意地でも繋ぎ留める
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「…こういうことだったのです。皆さま、改めてご迷惑をおかけしました」
それからしばらく経ち、パーティーは再び合流した。
お互い芳しくなかった成果の報告をしあった直後、
セーニャさんは改めて己のわがままについて頭を下げたのである。
「よいよい。…しかし不思議な夢じゃのう」
「双子って要素も忘れちゃダメよ、ロウちゃん。
セーニャちゃんとベロニカちゃんは、アタシたちにはわからないふしぎな絆で結ばれてるのよ。
なんてロマンチックなの…!」
「っていうかそう謝られると、
いよいよタダのワガママでグレイグと組みたくなかった私も謝らなきゃいけない流れになるからほんとやめて」
それを聞いた別グループの彼らの感想はやはりフリーダムで。
しかし誰一人として怒っていなかった。
約一名に至っては、何やら琴線に触れたらしく、やたらとうっとりしている。
…いやもう一人いた。
勇者様は好奇心に目をきらきらと輝かせ、
セーニャさんに彼女が体験した不思議な夢についてもっと詳しく話すようにせがんでいた。
無言で。
これにはさすがのセーニャさんも苦笑いである。
「それにしても…、グループを分けてまでこれだけ戦って、10個いかないとは思わなかったわ」
埒があかない、と思ったのか。ベロニカちゃんが話題を変える。
主たる目的であるアレキサンドライトは本当に片手で数えるほどしかいただけなかった。
それでもこちらのグループの方がまだその数は多く、あちらはこれだけ長時間戦って3つという有様である。
そのかわり、両パーティー共にドクロの指輪はなぜか腐るほど入手できたのだが。
ちなみにこちらで獲得できた悪趣味な指輪は、全てカミュくんの手によってベロニカちゃんに渡っている。
強制的に。
ベロニカちゃんはもちろん大層嫌がっていたが。
「一応聞くが、イレブン。目標には届いておるかの?」
不思議な体験をしたセーニャさんに夢中になっていた勇者様だが、ロウさんのこの問いにはすぐに反応。
少し考え、でも首を横に振る。
不満そうだというのは誰の目にも明らかだ。
「これはまたエルザに来てもらわないとダメね。次も頼むわよ!」
「うん。次は組もうね、マルティナさん!」
「次回は譲らせていただきますわ」
「じゃあもういっそあたしたちだけで組まない?楽しそう!」
わいわいとそんな取り留めのない約束を交わしながら、帰り支度を始める。
例え極端に強くても、例え雪国でなくとも、日が暮れる前には森を抜けたい。
視界が暗いというだけで、色んな意味で危険度は増す。
旅慣れている者ほどそう思うものだ。
「そういえばさっき聞きそびれちゃったけど…セーニャちゃんもベロニカちゃんも、
どうしてそんなに血まみれなの?何か危険な目に…」
「そんなことないのよ、シルビアさん!
セーニャが魔物から守ってくれたのは良かったんだけど、こう、返り血がブシャーッ!!と」
「あらあら…でもここまでひどいと…困ったわね。時間も経っちゃってるし、洗って落ちるかしら…」
「うー。この服気に入ってたのに。凹むわー」
「ごめんなさい、お姉様…!」
「謝んないでよ、セーニャ!…あんたのお陰で助かったんだから!」
そこで一旦止める。
「ほんとよ。ありがと!」
ベロニカちゃんの満面の笑顔は、ただかわいい以外の感想が見つからなかった。
万年雪に突然咲いたひまわりみたいに、暖かな気持ちになる。
彼女を助けてくれたセーニャさんには感謝しかない。
…ここまできてふと思う。
なんで私は今回ここまで、大げさに言っていいほどこのことを捉えているのか。
いや、確かにベロニカちゃんは好きな子だ。大切な友だちだ。
でも…彼女(を含めてこの場にいる全員)が命の危機に瀕したことはこれが初めてではない。
むしろ常に側にいるわけではない私の知る限りですら何度でもあったし、
しかしそのすべてを皆が協力することで切り抜けてきた。
命のやりとりに対する緊張感に慣れはしなくとも、しかしはたしてここまで思うほどのことなのだろうか。
左胸の辺りに、奇妙な感覚が湧き上がる。
きゅんと刺すような、けれどもそれは痛みではない。もちろん恋とかそういう類でもない。
歯に物が挟まったかのような、ひたすらにすっきりしない感じが近い気がする。
同じように思っているのは、どうやら私だけではないらしい。
カミュくんも私と同じように胸に手を当て、微妙な表情を浮かべ、首を傾げていた。
「エルザちゃんどうしたの、ぼーっとして」
