マスク・ザ・ハンサム
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マスク・ザ・ハンサムはグロッタ名物『仮面武闘会』の元闘士だ。
元、とは言っても彼自身が自らの意志によって引退したわけではない。
ただ単に勇者様たちが出場した前回大会を最後に武闘会そのものがなくなっただけである。
否応なく一般人に戻った彼は、けれどまだどこかで戦い続けているみたい。
その佇まいを見る限りスキはなく、実力としてはまだまだ現役と判断するのは容易だ。
無敵のチャンピオンことハンフリーほどではないけれど、腕が立つことで有名な闘士。
レディー・マッシヴなる謎のどハデで長身のおネエ闘士(なおそんな濃い人物なんて、
闘士どころかこの世に一人いれば充分である)と組んで、
ハンフリーを含めた優勝組を苦戦に追い込んだ実績もある。
…というのは後になって一緒にグロッタに訪れた際に、双子から聞いただけの話だけれど。
…観たかったなぁシルビアさんの雄姿。
なんで今年に限って観られなかったんだろうと己の不幸をカジュアルに呪う。
しかも最後の仮面武闘会だったのに…。
それはともかくいずれにしても、ハンサムは強い。
そして細面に似合わず彼も荒くれの一員である以上実力以上に油断はできない。
一方で勝算がないわけではなかった。
私だってこれまで伊達に戦ってきたわけではないのだ。
「マスク・ザ・ハンサム…」
「なんだ」
「戦う前に言っておきたいことがある」
「…言ってみろ」
すうっと深呼吸する。ここにきて、私は緊張していた。
なぜならば。答えは簡単だった。
「私はあんたのファンだった」
動揺したようにハンサムの目が見開かれた。
この瞬間がチャンスに他ならない。
剣を抜き、突進する。
シルビアさんやこの人のように華麗さはないが、それはこの際どうだって良い。
この不意打ち染みた初動で全てを決めるつもりだった。
「くっ…!」
しかしハンサムもシルビアさんが気にかけただけあって、やはりタダモノではない。
咄嗟に大振りなダガーをかまえ、私の剣を受ける。
私が上で、奴が下。
力はあちらが上かも知れないが、体重はかけることができる方が基本的には有利だ。
気にせず圧せばいい。
「くっそ、ぉおお!!」
ハンサムが、吠えた。
私に怒鳴るよりも大きく、線の細い面差しからは想像できない野太い声で。
これはやばいと思うが早いか、私はバックステップを踏む。
大きく力強く振られるダガーに当たりこそしなかったが、もしそうなら、流血は免れなかったに違いない。
「不意打ちなんて…卑怯だぞ」
「でも嘘は吐いてないよ。あとでサインください」
「断る!」
ハンサムはダガーをしまう――かと思えば今度は二連ブーメランにスイッチ。
一見明後日の方に投げられた双子のブイ字の挙動は、
途中で引き返してきて私を打ち据えるために計算し尽くされたものだ。
だが私は彼のやり口を知っている。
…元ファンゆえに。
ブーメランのあまりにも独特な挙動は読み辛く、躱し辛い。
しかし、それは正面からバカ正直に対応すればの話。
対策を取れば何のことはない。
呟くように、しかし己の中で最速を目指したピオリムを唱える。
それが功を奏し魔力は即座に筋肉を強化し、おかげで素早く地に伏せることができた。
次の瞬間、すぐ上背中スレスレをブーメランが風を切りながら通り抜ける。
「…素早いな。さすが泥棒猫といったところか」
「高速詠唱って結構レアな特技だよ羨ましい?まー恋愛脳にはわかんないか」
お約束の煽り合いに、お互いの怒りに染まった視線がかち合う。錯綜する。
「お前だけには言われたくない!!」
そしてセリフが全力で被る。
それにしても近づけば短剣離れればブーメランと、
ハンサムの戦い方は中々手堅い上に手数も多いのでつけ入り辛い。
こういう時こそハッタリ魔法生物『ビットくん』の出番なのだけれど、
