ソルティコ仕込みのツッコミ修行
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利き手側から斜めに剣を振り下ろし、返す刀でバッテンを描くよう切り上げる。はやぶさが翼を翻すがごとく。
はやぶさ切りとはこうするらしい。
サマディーの城下町から徒歩10分。雲一つない晴天のもと、果てしなく広がる砂漠の片隅にていただいたのはそんなどこかふわっとした課題。
しかも驚くことに、シルビアさんもグレイグさまも、この特技についての説明はこんなものだった。
口調こそそれぞれ違ったけれど、指導内容の密度すら仲良く共通していたときている。
……ということはすなわち、彼らの師匠がこういう説明しかしてこなかったという証拠に他ならない。
というかグレイグさまって失礼だけど、バッサーーーー!!!っと斬って、ズッシャーーーー!!っと切り上げるとか、そういう説明をしてくるタイプだと思っていた。思ったよりはまともだった。
そうは言っても、あまり大差はないけれど。
あと意外なことにそういう感覚的な物言いはシルビアさんの方がむしろした。
グレイグさまと一緒にいると忘れがちになるが、この人もこと戦闘に関してはかなり脳筋(良く言えば直感的)な言い回しを用いることがしばしばある。
これでこの二人は私より頭が遥かにいいのだから、なんとも言えない気持ちになった。
「ということで。説明も一通りしたことだし、早速一度やってみましょうか!」
文字に起こして多分五十も数はない。
それをシルビアさんは説明だと言い切った。清々しいまでの笑顔で、なんともやり切った顔をしていた。
いや実演はしてくれたけどさ。
威力ばかりでなく見栄えも気にして、どの角度から見ても完璧なシルビアさんのはやぶさ斬り。
そして飽くまでも実戦を最重要視し、力強く剣を振り抜く様を見せたグレイグさまのはやぶさ斬り。
二者二様の美しさがあり、はっきり言って何の参考にもならなかった。
『もうちょっと一般人向けにレベルを下げてほしい』なんて言おうものなら、間違いなく二人の失望を買ってしまう(そもそも私を過大評価しすぎなんだよ)だろうから、ふたりともかっこいいーなんて笑顔で拍手するくらいしかできなかったけど。
「だーいじょうぶよ、エルザちゃん!あなたなら絶対できるわ!」
私が中々動かないのを、不安に思っていると判断したのか。
シルビアさんが肩を叩いて励ましてくれる。戦闘中であれば気にできないだけまだマシだ(時々戦闘後にダメ出しが飛んでくることを除けば)。
けれど平時でこのエリート二人に剣の型を見られるというのは、私にとってはかなり重い。
というか怖い。
完全に我流でしか剣を扱えない私にとって、剣技見られたくないランキング堂々の1位と2位だ。なお3位はロウさんである。
「よし、エルザ。実戦形式だ。まずは俺を敵だと思い、ぶつけてみろ!」
そしてグレイグさまが圧倒的滅茶苦茶を仰った。
そういうのって、格闘技とかを教える時に言うセリフだよね?
俺に向かって正拳突きをしてみろ、実戦形式だ。こういうのなら全然できる。
でもこれは剣技の話だ。練習で人を斬れと言うのかこの人は。
「さすがにそれは……」
「そうよ!打ち込み台がいらないとか言い出すからどうしてかとは思ってたけど。さすがに彼女には荷が重いわ!」
シルビアさんもフォローに入ってくれる。
稽古で人を斬るのはさすがに彼もおかしいと思ったらしい。だがグレイグさまは限りなくまじめな顔をしていた。
「エルザの実力を身を以って測りたいという意図がある。それに、心得がある程度の女に多少斬られたところで俺は死なん。回復呪文もある」
聞きようによっては非常に侮蔑的だが、グレイグさまにそんな悪意などあるわけもなく、ただただ真理である。
このお方を剣だけで倒せる人間がいたらぜひお目にかかりたい。勇者様でも難しいだろう。
カンダタくらいの馬鹿力があればあるいは可能なのかな、なんてふとあの人間離れして肥大化した筋肉を思い出した。
「うぅ……じゃあやります。やってやりますよ……」
デルカダールでの訓練は真剣を使うこともある、とはその昔あの国の兵士採用試験を受けた(そして落ちた)際に知ったことだ。
グレイグさまにとっては普通なのだろう。
こちらは思いっ切り気が滅入るが。
剣を抜き、かまえ、踏み込む。
はやぶさ斬りのステップは特徴的だが難しくはない。
初見にして、フェイントすら織り込める。
「やはりセンスは悪くない」
しかし文字通り付け焼き刃がグレイグさまに通用するはずもなく。
彼が一歩下がるだけで剣技は容易に空振った。…って避けるなら始めからそう言っとけよ!
