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「おいホメロス、捕虜の件はどうなっている」
私だって命は惜しいと投了の宣言をする寸前だった。
テントに大男が入ってきた。
そしてその男に見覚えが、難なら会話したことすらあった。
「グレイグか。なんとも間が悪い。…生憎この娘は何も知らぬようだ」
「奴らの仲間ではなかったのか」
「そのようだな」
自分のことなど棚に上げてぬけぬけと状況を説明するホメロスさまの口調は、
私に対するそれに比べて(当然といえばそうだが)随分気安い。
頷き続きを促すグレイグさまに、しかしホメロスさまはにわかには信じがたいことを言った。
「しかし、だ。憐れなことにこの女、悪魔の子らを仲間と思い込んでいたようでな。
今回の件は、それでこいつが勝手に気を回してのことらしい。
…皮肉なことにその後見捨てられ、置き去りにされたのだがな」
わざとらしく、同情的に『私から聞き出した事情』を説明するホメロスさま。
しかし、それはまるきり大嘘だった。
しかも私を庇いさえするような内容を、似合わないまでに情緒的に述べる。
なぜこうまでに冷酷で狡猾なこの男が、このような言動をとるのか。
理由はすぐにわかった。
「くっ…。さすがは悪魔の子だ。悪辣な手を平気で使う」
「そうだ。そのせいでこの女は我々に反抗し、奴らの身代わりに捕らえられ、今や投獄を待つ身だ。
わかるな?こいつはもはや、死して日も見られん」
「なんということだ。許せん!!」
グレイグさまという男は、非常に単純なのだ。
だからこのように簡単に騙され、義憤にかられる。
そして私なんかよりずっとそのことをよく知るホメロスさまは、
実直を絵に書いたようなこの方の気質を利用するつもりなのだ。
「…私はこの娘があまりに憐れでなぁ。
デルカダール兵を翻弄した実績をもって、対悪魔の子の尖兵として雇い入れようと思うのだよ」
「王がそれを許すだろうか」
「私兵として、だ。お前は王に黙っていてくれればそれで良い」
このように。グレイグ様もほぼほぼ納得言ったように頷いた。
「なるほど。しかしホメロス…お前がまさか敵に同情するとはな」
ここではじめてグレイグさまは私の方を見た。
ひどく驚いていた。
私は今の今まで気づかなかったことに驚きなのだが、努めて口にも態度にも出さないようにした。
「まさか、エルザか?お前が…」
「お久しぶりですグレイグさま。このような形での再会となってしまい、残念極まりありません」
拘束されたままだがとりあえず元上司に頭を下げる。
それにはさすがのホメロスさまも多少驚いたようだ。
「なんと。二人は知り合いであったか」
彼の問いに、グレイグさまは多少の懐かしみを交えつつ答える。
「ああ。だいぶ以前だが、大発生した爆弾岩の討伐に、傭兵を募集したことがあっただろう。
エルザはその内の一人だ。
こう見えて優秀な魔法戦士で、俺の部下を救ってくれたのだ」
「ラグレイ兵士長か…確かに有能には違いないのだろうな。
いやそれだけにますます残念だよ」
一瞬、ただでさえ鋭いホメロスさまの視線が、一層強く刺さったのは気のせいだっただろうか。
寒気はしたが、とにかく。
そうだなと同調したグレイグさまは、少し考え込む素振りを見せる。
しかしそれは数秒とかからなかった。
「ホメロス。エルザはしばらくこちらで預かって良いか?」
「は?」
ホメロスさまとハモった。
そのことが屈辱的だったのだろう。彼は私を忌々しく睨んでから反論する。
「何を言っているのだグレイグ。そいつは私が捕えたのだぞ。
そして私兵にすると決めたのも私だ。横取りする気か?」
「せっかく手に入れた優秀な手駒とやらをいつも早々に使い潰すのはどこのどいつだ。
お前はいつもやりすぎる」
「ざっ…罪人なのだからかまわんだろう」
「だが同情もしたのだろう。ならば尚更俺に預けろ。
それに、俺の方が魔法戦士の扱いには慣れている」
言うが早いか、私を片手で(!)ひきずりながら、グレイグ様は退出した。
このテントで最後に見たのは呆気に取られ呆然と立ち尽くす、策に溺れた策士だった。