負けん気と現実
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運営スタッフとして雇われたはずなのに、紆余曲折あって武闘大会に出場することになってしまった。
なんでも、募集要項の何が悪かったのか参加者があと一人どうしても足りなかったらしく。
興行主が以前の私のお客様で、私が魔法戦士として戦っているのを知っていて。
そういう色々が重なった結果今私は準決勝の舞台に立っている。
…運が良かったと言うよりもむしろよほど宣伝に失敗したのだろう。謙遜ではなく、本当に大した相手とは当たらなかった。
「オレんとこぁマスク・ザ・ハンサムやらハンやら激戦区だったが…。姉ちゃん、お前のブロックはそうでもなかったらしい」
対戦相手・ガレムソンは感慨深く言う。
黒い覆面に筋骨隆々の肉体。
ビジュアルこそそこら辺にいる荒くれたちと変わらなかったが、あのマスク・ザ・ハンサムに勝つほどの実力者だ。
決して油断はならない。
「あ、わかります?…それにしても、この大会本当にレベルが低いみたいね。準決勝も温存できそうで助かる」
しかしながら挑発には挑発で返す。こういうのはこういう場ではなんというか、お決まりみたいなものだ。それぞれが喋る度に観客席から歓声が上がる。
やれ、ガレムソン。負けるな、エルザ。そんな感じ。
「けっ。ナメやがって。こちとらムンババ相手に日々鍛えてんだ、モブ風情にゃ負けねえよ!!」
「それはこっちのセリフ!!」
試合開始の合図も待たず、ガレムソンが突進してくる。力強く地を蹴る瞬発力は目を見張るものがある。
ムンババというのが何者かはわからないが、鍛えているというのは嘘ではないらしい。
剣を抜くより先に、ピオリムを唱える。
恐らく、いや間違いなく力負けはするだろうことはご立派な筋肉だけ見ても明らかだ。
…見掛け倒しとはとても思えない。
「くっ、そ!反則だ!チョロチョロ逃げやがって!!」
ピオリムで素早くなることでガレムソンの攻撃から逃れる。
恐らく彼は職業で言えば武闘家といった所だろう。
徒手空拳でリーチこそ短いが連続したジャブは手堅くも速くて力強く、あまり当たりたいとは思わない。
「スタミナ切れを狙ってんの!当然でしょう?」
「ああ!?このガレムソン様相手にかぁ?上等じゃあねえか!!」
剣は抜かず、ただ攻撃を避ける。
そんな舐めプ全開の私に、ガレムソンは一方的に攻め入り続ける。
実はこちらからも攻めたかったのだが、恰好が悪いことに機を逃してしまっただけだ。
そしてやつの攻撃は一見雑でありながら付け入ることのできる隙がとにかく見つからない。
実は必死にそう見せているだけで、全く相手を小馬鹿になんてできていなかった。
やはり準決勝まで残っただけあって予想以上の強敵である。
こういう時にラリホーやマヌーサでも使うことができたら、楽なんだけどな。と、魔法戦士にあるまじきレベルの出来の悪さを自嘲する。
もっともそうしたところで使えるようになるわけがないので、さっさと頭を切り替える。
まずはこの状況の打破だ。
「そろそろターンを譲ってもらうよ!」
目を閉じギラを唱える。いつか使った手だ。
それをあえて自分に当てることで、僅かなダメージと引き換えに強い光を生み出す。
他の補助呪文と違いほんの一時的なものだが、それでも数秒の目潰し効果くらいは生む。戦いにおいては肝要な数秒だ。
考えるには到底足りないけれど。
「きったねぇぞ…お前」
「待っただけマシと思ってほしいかな」
私はその数秒を自己強化に使った。
ピオリムをもう一回、そしてバイキルト。
得意の高速詠唱で、ガレムソンが視力を回復するまでには間に合った。
多分攻撃しても良かったのだが、あのいかにも屈強な肉体だ。
私の素の腕力では大したダメージにはならない。
だからこれで良かったのだ。
「クッソ。女だからって手加減してたが、ならこっちも手段は選ばねえ」
意味があるのかないのかガレムソンはぐしりと黒い覆面の上から目を擦る。
どこから出したのかわからないが、大きなそれをこちらに投げる。
ぶわりと空気を一瞬はらんで拡がったそれ――投網の独特の挙動を初見で見切れるわけもなく。
地上において魚ではなく敵である私を捕らえるのに一役買った。
「は?嘘、何これ!」
「オレな、闘士を始めるまでは船乗りやってたんだよ。
ま、キツいわ上下関係ひでえわですぐヤメたんだが、どうやら無駄な経験じゃなかったらしい」
あみなわのせいで身動きがとれなくなっている私にガレムソンはゆっくりと近づく。
己の拳を武器とする彼にとってもっとも適した距離で、腰を落として構える。
「あばよ、エルザ。楽しかったぜ」
