エトワールスーツ
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「…そんなワケのわからない物語を用意しなきゃいけないくらいなら、
無理にかっこいいって言わなくて良いんじゃない?」
ベロニカちゃんにもっとも――じゃない!
理不尽なツッコミを入れられてふるふると首を振る。
なんとかフォローをしなきゃいけないけれど、まずいことに言葉が出ない。
「それは、その!
私の拙い語彙力じゃ、えーーーっと…あの装備の素晴らしさが表現できなくて!」
「それでつい安易にパロディに走ったんだ?」
「そう!――ってしまった!?!?」
テーブルでフルーツパフェを嗜むマルティナさんの雑な誘導尋問にしてやられる。
にやにやと笑う彼女が腹立たしいが、それ以上に自分にムカつく。
今更、シルビアさんの行動一つでこんなに冷静さを欠くかな。完全に自己嫌悪だ。
「ん、あまーい」
からのあんまりなスルー。
どうせ振ったなら拾ってほしかったけれど、そんなことをマルティナさんに期待してはいけない。
それにしてもおいしそうなフルーツパフェだ。ふわふわの生クリームがたっぷり乗っている。
グラスの底で層になっているスポンジケーキからは、
マルティナさんがスプーンを入れる度にシロップがにじんでいた。
うん。あとで同じの注文しよっと。
「で、でも、…本当に素敵だと思うの。エトワールスーツ、だっけ…」
語尾が消え入っていくのは言動に自信がない証。
シルビアさんに対して私は絶対に揺らがない愛があると思っていたのだが、
あの装備は私のそんな自信を慢心だとして木っ端微塵に破壊してくれた。
まずもってあの服をどう表現していいのか全くわからない。
かぼちゃパンツ?羽根?ハートのベルト?おそろいのクラウン?
左右で色の違うレギンスというかタイツ?
最高位の旅芸人にのみ身に付けることが許された衣装というが、
どうにも芸人の意味が私たちが認識しているものと大いに齟齬がある気がしてしまうのだ。
それでもってシルビアさんに似合っているのかどうかもそもそもよくわからない。
あの人はなんだかんだ言っても美形であることには間違いないからまあまあそれなりにおさまってはいる。
けれどもあの服を着るには肩幅が広すぎてバランスが妙なのだ。
じゃあ似合ってないんじゃないかと思うのだけど、全体像を見るとやっぱり意外とそうでもない。
「正直、私の何を試されてるのかなって思った」
「このシルビアバカの口からそんな言葉が聞ける日が来るなんて思わなかったわ」
非常に素直に驚嘆を見せてくるベロニカちゃん。
私そんな目で見られてたの、と驚愕し思わず口もとを押さえる。
「え、なんでほっぺた赤いの」
そしてドン引きされた。
とここでベロニカちゃんが注文していたクレープが到着。
屋台で売っているフルーツとクリームを巻いたタイプではなく、
皿に生地に中身が乗っかってるちょっと高級なやつ。
ちなみにチョコバナナだそう。
カスタードクリームにアイスクリームまでたっぷり盛られた鉄板メニューだ。
わぁっとさっきまで擦れていた態度を一変させ、ベロニカちゃんの目が輝く。
子どもらしいその態度は本当に微笑ましくて、思わず口許が緩む。
「…そういえば、今日なんでセーニャさん欠席なんだっけ」
「ラムダの結婚式。
セーニャったら、こないだ参列した時にあまりにも立ち振る舞いの評判よくてさ!
しょっちゅうお呼ばれするようになっちゃったのよね」
ちょっぴり誇らしげにベロニカちゃんは妹のことを語る。
ああー、と納得したようにマルティナさんと二人して声が出る。
確かに私らからすればあの子ののほほんとした態度も、
結婚式の場となれば落ち着いて凛としたものに映るだろう。
それにかなり美人というのもプラスに働いているに違いない。
あとセーニャさんだしなんか雰囲気が縁起がとても良い感じだ。
あの人に結婚式の祝辞でも読んでもらったら絆は一生のものとなる、
みたいな都市伝説とかができていても不思議ではない。
「…私も司会をセーニャさんに頼もうかな」
「言うと思った」
「セーニャは断らないだろうけどねー」
ベロニカちゃんはそこで一度言葉を切る。
「それよりあんたたちがいつ結婚…するのかどうかすら微妙なところがね」
「それですよ」
自分だけまだ注文の品が来ていないのを良いことに机に突っ伏す。
声がこもるのもお構いなく続けた。
「ウエディングドレスをどっちが着るのかーとか。どっちが夫になるのかーとか、色々あるのこっちも」
「うわあ」
それに。
「何より身分が違いすぎるしね…」
ああー、とマルティナさんとベロニカちゃんが納得したように声をあげる。
身分違いの恋などというとこういかにもロマンに溢れた素敵な響きなのだが、
あんなものに夢を抱いて良いのは物語の登場人物だけだ。
紆余曲折あってシルビアさんことゴリアテさんといわゆる恋人関係にはなれたのだけど、
結婚となると色々しがらみも出てくるだろう。
はたして(シルビアさん曰く)頭の固いソルティコの領主に、
貧民窟出身で天涯孤独、当然のように戸籍もない三重苦どころでない女を受け入れてもらえるのだろうか。
っていうか今更だけどなんでシルビアさんって私を選んでくれたのだろう?