「……俺を斬れる、と思えた方が気合いが入ると思ったのだが」
そういう弁明でもしなければならないような目つきになっていたのか。
突然かつてないほど察しがよくなったグレイグさまはどこか申し訳なさそうに呟いた。
というかなんだその理屈。私はバーサーカーか?
「何よそれ。…とはいえたしかに、動きは悪くなかったわね。これなら文句なく実戦投入できそうよ」
「ぶっつけ本番?」
「そうよん。エルザちゃんってそういうの強いもの」
ぱちんとウインクを見せてくれるシルビアさんは、今日も麗しい。
しかし言動にはふつうに引く。
いくら彼のことを愛してやまなくても引く。
あとこの時間は本当になんだったんだとツッコみたくなるが、さすがにそこはシルビアさん。
何も考えていないわけではなかった。
「もちろんいきなり強い敵とは戦わせないから安心して。ちょうどいい依頼 があったの。あなたにはそれをこなしてもらうわ」
そう言ってシルビアさんは羊皮紙を渡してくる。
「ゴールドサボテンの獲得」
「…ええ。サマディーの馴染みのお店がね、またゴールドサボテンを切らしちゃったからって。エルザちゃんはサボテンボールちゃんって魔物は知ってる?」
知ってる。と頷き脳内で反芻しながらビジュアルを思い返す。
巨大な丸いサボテンに手足が生えた、ファニーフェイス。
割とかわいいと言えばかわいい。
「ゴールドサボテンはその転生体ちゃんが持ってるわ」
「…そういうこと」
転生体と呼ばれる魔物。それはある種族の中からある時突然現れる変異体にして強化版。
大抵の場合、大量の種族の中に紛れ込んでいるので、積極的に出会いたければ乱獲するのが手っ取り早い。
まずはそんなに強くないサボテンボールを相手にしてはやぶさ斬りの型を身体に染み付かせる。そしてその強化版である転生体で実戦本番という流れだ。なるほど、理にかなってる……のかな?出てこなかったら辛いし気まずいよこれ。
「んっふふー。察しのいい子は大好きよん。もちろんアタシたちも手伝うけど……」
「お前は当面バフ呪文は禁止だ。……転生体が現れるまでは、はやぶさ斬りのみで戦え」
「ええ!?」
突然厳しい条件を突きつけてくるグレイグさまに素っ頓狂な声が出てしまう。それが面白かったらしく、シルビアさんがにこにこしながら頭を撫でてきた。
「そんなに驚かないで。万が一ケガしたら、アタシが治すから!グレイグじゃなくてね」
本当はめっちゃくちゃ甘えたいけど、今この方は私じゃなくてグレイグさまの味方である。
なぜならばバフ禁止に対し文句を言わなかったからだ。
……そうは言ってもちゃんとこちらもフォローしてくれるし、そんなところも好きなんだけどね。
一足先にその場を後にするグレイグさまに続くシルビアさんの背中を見送る。
私もそろそろ行くかと彼らに続こうとした時、ふとシルビアさんが言い忘れてたわ、と踵を返してこちらに向かってきた。
「これは当面グレイグに内緒してほしい話だけど」
「うん」
「間違えて覚えちゃってるのよ、カレ」
「……何を?」
シルビアさんは聞き返す声が大きいというふうに人差し指を自分の唇に当ててみせる。
「サボテンボールの転生体の名前。
以前大声で叫んじゃったせいでアタシたちはもちろん、特に女子たちがもうドン引きしちゃってね。
マルティナちゃんに至っては、丸2日ほどグレイグをガン無視してたわ」
「うわぁ……」
自分も大概いい年した大人なので、なんとなーーーくどういう間違いをグレイグさまは犯してしまったのか想像がついてしまう。
そんな金色のサボテンボールの転生体の名前。
「万が一のことがあったら、斃してでも止めてちょうだい。グレイグの名誉のためにも」
砂漠地域の暑い気候なのに、冷や汗が滲み出て、体温がプレッシャーでがくんと下がる。
シルビアさんからの真の課題はもしかしたらこれかも知れないと、思ってしまう。もちろんそれはさすがにありえないとわかっていても。
……だってそうじゃないと、稽古と言うには妙に内容が温い気がするのだもの。
「……大丈夫よん。世界樹の葉っぱは、アタシが持ってるんだから」
シルビアさんの顔はかつてないほどの真剣そのもの。サボテンボール戦では必要ないはずのレアアイテムをあえて所持しているあたり、本気も本気なのだろう。
生半可な気合いでは彼の期待に応えられそうにもないとこの時、察した。