正拳突き。武闘家の特技の中でも高威力の一撃が必殺の意義を持って私の鳩尾を捉える。
ピオリムで強化された脚力を持ってしても逃れ得ようがない。というか活かしようがない。
「かっ…は!」
腹や胴どころか全身に衝撃を受け、身体は網ごと吹き飛ぶ。
したたかに地面に打ち付けられ、骨は軋み、それで更にプラスされた激痛に悶える。
即座に今まで存在感のなかった審判が、まるで神のようにカウントを始める。
彼が10数えあげるまでに立ち上がらなければアウトだ、負けが確定する。
「ぐ、…くそ、…こんなところで…」
負けてたまるか。体中すでにバキバキに痛かったが、負けたくない一心で立ち上がる。
未だ絡みついて邪魔な網は、自分ごとメラミで燃やす。ついでに炎に剣をくぐらせ、熱たぎる属性をつける。
口内を切り、溢れさせた血を吐き捨てる。
それらがエイトカウント目までの出来事だった。
「大人しく負けときゃこれ以上痛い思いしなくて済んだのによ」
「ガレムソンさんほどの闘士なら…わかるでしょ?」
「ハッ。上等じゃあねえか!」
所詮これは試合。とはいえ、試合だからこそわかりあえることもある。
ガレムソンのセリフこそ最初に聞いたのと同じだが、明らかにニュアンスは違った。
私もやられて不利な状況にはいたが、妙に充実感は覚えていた。
どちらが勝っても悔いはない。
そんな爽やかな感情が対峙している二人の間にだけ巡る。
「これでっ!トドメだ!!」
ガレムリンは強い。その肉体から放たれる一撃は重たいのはもちろん、疾いしスキはない。
ハンサムに勝ったのも頷ける文句なしの実力者だ。
しかし彼はミスをした。
たった一つ。しかし、勝敗をわけるには充分すぎる。
彼は勝てると判断してしまった。ゆえに攻め急いでしまったのだ。
拳はまっすぐとぶ。
しかし、いくら私がダメージが蓄積しているといっても、ピオリムの効果はまだ残っている。
私がガレムソンの背後にまわるよりその太い腕を振りぬくのは僅かに遅かった。
覆面の下、彼の顔はさぞかし驚きに満ちていただろう。
「なんだと…!」
ひどくスローモーションに感じる時間の流れの中で、私の剣技だけが疾い!
炎のはやぶさが、ガレムリンのたくましい背中をばってんに斬りつける。
ぐらりと傾く巨体。血が噴き出す。
振り向かれる前に最後の渾身の火炎斬り。
バイキルト、そして火のフォースと噛み合い更に威力をあげたそれをまともに食らったガレムソンが起き上がることはなかった。
なんでも、募集要項の何が悪かったのか参加者があと一人どうしても足りなかったらしく。
興行主が以前の私のお客様で、私が魔法戦士として戦っているのを知っていて。
そういう色々が重なった結果今私は準決勝の舞台に立っている。
…運が良かったと言うよりもむしろよほど宣伝に失敗したのだろう。謙遜ではなく、本当に大した相手とは当たらなかった。
「オレんとこぁマスク・ザ・ハンサムやらハンやら激戦区だったが…。姉ちゃん、お前のブロックはそうでもなかったらしい」
対戦相手・ガレムソンは感慨深く言う。
黒い覆面に筋骨隆々の肉体。
ビジュアルこそそこら辺にいる荒くれたちと変わらなかったが、あのマスク・ザ・ハンサムに勝つほどの実力者だ。
決して油断はならない。
「あ、わかります?…それにしても、この大会本当にレベルが低いみたいね。準決勝も温存できそうで助かる」
しかしながら挑発には挑発で返す。こういうのはこういう場ではなんというか、お決まりみたいなものだ。それぞれが喋る度に観客席から歓声が上がる。
やれ、ガレムソン。負けるな、エルザ。そんな感じ。
「けっ。ナメやがって。こちとらムンババ相手に日々鍛えてんだ、モブ風情にゃ負けねえよ!!」
「それはこっちのセリフ!!」
試合開始の合図も待たず、ガレムソンが突進してくる。力強く地を蹴る瞬発力は目を見張るものがある。
ムンババというのが何者かはわからないが、鍛えているというのは嘘ではないらしい。
剣を抜くより先に、ピオリムを唱える。
恐らく、いや間違いなく力負けはするだろうことはご立派な筋肉だけ見ても明らかだ。
…見掛け倒しとはとても思えない。
「くっ、そ!反則だ!チョロチョロ逃げやがって!!」
ピオリムで素早くなることでガレムソンの攻撃から逃れる。
恐らく彼は職業で言えば武闘家といった所だろう。
徒手空拳でリーチこそ短いが連続したジャブは手堅くも速くて力強く、あまり当たりたいとは思わない。
「スタミナ切れを狙ってんの!当然でしょう?」
「ああ!?このガレムソン様相手にかぁ?上等じゃあねえか!!」
剣は抜かず、ただ攻撃を避ける。
そんな舐めプ全開の私に、ガレムソンは一方的に攻め入り続ける。
