シルビアさんに寝起きドッキリを仕掛ける話
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そして早朝。別に悪いこともしてないのだけど、足音を立てないようにこっそりとベッドを抜ける。
まだ薄暗いけれど、身支度しているうちにもう少し太陽も昇るだろう。そんな時間ならさすがにシルビアさんもまだ寝ているはずだ。
「今回はまるで負ける気がしない」
ぼそっと呟き、洗面台に備えられた鏡を覗き込む。シルビアさんの寝顔を見たいという欲望に彩られた両目が、ギラギラと輝いていて自分でもちょっとキモいなと思った。
いや仕方ない。多分彼のそれはちいさなメダルなんかよりよっぽどレア。そりゃあ興奮もしようというものだ。
でもシルビアさんは起きるだろうから(寝起きドッキリなんだから最終的には起こすし)、最低限の身支度はしておかないとあとで怒られてしまう。
それくらいの分別はついているから、早朝の低温を極めた汲み置きの水に手を突っ込むことに躊躇いはなかった。そのまま、ばしゃばしゃと顔を洗う。
慣れない超早起きで未だに霞がかっていた意識がそれで完全に覚醒した。
マルティナさんからシルビアさんの部屋の合鍵は受け取っている。かなり悪魔的な彼女だが、味方につければこれ以上心強いことはない。
もちろんなくすわけにはいかないそれは、大事に貴重品入れのポーチにしまっていることまですでに思い出している。部屋番号を書いた白いタグのついた、ごく一般的な宿屋の鍵だ。
あとは興奮を抑えつつなるべく淡々と着替える。装備は平服で充分、武器はいらない。でもせめてちょっとでも小奇麗に。
好きな男性?女性?よくわかんないけどまあいいや。好きな人の前ではきれいでいたいと思う私はまさしく女だ。
……とここでシルビアさんもそこは同じなんじゃないかと一種の罪悪感のようなものが走るが、すぐに首を振ってなかったことにする。
ここまでマルティナさんに協力させておいて今更引き下がるなんて、女のすることではない。
未知の世界に挑む、だからこそお姫様も勇者様も賛同してくれたのだから。
とかいうが実際は好奇心を満たしたいだけだし、欲望を満たしたいだけだったのだけど。
いずれにせよ、賽は投げられたのだ。
そんな我ながら残念な方向に使命感を燃やしつつ、お化粧も終わらせる。
かなり余裕を持って起きたはずなのに、ここで意外と時間をとられてしまった。
あとは申し訳程度のハロウィン要素として、猫耳カチューシャを頭につけるだけだ。
それからいよいよ部屋を出てシルビアさんのところへ向かう。
持ち物は彼の部屋のカギのみ――だったが、思ったより廊下が暗かったので一旦戻り、備え付けのランタンを手に取る。銅製の、ちょっとかわいいデザインだ。
それから静々と慎重に歩く。都合の良いことに目的地は二部屋先という近さだった。
「シルビアさーん。起きてますかー?」
小さな声で、かなり控えめにドアをノックをする。
これで起きられては元も子もないのだけど、万が一シルビアさんがすでに起きていた場合計画はすでにご破算だ。
軽蔑されるなど更に大きな問題に発展しないためにも、あえて取るべきリスクだった。
「反応はない。突入する」
なんとなくそれっぽい台詞を吐いてみるがやっていることは完全に犯罪者のそれである。
勇者のみが持てる伝説の剣こと合鍵を使用してドアを開き、ランタンの灯を一旦消してからそっと部屋に忍び込む。
この時点で極度に緊張して、心臓もそれはもう大げさにバクバク鳴ったが、それ以上に興奮が止まらなかった。
全身の血が熱く駆け回る。まだ暗い部屋にきれいに横たわった大柄なシルエット。間違いなく、目的の男。シルビアさんはぴくりとも動かない。
完全に熟睡している。
気を良くした私は、そっとベッドに向かって歩みを進めた。几帳面なシルビアさんにしてはいささか締め方が甘いカーテンから、窓の外が少し見える。
