それゆけ!ばれんたいん!
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チョコレートを配る仕事も残すところシルビアさんのみとなり、そして彼に捕まった。
そのまま宿の個室につれて来られ。なんでと混乱する間もなく、彼の腕の中で尋問が始まる。
「ねぇ?マルティナちゃんに聞いたのだけど。エルザちゃんがチョコレートを配って歩いてるって」
耳に突然息を吹きかけられ、身体がびくっと跳ねる。シルビアさんはくすくすと笑いながら続けた。
「アタシまだ貰ってないわ。どうして?」
「だって、シルビアさん。中々会えなっ……」
かぷっと甘く噛まれた。変な声が裏返る。
シルビアさんはまた笑った。
「だから待ちきれなくて、こっちから会いに来ちゃったの!」
とりあえず怒ってはないようで一安心。
チョコレートを意中の人にあげていた、という元来の意味合いはこの人自身から教えてもらっている。
……が、今は過ぎるくらいに幅広い意味を持っているのだ。
それすら嫌がる人だったら申し訳なかったけれど、よく考えたらシルビアさんだし気にしなさそう。
こっそり一息つき、一旦彼から解放してもらう。
本当は居心地も良いし、片時も離れたくはないのだが、それでは本末転倒だ。
いつものとは別に持って歩いている道具袋から、ラッピングが崩れないよう慎重に、ピンクとブルーのパステルカラーの包みを取り出す。
「これ……なんだけど……」
「ありがとう。開けても?」
そっと受け取るシルビアさんに、なんとなく言葉に詰まったから無言で頷く。
爪の先まで手入れを施した、剣を握るとはにわかに信じ難いほどのきれいな指が、私がくくった金のリボンをほどく。
思わず凝視。この時点で、なんだか興奮して卒倒しそうだ。
……いやいくらなんでもそれは人として気持ち悪いので我慢する。
「まあ、なんてかわいいの!」
お高めの、ハート型のカラフルなチョコレート。
シルビアさんのだけは手作りの、と考えなかったわけではないけれどやっぱり安全牌を取った。
私は料理ベタというほどではない。チョコレート菓子だって簡単なものなら作れる。この日に向けて試作だってした。
ただし別に大して美味しくもないし、特別かわいいわけでもない。
……悲しいくらい平凡なものしか完成しなかったのである。
そんなつまらないものを、この特別な日にシルビアさん(しかも料理上手)に差し上げる勇気はなかった。
できたらまさに勇者だ。
「ねえ、エルザちゃん」
「ん?」
「今度、一緒に作りましょうか」
「うん」
……ていうのは多分見透かされたんだろうな。そんな風に誘われるままに頷く。
彼とするお菓子作りはさぞ乙女チックで実用的なものになるだろう。
ほとんど肉体労働だったテンパリング作業を思い出す。
シルビアさんなら優雅に消化しそう。でもそういう大変な工程は、私がするけれど。
とにかく、オネエ様キャラの便利なところを遺憾なく発揮してみせたシルビアさんが、それでもとても嬉しそうなのを見て、私も胸が温かなものに支配される。
ああ、好き。とても。愛してる。
うっとりと心の中では何百回と復唱している言葉を溢しても。ひどく陳腐な言い回しでも、シルビアさんは許してくれるだろうか。
……嫌われはしなくてもおしおきはされるかも知れない。
ぞくっと背筋を走りかけ、いや今日はそういう話じゃなかったと気を持ち直す。
「エルザちゃん」
なあにと返事をするために開けた唇に、すかさず何かを挟み込まれた。……ほどなく甘さとカカオのにおいに気づく。
「せっかくだし。食べさせてちょうだい」
にっこりといつもの下心のないおとめ全開の笑顔を浮かべるけれど、さすがにそれは完全におっさんの発想だよシルビアさん。
マルティナさんあたりがこの場にいれば即座にツッコミを入れるのだろうが、生憎私は彼女ほどシルビアさんに厳しくない。
むしろチョコレートがドン引きするくらいの激甘な自覚はあるし――なんていうか、シルビアさんが望んでくることを叶えるのがすごく好きなのだ。
ベッドサイドに座っている彼の前に立つと、また抱き寄せられる。じっと顔を覗き込まれ、察する。
あれ。これ、食べさせるというより食べられるというやつでは。
