意地でも繋ぎ留める
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はたして奇跡は起きた。
というわけではなかった。
「セーニャ!追い込むわよ!準備なさい!」
「はいお姉さま!!」
当初双賢の姉妹は違う振り分けだった。
だが、やはりセーニャさんが頑なにそれを嫌がったのだ。
かくしていつも通りのセットは私と同じチームになった。
そして二人は今、ぴったりの息でマントゴーアを追い詰めている。
ベロニカちゃんの、長めの詠唱。
先程から雨嵐のように魔法を撃ちまくりマントゴーアは防戦一方だったが、
それを好機だと判断し、スキを見せた小さな魔法使いに牙を剥こうと走り寄る。
少女がしてやったりと笑ったのにも気づかずに。
「かかったわね!」
詠唱の大半は自称大魔法使いのフェイクだった。
実際は――一緒に戦ったことがある者ならなんとなくわかることだが、
『彼女にとっては』無用の長物であり、必要な詠唱はとっくに終えていたようだ。
つまり、メラゾーマはいつでもベロニカちゃんの好きなタイミングで打ち出せたと言うこと。
小さな手から不似合いなんてものじゃない巨大な火球が放たれ、至近距離の魔物の顔面を強烈に焦がす。
獅子の魔物が悲鳴をあげる。
聞くだに恐ろしいが、誰もそんなことで怯んだりなんかしない。
「今よみんな!」
言われるまでもない。
残りの全員がそれぞれの獲物を持ち、かかる。
両手に持った短剣で器用に切りかかるカミュくん。
杖で叩く私。
身の丈より長い槍で鋭く胴を突き刺すセーニャさん。
とどめにグレイグさまが両手剣でマントゴーアの頭を叩き潰した。
頭蓋骨を割られて生きていられる生物は恐らくそう多くない。
もちろんこの大型の怪物ですら例外ではなかった。
マントゴーアは倒れ伏し、そのまま動かなくなる。身体は少しずつ崩れ禍々しいもやとなり、闇に還っていく。
後に石が残っていた。拾い上げる。
「これがアレキサンドライト…」
鉱石というからなんかこう、鉄や銅のような無骨な石を思い浮かべていたが、まるで違った。
中心は深く、しかし透明感のある紫。
外に向かうにつれ、どう光が反射しているのか虹のようなグラデーションを生み出していた。
宝石のようだ、とすら思う。
「そうだ、キレイなもんだろ?…これがイレブンの手にかかりゃ、強い装備になっちまうんだ」
手にしたアレキサンドライトをカミュくんに渡すと、どこか誇らしげにそんなことを教えてくれた。
こんな極悪な寒さの森の奥地まで来てまで集めるくらいなのだから、よほど重要な素材に違いない。
それがどれほどのものかは、よくわからないけれど。
「しかし…意外と落ちぬものだな」
グレイグさまが手持ちの布で剣の血を丁寧に拭ってから鞘に納める。
「一応貴重な鉱石らしいし仕方ないわよ。長期戦になることを見越してエルザに来てもらったんだし」
小生意気な口調でベロニカちゃんが意見する。
恐らくデルカダールではまず考えられない光景だと思うと微笑ましかった。
「そうそう、気長にやるしかないよね。あ、ベロニカちゃん動かないで」
そんな彼女に自分の魔力を注入する。
私がみんなとは大きく戦力差があるにも関わらず、あえて呼ばれた理由の7割がこれだ。
自分の、ないし敵から奪った魔力を、消耗した人にわける。
そうすることで彼らは少しでも長く森に留まり、効率よくマントゴーア狩りを継続することができる。
同じことはロウさんでもできるが、
いくらあの方でも自分を含めて八人の魔力の面倒をいっぺんに見るのは難しいだろう。
そこで私の出番である。
殊、これに関してのみ言えば私の方が技術がむしろ上だ。
そもそも賢者という職業はやれることが多すぎるので、それくらい魔法戦士に譲ってくれて良いと思う。
ちなみに残り3割はバフ要員である。閑話休題。