アレは魔力を練るのに異常に時間がかかる。
相手の手数の多さを思えば言うまでもなく当然没だ。
「ふざけるな!!」
「お前がなぁ!!」
第二陣。斬りあう。
がちん、と片手剣とダガーが喧嘩する。
何度かの応酬。
がちんがちんとむしろ示し合わせたかのように、お互いに一歩も譲らない。
このままでは埒が明かない、そう思ったのはどちらが先か。
いずれにしても、先に行動したのは私だ。
嵐のフォース。属性という名の剣圧を乗せる。
「くっ」
再度の一撃。
風の力のせいで、ハンサムのダガーの力点が僅かにずれる。
それが狙いだった。
そのまま、剣に力を込める。
ダガーを弾き飛ばすために。
かしゃんと己の握力が勢いに負け、音を立てて落ちる己の武器に僅かに気を取られたハンサムの顔に、
今一度切りかかる。
「くっ…そ…!」
しかし元ファンなので、その美しい顔に傷をつける気など毛頭なかった。
ゆえにハンサムの顔面は苦痛ではなく屈辱に歪む。
その画は生々しくも直接的に伝わってきた。
私がいましがた、彼の仮面を割ったからだ。
仮面の戦士は大抵、それをひっぺがされるのを極端に忌み嫌う。
そういう信念のようなものこそないものの、
マスカレード装備を主とするだけの自分ですらそんな傾向が最近あるから、ハンサムはおそらくもっとだろう。
「…シルビアさんにふさわしいのはこれで私の方ってことになるかな」
「おま…え、…な、なんてことを…!」
言葉こそ強いが、しかし。
露わになったハンサムの両目から滂沱として涙が溢れる。
視点を引いてみれば女性のように滑らかで普段は抜けるように白い肌が、今は恥辱で真っ赤に染まっていた。
「ここまで…!ここまですること、ないだろっ…。うえええん!!」
「ええ…」
先ほどまでの高圧的な態度と堂々たる戦いぷりはどこへやら。
気弱な少女のように泣きじゃくり始めたハンサムを前に、私は言葉を失う。
っていうかこっちがいじめてるみたいだから本当にやめてほしい。
「…何をしてるの?」
そして一番聞きたくないタイミングで、普段は愛しい声が冷たく問いかけてきた。
元、とは言っても彼自身が自らの意志によって引退したわけではない。
ただ単に勇者様たちが出場した前回大会を最後に武闘会そのものがなくなっただけである。
否応なく一般人に戻った彼は、けれどまだどこかで戦い続けているみたい。
その佇まいを見る限りスキはなく、実力としてはまだまだ現役と判断するのは容易だ。
無敵のチャンピオンことハンフリーほどではないけれど、腕が立つことで有名な闘士。
レディー・マッシヴなる謎のどハデで長身のおネエ闘士(なおそんな濃い人物なんて、
闘士どころかこの世に一人いれば充分である)と組んで、
ハンフリーを含めた優勝組を苦戦に追い込んだ実績もある。
…というのは後になって一緒にグロッタに訪れた際に、双子から聞いただけの話だけれど。
…観たかったなぁシルビアさんの雄姿。
なんで今年に限って観られなかったんだろうと己の不幸をカジュアルに呪う。
しかも最後の仮面武闘会だったのに…。
それはともかくいずれにしても、ハンサムは強い。
そして細面に似合わず彼も荒くれの一員である以上実力以上に油断はできない。
一方で勝算がないわけではなかった。
私だってこれまで伊達に戦ってきたわけではないのだ。
「マスク・ザ・ハンサム…」
「なんだ」
「戦う前に言っておきたいことがある」
「…言ってみろ」
すうっと深呼吸する。ここにきて、私は緊張していた。
なぜならば。答えは簡単だった。
「私はあんたのファンだった」
動揺したようにハンサムの目が見開かれた。
この瞬間がチャンスに他ならない。
剣を抜き、突進する。
シルビアさんやこの人のように華麗さはないが、それはこの際どうだって良い。
この不意打ち染みた初動で全てを決めるつもりだった。
「くっ…!」
しかしハンサムもシルビアさんが気にかけただけあって、やはりタダモノではない。
