プリンシプル
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「こっちもじっとしてるわけにはいかないかな。ね、カミュ…くん?」
旅慣れた勇者様たちの中でも一番サバイバル適性を持つ彼のこと。
無傷とまでは言わずともへっちゃらだろうというのは、どうやらこちらの思い込みだったらしい。
「…痛ぇ。あー、クソ、捻った、情けねえ」
カミュくんは小刻みに毒づきながらようやくといった様子で身体を反転させ、岩にもたれ掛かって座り込む。
「うそ」
「笑えることにマジだ。折れてはないだろうが、少し休ませてくれ」
ニヒルな笑みを浮かべていかにも余裕を気取っているが、彼が捻ったという足の向きはどう見てもおかしかった。
「ごめん…、私を庇ったせいでしょそれ」
「いーって。お前の謝ることじゃねえだろ。そもそもあのチビちゃんが注意力散漫だったんだ」
そうやって強がるカミュくんを見ていられず、視線を逸らす。
どうして男の子というのはこんななのだろうか。
強がっても仕方ないじゃないか月並みのことを考えつつ、責められなくてほっとしている自分に嫌悪感を覚えた。
その罪滅ぼしではないけれど、と。
道具袋からアモールの水を取り出す。
「飲んで。気休めくらいにはなるでしょ」
「…良いのか?カレシ以外の男に優しくしても」
「相変わらず捻くれてるね。こっちはいらない怪我させて引け目感じてんのに」
カミュくんの眼前にビンを突き出しながら続ける。
ほとんど彼の高い鼻にでもぶつけそうな間合いだ。
「ていうかカミュくんの方がよく知ってるでしょ。
シルビアさんはそんな器小さくないし、むしろここで助けないことの方があの人的にはダメだって」
「…違いねえ」
カミュくんは目をおかしそうに細め、ようやくアモール水を受け取ってくれる。
瓶の口を開け、一気に飲む。…案の定傷が癒えた様子はなかった。
「痛みはそれなりに引いた。悪いな……」
「ううん。…足、はやっぱりセーニャさんかロウさんじゃないと無理かな」
「みたいだ。ま、向こうから来てくれるそうだしのんびり待つしかねえよ」
痛みが引いたというのは本当らしい。
言動に関してだけはすっかりいつもの調子を取り戻したカミュくんは手を後ろで組んで枕にし、すでにくつろぎ始めていた。
私も近くの手ごろな場所に座ろうとして…動きが止まる。
「そうはいかないかもだけどね…」
ずしんずしんと、その重苦しい足音をいっそ幼稚で愛らしい擬音で形容したくなるのは、間違いなく現実を認めたくないからだ。
一歩ごとに地響きを起こしながら、1つ目の巨人・サイクロプスが私たちの目の前をゆっくりと歩いて行く。
息を潜め、気配を殺し、様子を伺う。それが幸いしたのか、こちらが小さすぎるせいで気づかなかったようだ。
あるいは気づいていて興味がなかったようだが、それでもそいつが過ぎ去っていくまでは正直生きた心地はしなかった。
「…勝てない相手じゃない。万全ならな」
「ほんとそうですね!もうやだみんな早く迎えに来てー!」
「まったくだ。…つーか」
なぜか驚かれた。
「お前でも弱音って吐くんだな」
「…カミュくんには言われたくないかも。さっきマルティナさんに対してすごい強がってたでしょ。もしかして」
「いやなんかあいつだけには絶対弱味は見せたくねえんだ絶対な」
恋愛脳かと思いきや妙に早口で、でも果てしなく真顔でカミュくんは反論した。
無駄に納得した。あの悪魔なら何を言ってくるかわからない。…それを差し引いても。
「それにエルザ、お前ならわかるだろ?マルティナはともかくとしても、だ。
マジで悪いヤツは弱ったヤツから狙ってくもんだって」
「わかる。こういう生き方って、もうなんか染み付いちゃってるよね」
苦笑。
カミュくんと私には物心ついた時には親なる存在がなかったという共通点がある。
悪い大人には苦労させられてきたということがお互いに察しあえる程度には、ハードな人生を送ってきたというわけだ。
「いや、お前わかってねえだろ。見る度に腑抜けた顔になってんだよ。どんだけあのおっさんに絆されてんの」
「ん?聞きたい?それこそマルティナさんにもドン引きされたレベルだけど」
「よしわかったそれだけ聞けりゃ充分だ」
可能な限り気を遣った言い回しを選ばれた気がする。
シルビアさんとのあれこれは実際とても人に言える内容ではないことは自覚はあるが、とはいえさすがにちょっとだけ傷ついた。
と思いつつも私は少し話題を遡り、指摘をする。
「でも会う度に腑抜けたって言うならカミュくんも大概じゃない?