実はこちらからも攻めたかったのだが、恰好が悪いことに機を逃してしまっただけだ。
そしてやつの攻撃は一見雑でありながら付け入ることのできる隙がとにかく見つからない。
実は必死にそう見せているだけで、全く相手を小馬鹿になんてできていなかった。
やはり準決勝まで残っただけあって予想以上の強敵である。
こういう時にラリホーやマヌーサでも使うことができたら、楽なんだけどな。と、魔法戦士にあるまじきレベルの出来の悪さを自嘲する。
もっともそうしたところで使えるようになるわけがないので、さっさと頭を切り替える。
まずはこの状況の打破だ。
「そろそろターンを譲ってもらうよ!」
目を閉じギラを唱える。いつか使った手だ。
それをあえて自分に当てることで、僅かなダメージと引き換えに強い光を生み出す。
他の補助呪文と違いほんの一時的なものだが、それでも数秒の目潰し効果くらいは生む。戦いにおいては肝要な数秒だ。
考えるには到底足りないけれど。
「きったねぇぞ…お前」
「待っただけマシと思ってほしいかな」
私はその数秒を自己強化に使った。
ピオリムをもう一回、そしてバイキルト。
得意の高速詠唱で、ガレムソンが視力を回復するまでには間に合った。
多分攻撃しても良かったのだが、あのいかにも屈強な肉体だ。
私の素の腕力では大したダメージにはならない。
だからこれで良かったのだ。
「クッソ。女だからって手加減してたが、ならこっちも手段は選ばねえ」
意味があるのかないのかガレムソンはぐしりと黒い覆面の上から目を擦る。
どこから出したのかわからないが、大きなそれをこちらに投げる。
ぶわりと空気を一瞬はらんで拡がったそれ――投網の独特の挙動を初見で見切れるわけもなく。
地上において魚ではなく敵である私を捕らえるのに一役買った。
「は?嘘、何これ!」
「オレな、闘士を始めるまでは船乗りやってたんだよ。
ま、キツいわ上下関係ひでえわですぐヤメたんだが、どうやら無駄な経験じゃなかったらしい」
あみなわのせいで身動きがとれなくなっている私にガレムソンはゆっくりと近づく。
己の拳を武器とする彼にとってもっとも適した距離で、腰を落として構える。
「あばよ、エルザ。楽しかったぜ」
正拳突き。武闘家の特技の中でも高威力の一撃が必殺の意義を持って私の鳩尾を捉える。
ピオリムで強化された脚力を持ってしても逃れ得ようがない。というか活かしようがない。
「かっ…は!」
腹や胴どころか全身に衝撃を受け、身体は網ごと吹き飛ぶ。
したたかに地面に打ち付けられ、骨は軋み、それで更にプラスされた激痛に悶える。
即座に今まで存在感のなかった審判が、まるで神のようにカウントを始める。
彼が10数えあげるまでに立ち上がらなければアウトだ、負けが確定する。
「ぐ、…くそ、…こんなところで…」
負けてたまるか。体中すでにバキバキに痛かったが、負けたくない一心で立ち上がる。
未だ絡みついて邪魔な網は、自分ごとメラミで燃やす。ついでに炎に剣をくぐらせ、熱たぎる属性をつける。
口内を切り、溢れさせた血を吐き捨てる。
それらがエイトカウント目までの出来事だった。
「大人しく負けときゃこれ以上痛い思いしなくて済んだのによ」
「ガレムソンさんほどの闘士なら…わかるでしょ?」
「ハッ。上等じゃあねえか!」
所詮これは試合。とはいえ、試合だからこそわかりあえることもある。
ガレムソンのセリフこそ最初に聞いたのと同じだが、明らかにニュアンスは違った。
私もやられて不利な状況にはいたが、妙に充実感は覚えていた。
どちらが勝っても悔いはない。
そんな爽やかな感情が対峙している二人の間にだけ巡る。
「これでっ!トドメだ!!」
ガレムリンは強い。その肉体から放たれる一撃は重たいのはもちろん、疾いしスキはない。
ハンサムに勝ったのも頷ける文句なしの実力者だ。
しかし彼はミスをした。
たった一つ。しかし、勝敗をわけるには充分すぎる。
彼は勝てると判断してしまった。ゆえに攻め急いでしまったのだ。
拳はまっすぐとぶ。
しかし、いくら私がダメージが蓄積しているといっても、ピオリムの効果はまだ残っている。
私がガレムソンの背後にまわるよりその太い腕を振りぬくのは僅かに遅かった。
覆面の下、彼の顔はさぞかし驚きに満ちていただろう。
「なんだと…!」
ひどくスローモーションに感じる時間の流れの中で、私の剣技だけが疾い!
炎のはやぶさが、ガレムリンのたくましい背中をばってんに斬りつける。
ぐらりと傾く巨体。血が噴き出す。
振り向かれる前に最後の渾身の火炎斬り。
バイキルト、そして火のフォースと噛み合い更に威力をあげたそれをまともに食らったガレムソンが起き上がることはなかった。