意地でも繋ぎ留める
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
クレイモラン領はミルレアンの森。
今日は勇者様たちに雇われて私はここにいる。
彼らの目的はというと、マントゴーアが稀に落とすという、アレキサンドライトという貴重らしい鉱石。
勇者様はこれを使って、強力な装備を作り出すつもりなのだという。
なんとも地道な話だが、別に違法なことをするわけではないし、彼らについて行けば勉強になることも多い。
収入以上に魅力的な仕事だ。断る理由もなかった。
がその後である現在この考えを大いに後悔している。
「さっむ…!」
クレイモラン地方に来たのは初めてだった。
感想はというと、
めっちゃ寒い、めっちゃ寒い!
永久凍土、万年雪。樹氷、吹雪、もうなんでもいいや。
止むことのない雪が深々と降り積もった白銀の地は大変美しくはあったが、同時に死ぬほど寒かった。
「お、エルザ。雪国は初めてか?」
「そうだけど、もう寒くて。カミュくんは平気なのね…」
「まーな。オレ出身こっちだし」
本当になんでもない様子でカミュくんは言うと、何かを投げてくる。
「それでも被ってな。ちょっとはマシになるぜ」
毛皮のフードだった。
思いがけない彼の優しさに驚きすぎて、お礼の声が小さくなってしまう。
「あら、カミュってばずいぶんお優しいのね」
と、そこに嫌味がてら口を挟んだのはベロニカちゃんだ。
「別にいいだろ」
「だってあたしそういうことしてもらったことないし」
「あ?お前ならもう頭巾被ってんじゃねーか」
「そういうことじゃないわよっ」
「あらあら。お姉さまったらやきもちを焼いていらっしゃるのですね」
「そういうことでもないわよ!」
口喧嘩になりかけたのを、セーニャさんが諌め…ているのだろうかこれは。
本人の人間性を無視すれば煽っているともとられかねない言動に、
ベロニカちゃんもカミュくんもかえってやる気をなくす。
マルティナさんとは別の意味で無敵の存在だ。
「あらあんまりエルザに優しくしちゃダメよカミュ」
一行で最も薄着にも関わらず表情一つ変えないマルティナさんが、唐突に口を開く。
「はあ?マルティナまで何言って」
「だってエルザ、この後シルビアさんに暖めてもらうんだから」
「ちょ」
このお姫様なんてことを。
「え、お前おっさんとそんな関係だったの!?」
「知らないのたぶんカミュだけよ」
「マジか。いや意外だわー」
果たして意外なんだろうか。
別に隠してたつもりは(シルビアさんはともかく)ないし、
寝食共にしている八人中七人が知っているような関係をそう言うのだろうか。
大いに疑問だが言葉の綾だろうし、気にしないことにした。
「…エルザから毛皮のフードを取り返しますか?」
というふざけたマルティナさんの問いかけに、
「だから最初からそんなつもりじゃねーって」
とブレもせず答えきったカミュくん。
口は悪いが根はいいやつを地で行く彼に、思わず笑みがこぼれた。
「ありがとう、これすごい助かる」
もこもこで保温性抜群の毛皮のフードは本当に暖かくてありがたい。
「いいって。礼なら仕事で返してくれよ」
もちろん。
せっかくお金を出して傭兵を雇ったのに、寒くて仕事しませんでしたでは話にならない。
そもそも現場の環境の確認すらとらなかった私が悪いのだが、
それでも責めずに優しくしてくれるのだからこの人たちは本当に尊敬する。
そんなことを思っていると、
「ちょっとカミュちゃん」
「今度は彼氏かよ。…心配しなくてもエルザには手を出さねえって」
シルビアさんが口を開く。
まだこの話を引っ張るのかといい加減うんざりしてきたらしいカミュくんの言葉遣いは、
比例してぞんざいになってくる。
「彼氏!エルザちゃんの彼氏…になるのかしらアタシ?むしろ彼女?」
「どっちもいいです!」
「どうでもいいの間違いだろ」
ふわっふわの焼き立てパンでももう少ししっかりしているレベルのシルビアさんの自己認識。