「ま、まあ結婚が全てじゃないわよ!」
マルティナさんの妙に生々しい励まし。た、確かに、そうだ。そうなのだけど。
卑屈になった心がじわじわと闇に浸食されていくのがわかる。
あれ、私こんなだったっけ。
「そうね。身分ってとっても難しい問題だわ。アタシにだっておそらくどうにもできない」
ひやりとしたものが頬につく。
びっくりして顔を上げると、ハートのついた奇抜なクラウンを付けたド派手な人が、
例のフルーツパフェを手にほほ笑んでいた。
「シルビアさ…ん!?え!?」
声がひっくり返る。
きょときょとと辺りを見回すと、
マルティナさんとベロニカちゃんも驚きを隠せていないようだったのがわかった。
つまりまさかのゲストの登場ということである。
っていうか街中でよく通報されなかったなその服。
「それでも今更パ…いえ父が身分なんてケチな理由でアタシが連れてきた子に文句を言うとは思えないけど…。
もしダメなら最悪駆け落ちしちゃうのもロマンチックでいいと思うの」
何一つ迷いなくその人は言う。奇天烈とまで言っていいエトワール装備に身を包んだおネエ様系旅芸人。
言うことも当然のようにぶっ飛んでいて、けれどひたすらに暖かい。
きゅんと胸が高鳴る。
「話で聞く分には面白いけど、目の当たりにすると結構うざいわね」
「知ってた」
そして思い直す。私はこの人のセンスに惚れた。
けれどそれ以上に、どこまでも優しくて愛情深くて、こうと決めたことは絶対貫くところが好きなんだと。
エトワール装備が受け入れられないわけではない。
そう、決して。
そんなものでシルビアさんの魅力数値が下がるわけがないのだ。
「シルビアさん!」
と、思わず彼のその胸に飛び込みそうになってから、違和感に気づく。
ここまで私は、エトワール装備が自分の感性に合わないから受け入れられないのだとばかりに思っていた。
だって事実ぶっ飛んでいる。
聞くところによればこれを手放しに誉めていたのは、
例の不思議な鍛冶道具で作成した勇者様くらいだったそうだ。
ちなみにグレイグさまは二日ほど寝込んだらしい(後にマルティナさんが話を盛っていたことが判明する)。
違う、何かが違う。
「エルザ、ちゃん?」
いつも通りに収まってこない私にシルビアさんが小首を傾げて、それでようやく、わかった。
「胸だ…」
「胸?」
豊満なバストの持ち主ことマルティナさんが聞き返してきて、頷く。
「エトワール装備。シルビアさんの服にしては胸が開きすぎてるの」
違和感の一番の正体は間違いなくこれだった。
普段ほとんどあらゆる場面で徹底していると言っても過言ではない程露出を控えるシルビアさん。
それが突然こんな露出度の…胸筋はほぼ露わになり、更にはちょっと腹筋とかも見えちゃってる服を着たのだ。
「目のやり場に…その、困る」
っていうかそもそもマスカレード装備をかっこいいとか思える自分が、
エトワール装備をダサいとする感性なんて持ち合わせているわけがない。
「…ヤダ。エルザちゃんったら。エッチ♥」
そんなことを言って頬を赤らめながら胸を隠すシルビアさんが、
先ほどまでの堂々とした態度から一転してかわいらしいとすら思う。
「そんな色っぽいカッコしてて悪い人に襲われても、シルビアさんのことは私が守るから!」
「アラ、頼もしいこと言ってくれるじゃなーい?」
気を取り直し自己フォロー。
笑って受け入れてくれるシルビアさんの本心はどこにあるのかわからないけれど、
今はこの関係がお互いとても心地よいのだとは少なからず思う。
とても、とても幸せだ。
「…帰るわよベロニカ。これ以上は見られたもんじゃないわ」
「そうね。あー、あたしも彼氏ほしいなー」
「ああいうのじゃなくていいけど」
「うん。ああいうのじゃなくていい」
無理にかっこいいって言わなくて良いんじゃない?」
ベロニカちゃんにもっとも――じゃない!