ぎゅっと、けれど手を優しく握られ、そっと唇を奪われる。こういう時に限ってこの人は言葉を発しない。
しかも食べさせてと言っておいて舌でチョコレートを口内に押し込み。
「んっ…」
それから私ごと堪能してくる。体温で溶けだしたチョコレートとの甘さを感じたのも一瞬のこと。
すぐに好き勝手蹂躙される甘さに押し負けてしまう。
試食を貰った時、シルビアさんには甘すぎないかなってちょっと危惧したくらいなんだけど……おかしいな。
「うふふ、とっても甘いわん」
「それは……。何より、です……」
くったりと力が抜けて、シルビアさんに完全に身を委ねている。
そのまま、という流れが一瞬頭を過るけれどさすがにそんなことはなく。けれど、アブない時間はまだまだ続く。
「ね、もう一つ」
「……うぇ?」
「ちょうどおやつの時分でしょう?アタシ、結構お腹空いてて」
反発をしようなんて口はすぐにチョコレートで蓋をされてしまう。
頭がくらくらするほどの唇の甘ったるい感触、どこか妖しく背徳的な雰囲気に呑み込まれ。
「とってもおいしいわね、エルザちゃん」
「ぁうんっ。…ぷぁっ、」
シルビアさんにおいしく食べられ続けた。
「……やだぁ、お目々まで蕩けさせちゃって」
「ふにゃ……ぁ」
「貰っておいて悪いけど、チョコよりアナタの方が断然魅力的」
ちゅっと唇を軽く噛まれる。
「シルビアさん……」
甘さと引き換えに呼吸の8割くらいを忘れてぼうっとする。それ以上に脳がじんじんと痺れて、うまく働かない。
だからごく単純な、本能に従ったことしか今は言えなかった。
「なあに?」
ごくゆっくりとした動作で身を起こし、背中に手を回す。
「好き。大好き」
じっといつもきらきら輝いている灰色の瞳を覗き込む。
今のぼんやりした頭でも、そこが熱を帯びているのがわかる。
それがどういう意味かまでは、考える余裕もないけれど。
「……大好きだよ」
念押しするようにもう一度。
けれどシルビアさんは珍しくアタシもよ、とか言うわけでもなく、ぎゅっと腕に力を込める。
そのせいで顔が伺えなくなって、何も見えなくなった中で――嬉しそうな、けれど少し困った声が聞こえた。
「んもう。ほんとにアナタって子は。これ以上オアズケを厳しくしないでほしいのに」
そのまま宿の個室につれて来られ。なんでと混乱する間もなく、彼の腕の中で尋問が始まる。
「ねぇ?マルティナちゃんに聞いたのだけど。エルザちゃんがチョコレートを配って歩いてるって」
耳に突然息を吹きかけられ、身体がびくっと跳ねる。シルビアさんはくすくすと笑いながら続けた。
「アタシまだ貰ってないわ。どうして?」
「だって、シルビアさん。中々会えなっ……」
かぷっと甘く噛まれた。変な声が裏返る。
シルビアさんはまた笑った。
「だから待ちきれなくて、こっちから会いに来ちゃったの!」
とりあえず怒ってはないようで一安心。
チョコレートを意中の人にあげていた、という元来の意味合いはこの人自身から教えてもらっている。
……が、今は過ぎるくらいに幅広い意味を持っているのだ。
それすら嫌がる人だったら申し訳なかったけれど、よく考えたらシルビアさんだし気にしなさそう。
こっそり一息つき、一旦彼から解放してもらう。
本当は居心地も良いし、片時も離れたくはないのだが、それでは本末転倒だ。
いつものとは別に持って歩いている道具袋から、ラッピングが崩れないよう慎重に、ピンクとブルーのパステルカラーの包みを取り出す。
「これ……なんだけど……」
「ありがとう。開けても?」
そっと受け取るシルビアさんに、なんとなく言葉に詰まったから無言で頷く。
爪の先まで手入れを施した、剣を握るとはにわかに信じ難いほどのきれいな指が、私がくくった金のリボンをほどく。
思わず凝視。この時点で、なんだか興奮して卒倒しそうだ。
……いやいくらなんでもそれは人として気持ち悪いので我慢する。
「まあ、なんてかわいいの!」
お高めの、ハート型のカラフルなチョコレート。
シルビアさんのだけは手作りの、と考えなかったわけではないけれどやっぱり安全牌を取った。
私は料理ベタというほどではない。チョコレート菓子だって簡単なものなら作れる。この日に向けて試作だってした。
ただし別に大して美味しくもないし、特別かわいいわけでもない。