「あ、はいシルビアさん、ごめんなさい」
「なにもなければもう出発するわよって。大丈夫?」
「あ、うん。ありがとうございます」
生返事で返すことに対して若干罪悪感を覚えながら、でもそうすることしかできなかった。
シルビアさんは、何も感じないのだろうか。
説明するにはあまりにも情報量が足りない類の感情。…一体この感覚は何なのだろう。
「大丈夫なら良いわ。行きましょう。…でもその前に」
カミュくんに聞いてみたら良いかな、などと上の空で算段していた、その時。
シルビアさんがおもむろにナイフを抜く。
滅多に使わないようなものだ。
それを突然私に向けて投げてくる。
鋭く、それこそ投擲武器として。
ひ、とも声が出なかった。そして動けなかった。
シルビアさんがそのつもりで投げたナイフならば、恐らく当たっていただろう。
しかし結論を言えば、彼はそうする気なんかもちろんさらさらなかった。
ナイフは私の肩をすり抜け…、真っ直ぐすぐ後ろの茂みにいる何かに突き刺さり、肉々しい音を立てる。
そして何かがどうと倒れる音がした。
驚き、恐る恐る様子を見ると、胸からシルビアさんのナイフを生やしたオークが、今まさに息絶えようとしていた。
「だからぼーっとしちゃダメって言ったじゃない。
エルザちゃん今、狙われてたのよ」
「ごめんなさい…」
「いいのよ、気持ちはわかるもの。…さ、行きましょう」
さり気なく肩を抱かれ引き寄せられる。
返事をするタイミングは外してしまったが、
大人しく収まっているということで一つ察してほしいなと、勝手ながら思う。
…そんなことより、シルビアさんの面持ちもなんとなくすっきりしないものがあることに気づいた。
案外表に出してないだけで、私や恐らくカミュくんと同じような何とも言いがたい奇妙な感覚に、
もしかしたら彼も襲われていたのかも知れない。
それからしばらく経ち、パーティーは再び合流した。
お互い芳しくなかった成果の報告をしあった直後、
セーニャさんは改めて己のわがままについて頭を下げたのである。
「よいよい。…しかし不思議な夢じゃのう」
「双子って要素も忘れちゃダメよ、ロウちゃん。
セーニャちゃんとベロニカちゃんは、アタシたちにはわからないふしぎな絆で結ばれてるのよ。
なんてロマンチックなの…!」
「っていうかそう謝られると、
いよいよタダのワガママでグレイグと組みたくなかった私も謝らなきゃいけない流れになるからほんとやめて」
それを聞いた別グループの彼らの感想はやはりフリーダムで。
しかし誰一人として怒っていなかった。
約一名に至っては、何やら琴線に触れたらしく、やたらとうっとりしている。
…いやもう一人いた。
勇者様は好奇心に目をきらきらと輝かせ、
セーニャさんに彼女が体験した不思議な夢についてもっと詳しく話すようにせがんでいた。
無言で。
これにはさすがのセーニャさんも苦笑いである。
「それにしても…、グループを分けてまでこれだけ戦って、10個いかないとは思わなかったわ」
埒があかない、と思ったのか。ベロニカちゃんが話題を変える。
主たる目的であるアレキサンドライトは本当に片手で数えるほどしかいただけなかった。
それでもこちらのグループの方がまだその数は多く、あちらはこれだけ長時間戦って3つという有様である。
そのかわり、両パーティー共にドクロの指輪はなぜか腐るほど入手できたのだが。
ちなみにこちらで獲得できた悪趣味な指輪は、全てカミュくんの手によってベロニカちゃんに渡っている。
強制的に。
ベロニカちゃんはもちろん大層嫌がっていたが。
「一応聞くが、イレブン。目標には届いておるかの?」
不思議な体験をしたセーニャさんに夢中になっていた勇者様だが、ロウさんのこの問いにはすぐに反応。
少し考え、でも首を横に振る。
不満そうだというのは誰の目にも明らかだ。
「これはまたエルザに来てもらわないとダメね。次も頼むわよ!」
「うん。次は組もうね、マルティナさん!」
「次回は譲らせていただきますわ」
「じゃあもういっそあたしたちだけで組まない?楽しそう!」
わいわいとそんな取り留めのない約束を交わしながら、帰り支度を始める。
例え極端に強くても、例え雪国でなくとも、日が暮れる前には森を抜けたい。
視界が暗いというだけで、色んな意味で危険度は増す。
旅慣れている者ほどそう思うものだ。
「そういえばさっき聞きそびれちゃったけど…セーニャちゃんもベロニカちゃんも、
どうしてそんなに血まみれなの?何か危険な目に…」
「そんなことないのよ、シルビアさん!