理不尽なツッコミを入れられてふるふると首を振る。
なんとかフォローをしなきゃいけないけれど、まずいことに言葉が出ない。
「それは、その!
私の拙い語彙力じゃ、えーーーっと…あの装備の素晴らしさが表現できなくて!」
「それでつい安易にパロディに走ったんだ?」
「そう!――ってしまった!?!?」
テーブルでフルーツパフェを嗜むマルティナさんの雑な誘導尋問にしてやられる。
にやにやと笑う彼女が腹立たしいが、それ以上に自分にムカつく。
今更、シルビアさんの行動一つでこんなに冷静さを欠くかな。完全に自己嫌悪だ。
「ん、あまーい」
からのあんまりなスルー。
どうせ振ったなら拾ってほしかったけれど、そんなことをマルティナさんに期待してはいけない。
それにしてもおいしそうなフルーツパフェだ。ふわふわの生クリームがたっぷり乗っている。
グラスの底で層になっているスポンジケーキからは、
マルティナさんがスプーンを入れる度にシロップがにじんでいた。
うん。あとで同じの注文しよっと。
「で、でも、…本当に素敵だと思うの。エトワールスーツ、だっけ…」
語尾が消え入っていくのは言動に自信がない証。
シルビアさんに対して私は絶対に揺らがない愛があると思っていたのだが、
あの装備は私のそんな自信を慢心だとして木っ端微塵に破壊してくれた。
まずもってあの服をどう表現していいのか全くわからない。
かぼちゃパンツ?羽根?ハートのベルト?おそろいのクラウン?
左右で色の違うレギンスというかタイツ?
最高位の旅芸人にのみ身に付けることが許された衣装というが、
どうにも芸人の意味が私たちが認識しているものと大いに齟齬がある気がしてしまうのだ。
それでもってシルビアさんに似合っているのかどうかもそもそもよくわからない。
あの人はなんだかんだ言っても美形であることには間違いないからまあまあそれなりにおさまってはいる。
けれどもあの服を着るには肩幅が広すぎてバランスが妙なのだ。
じゃあ似合ってないんじゃないかと思うのだけど、全体像を見るとやっぱり意外とそうでもない。
「正直、私の何を試されてるのかなって思った」
「このシルビアバカの口からそんな言葉が聞ける日が来るなんて思わなかったわ」
非常に素直に驚嘆を見せてくるベロニカちゃん。
私そんな目で見られてたの、と驚愕し思わず口もとを押さえる。
「え、なんでほっぺた赤いの」
そしてドン引きされた。
とここでベロニカちゃんが注文していたクレープが到着。
屋台で売っているフルーツとクリームを巻いたタイプではなく、
皿に生地に中身が乗っかってるちょっと高級なやつ。
ちなみにチョコバナナだそう。
カスタードクリームにアイスクリームまでたっぷり盛られた鉄板メニューだ。
わぁっとさっきまで擦れていた態度を一変させ、ベロニカちゃんの目が輝く。
子どもらしいその態度は本当に微笑ましくて、思わず口許が緩む。
「…そういえば、今日なんでセーニャさん欠席なんだっけ」
「ラムダの結婚式。
セーニャったら、こないだ参列した時にあまりにも立ち振る舞いの評判よくてさ!
しょっちゅうお呼ばれするようになっちゃったのよね」
ちょっぴり誇らしげにベロニカちゃんは妹のことを語る。
ああー、と納得したようにマルティナさんと二人して声が出る。
確かに私らからすればあの子ののほほんとした態度も、
結婚式の場となれば落ち着いて凛としたものに映るだろう。
それにかなり美人というのもプラスに働いているに違いない。
あとセーニャさんだしなんか雰囲気が縁起がとても良い感じだ。
あの人に結婚式の祝辞でも読んでもらったら絆は一生のものとなる、
みたいな都市伝説とかができていても不思議ではない。
「…私も司会をセーニャさんに頼もうかな」
「言うと思った」
「セーニャは断らないだろうけどねー」
ベロニカちゃんはそこで一度言葉を切る。
「それよりあんたたちがいつ結婚…するのかどうかすら微妙なところがね」
「それですよ」
自分だけまだ注文の品が来ていないのを良いことに机に突っ伏す。
声がこもるのもお構いなく続けた。
「ウエディングドレスをどっちが着るのかーとか。どっちが夫になるのかーとか、色々あるのこっちも」
「うわあ」
それに。
「何より身分が違いすぎるしね…」
ああー、とマルティナさんとベロニカちゃんが納得したように声をあげる。
身分違いの恋などというとこういかにもロマンに溢れた素敵な響きなのだが、
あんなものに夢を抱いて良いのは物語の登場人物だけだ。
紆余曲折あってシルビアさんことゴリアテさんといわゆる恋人関係にはなれたのだけど、
結婚となると色々しがらみも出てくるだろう。
はたして(シルビアさん曰く)頭の固いソルティコの領主に、
貧民窟出身で天涯孤独、当然のように戸籍もない三重苦どころでない女を受け入れてもらえるのだろうか。
っていうか今更だけどなんでシルビアさんって私を選んでくれたのだろう?