……悲しいくらい平凡なものしか完成しなかったのである。
そんなつまらないものを、この特別な日にシルビアさん(しかも料理上手)に差し上げる勇気はなかった。
できたらまさに勇者だ。
「ねえ、エルザちゃん」
「ん?」
「今度、一緒に作りましょうか」
「うん」
……ていうのは多分見透かされたんだろうな。そんな風に誘われるままに頷く。
彼とするお菓子作りはさぞ乙女チックで実用的なものになるだろう。
ほとんど肉体労働だったテンパリング作業を思い出す。
シルビアさんなら優雅に消化しそう。でもそういう大変な工程は、私がするけれど。
とにかく、オネエ様キャラの便利なところを遺憾なく発揮してみせたシルビアさんが、それでもとても嬉しそうなのを見て、私も胸が温かなものに支配される。
ああ、好き。とても。愛してる。
うっとりと心の中では何百回と復唱している言葉を溢しても。ひどく陳腐な言い回しでも、シルビアさんは許してくれるだろうか。
……嫌われはしなくてもおしおきはされるかも知れない。
ぞくっと背筋を走りかけ、いや今日はそういう話じゃなかったと気を持ち直す。
「エルザちゃん」
なあにと返事をするために開けた唇に、すかさず何かを挟み込まれた。……ほどなく甘さとカカオのにおいに気づく。
「せっかくだし。食べさせてちょうだい」
にっこりといつもの下心のないおとめ全開の笑顔を浮かべるけれど、さすがにそれは完全におっさんの発想だよシルビアさん。
マルティナさんあたりがこの場にいれば即座にツッコミを入れるのだろうが、生憎私は彼女ほどシルビアさんに厳しくない。
むしろチョコレートがドン引きするくらいの激甘な自覚はあるし――なんていうか、シルビアさんが望んでくることを叶えるのがすごく好きなのだ。
ベッドサイドに座っている彼の前に立つと、また抱き寄せられる。じっと顔を覗き込まれ、察する。
あれ。これ、食べさせるというより食べられるというやつでは。
ぎゅっと、けれど手を優しく握られ、そっと唇を奪われる。こういう時に限ってこの人は言葉を発しない。
しかも食べさせてと言っておいて舌でチョコレートを口内に押し込み。
「んっ…」
それから私ごと堪能してくる。体温で溶けだしたチョコレートとの甘さを感じたのも一瞬のこと。
すぐに好き勝手蹂躙される甘さに押し負けてしまう。
試食を貰った時、シルビアさんには甘すぎないかなってちょっと危惧したくらいなんだけど……おかしいな。
「うふふ、とっても甘いわん」
「それは……。何より、です……」
くったりと力が抜けて、シルビアさんに完全に身を委ねている。
そのまま、という流れが一瞬頭を過るけれどさすがにそんなことはなく。けれど、アブない時間はまだまだ続く。
「ね、もう一つ」
「……うぇ?」
「ちょうどおやつの時分でしょう?アタシ、結構お腹空いてて」
反発をしようなんて口はすぐにチョコレートで蓋をされてしまう。
頭がくらくらするほどの唇の甘ったるい感触、どこか妖しく背徳的な雰囲気に呑み込まれ。
「とってもおいしいわね、エルザちゃん」
「ぁうんっ。…ぷぁっ、」
シルビアさんにおいしく食べられ続けた。
「……やだぁ、お目々まで蕩けさせちゃって」
「ふにゃ……ぁ」
「貰っておいて悪いけど、チョコよりアナタの方が断然魅力的」
ちゅっと唇を軽く噛まれる。
「シルビアさん……」
甘さと引き換えに呼吸の8割くらいを忘れてぼうっとする。それ以上に脳がじんじんと痺れて、うまく働かない。
だからごく単純な、本能に従ったことしか今は言えなかった。
「なあに?」
ごくゆっくりとした動作で身を起こし、背中に手を回す。
「好き。大好き」
じっといつもきらきら輝いている灰色の瞳を覗き込む。
今のぼんやりした頭でも、そこが熱を帯びているのがわかる。
それがどういう意味かまでは、考える余裕もないけれど。
「……大好きだよ」
念押しするようにもう一度。
けれどシルビアさんは珍しくアタシもよ、とか言うわけでもなく、ぎゅっと腕に力を込める。
そのせいで顔が伺えなくなって、何も見えなくなった中で――嬉しそうな、けれど少し困った声が聞こえた。
「んもう。ほんとにアナタって子は。これ以上オアズケを厳しくしないでほしいのに」