「ありがとう、エルザ。おかげで思う存分暴れられるわ!」
お礼と物騒な台詞を同時に言ってのけるのが、いかにも強気なベロニカちゃんらしい。
あの豪快な魔法の数々を遠慮なしにぶっ放す様は見ていて気持ちがいいし、
そりゃあ私も魔力集めに精が出ると言うものだ。
…さっきマントゴーアにとどめを刺すのに杖で殴ったのはそういう意味だ
仕留めるのはグレイグさまに任せたのだ、
マホトラで良かったんじゃないか、とか考えちゃだめだ。
「どういたしまして。…セーニャさんもきてくれる?そろそろ消耗してきた頃でしょ」
「おねがいしますわ」
ぺこり、とお辞儀をされる。
よそよそしい、と思う人もいるかもしれないが、この子はこういう子だ。
とても、しっかりしている。
抜けたところも多いが、だからこそそこが愛嬌たり得る。
「しかし知らなかったなー。セーニャさん、槍も使えたなんて」
「私も、つい最近まで基礎の基礎しかできなかったんです。
でも、みな様ずいぶんと強くなられて、戦闘中私も手が空くことが増えて…。
その折、マルティナ様が教えてくださいました」
のほほんとした口調で説明するセーニャさん。彼女が最近と言えばたぶん最近なのだろう。
その割には(もちろんマルティナさんには及ばないとは言え)随分と鋭い立ち回りを見せていたけれど。
全く侮れない女性である。
「…すごいね。私も負けてられないな」
「そんな、私なんてまだまだですわ」
謙遜するセーニャさん。
たぶん本心であり、裏はない。
しかし、劣等感は確実に感じていた。
私ってなんだろうな。あ、電池か。
仮にも(魔法)戦士が僧侶に火力で負けるってどうなんだろう。
「…エルザ様が見ていてくださるから、私たちは安心して戦えるんです。忘れないでくださいませね」
「うん、ありがとう」
なんか見透かされた。
つくづく不思議な人だ。…いい人であることには変わりないけれど。
それとほとんど同時に魔力の注入が終わり、今度はセーニャさんがお礼を言う。
というわけではなかった。
「セーニャ!追い込むわよ!準備なさい!」
「はいお姉さま!!」
当初双賢の姉妹は違う振り分けだった。
だが、やはりセーニャさんが頑なにそれを嫌がったのだ。
かくしていつも通りのセットは私と同じチームになった。
そして二人は今、ぴったりの息でマントゴーアを追い詰めている。
ベロニカちゃんの、長めの詠唱。
先程から雨嵐のように魔法を撃ちまくりマントゴーアは防戦一方だったが、
それを好機だと判断し、スキを見せた小さな魔法使いに牙を剥こうと走り寄る。
少女がしてやったりと笑ったのにも気づかずに。
「かかったわね!」
詠唱の大半は自称大魔法使いのフェイクだった。
実際は――一緒に戦ったことがある者ならなんとなくわかることだが、
『彼女にとっては』無用の長物であり、必要な詠唱はとっくに終えていたようだ。
つまり、メラゾーマはいつでもベロニカちゃんの好きなタイミングで打ち出せたと言うこと。
小さな手から不似合いなんてものじゃない巨大な火球が放たれ、至近距離の魔物の顔面を強烈に焦がす。
獅子の魔物が悲鳴をあげる。
聞くだに恐ろしいが、誰もそんなことで怯んだりなんかしない。
「今よみんな!」
言われるまでもない。
残りの全員がそれぞれの獲物を持ち、かかる。
両手に持った短剣で器用に切りかかるカミュくん。
杖で叩く私。
身の丈より長い槍で鋭く胴を突き刺すセーニャさん。
とどめにグレイグさまが両手剣でマントゴーアの頭を叩き潰した。
頭蓋骨を割られて生きていられる生物は恐らくそう多くない。
もちろんこの大型の怪物ですら例外ではなかった。
マントゴーアは倒れ伏し、そのまま動かなくなる。身体は少しずつ崩れ禍々しいもやとなり、闇に還っていく。
後に石が残っていた。拾い上げる。
「これがアレキサンドライト…」
