
新たな砂漠の殺し屋と対峙する。
正直この魔物は人間に比べて単純に力の差が大きい。
だから正面切ってやりあうなら、自分から仕掛けるのは得策ではない。あちらの方が手が多いぶん、対処がされやすいからだ。だからサソリの先制攻撃を誘う。
手数こそ多いがその一撃自体はや大振りで、昆虫めいた見た目通り頭もあまりよくない。
鋏が突き出される。
当然かなりの勢いであり、当たればひとたまりもないことはすでに犠牲になった兵の数を見れば明らかだ。
とはいえ、これくらいなら対処できなくもない。
タイミングを合わせ、剣で鋏を弾く。
きいんと生き物を相手にしたとは到底思えない金属めいた耳障りな音がした。
すかさずメラを唱える。
数少ない使える攻撃呪文で最も威力は低いものの、最も早く出るものだ。
当然そんな呪文で倒せるほど敵は甘くない。が、的確に撃ち抜くことで、優秀な目潰しとなる。
悲鳴をあげ、敵は仰け反った。
そのスキに。
二度飛び、火のフォースを乗せた剣で両の鋏を切り落とす。
これで無力化はほぼ完了である。
とどめは、他の者が刺せばいい。
と言っても手空きの者がいないらしく、誰も来ないが。
それでも次だ、と思ったのが油断だっただろうか。
あるいは、もっと前?
鋏がないはずのサソリしか背後にいなかったはずだ。
それにも関わらず、何者かに腹を刺し貫かれる。激痛が走り理解が追いつかないながらも振り向く。
やはりサソリだった。
ばかな、と思う。
鋏がもう再生したっていうの?
でも刺したのはたぶん、私が倒したはずの敵だった気がする。
鋏が引き抜かれる。そのまま、地面にどうと倒れこむ。
激痛は一周してすでにもうわけがわからない。腹の下がじくじくと濡れていくのさえ理解できたにも関わらず。
「ホイミ」
ああもうこれ死ぬやつだ、寒くなってきた。体温が血液と一緒に急速に流れ出ているのだろう。
…と思っていた矢先、僅かに状態が和らいだ。
ほんの僅かだ。
死ぬか死ぬかが、死ぬか生きるかくらいにはなった。
なんとかそちらに目をやる。いつか魔力を分け与えた僧侶だった。気づけば私と似たような容態になっていた彼女は、しかし私の回復を優先させた上で力なく微笑む。
「ありがとう」
口パクで礼を言う。声を出せるほどは回復してはいない。
彼女は恐らく善意で回復してくれたのだろうが、恐らく死期が延びだけだろうことは戦局を見ればわかった。
魔物はさして数を減らさないのに対し、人間側の軍勢は今や完全に崩れ、ファーリス王子も必死で策を練るが、対応できる人員がいないようだ。
私が行かなければならない。
今私はちょうど手空きだ。
と身体を起こそうとしても力が入らず、あの回復してくれた僧侶は無言で首を振った。
今はどれだけ頑張ったって芋虫のようにもがくのが精々なのだ。
しかし、このままではファーリス王子は殺され、サマディー王国にこの大量のサソリどもがなだれ込んてしまう。
そうしたらお終いだ。
国は滅びなかったとしても、非戦闘員を含めた犠牲者が今の比にならないほど現れるだろうし、とにかく国家存続に関わるほどの致命的なダメージを受けることは容易に想像できた。
それは、いけない。
絶対には避けなければいけない。
だから今動かねば。
動けよ。
動いて。
戦わないと。