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砂浜を踏む感触って面白いから好きだ。
ざりっとかたい音がして、それでいながら不安定。靴は簡単に細かい砂に埋まり、また簡単に抜ける。
普通の土じゃまず味わえない不思議な感覚。
だから好き。
そんなほぼどうでもいいことを一生懸命考えてないとやっていられなかった。
「うーーーーーみーーーー!!!」
昨日は私のせいで不機嫌だったベロニカちゃんが、それとは対象的なくらいに溌剌とした声を出す。
「は?今渡ってきたばっかじゃねえか。チビちゃん、まさかもう忘れたのか?」
「るっさいわね!気分よ気分!」
はしゃぐベロニカちゃんにカミュくんが茶々を入れる。
こうして始まる口げんかの横で、セーニャさんがのほほんと笑う。
「それにしてもすてきなところですね。将来はこんな静かで景観が良いところに住みたいものです」
「そうかしら。アタシはむしろ…いや。セーニャちゃんのそういう感性好きよん」
がやがやと。想定外に、それはもう賑やかな海の旅路となった。いや海を渡ること自体が想定外だったのだが。
昨日のあの後逃走するタイミングを失い、結局デルカダール兵をせん滅したこの人たちと一晩を過ごした。
それからはぐれた勇者様とマルティナさんという人物と一行は再会。
改めて裏切った謝罪を経て、船(シルビアさん個人所有らしい。すごいの一言)に乗せてもらうことになる。
あくまで私は部外者なので詳しいことは教えてもらえなかったが、彼らは外海に出るつもりで、
水門を開けてもらうために一度ソルティコに寄港するらしい。
…で、今に至る。
正直、謝ったとはいえ気まずかった。
当たり前だろう。
つい十数時間前まで勇者様たちを皆殺しにする気満々で、
それをごめんなさい反省してますもうしません、とか言ったところでふつう誰もすっきりしない。
まず当事者である私がすっきりしていない。
それにまず、また私が裏切るとかいう発想はないのかこの人たちは。
…まあそもそも裏切ったところで勝ち目ないけど。
相性超有利なベロニカちゃんやセーニャさんあたりと一対一でやりあうなら、
もしかしたら勝てるかも知れないけれど。
責任転嫁になるが、この人たちの、勇者様の人の良さが今まさに私を追い詰めていた。
少し歩くのを躊躇しているうちに、
仲睦まじいパーティーが楽しげに連なっているのに置いて行かれかけ少し小走りになる。
この人たちとはソルティコまでの予定だ。早くこの気まずさとお別れしたかった。
「ねえ」
一向に追いついた時に偶然並んだのは、マルティナさんというスタイル抜群の美女だ。
目はつり気味で近寄りがたい印象を受けるが、それ以上にお姫様のように気品があって美しい。
同性であっても、思わず見惚れるほどに。
少し年上だろうか。一言でまとめればとんでもなくセクシーなお姉さん、という印象を抱く。
「ねえ聞いてる?」
「え、う、うん。何?」
聞いてないじゃない、とマルティナさんはため息を吐く。
「あなた、ロウ様と戦ったそうね。しかも結構善戦したって」
「善戦ってそんな…一撃も入れられてないし」
「謙遜しないで。ロウ様はああ見えて武術の達人よ。
私だって、まともに手合わせしてもらえるようになるまで何年かかったか」
言っては悪いけど性格がキツそうだと思ったのに突然誉められて内心困惑する。
実は優しいのだろうか、そんな風に考えながらマルティナさんを見ると、彼女はにやりと笑う。
「私、ロウ様の弟子みたいなものなんだけど。いつかぜひ手合わせしたいわね」
マルティナさんはそう言い残し、次には勇者様に呼ばれてそちらに行ってしまった。
励まされた、のだろうか。