シルビアさんが彼女っていうのもなんか良いのかも真剣に考える自分。
いい加減話題を変えたいカミュくん。三者三様の思惑と言動がカオスを生んだ。
「そうどっちでもいいのよ、そんな話をしに来たんじゃないの。
カミュちゃん!アタシ聞いたわよ!それで、一度言わなきゃダメって思ったの!」
シルビアさんは形の良い眉を吊り上げていた。彼にしては珍しく、ぷんぷん怒っていた。
「アタシおっさんじゃないわよ!」
「おっさんだろ」
「おっさんね」
「おっさんだわ」
一刀のもと切って捨てるカミュくんに今回ばかりは同調した。
ついでに面白がったマルティナさんも援護射撃してきた。
シルビアさんはくらり、と足元を乱す。
そして顔を覆い、大げさに泣き崩れる。
「ひどいわ!本当はアタシ、おっさんって言われて一番傷つくお年頃なのに!」
「知らなかったら言わないわよ。ほら、シルビアって若く見えるし」
褒めているように見せかけて完璧に貶してるマルティナさん。もう無茶苦茶だ。
王様に化けていたというウルなんとかって魔導師もびっくりの暴君だ。
お宅のお姫様やばいよとグレイグさまの方を見るが、目を逸らされてしまった。
なんて男だ。
国のトップクラスの人たちがこの有様。
デルカダールの将来が一国民として心配になってくる。
「あー、もうめんどくせーな。じゃあシルビアはなんて呼ばれてえの。
リクエストに応えてやるよ」
いたたまれない様子にかカミュくんが声をかける。
「やだなんかアタシがカミュちゃんに惚れそう」
いつの間にか復帰して、みんなと再び歩調を合わせるシルビアさんが、
何やらときめいたらしくきらきらした目で口を覆う。
確かに今のカミュくんはイケメン発言したからときめくのはわからなくないが、
若干イラッとしないでもない。
この感情、端的に言えば嫉妬である。
「そういうのいいから。おっさんが嫌ならなんて呼んだら良いか聞いてんだけど」
「そうねぇ…」
なんか前にもあった気がするやり取り。
シルビアさんは僅かに迷って言った。
「おネエちゃん、かしら」
「却下だ図々しい」
ざまあみろ。
今日は勇者様たちに雇われて私はここにいる。
彼らの目的はというと、マントゴーアが稀に落とすという、アレキサンドライトという貴重らしい鉱石。
勇者様はこれを使って、強力な装備を作り出すつもりなのだという。
なんとも地道な話だが、別に違法なことをするわけではないし、彼らについて行けば勉強になることも多い。
収入以上に魅力的な仕事だ。断る理由もなかった。
がその後である現在この考えを大いに後悔している。
「さっむ…!」
クレイモラン地方に来たのは初めてだった。
感想はというと、
めっちゃ寒い、めっちゃ寒い!
永久凍土、万年雪。樹氷、吹雪、もうなんでもいいや。
止むことのない雪が深々と降り積もった白銀の地は大変美しくはあったが、同時に死ぬほど寒かった。
「お、エルザ。雪国は初めてか?」
「そうだけど、もう寒くて。カミュくんは平気なのね…」
「まーな。オレ出身こっちだし」
本当になんでもない様子でカミュくんは言うと、何かを投げてくる。
「それでも被ってな。ちょっとはマシになるぜ」
毛皮のフードだった。
思いがけない彼の優しさに驚きすぎて、お礼の声が小さくなってしまう。
「あら、カミュってばずいぶんお優しいのね」
と、そこに嫌味がてら口を挟んだのはベロニカちゃんだ。
「別にいいだろ」
「だってあたしそういうことしてもらったことないし」
「あ?お前ならもう頭巾被ってんじゃねーか」
「そういうことじゃないわよっ」
「あらあら。お姉さまったらやきもちを焼いていらっしゃるのですね」
「そういうことでもないわよ!」
口喧嘩になりかけたのを、セーニャさんが諌め…ているのだろうかこれは。
本人の人間性を無視すれば煽っているともとられかねない言動に、
ベロニカちゃんもカミュくんもかえってやる気をなくす。
マルティナさんとは別の意味で無敵の存在だ。
「あらあんまりエルザに優しくしちゃダメよカミュ」