すでに空が白み始めて光が僅かに入ってきていた。それでも相当近づかないとターゲットのすばらしいとしか予想ができない寝顔は拝めない。
遠慮はなく、でも殊更慎重に距離を詰める。もちろん忍び足で、だ。多分今ばかりは本職よりうまい気がする。
個室とは言うものの広い部屋ではない。けれど数歩の距離が異様に長く感じた。実際には一分も経っていないのだろう。きっと大袈裟だけど、時間が伸びた感覚すら覚える。
「きれい……だ」
声の大半は音にならず、ため息に近くなる。いつもきらきら輝いているシルビアさんの目は静かに伏せられていた。
口はすっと真一文字を結び、いつも元気な普段とはギャップすら感じるほどだ。
緩やかに上下する胸の上で手が組まれる様はひどく上品で、どこか童話のお姫様を思わせる――いや少なくとも身体は男性だけども。
……とここまで観察して自分の痴態というか醜態に気づく。完全に無意識に、私はシルビアさんのベッドに上がっていた。そして寝ている彼に覆い被さるようにして観察していた。
ここまで密着して起きないのもある意味すごいけれど、いやまず自分!これを素でやってること自体がキモい以上にやばい。
性犯罪者じゃないんだから!っていうかもうアウトか。自嘲しつつも、ベッドから降りることにする。
そろそろシルビアさんを起こして、ネタバラシをして謝って退散しよう。
それにしても本当にきれいな顔だ。まるでいつものようなばっちりメイクしたあとみたいにスキがない。……ヒゲとかも生えないのかな。
そうちょっと首を傾げた時だった。
がしっと何者かが手首を掴んできた。
「ちょっ……!」
誰だ、と頭が一瞬でパニックに陥る。シルビアさんは寝ているはず。だからあり得ない。――なのに一体なんでだ!?
「うあ!?」
そのまま手を引かれ、バランスを崩す。倒れ込んだところを抱きとめられたのがわかった。混乱状態でもその無駄な安心感を私が間違えるはずがない。
「シルビア、さん……!?」
もしかして先に起きちゃったのか。
そう思った私を出迎えたのは、寝惚けてとろりとした目つきじゃなくて、いつも通りの屈託のない笑顔と、更なる衝撃。
「うふふ。本当に来てくれたわね、アタシのかわいいトリート」
いわゆる暗黒微笑?いやいやそんな生易しいものじゃない。普段と相違ない優しくてこちらも元気が貰えるようなとってもステキな表情。
……でもなぜか、心臓がきゅうっと縮み上がり体温は三度くらいは下がった心持ちさえする。
まるでザキを食らった時みたいだ。ああいや、私にはほぼ効かないけどあれ。
「マルティナちゃんの言うとおりだったわん」
「起きて……たの……?」
頭がまともに働かなさすぎて無意味な質問をしてしまった。マルティナさんの裏切りの方が重要な話題のはずなのに。
シルビアさんは私の手首から手を離し、両腕できゅうっと甘々に抱きしめてくる。ものすごくはっきりとした意思を持って。それがすべての答えだった。
「じゃあ、その、顔も……」
今はほぼシルビアさんの胸と密着しているせいで見ることができないけれど、まるでスキのなかったあの美しい寝顔。
まさかとは思うけれど、その答えは簡単に予想がついたし、シルビアさんも予想通りの答えを寄越した。
「もちろんもうバッチリメイク済みよん♥だってエルザちゃんが来るってわかっているのだもの。
きれいな姿で出迎えたいのが、オンナってものじゃない!」
まるで確かめてみなさいと言わんばかりに腕の力が緩んだ。どこか絶望感を味わいながら、少し身を起こす。
きらきらといつの間にかすっかり昇った朝日が射し込む。少しだけ眩しそうに目を細めるシルビアさんのアイシャドウのラメが、反射して光っている。
「うそ……失敗…」
「アタシを出し抜こうなんて、10年早いわ。うふふ」
私の首の後ろで手を組み、妖艶にシルビアさんは微笑む。こんなことをしでかした挙げ句失敗した末路なんて、そのままキスされたことで全部察することができる。
