だいなし
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自問自答の果て、劣等感に苛まれるのは嫌だった。
その一心の矢先、折良くルーラ屋に遭遇したので、割高だが利用することにする。
その先は歓楽街グロッタ。個人的に世界で二番目に好きな街。
恋人が闘ってるというのにお酒を飲んで嫌なことを忘れようなどと、クズな発想もいいところだけれど、今回ばかりは許してほしい。
冒涜と言われても反論できない。とはいえこうでもしなければ泣いてしまいそうだった。
地下に誂えられたギラギラした街並みを抜け、今やお馴染みとなったカジノに入る。
照明が増して更にギラギラしたスロットコーナーを通り過ぎ、二階にあるバーが私の得意先だ。
ここは元仮面の闘士たちも利用する。実は彼らのファンをしていた私にとっては、天国のような場所。
特にサイデリアちゃんあたりは目の保養だ。……なんてシルビアさんに絶対知られてはいけない煩悩。
心の中で頭を振って振り払い、時間帯かまだ空いているカウンターについてマスターに注文する。
いつもの、と思ったけれど、やっぱり今日はマスターのおすすめで。
はいよとほどなくしてやってきたのは、ミントが力強く生い茂ったモヒートコーヒーだった。
おおう…。と思わず声が出る。しばらく葉っぱの量にしばらく圧倒されていると、隣に誰か座る。
グロッタで私の隣に座る人間は滅多にいない。単純にここにはそこまで仲のいい友だちがいないからだが。
まだ席は空いているというのに一体誰だと横目で窺って、はっとした。
「うわっ。ハンサム」
「本当に失礼な女だなお前は」
眉間に深い皺を寄せ、マスク・ザ・ハンサムは私の言動に怒る。
それがわかったのは、あのいつもつけている仮面がないからだ。
……といっても、以前決闘した時に私が割ってしまったのだけど。
その疑念を察したのか、ハンサムは私が質問する前に語りだす。
「ああ。仮面な。あれはお前ごときを相手する際には必要ないと気づいた」
ちょっと何を言ってるのかよくわからない。
「……別に弁償しろとは言ってない」
「今更だけど、こないだはごめん……」
「謝れとも言ってない」
それに、と付け足す。以前敵意をもってにらんできたきつい目じりが、うっとりと緩んだ。
「こちらとしては、逆に礼を言いたいくらいだ。シルビアさんから仮面を貰ってしまったからな」
「それはよかったね……」
賞賛したつもりだったのだけど、ハンサムの目に敵意が戻る。
もしかして羨ましがってほしかったのだろうか……。
「というか、お前はなんでここにいるんだ?昼間から酒とはずいぶんなご身分じゃないか」
「さすが華麗な闘士マスク・ザ・ハンサムはブーメランを投げるのがお上手ですねー」
「ボクはノンアルだ」
と意味不明に勝ち誇られるとほとんど同時、マスターがマグカップを置く。
クリーミーな色合いからしてココアのようだった。
ここは意外といろんなメニューがあるなと思う。
すでに氷が溶け始めているモヒートコーヒーにようやく口をつける。
アイスコーヒーの独特の苦みと後味が、ミントの爽やかな風味で発散されるのでなく、上書きされる。
そして後味にアルコールが舌や喉を刺激していく。
なんともいえない美味しさだった。
「で、だ。お前何しに来た?」
えっ、と聞き返す。ハンサムは意図的かは知らないけれど、マグカップで口元を隠す。
目を逸らす。微かに頬が赤いのは、ココアの熱気のせいだろうか。
「なんでそんなこと聞くの?」
ことん、とハンサムはマグカップを置く。やっぱり話しかけるんじゃなかったと小さく愚痴をこぼす。
強く目を閉じ、眉間を抑えて数秒。
開いたスカイブルーに見られたのは憎悪じゃなくて、ただこちらを案じるものだった。