はやぶさ切りとはこうするらしい。
サマディーの城下町から徒歩10分。雲一つない晴天のもと、果てしなく広がる砂漠の片隅にていただいたのはそんなどこかふわっとした課題。
しかも驚くことに、シルビアさんもグレイグさまも、この特技についての説明はこんなものだった。
口調こそそれぞれ違ったけれど、指導内容の密度すら仲良く共通していたときている。
……ということはすなわち、彼らの師匠がこういう説明しかしてこなかったという証拠に他ならない。
というかグレイグさまって失礼だけど、バッサーーーー!!!っと斬って、ズッシャーーーー!!っと切り上げるとか、そういう説明をしてくるタイプだと思っていた。思ったよりはまともだった。
そうは言っても、あまり大差はないけれど。
あと意外なことにそういう感覚的な物言いはシルビアさんの方がむしろした。
グレイグさまと一緒にいると忘れがちになるが、この人もこと戦闘に関してはかなり脳筋(良く言えば直感的)な言い回しを用いることがしばしばある。
これでこの二人は私より頭が遥かにいいのだから、なんとも言えない気持ちになった。
「ということで。説明も一通りしたことだし、早速一度やってみましょうか!」
文字に起こして多分五十も数はない。
それをシルビアさんは説明だと言い切った。清々しいまでの笑顔で、なんともやり切った顔をしていた。
いや実演はしてくれたけどさ。
威力ばかりでなく見栄えも気にして、どの角度から見ても完璧なシルビアさんのはやぶさ斬り。
そして飽くまでも実戦を最重要視し、力強く剣を振り抜く様を見せたグレイグさまのはやぶさ斬り。
二者二様の美しさがあり、はっきり言って何の参考にもならなかった。
『もうちょっと一般人向けにレベルを下げてほしい』なんて言おうものなら、間違いなく二人の失望を買ってしまう(そもそも私を過大評価しすぎなんだよ)だろうから、ふたりともかっこいいーなんて笑顔で拍手するくらいしかできなかったけど。
「だーいじょうぶよ、エルザちゃん!あなたなら絶対できるわ!」
私が中々動かないのを、不安に思っていると判断したのか。
シルビアさんが肩を叩いて励ましてくれる。戦闘中であれば気にできないだけまだマシだ(時々戦闘後にダメ出しが飛んでくることを除けば)。
けれど平時でこのエリート二人に剣の型を見られるというのは、私にとってはかなり重い。
というか怖い。
完全に我流でしか剣を扱えない私にとって、剣技見られたくないランキング堂々の1位と2位だ。なお3位はロウさんである。
「よし、エルザ。実戦形式だ。まずは俺を敵だと思い、ぶつけてみろ!」
そしてグレイグさまが圧倒的滅茶苦茶を仰った。
そういうのって、格闘技とかを教える時に言うセリフだよね?
俺に向かって正拳突きをしてみろ、実戦形式だ。こういうのなら全然できる。
でもこれは剣技の話だ。練習で人を斬れと言うのかこの人は。
「さすがにそれは……」
「そうよ!打ち込み台がいらないとか言い出すからどうしてかとは思ってたけど。さすがに彼女には荷が重いわ!」
シルビアさんもフォローに入ってくれる。
稽古で人を斬るのはさすがに彼もおかしいと思ったらしい。だがグレイグさまは限りなくまじめな顔をしていた。
「エルザの実力を身を以って測りたいという意図がある。それに、心得がある程度の女に多少斬られたところで俺は死なん。回復呪文もある」
聞きようによっては非常に侮蔑的だが、グレイグさまにそんな悪意などあるわけもなく、ただただ真理である。
このお方を剣だけで倒せる人間がいたらぜひお目にかかりたい。勇者様でも難しいだろう。
カンダタくらいの馬鹿力があればあるいは可能なのかな、なんてふとあの人間離れして肥大化した筋肉を思い出した。
「うぅ……じゃあやります。やってやりますよ……」
デルカダールでの訓練は真剣を使うこともある、とはその昔あの国の兵士採用試験を受けた(そして落ちた)際に知ったことだ。
グレイグさまにとっては普通なのだろう。
こちらは思いっ切り気が滅入るが。
剣を抜き、かまえ、踏み込む。
はやぶさ斬りのステップは特徴的だが難しくはない。
初見にして、フェイントすら織り込める。
「やはりセンスは悪くない」
しかし文字通り付け焼き刃がグレイグさまに通用するはずもなく。
彼が一歩下がるだけで剣技は容易に空振った。…って避けるなら始めからそう言っとけよ!