咄嗟に大振りなダガーをかまえ、私の剣を受ける。
私が上で、奴が下。
力はあちらが上かも知れないが、体重はかけることができる方が基本的には有利だ。
気にせず圧せばいい。
「くっそ、ぉおお!!」
ハンサムが、吠えた。
私に怒鳴るよりも大きく、線の細い面差しからは想像できない野太い声で。
これはやばいと思うが早いか、私はバックステップを踏む。
大きく力強く振られるダガーに当たりこそしなかったが、もしそうなら、流血は免れなかったに違いない。
「不意打ちなんて…卑怯だぞ」
「でも嘘は吐いてないよ。あとでサインください」
「断る!」
ハンサムはダガーをしまう――かと思えば今度は二連ブーメランにスイッチ。
一見明後日の方に投げられた双子のブイ字の挙動は、
途中で引き返してきて私を打ち据えるために計算し尽くされたものだ。
だが私は彼のやり口を知っている。
…元ファンゆえに。
ブーメランのあまりにも独特な挙動は読み辛く、躱し辛い。
しかし、それは正面からバカ正直に対応すればの話。
対策を取れば何のことはない。
呟くように、しかし己の中で最速を目指したピオリムを唱える。
それが功を奏し魔力は即座に筋肉を強化し、おかげで素早く地に伏せることができた。
次の瞬間、すぐ上背中スレスレをブーメランが風を切りながら通り抜ける。
「…素早いな。さすが泥棒猫といったところか」
「高速詠唱って結構レアな特技だよ羨ましい?まー恋愛脳にはわかんないか」
お約束の煽り合いに、お互いの怒りに染まった視線がかち合う。錯綜する。
「お前だけには言われたくない!!」
そしてセリフが全力で被る。
それにしても近づけば短剣離れればブーメランと、
ハンサムの戦い方は中々手堅い上に手数も多いのでつけ入り辛い。
こういう時こそハッタリ魔法生物『ビットくん』の出番なのだけれど、
アレは魔力を練るのに異常に時間がかかる。
相手の手数の多さを思えば言うまでもなく当然没だ。
「ふざけるな!!」
「お前がなぁ!!」
第二陣。斬りあう。
がちん、と片手剣とダガーが喧嘩する。
何度かの応酬。
がちんがちんとむしろ示し合わせたかのように、お互いに一歩も譲らない。
このままでは埒が明かない、そう思ったのはどちらが先か。
いずれにしても、先に行動したのは私だ。
嵐のフォース。属性という名の剣圧を乗せる。
「くっ」
再度の一撃。
風の力のせいで、ハンサムのダガーの力点が僅かにずれる。
それが狙いだった。
そのまま、剣に力を込める。
ダガーを弾き飛ばすために。
かしゃんと己の握力が勢いに負け、音を立てて落ちる己の武器に僅かに気を取られたハンサムの顔に、
今一度切りかかる。
「くっ…そ…!」
しかし元ファンなので、その美しい顔に傷をつける気など毛頭なかった。
ゆえにハンサムの顔面は苦痛ではなく屈辱に歪む。
その画は生々しくも直接的に伝わってきた。
私がいましがた、彼の仮面を割ったからだ。
仮面の戦士は大抵、それをひっぺがされるのを極端に忌み嫌う。
そういう信念のようなものこそないものの、
マスカレード装備を主とするだけの自分ですらそんな傾向が最近あるから、ハンサムはおそらくもっとだろう。
「…シルビアさんにふさわしいのはこれで私の方ってことになるかな」
「おま…え、…な、なんてことを…!」
言葉こそ強いが、しかし。
露わになったハンサムの両目から滂沱として涙が溢れる。
視点を引いてみれば女性のように滑らかで普段は抜けるように白い肌が、今は恥辱で真っ赤に染まっていた。
「ここまで…!ここまですること、ないだろっ…。うえええん!!」
「ええ…」
先ほどまでの高圧的な態度と堂々たる戦いぷりはどこへやら。
気弱な少女のように泣きじゃくり始めたハンサムを前に、私は言葉を失う。
っていうかこっちがいじめてるみたいだから本当にやめてほしい。
「…何をしてるの?」
そして一番聞きたくないタイミングで、普段は愛しい声が冷たく問いかけてきた。