「なんだか違和感を覚えた。間違いなく、いつものお前じゃないと確信したんだ」
「いつも……っていうほど関わりないよね?」
「……それもそう、なんだが」
まずそうにハンサムは口元を押さえる。しかし次には、確信めいた口調に変化していた。
「ボクもそう思う…からこれは多分、レンジャーとしての本能だ。
弱った動物は、天敵にそうだと知られてはたまらないので隠す。
でなければ、狙ってくださいと言っているようなものだからな。
だがボクくらいになると、なんとなくわかるんだよ。そういう観察眼が、生まれながらに備わっている」
誇り高いというか、少し得意気にするハンサムを、思わず凝視してしまう。
すぐに居心地悪そうに文句を付け足した。
「そんなに見るな。気持ち悪い」
ごめん、と呟くように謝る。ハンサムはまだ居心地悪そうに、右肩をぐりんと小さく回した。
「ま、ここまでは飽くまでも前置きだ。…話してみろよ。話せるなら、だが」
ギロリと睨んできたはずのハンサムの視線が、しかし妙に優しく感じる。実際、睨まれてなんかいなかった。
その代わり、なぜか困惑した眼差しだ。
なんでだと首を傾げるより先に、膝に水滴が落ちた。
「なんでだ。泣くようなこと、ボクが言ったか?」
水滴は少し温度が残っているが、それもすぐに冷える。
何度も落ちてようやく、あ、私って泣いているのだなと気づいた。
目頭に触れるも、すでにべちゃべちゃだ。
「え、待って、なんで……?」
自分でもわからない感情の奔流が止まらない。
必死で服の袖で涙を拭おうとするも、いかんせん溢れ出る方が多すぎる。
「泣き止む……のは無理か」
ハンサムは独り言のように呟く。
「周囲の目が痛い。場所を移すぞ」
「えっ…」
不意に手首を掴まれて、咄嗟に反応することができなかった。
「……マスター。悪いが、こいつのぶんもつけておいてくれ」
「はいよ、この色男」
高齢に差し掛かろうかというマスターは、グラスを磨きながら実に老獪な笑みを浮かべた。
その一心の矢先、折良くルーラ屋に遭遇したので、割高だが利用することにする。
その先は歓楽街グロッタ。個人的に世界で二番目に好きな街。
恋人が闘ってるというのにお酒を飲んで嫌なことを忘れようなどと、クズな発想もいいところだけれど、今回ばかりは許してほしい。
冒涜と言われても反論できない。とはいえこうでもしなければ泣いてしまいそうだった。
地下に誂えられたギラギラした街並みを抜け、今やお馴染みとなったカジノに入る。
照明が増して更にギラギラしたスロットコーナーを通り過ぎ、二階にあるバーが私の得意先だ。
ここは元仮面の闘士たちも利用する。実は彼らのファンをしていた私にとっては、天国のような場所。
特にサイデリアちゃんあたりは目の保養だ。……なんてシルビアさんに絶対知られてはいけない煩悩。
心の中で頭を振って振り払い、時間帯かまだ空いているカウンターについてマスターに注文する。
いつもの、と思ったけれど、やっぱり今日はマスターのおすすめで。
はいよとほどなくしてやってきたのは、ミントが力強く生い茂ったモヒートコーヒーだった。
おおう…。と思わず声が出る。しばらく葉っぱの量にしばらく圧倒されていると、隣に誰か座る。
グロッタで私の隣に座る人間は滅多にいない。単純にここにはそこまで仲のいい友だちがいないからだが。
まだ席は空いているというのに一体誰だと横目で窺って、はっとした。
「うわっ。ハンサム」
「本当に失礼な女だなお前は」
眉間に深い皺を寄せ、マスク・ザ・ハンサムは私の言動に怒る。
それがわかったのは、あのいつもつけている仮面がないからだ。
……といっても、以前決闘した時に私が割ってしまったのだけど。
その疑念を察したのか、ハンサムは私が質問する前に語りだす。