自分の運の悪さと脇の甘さに心底呆れた。そこにもはやトラウマになるほど甘いキスが添えられる。
「ね、エルザちゃん。大体の事情はマルティナちゃんからもう聞いているけれど、アタシひとつだけわからないことがあるの」
「……何?」
「その猫耳よ。なあにそれ」
「………………………トリック・オア・トリート」
「ならやっぱり断然トリートね。ふふ、かわいいオプションだから、全部許してあげる!」
やったー。空気にそんな言葉が儚く混じり消え入った。もちろん許してあげるなんて言われたものの、シルビアさんにとってはそれはそれこれはこれ。
人の部屋に夜這い同然で忍び込んだことのおしおき及びトリートは、別腹としてきっちり回収されてしまうことになる。
もちろんその後は文字通り朝ご飯を食べて新たな旅に出発するため、シルビアさんはそれはもうご機嫌さんでリベホイムを唱えてくれた。
徐々に回復する体力が充填されるまで裸のままベッドに身を横たえた私は、ただただ思いを募らせる。
このままじゃ終わらせない。絶対に寝起きのお顔を見てやるんだから。
人は目的への壁が高いほど燃え上がる愚かな生き物なのである。
☆★☆
その後。
マルティナさんに今回の裏切りの件を追求しなければならなかった。一行とぞろぞろ歩く中、彼女の隣に並んで歩く。珍しく少し気まずそうだった。
「ごめん。シルビアったら、いつの間にか計画のことを知ってたの。……一体どこから洩れたのかしら」
「本当に?」
「本当。むしろエルザは私に感謝してほしいくらいよ。ちゃんと悪いことにならないように、それはもう必死でフォローしたもの」
「マルティナさん……!」
マルティナさんはこれで私よりずっとオトナであり、生まれながらにして人の上に立つお姫様だ。
だから誰かが何かをやらかした時の第三者としてのフォローは、このメンバーの中でも実は群を抜いてうまい。どんなことを彼女は言ったのだろう。期待して、続きを促した。
「『あの子ったら早朝ハロウィンプレイがしたいみたい』なんて言わなかったら、一体どうなっていたことか」
「マルティナさん?は?」
たしかにこの人は、前日ハロウィンの建前として猫耳でもつけていけ、とアドバイスをしてくれた。
なるほどただの辻褄合わせだったか……とはいえフォローではあったことはなんだかんだで間違いない。なのに収まらないこの怒りはなんだろう。
本当に、行き場が、ない。
まだ薄暗いけれど、身支度しているうちにもう少し太陽も昇るだろう。そんな時間ならさすがにシルビアさんもまだ寝ているはずだ。
「今回はまるで負ける気がしない」
ぼそっと呟き、洗面台に備えられた鏡を覗き込む。シルビアさんの寝顔を見たいという欲望に彩られた両目が、ギラギラと輝いていて自分でもちょっとキモいなと思った。
いや仕方ない。多分彼のそれはちいさなメダルなんかよりよっぽどレア。そりゃあ興奮もしようというものだ。
でもシルビアさんは起きるだろうから(寝起きドッキリなんだから最終的には起こすし)、最低限の身支度はしておかないとあとで怒られてしまう。
それくらいの分別はついているから、早朝の低温を極めた汲み置きの水に手を突っ込むことに躊躇いはなかった。そのまま、ばしゃばしゃと顔を洗う。
慣れない超早起きで未だに霞がかっていた意識がそれで完全に覚醒した。
マルティナさんからシルビアさんの部屋の合鍵は受け取っている。かなり悪魔的な彼女だが、味方につければこれ以上心強いことはない。
もちろんなくすわけにはいかないそれは、大事に貴重品入れのポーチにしまっていることまですでに思い出している。部屋番号を書いた白いタグのついた、ごく一般的な宿屋の鍵だ。
あとは興奮を抑えつつなるべく淡々と着替える。装備は平服で充分、武器はいらない。でもせめてちょっとでも小奇麗に。
好きな男性?女性?よくわかんないけどまあいいや。好きな人の前ではきれいでいたいと思う私はまさしく女だ。