「……俺を斬れる、と思えた方が気合いが入ると思ったのだが」
そういう弁明でもしなければならないような目つきになっていたのか。
突然かつてないほど察しがよくなったグレイグさまはどこか申し訳なさそうに呟いた。
というかなんだその理屈。私はバーサーカーか?
「何よそれ。…とはいえたしかに、動きは悪くなかったわね。これなら文句なく実戦投入できそうよ」
「ぶっつけ本番?」
「そうよん。エルザちゃんってそういうの強いもの」
ぱちんとウインクを見せてくれるシルビアさんは、今日も麗しい。
しかし言動にはふつうに引く。
いくら彼のことを愛してやまなくても引く。
あとこの時間は本当になんだったんだとツッコみたくなるが、さすがにそこはシルビアさん。
何も考えていないわけではなかった。
「もちろんいきなり強い敵とは戦わせないから安心して。ちょうどいい
そう言ってシルビアさんは羊皮紙を渡してくる。
「ゴールドサボテンの獲得」
「…ええ。サマディーの馴染みのお店がね、またゴールドサボテンを切らしちゃったからって。エルザちゃんはサボテンボールちゃんって魔物は知ってる?」
知ってる。と頷き脳内で反芻しながらビジュアルを思い返す。
巨大な丸いサボテンに手足が生えた、ファニーフェイス。
割とかわいいと言えばかわいい。
「ゴールドサボテンはその転生体ちゃんが持ってるわ」
「…そういうこと」
転生体と呼ばれる魔物。それはある種族の中からある時突然現れる変異体にして強化版。
大抵の場合、大量の種族の中に紛れ込んでいるので、積極的に出会いたければ乱獲するのが手っ取り早い。
まずはそんなに強くないサボテンボールを相手にしてはやぶさ斬りの型を身体に染み付かせる。そしてその強化版である転生体で実戦本番という流れだ。なるほど、理にかなってる……のかな?出てこなかったら辛いし気まずいよこれ。
「んっふふー。察しのいい子は大好きよん。もちろんアタシたちも手伝うけど……」
「お前は当面バフ呪文は禁止だ。……転生体が現れるまでは、はやぶさ斬りのみで戦え」
「ええ!?」
突然厳しい条件を突きつけてくるグレイグさまに素っ頓狂な声が出てしまう。それが面白かったらしく、シルビアさんがにこにこしながら頭を撫でてきた。
「そんなに驚かないで。万が一ケガしたら、アタシが治すから!グレイグじゃなくてね」
本当はめっちゃくちゃ甘えたいけど、今この方は私じゃなくてグレイグさまの味方である。
なぜならばバフ禁止に対し文句を言わなかったからだ。
……そうは言ってもちゃんとこちらもフォローしてくれるし、そんなところも好きなんだけどね。
一足先にその場を後にするグレイグさまに続くシルビアさんの背中を見送る。
私もそろそろ行くかと彼らに続こうとした時、ふとシルビアさんが言い忘れてたわ、と踵を返してこちらに向かってきた。
「これは当面グレイグに内緒してほしい話だけど」
「うん」
「間違えて覚えちゃってるのよ、カレ」
「……何を?」
シルビアさんは聞き返す声が大きいというふうに人差し指を自分の唇に当ててみせる。
「サボテンボールの転生体の名前。
以前大声で叫んじゃったせいでアタシたちはもちろん、特に女子たちがもうドン引きしちゃってね。
マルティナちゃんに至っては、丸2日ほどグレイグをガン無視してたわ」
「うわぁ……」
自分も大概いい年した大人なので、なんとなーーーくどういう間違いをグレイグさまは犯してしまったのか想像がついてしまう。
そんな金色のサボテンボールの転生体の名前。
「万が一のことがあったら、斃してでも止めてちょうだい。グレイグの名誉のためにも」
砂漠地域の暑い気候なのに、冷や汗が滲み出て、体温がプレッシャーでがくんと下がる。
シルビアさんからの真の課題はもしかしたらこれかも知れないと、思ってしまう。もちろんそれはさすがにありえないとわかっていても。
……だってそうじゃないと、稽古と言うには妙に内容が温い気がするのだもの。
「……大丈夫よん。世界樹の葉っぱは、アタシが持ってるんだから」
シルビアさんの顔はかつてないほどの真剣そのもの。サボテンボール戦では必要ないはずのレアアイテムをあえて所持しているあたり、本気も本気なのだろう。
生半可な気合いでは彼の期待に応えられそうにもないとこの時、察した。
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