セーニャが魔物から守ってくれたのは良かったんだけど、こう、返り血がブシャーッ!!と」
「あらあら…でもここまでひどいと…困ったわね。時間も経っちゃってるし、洗って落ちるかしら…」
「うー。この服気に入ってたのに。凹むわー」
「ごめんなさい、お姉様…!」
「謝んないでよ、セーニャ!…あんたのお陰で助かったんだから!」
そこで一旦止める。
「ほんとよ。ありがと!」
ベロニカちゃんの満面の笑顔は、ただかわいい以外の感想が見つからなかった。
万年雪に突然咲いたひまわりみたいに、暖かな気持ちになる。
彼女を助けてくれたセーニャさんには感謝しかない。
…ここまできてふと思う。
なんで私は今回ここまで、大げさに言っていいほどこのことを捉えているのか。
いや、確かにベロニカちゃんは好きな子だ。大切な友だちだ。
でも…彼女(を含めてこの場にいる全員)が命の危機に瀕したことはこれが初めてではない。
むしろ常に側にいるわけではない私の知る限りですら何度でもあったし、
しかしそのすべてを皆が協力することで切り抜けてきた。
命のやりとりに対する緊張感に慣れはしなくとも、しかしはたしてここまで思うほどのことなのだろうか。
左胸の辺りに、奇妙な感覚が湧き上がる。
きゅんと刺すような、けれどもそれは痛みではない。もちろん恋とかそういう類でもない。
歯に物が挟まったかのような、ひたすらにすっきりしない感じが近い気がする。
同じように思っているのは、どうやら私だけではないらしい。
カミュくんも私と同じように胸に手を当て、微妙な表情を浮かべ、首を傾げていた。
「エルザちゃんどうしたの、ぼーっとして」
「あ、はいシルビアさん、ごめんなさい」
「なにもなければもう出発するわよって。大丈夫?」
「あ、うん。ありがとうございます」
生返事で返すことに対して若干罪悪感を覚えながら、でもそうすることしかできなかった。
シルビアさんは、何も感じないのだろうか。
説明するにはあまりにも情報量が足りない類の感情。…一体この感覚は何なのだろう。
「大丈夫なら良いわ。行きましょう。…でもその前に」
カミュくんに聞いてみたら良いかな、などと上の空で算段していた、その時。
シルビアさんがおもむろにナイフを抜く。
滅多に使わないようなものだ。
それを突然私に向けて投げてくる。
鋭く、それこそ投擲武器として。
ひ、とも声が出なかった。そして動けなかった。
シルビアさんがそのつもりで投げたナイフならば、恐らく当たっていただろう。
しかし結論を言えば、彼はそうする気なんかもちろんさらさらなかった。
ナイフは私の肩をすり抜け…、真っ直ぐすぐ後ろの茂みにいる何かに突き刺さり、肉々しい音を立てる。
そして何かがどうと倒れる音がした。
驚き、恐る恐る様子を見ると、胸からシルビアさんのナイフを生やしたオークが、今まさに息絶えようとしていた。
「だからぼーっとしちゃダメって言ったじゃない。
エルザちゃん今、狙われてたのよ」
「ごめんなさい…」
「いいのよ、気持ちはわかるもの。…さ、行きましょう」
さり気なく肩を抱かれ引き寄せられる。
返事をするタイミングは外してしまったが、
大人しく収まっているということで一つ察してほしいなと、勝手ながら思う。
…そんなことより、シルビアさんの面持ちもなんとなくすっきりしないものがあることに気づいた。
案外表に出してないだけで、私や恐らくカミュくんと同じような何とも言いがたい奇妙な感覚に、
もしかしたら彼も襲われていたのかも知れない。