確かに彼女とはなんのしがらみもないが。
ぽかんとしていると、背後から抑え込んだような笑い声が追ってきた。
「ロウさん」
「いや失礼。姫が、まさかお前さんを励ますとは思わなくての」
敵対していた昨晩とは比較にならないほど穏やかな口調でロウさんは語る。
というか、やっぱり励まされてたのか。
「珍しいんですか」
「イレブンと再会できて、余裕ができたんじゃろうて」
「ロウさまー!余計なこと言わないでくれるー?」
前方のマルティナさんが大きな声で静止してきたが、ロウさんは無視した。
「あの子は根は優しいが、あちこち転々としていたせいで友だちが少なくての。
仲良くしてやってくれると嬉しい」
「ちょっと!もー!!」
穏やかに笑うロウさんと、キツそうな見た目と裏腹の本性を語られがっくりと肩を落とすマルティナさん。
つられて私も笑いかけ――、しかし思い留まる。
「なんでそんなに優しくしてくれるんですか。
私一応デルカダールに雇われて、あなたたちを殺そうとしたんですよ」
「そんなことか」
ロウさんはなんの躊躇も屈託もなく答えた。
「昨日お前さん自身白状したじゃろう。脅されてやったことだと。嘘だとは思えん。
本当にただ雇われていたならば、もっとまともに立ち回れていたはずじゃ」
「買いかぶりすぎです。私は昨日本気だった」
「本気でなければシルビアには勝てん。あやつは平時こそあんなだが、相当な剣の使い手じゃぞ」
指し示されるままに視線を前に投げる。
と、シルビアさんはベロニカ・セーニャ姉妹ときゃらきゃらはしゃいでいた。
彼(女)にしてはどこか余裕なく見えたが、普段通りといえばその通りだ。
「…あやつも昨日言っておったじゃろう。自分を殺せたはずを、殺さなかった、と。
甘いと言えばそうだが、そのお陰でエルザ、お前さんは決定的に道を踏み外さないで済んだのじゃ。それに」
にこっとロウさんは笑った。
「イレブンが許すと言った。ワシらはそれで良い」
ざりっとかたい音がして、それでいながら不安定。靴は簡単に細かい砂に埋まり、また簡単に抜ける。
普通の土じゃまず味わえない不思議な感覚。
だから好き。
そんなほぼどうでもいいことを一生懸命考えてないとやっていられなかった。
「うーーーーーみーーーー!!!」
昨日は私のせいで不機嫌だったベロニカちゃんが、それとは対象的なくらいに溌剌とした声を出す。
「は?今渡ってきたばっかじゃねえか。チビちゃん、まさかもう忘れたのか?」
「るっさいわね!気分よ気分!」
はしゃぐベロニカちゃんにカミュくんが茶々を入れる。
こうして始まる口げんかの横で、セーニャさんがのほほんと笑う。
「それにしてもすてきなところですね。将来はこんな静かで景観が良いところに住みたいものです」
「そうかしら。アタシはむしろ…いや。セーニャちゃんのそういう感性好きよん」
がやがやと。想定外に、それはもう賑やかな海の旅路となった。いや海を渡ること自体が想定外だったのだが。
昨日のあの後逃走するタイミングを失い、結局デルカダール兵をせん滅したこの人たちと一晩を過ごした。
それからはぐれた勇者様とマルティナさんという人物と一行は再会。
改めて裏切った謝罪を経て、船(シルビアさん個人所有らしい。すごいの一言)に乗せてもらうことになる。
あくまで私は部外者なので詳しいことは教えてもらえなかったが、彼らは外海に出るつもりで、
水門を開けてもらうために一度ソルティコに寄港するらしい。
…で、今に至る。
正直、謝ったとはいえ気まずかった。
当たり前だろう。
つい十数時間前まで勇者様たちを皆殺しにする気満々で、
それをごめんなさい反省してますもうしません、とか言ったところでふつう誰もすっきりしない。
まず当事者である私がすっきりしていない。