……とここでシルビアさんもそこは同じなんじゃないかと一種の罪悪感のようなものが走るが、すぐに首を振ってなかったことにする。
ここまでマルティナさんに協力させておいて今更引き下がるなんて、女のすることではない。
未知の世界に挑む、だからこそお姫様も勇者様も賛同してくれたのだから。
とかいうが実際は好奇心を満たしたいだけだし、欲望を満たしたいだけだったのだけど。
いずれにせよ、賽は投げられたのだ。
そんな我ながら残念な方向に使命感を燃やしつつ、お化粧も終わらせる。
かなり余裕を持って起きたはずなのに、ここで意外と時間をとられてしまった。
あとは申し訳程度のハロウィン要素として、猫耳カチューシャを頭につけるだけだ。
それからいよいよ部屋を出てシルビアさんのところへ向かう。
持ち物は彼の部屋のカギのみ――だったが、思ったより廊下が暗かったので一旦戻り、備え付けのランタンを手に取る。銅製の、ちょっとかわいいデザインだ。
それから静々と慎重に歩く。都合の良いことに目的地は二部屋先という近さだった。
「シルビアさーん。起きてますかー?」
小さな声で、かなり控えめにドアをノックをする。
これで起きられては元も子もないのだけど、万が一シルビアさんがすでに起きていた場合計画はすでにご破算だ。
軽蔑されるなど更に大きな問題に発展しないためにも、あえて取るべきリスクだった。
「反応はない。突入する」
なんとなくそれっぽい台詞を吐いてみるがやっていることは完全に犯罪者のそれである。
勇者のみが持てる伝説の剣こと合鍵を使用してドアを開き、ランタンの灯を一旦消してからそっと部屋に忍び込む。
この時点で極度に緊張して、心臓もそれはもう大げさにバクバク鳴ったが、それ以上に興奮が止まらなかった。
全身の血が熱く駆け回る。まだ暗い部屋にきれいに横たわった大柄なシルエット。間違いなく、目的の男。シルビアさんはぴくりとも動かない。
完全に熟睡している。
気を良くした私は、そっとベッドに向かって歩みを進めた。几帳面なシルビアさんにしてはいささか締め方が甘いカーテンから、窓の外が少し見える。
すでに空が白み始めて光が僅かに入ってきていた。それでも相当近づかないとターゲットのすばらしいとしか予想ができない寝顔は拝めない。
遠慮はなく、でも殊更慎重に距離を詰める。もちろん忍び足で、だ。多分今ばかりは本職よりうまい気がする。
個室とは言うものの広い部屋ではない。けれど数歩の距離が異様に長く感じた。実際には一分も経っていないのだろう。きっと大袈裟だけど、時間が伸びた感覚すら覚える。
「きれい……だ」
声の大半は音にならず、ため息に近くなる。いつもきらきら輝いているシルビアさんの目は静かに伏せられていた。
口はすっと真一文字を結び、いつも元気な普段とはギャップすら感じるほどだ。
緩やかに上下する胸の上で手が組まれる様はひどく上品で、どこか童話のお姫様を思わせる――いや少なくとも身体は男性だけども。
……とここまで観察して自分の痴態というか醜態に気づく。完全に無意識に、私はシルビアさんのベッドに上がっていた。そして寝ている彼に覆い被さるようにして観察していた。
ここまで密着して起きないのもある意味すごいけれど、いやまず自分!これを素でやってること自体がキモい以上にやばい。
性犯罪者じゃないんだから!っていうかもうアウトか。自嘲しつつも、ベッドから降りることにする。
そろそろシルビアさんを起こして、ネタバラシをして謝って退散しよう。
それにしても本当にきれいな顔だ。まるでいつものようなばっちりメイクしたあとみたいにスキがない。……ヒゲとかも生えないのかな。
そうちょっと首を傾げた時だった。
がしっと何者かが手首を掴んできた。
「ちょっ……!」
誰だ、と頭が一瞬でパニックに陥る。シルビアさんは寝ているはず。だからあり得ない。――なのに一体なんでだ!?