それこそ勇者様や双子の影響すごいんだろうなって思う」
「…そう見えるか?」
肯定すると、カミュくんは白々しくため息を吐いた。
「…ったく、組む相手間違えたぜ」
「にやけてるよ」
「うるせえ」
彼はどこか嬉しそうな声で毒づく。
本人はきっと認めないだろうけど、元々きれいな顔立ちなのもあって優しげに見える。
いや実際この人はお人好しと呼んで差し支えないくらいなのだけど、多分自分をジャックナイフくらいには思っている。気がする。
なんだかかわいいな、なんてそれこそ親の気分。
「…何ニヤニヤしてんだよ気持ちわりい」
「いやなんか、将来子ども産んだら男の子ならカミュくんみたいに育ってほしいかなって」
強かで抜け目がなく、けれども決して冷たくない人間。
普通の人より少しだけ世間の厳しさを知っている私が、生き方として理想とする一端がカミュくんには確かにあった。
「そこはシルビアじゃねーのか」
「あの人は色々と濃すぎる」
「それはすげえわかる」
カミュくんは深く頷く。決してシルビアさんの性格は悪いとは思わない。
いやむしろ彼に人間性で勝る人物がいればぜひお目にかかりたいくらいだ。
それくらい、そしてすでに偉大と言っても良いのがシルビアこと本名ゴリアテ。
…しかしそれ以上の個性の塊。いつか誰かに渋滞を起こしていると称されたまでに。
いやほんとこの世に一人いれば十二分の逸材なのである。
「女の子なら…そうだな、カミュくんには妹いるんだっけ」
「…話したことあったか。マヤって言うんだが――あいつはやめとけすげえ性格悪い」
「カミュくんの妹なのに?」
「あー、いやなんていうか、甘やかしすぎた」
首を振ってカミュくんはまさに苦笑い。
しかしここでも言葉ほどニュアンスに棘はなく、むしろ妹がかわいくてたまらないといった様子だった。
「えー。でもマヤちゃんは、カミュくんがお兄ちゃんで幸せだと思うよ」
そういうとカミュくんは確かに微笑んだ。
…と思ったのだが、次の瞬間には真顔に戻っていた。
何か機嫌を損ねることでも言っただろうか。
などと我が身を振り返るより先に、その原因は判明する。
旅慣れた勇者様たちの中でも一番サバイバル適性を持つ彼のこと。
無傷とまでは言わずともへっちゃらだろうというのは、どうやらこちらの思い込みだったらしい。
「…痛ぇ。あー、クソ、捻った、情けねえ」
カミュくんは小刻みに毒づきながらようやくといった様子で身体を反転させ、岩にもたれ掛かって座り込む。
「うそ」
「笑えることにマジだ。折れてはないだろうが、少し休ませてくれ」
ニヒルな笑みを浮かべていかにも余裕を気取っているが、彼が捻ったという足の向きはどう見てもおかしかった。
「ごめん…、私を庇ったせいでしょそれ」
「いーって。お前の謝ることじゃねえだろ。そもそもあのチビちゃんが注意力散漫だったんだ」
そうやって強がるカミュくんを見ていられず、視線を逸らす。
どうして男の子というのはこんななのだろうか。
強がっても仕方ないじゃないか月並みのことを考えつつ、責められなくてほっとしている自分に嫌悪感を覚えた。
その罪滅ぼしではないけれど、と。
道具袋からアモールの水を取り出す。
「飲んで。気休めくらいにはなるでしょ」
「…良いのか?カレシ以外の男に優しくしても」
「相変わらず捻くれてるね。こっちはいらない怪我させて引け目感じてんのに」
カミュくんの眼前にビンを突き出しながら続ける。
ほとんど彼の高い鼻にでもぶつけそうな間合いだ。
「ていうかカミュくんの方がよく知ってるでしょ。
シルビアさんはそんな器小さくないし、むしろここで助けないことの方があの人的にはダメだって」
「…違いねえ」
カミュくんは目をおかしそうに細め、ようやくアモール水を受け取ってくれる。
瓶の口を開け、一気に飲む。…案の定傷が癒えた様子はなかった。
「痛みはそれなりに引いた。悪いな……」
「ううん。…足、はやっぱりセーニャさんかロウさんじゃないと無理かな」
「みたいだ。ま、向こうから来てくれるそうだしのんびり待つしかねえよ」
痛みが引いたというのは本当らしい。
言動に関してだけはすっかりいつもの調子を取り戻したカミュくんは手を後ろで組んで枕にし、すでにくつろぎ始めていた。
私も近くの手ごろな場所に座ろうとして…動きが止まる。