それにまず、また私が裏切るとかいう発想はないのかこの人たちは。
…まあそもそも裏切ったところで勝ち目ないけど。
相性超有利なベロニカちゃんやセーニャさんあたりと一対一でやりあうなら、
もしかしたら勝てるかも知れないけれど。
責任転嫁になるが、この人たちの、勇者様の人の良さが今まさに私を追い詰めていた。
少し歩くのを躊躇しているうちに、
仲睦まじいパーティーが楽しげに連なっているのに置いて行かれかけ少し小走りになる。
この人たちとはソルティコまでの予定だ。早くこの気まずさとお別れしたかった。
「ねえ」
一向に追いついた時に偶然並んだのは、マルティナさんというスタイル抜群の美女だ。
目はつり気味で近寄りがたい印象を受けるが、それ以上にお姫様のように気品があって美しい。
同性であっても、思わず見惚れるほどに。
少し年上だろうか。一言でまとめればとんでもなくセクシーなお姉さん、という印象を抱く。
「ねえ聞いてる?」
「え、う、うん。何?」
聞いてないじゃない、とマルティナさんはため息を吐く。
「あなた、ロウ様と戦ったそうね。しかも結構善戦したって」
「善戦ってそんな…一撃も入れられてないし」
「謙遜しないで。ロウ様はああ見えて武術の達人よ。
私だって、まともに手合わせしてもらえるようになるまで何年かかったか」
言っては悪いけど性格がキツそうだと思ったのに突然誉められて内心困惑する。
実は優しいのだろうか、そんな風に考えながらマルティナさんを見ると、彼女はにやりと笑う。
「私、ロウ様の弟子みたいなものなんだけど。いつかぜひ手合わせしたいわね」
マルティナさんはそう言い残し、次には勇者様に呼ばれてそちらに行ってしまった。
励まされた、のだろうか。
確かに彼女とはなんのしがらみもないが。
ぽかんとしていると、背後から抑え込んだような笑い声が追ってきた。
「ロウさん」
「いや失礼。姫が、まさかお前さんを励ますとは思わなくての」
敵対していた昨晩とは比較にならないほど穏やかな口調でロウさんは語る。
というか、やっぱり励まされてたのか。
「珍しいんですか」
「イレブンと再会できて、余裕ができたんじゃろうて」
「ロウさまー!余計なこと言わないでくれるー?」
前方のマルティナさんが大きな声で静止してきたが、ロウさんは無視した。
「あの子は根は優しいが、あちこち転々としていたせいで友だちが少なくての。
仲良くしてやってくれると嬉しい」
「ちょっと!もー!!」
穏やかに笑うロウさんと、キツそうな見た目と裏腹の本性を語られがっくりと肩を落とすマルティナさん。
つられて私も笑いかけ――、しかし思い留まる。
「なんでそんなに優しくしてくれるんですか。
私一応デルカダールに雇われて、あなたたちを殺そうとしたんですよ」
「そんなことか」
ロウさんはなんの躊躇も屈託もなく答えた。
「昨日お前さん自身白状したじゃろう。脅されてやったことだと。嘘だとは思えん。
本当にただ雇われていたならば、もっとまともに立ち回れていたはずじゃ」
「買いかぶりすぎです。私は昨日本気だった」
「本気でなければシルビアには勝てん。あやつは平時こそあんなだが、相当な剣の使い手じゃぞ」
指し示されるままに視線を前に投げる。
と、シルビアさんはベロニカ・セーニャ姉妹ときゃらきゃらはしゃいでいた。
彼(女)にしてはどこか余裕なく見えたが、普段通りといえばその通りだ。
「…あやつも昨日言っておったじゃろう。自分を殺せたはずを、殺さなかった、と。
甘いと言えばそうだが、そのお陰でエルザ、お前さんは決定的に道を踏み外さないで済んだのじゃ。それに」
にこっとロウさんは笑った。
「イレブンが許すと言った。ワシらはそれで良い」