「ま、まあ結婚が全てじゃないわよ!」
マルティナさんの妙に生々しい励まし。た、確かに、そうだ。そうなのだけど。
卑屈になった心がじわじわと闇に浸食されていくのがわかる。
あれ、私こんなだったっけ。
「そうね。身分ってとっても難しい問題だわ。アタシにだっておそらくどうにもできない」
ひやりとしたものが頬につく。
びっくりして顔を上げると、ハートのついた奇抜なクラウンを付けたド派手な人が、
例のフルーツパフェを手にほほ笑んでいた。
「シルビアさ…ん!?え!?」
声がひっくり返る。
きょときょとと辺りを見回すと、
マルティナさんとベロニカちゃんも驚きを隠せていないようだったのがわかった。
つまりまさかのゲストの登場ということである。
っていうか街中でよく通報されなかったなその服。
「それでも今更パ…いえ父が身分なんてケチな理由でアタシが連れてきた子に文句を言うとは思えないけど…。
もしダメなら最悪駆け落ちしちゃうのもロマンチックでいいと思うの」
何一つ迷いなくその人は言う。奇天烈とまで言っていいエトワール装備に身を包んだおネエ様系旅芸人。
言うことも当然のようにぶっ飛んでいて、けれどひたすらに暖かい。
きゅんと胸が高鳴る。
「話で聞く分には面白いけど、目の当たりにすると結構うざいわね」
「知ってた」
そして思い直す。私はこの人のセンスに惚れた。
けれどそれ以上に、どこまでも優しくて愛情深くて、こうと決めたことは絶対貫くところが好きなんだと。
エトワール装備が受け入れられないわけではない。
そう、決して。
そんなものでシルビアさんの魅力数値が下がるわけがないのだ。
「シルビアさん!」
と、思わず彼のその胸に飛び込みそうになってから、違和感に気づく。
ここまで私は、エトワール装備が自分の感性に合わないから受け入れられないのだとばかりに思っていた。
だって事実ぶっ飛んでいる。
聞くところによればこれを手放しに誉めていたのは、
例の不思議な鍛冶道具で作成した勇者様くらいだったそうだ。
ちなみにグレイグさまは二日ほど寝込んだらしい(後にマルティナさんが話を盛っていたことが判明する)。
違う、何かが違う。
「エルザ、ちゃん?」
いつも通りに収まってこない私にシルビアさんが小首を傾げて、それでようやく、わかった。
「胸だ…」
「胸?」
豊満なバストの持ち主ことマルティナさんが聞き返してきて、頷く。
「エトワール装備。シルビアさんの服にしては胸が開きすぎてるの」
違和感の一番の正体は間違いなくこれだった。
普段ほとんどあらゆる場面で徹底していると言っても過言ではない程露出を控えるシルビアさん。
それが突然こんな露出度の…胸筋はほぼ露わになり、更にはちょっと腹筋とかも見えちゃってる服を着たのだ。
「目のやり場に…その、困る」
っていうかそもそもマスカレード装備をかっこいいとか思える自分が、
エトワール装備をダサいとする感性なんて持ち合わせているわけがない。
「…ヤダ。エルザちゃんったら。エッチ♥」
そんなことを言って頬を赤らめながら胸を隠すシルビアさんが、
先ほどまでの堂々とした態度から一転してかわいらしいとすら思う。
「そんな色っぽいカッコしてて悪い人に襲われても、シルビアさんのことは私が守るから!」
「アラ、頼もしいこと言ってくれるじゃなーい?」
気を取り直し自己フォロー。
笑って受け入れてくれるシルビアさんの本心はどこにあるのかわからないけれど、
今はこの関係がお互いとても心地よいのだとは少なからず思う。
とても、とても幸せだ。
「…帰るわよベロニカ。これ以上は見られたもんじゃないわ」
「そうね。あー、あたしも彼氏ほしいなー」
「ああいうのじゃなくていいけど」
「うん。ああいうのじゃなくていい」