「そうはいかないかもだけどね…」
ずしんずしんと、その重苦しい足音をいっそ幼稚で愛らしい擬音で形容したくなるのは、間違いなく現実を認めたくないからだ。
一歩ごとに地響きを起こしながら、1つ目の巨人・サイクロプスが私たちの目の前をゆっくりと歩いて行く。
息を潜め、気配を殺し、様子を伺う。それが幸いしたのか、こちらが小さすぎるせいで気づかなかったようだ。
あるいは気づいていて興味がなかったようだが、それでもそいつが過ぎ去っていくまでは正直生きた心地はしなかった。
「…勝てない相手じゃない。万全ならな」
「ほんとそうですね!もうやだみんな早く迎えに来てー!」
「まったくだ。…つーか」
なぜか驚かれた。
「お前でも弱音って吐くんだな」
「…カミュくんには言われたくないかも。さっきマルティナさんに対してすごい強がってたでしょ。もしかして」
「いやなんかあいつだけには絶対弱味は見せたくねえんだ絶対な」
恋愛脳かと思いきや妙に早口で、でも果てしなく真顔でカミュくんは反論した。
無駄に納得した。あの悪魔なら何を言ってくるかわからない。…それを差し引いても。
「それにエルザ、お前ならわかるだろ?マルティナはともかくとしても、だ。
マジで悪いヤツは弱ったヤツから狙ってくもんだって」
「わかる。こういう生き方って、もうなんか染み付いちゃってるよね」
苦笑。
カミュくんと私には物心ついた時には親なる存在がなかったという共通点がある。
悪い大人には苦労させられてきたということがお互いに察しあえる程度には、ハードな人生を送ってきたというわけだ。
「いや、お前わかってねえだろ。見る度に腑抜けた顔になってんだよ。どんだけあのおっさんに絆されてんの」
「ん?聞きたい?それこそマルティナさんにもドン引きされたレベルだけど」
「よしわかったそれだけ聞けりゃ充分だ」
可能な限り気を遣った言い回しを選ばれた気がする。
シルビアさんとのあれこれは実際とても人に言える内容ではないことは自覚はあるが、とはいえさすがにちょっとだけ傷ついた。
と思いつつも私は少し話題を遡り、指摘をする。
「でも会う度に腑抜けたって言うならカミュくんも大概じゃない?
それこそ勇者様や双子の影響すごいんだろうなって思う」
「…そう見えるか?」
肯定すると、カミュくんは白々しくため息を吐いた。
「…ったく、組む相手間違えたぜ」
「にやけてるよ」
「うるせえ」
彼はどこか嬉しそうな声で毒づく。
本人はきっと認めないだろうけど、元々きれいな顔立ちなのもあって優しげに見える。
いや実際この人はお人好しと呼んで差し支えないくらいなのだけど、多分自分をジャックナイフくらいには思っている。気がする。
なんだかかわいいな、なんてそれこそ親の気分。
「…何ニヤニヤしてんだよ気持ちわりい」
「いやなんか、将来子ども産んだら男の子ならカミュくんみたいに育ってほしいかなって」
強かで抜け目がなく、けれども決して冷たくない人間。
普通の人より少しだけ世間の厳しさを知っている私が、生き方として理想とする一端がカミュくんには確かにあった。
「そこはシルビアじゃねーのか」
「あの人は色々と濃すぎる」
「それはすげえわかる」
カミュくんは深く頷く。決してシルビアさんの性格は悪いとは思わない。
いやむしろ彼に人間性で勝る人物がいればぜひお目にかかりたいくらいだ。
それくらい、そしてすでに偉大と言っても良いのがシルビアこと本名ゴリアテ。
…しかしそれ以上の個性の塊。いつか誰かに渋滞を起こしていると称されたまでに。
いやほんとこの世に一人いれば十二分の逸材なのである。
「女の子なら…そうだな、カミュくんには妹いるんだっけ」
「…話したことあったか。マヤって言うんだが――あいつはやめとけすげえ性格悪い」
「カミュくんの妹なのに?」
「あー、いやなんていうか、甘やかしすぎた」
首を振ってカミュくんはまさに苦笑い。
しかしここでも言葉ほどニュアンスに棘はなく、むしろ妹がかわいくてたまらないといった様子だった。
「えー。でもマヤちゃんは、カミュくんがお兄ちゃんで幸せだと思うよ」
そういうとカミュくんは確かに微笑んだ。
…と思ったのだが、次の瞬間には真顔に戻っていた。
何か機嫌を損ねることでも言っただろうか。
などと我が身を振り返るより先に、その原因は判明する。