一行で最も薄着にも関わらず表情一つ変えないマルティナさんが、唐突に口を開く。
「はあ?マルティナまで何言って」
「だってエルザ、この後シルビアさんに暖めてもらうんだから」
「ちょ」
このお姫様なんてことを。
「え、お前おっさんとそんな関係だったの!?」
「知らないのたぶんカミュだけよ」
「マジか。いや意外だわー」
果たして意外なんだろうか。
別に隠してたつもりは(シルビアさんはともかく)ないし、
寝食共にしている八人中七人が知っているような関係をそう言うのだろうか。
大いに疑問だが言葉の綾だろうし、気にしないことにした。
「…エルザから毛皮のフードを取り返しますか?」
というふざけたマルティナさんの問いかけに、
「だから最初からそんなつもりじゃねーって」
とブレもせず答えきったカミュくん。
口は悪いが根はいいやつを地で行く彼に、思わず笑みがこぼれた。
「ありがとう、これすごい助かる」
もこもこで保温性抜群の毛皮のフードは本当に暖かくてありがたい。
「いいって。礼なら仕事で返してくれよ」
もちろん。
せっかくお金を出して傭兵を雇ったのに、寒くて仕事しませんでしたでは話にならない。
そもそも現場の環境の確認すらとらなかった私が悪いのだが、
それでも責めずに優しくしてくれるのだからこの人たちは本当に尊敬する。
そんなことを思っていると、
「ちょっとカミュちゃん」
「今度は彼氏かよ。…心配しなくてもエルザには手を出さねえって」
シルビアさんが口を開く。
まだこの話を引っ張るのかといい加減うんざりしてきたらしいカミュくんの言葉遣いは、
比例してぞんざいになってくる。
「彼氏!エルザちゃんの彼氏…になるのかしらアタシ?むしろ彼女?」
「どっちもいいです!」
「どうでもいいの間違いだろ」
ふわっふわの焼き立てパンでももう少ししっかりしているレベルのシルビアさんの自己認識。
シルビアさんが彼女っていうのもなんか良いのかも真剣に考える自分。
いい加減話題を変えたいカミュくん。三者三様の思惑と言動がカオスを生んだ。
「そうどっちでもいいのよ、そんな話をしに来たんじゃないの。
カミュちゃん!アタシ聞いたわよ!それで、一度言わなきゃダメって思ったの!」
シルビアさんは形の良い眉を吊り上げていた。彼にしては珍しく、ぷんぷん怒っていた。
「アタシおっさんじゃないわよ!」
「おっさんだろ」
「おっさんね」
「おっさんだわ」
一刀のもと切って捨てるカミュくんに今回ばかりは同調した。
ついでに面白がったマルティナさんも援護射撃してきた。
シルビアさんはくらり、と足元を乱す。
そして顔を覆い、大げさに泣き崩れる。
「ひどいわ!本当はアタシ、おっさんって言われて一番傷つくお年頃なのに!」
「知らなかったら言わないわよ。ほら、シルビアって若く見えるし」
褒めているように見せかけて完璧に貶してるマルティナさん。もう無茶苦茶だ。
王様に化けていたというウルなんとかって魔導師もびっくりの暴君だ。
お宅のお姫様やばいよとグレイグさまの方を見るが、目を逸らされてしまった。
なんて男だ。
国のトップクラスの人たちがこの有様。
デルカダールの将来が一国民として心配になってくる。
「あー、もうめんどくせーな。じゃあシルビアはなんて呼ばれてえの。
リクエストに応えてやるよ」
いたたまれない様子にかカミュくんが声をかける。
「やだなんかアタシがカミュちゃんに惚れそう」
いつの間にか復帰して、みんなと再び歩調を合わせるシルビアさんが、
何やらときめいたらしくきらきらした目で口を覆う。
確かに今のカミュくんはイケメン発言したからときめくのはわからなくないが、
若干イラッとしないでもない。
この感情、端的に言えば嫉妬である。
「そういうのいいから。おっさんが嫌ならなんて呼んだら良いか聞いてんだけど」
「そうねぇ…」
なんか前にもあった気がするやり取り。
シルビアさんは僅かに迷って言った。
「おネエちゃん、かしら」
「却下だ図々しい」
ざまあみろ。