鉱石というからなんかこう、鉄や銅のような無骨な石を思い浮かべていたが、まるで違った。
中心は深く、しかし透明感のある紫。
外に向かうにつれ、どう光が反射しているのか虹のようなグラデーションを生み出していた。
宝石のようだ、とすら思う。
「そうだ、キレイなもんだろ?…これがイレブンの手にかかりゃ、強い装備になっちまうんだ」
手にしたアレキサンドライトをカミュくんに渡すと、どこか誇らしげにそんなことを教えてくれた。
こんな極悪な寒さの森の奥地まで来てまで集めるくらいなのだから、よほど重要な素材に違いない。
それがどれほどのものかは、よくわからないけれど。
「しかし…意外と落ちぬものだな」
グレイグさまが手持ちの布で剣の血を丁寧に拭ってから鞘に納める。
「一応貴重な鉱石らしいし仕方ないわよ。長期戦になることを見越してエルザに来てもらったんだし」
小生意気な口調でベロニカちゃんが意見する。
恐らくデルカダールではまず考えられない光景だと思うと微笑ましかった。
「そうそう、気長にやるしかないよね。あ、ベロニカちゃん動かないで」
そんな彼女に自分の魔力を注入する。
私がみんなとは大きく戦力差があるにも関わらず、あえて呼ばれた理由の7割がこれだ。
自分の、ないし敵から奪った魔力を、消耗した人にわける。
そうすることで彼らは少しでも長く森に留まり、効率よくマントゴーア狩りを継続することができる。
同じことはロウさんでもできるが、
いくらあの方でも自分を含めて八人の魔力の面倒をいっぺんに見るのは難しいだろう。
そこで私の出番である。
殊、これに関してのみ言えば私の方が技術がむしろ上だ。
そもそも賢者という職業はやれることが多すぎるので、それくらい魔法戦士に譲ってくれて良いと思う。
ちなみに残り3割はバフ要員である。閑話休題。
「ありがとう、エルザ。おかげで思う存分暴れられるわ!」
お礼と物騒な台詞を同時に言ってのけるのが、いかにも強気なベロニカちゃんらしい。
あの豪快な魔法の数々を遠慮なしにぶっ放す様は見ていて気持ちがいいし、
そりゃあ私も魔力集めに精が出ると言うものだ。
…さっきマントゴーアにとどめを刺すのに杖で殴ったのはそういう意味だ
仕留めるのはグレイグさまに任せたのだ、
マホトラで良かったんじゃないか、とか考えちゃだめだ。
「どういたしまして。…セーニャさんもきてくれる?そろそろ消耗してきた頃でしょ」
「おねがいしますわ」
ぺこり、とお辞儀をされる。
よそよそしい、と思う人もいるかもしれないが、この子はこういう子だ。
とても、しっかりしている。
抜けたところも多いが、だからこそそこが愛嬌たり得る。
「しかし知らなかったなー。セーニャさん、槍も使えたなんて」
「私も、つい最近まで基礎の基礎しかできなかったんです。
でも、みな様ずいぶんと強くなられて、戦闘中私も手が空くことが増えて…。
その折、マルティナ様が教えてくださいました」
のほほんとした口調で説明するセーニャさん。彼女が最近と言えばたぶん最近なのだろう。
その割には(もちろんマルティナさんには及ばないとは言え)随分と鋭い立ち回りを見せていたけれど。
全く侮れない女性である。
「…すごいね。私も負けてられないな」
「そんな、私なんてまだまだですわ」
謙遜するセーニャさん。
たぶん本心であり、裏はない。
しかし、劣等感は確実に感じていた。
私ってなんだろうな。あ、電池か。
仮にも(魔法)戦士が僧侶に火力で負けるってどうなんだろう。
「…エルザ様が見ていてくださるから、私たちは安心して戦えるんです。忘れないでくださいませね」
「うん、ありがとう」
なんか見透かされた。
つくづく不思議な人だ。…いい人であることには変わりないけれど。
それとほとんど同時に魔力の注入が終わり、今度はセーニャさんがお礼を言う。