「ああ。仮面な。あれはお前ごときを相手する際には必要ないと気づいた」
ちょっと何を言ってるのかよくわからない。
「……別に弁償しろとは言ってない」
「今更だけど、こないだはごめん……」
「謝れとも言ってない」
それに、と付け足す。以前敵意をもってにらんできたきつい目じりが、うっとりと緩んだ。
「こちらとしては、逆に礼を言いたいくらいだ。シルビアさんから仮面を貰ってしまったからな」
「それはよかったね……」
賞賛したつもりだったのだけど、ハンサムの目に敵意が戻る。
もしかして羨ましがってほしかったのだろうか……。
「というか、お前はなんでここにいるんだ?昼間から酒とはずいぶんなご身分じゃないか」
「さすが華麗な闘士マスク・ザ・ハンサムはブーメランを投げるのがお上手ですねー」
「ボクはノンアルだ」
と意味不明に勝ち誇られるとほとんど同時、マスターがマグカップを置く。
クリーミーな色合いからしてココアのようだった。
ここは意外といろんなメニューがあるなと思う。
すでに氷が溶け始めているモヒートコーヒーにようやく口をつける。
アイスコーヒーの独特の苦みと後味が、ミントの爽やかな風味で発散されるのでなく、上書きされる。
そして後味にアルコールが舌や喉を刺激していく。
なんともいえない美味しさだった。
「で、だ。お前何しに来た?」
えっ、と聞き返す。ハンサムは意図的かは知らないけれど、マグカップで口元を隠す。
目を逸らす。微かに頬が赤いのは、ココアの熱気のせいだろうか。
「なんでそんなこと聞くの?」
ことん、とハンサムはマグカップを置く。やっぱり話しかけるんじゃなかったと小さく愚痴をこぼす。
強く目を閉じ、眉間を抑えて数秒。
開いたスカイブルーに見られたのは憎悪じゃなくて、ただこちらを案じるものだった。
「なんだか違和感を覚えた。間違いなく、いつものお前じゃないと確信したんだ」
「いつも……っていうほど関わりないよね?」
「……それもそう、なんだが」
まずそうにハンサムは口元を押さえる。しかし次には、確信めいた口調に変化していた。
「ボクもそう思う…からこれは多分、レンジャーとしての本能だ。
弱った動物は、天敵にそうだと知られてはたまらないので隠す。
でなければ、狙ってくださいと言っているようなものだからな。
だがボクくらいになると、なんとなくわかるんだよ。そういう観察眼が、生まれながらに備わっている」
誇り高いというか、少し得意気にするハンサムを、思わず凝視してしまう。
すぐに居心地悪そうに文句を付け足した。
「そんなに見るな。気持ち悪い」
ごめん、と呟くように謝る。ハンサムはまだ居心地悪そうに、右肩をぐりんと小さく回した。
「ま、ここまでは飽くまでも前置きだ。…話してみろよ。話せるなら、だが」
ギロリと睨んできたはずのハンサムの視線が、しかし妙に優しく感じる。実際、睨まれてなんかいなかった。
その代わり、なぜか困惑した眼差しだ。
なんでだと首を傾げるより先に、膝に水滴が落ちた。
「なんでだ。泣くようなこと、ボクが言ったか?」
水滴は少し温度が残っているが、それもすぐに冷える。
何度も落ちてようやく、あ、私って泣いているのだなと気づいた。
目頭に触れるも、すでにべちゃべちゃだ。
「え、待って、なんで……?」
自分でもわからない感情の奔流が止まらない。
必死で服の袖で涙を拭おうとするも、いかんせん溢れ出る方が多すぎる。
「泣き止む……のは無理か」
ハンサムは独り言のように呟く。
「周囲の目が痛い。場所を移すぞ」
「えっ…」
不意に手首を掴まれて、咄嗟に反応することができなかった。
「……マスター。悪いが、こいつのぶんもつけておいてくれ」
「はいよ、この色男」
高齢に差し掛かろうかというマスターは、グラスを磨きながら実に老獪な笑みを浮かべた。