「うあ!?」
そのまま手を引かれ、バランスを崩す。倒れ込んだところを抱きとめられたのがわかった。混乱状態でもその無駄な安心感を私が間違えるはずがない。
「シルビア、さん……!?」
もしかして先に起きちゃったのか。
そう思った私を出迎えたのは、寝惚けてとろりとした目つきじゃなくて、いつも通りの屈託のない笑顔と、更なる衝撃。
「うふふ。本当に来てくれたわね、アタシのかわいいトリート」
いわゆる暗黒微笑?いやいやそんな生易しいものじゃない。普段と相違ない優しくてこちらも元気が貰えるようなとってもステキな表情。
……でもなぜか、心臓がきゅうっと縮み上がり体温は三度くらいは下がった心持ちさえする。
まるでザキを食らった時みたいだ。ああいや、私にはほぼ効かないけどあれ。
「マルティナちゃんの言うとおりだったわん」
「起きて……たの……?」
頭がまともに働かなさすぎて無意味な質問をしてしまった。マルティナさんの裏切りの方が重要な話題のはずなのに。
シルビアさんは私の手首から手を離し、両腕できゅうっと甘々に抱きしめてくる。ものすごくはっきりとした意思を持って。それがすべての答えだった。
「じゃあ、その、顔も……」
今はほぼシルビアさんの胸と密着しているせいで見ることができないけれど、まるでスキのなかったあの美しい寝顔。
まさかとは思うけれど、その答えは簡単に予想がついたし、シルビアさんも予想通りの答えを寄越した。
「もちろんもうバッチリメイク済みよん♥だってエルザちゃんが来るってわかっているのだもの。
きれいな姿で出迎えたいのが、オンナってものじゃない!」
まるで確かめてみなさいと言わんばかりに腕の力が緩んだ。どこか絶望感を味わいながら、少し身を起こす。
きらきらといつの間にかすっかり昇った朝日が射し込む。少しだけ眩しそうに目を細めるシルビアさんのアイシャドウのラメが、反射して光っている。
「うそ……失敗…」
「アタシを出し抜こうなんて、10年早いわ。うふふ」
私の首の後ろで手を組み、妖艶にシルビアさんは微笑む。こんなことをしでかした挙げ句失敗した末路なんて、そのままキスされたことで全部察することができる。
自分の運の悪さと脇の甘さに心底呆れた。そこにもはやトラウマになるほど甘いキスが添えられる。
「ね、エルザちゃん。大体の事情はマルティナちゃんからもう聞いているけれど、アタシひとつだけわからないことがあるの」
「……何?」
「その猫耳よ。なあにそれ」
「………………………トリック・オア・トリート」
「ならやっぱり断然トリートね。ふふ、かわいいオプションだから、全部許してあげる!」
やったー。空気にそんな言葉が儚く混じり消え入った。もちろん許してあげるなんて言われたものの、シルビアさんにとってはそれはそれこれはこれ。
人の部屋に夜這い同然で忍び込んだことのおしおき及びトリートは、別腹としてきっちり回収されてしまうことになる。
もちろんその後は文字通り朝ご飯を食べて新たな旅に出発するため、シルビアさんはそれはもうご機嫌さんでリベホイムを唱えてくれた。
徐々に回復する体力が充填されるまで裸のままベッドに身を横たえた私は、ただただ思いを募らせる。
このままじゃ終わらせない。絶対に寝起きのお顔を見てやるんだから。
人は目的への壁が高いほど燃え上がる愚かな生き物なのである。
☆★☆
その後。
マルティナさんに今回の裏切りの件を追求しなければならなかった。一行とぞろぞろ歩く中、彼女の隣に並んで歩く。珍しく少し気まずそうだった。
「ごめん。シルビアったら、いつの間にか計画のことを知ってたの。……一体どこから洩れたのかしら」
「本当に?」
「本当。むしろエルザは私に感謝してほしいくらいよ。ちゃんと悪いことにならないように、それはもう必死でフォローしたもの」
「マルティナさん……!」
マルティナさんはこれで私よりずっとオトナであり、生まれながらにして人の上に立つお姫様だ。
だから誰かが何かをやらかした時の第三者としてのフォローは、このメンバーの中でも実は群を抜いてうまい。どんなことを彼女は言ったのだろう。期待して、続きを促した。
「『あの子ったら早朝ハロウィンプレイがしたいみたい』なんて言わなかったら、一体どうなっていたことか」
「マルティナさん?は?」
たしかにこの人は、前日ハロウィンの建前として猫耳でもつけていけ、とアドバイスをしてくれた。
なるほどただの辻褄合わせだったか……とはいえフォローではあったことはなんだかんだで間違いない。なのに収まらないこの怒りはなんだろう。
本当に、行き場が、ない。