DQ11
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「シルビアさん…だよ、ね?」
「ええそうよ。何かおかしいかしら?」
「いえ、おかしくはない…です…」
つい敬語になりながら、顔そむける。
ダーハルーネの洒落たオープンカフェ。
待ち合わせにやや遅れて登場したシルビアさんは、
普段のアバンギャルドな姿からは想像もできないほどかっちりとしたスーツに身を包んでいた。
ただ席につくという動作ですら彼のはひいき目なしに美しいのだが、
貴族然としたその格好はそれを一層引き立てていた。
注文をとりに来たウエイターにとりあえず飲み物だけお願いする。
「まずは…ごめんなさいね、エルザちゃん。魔物ちゃんがずいぶんとしつこくて、着替える暇がなかったの」
シルビアさんは最初にそう弁明してくる。
待ち合わせに遅刻した、といってもたかが数分だ。
ましてや魔物が凶暴化している昨今、予定通りに動けないことなどまるで珍しくなかった。
「仕方ないよ。私は大丈夫」
「…本当に?怒ってない?」
「本当」
「なら、なんでさっきから目を合わせてくれないの?」
首を僅かに傾げる彼は、なぜ自分がそんな目に遭っているのか皆目検討もつかないようだ。
普通に失礼だし申し訳ないのだけれど、格好良すぎて直視できないのだ。
…まさか自分にスーツ萌えの素養があるとは思わなかったが。
「それは、その…」
どうやってこれらをうまく説明しようか、いっそ誤魔化してしまおうかなどと考えあぐねていると。
「お待たせいたしました」
先ほどのウェイターが先ほど注文したお茶を置いていく。
早速シルビアさんは、可愛らしい装飾が施されたカップをとった。
「んー、ふふ。いい香り。アタシ、ここのお茶大好きなの」
「あ、私も好き。お茶ってよくわかんないけど、これは飲みやすくて」
「これ、さえずりのみつが入っているの。だからとっても甘いのよ」
「なるほどー。勉強になります」
ごくごくシンプルで最低限の説明でも充分に納得がいった。先に来ていた同じそれを、私も改めていただく。
華やかな香りが、なんだかとても楽しい気分にさせる。
いやしかし、今日は遊びに来たわけでも、ましてやデートしに来たわけでもない。
「ねえ、シルビアさん。そろそろ…」
ビジネスである。
道具袋から仕事用のメモとペンをひっぱり出して、かまえる。
「そうね。でもその前に、アタシは蒸し返すわよ。納得いってないから」
少々厳しい顔になったシルビアさんが、改めて言う。
「なんで目を合わせてくれないの?しかもさっき言ったのに」
このイベントスルーできなかったかー、たっはー!
と額でも打ちたい衝動に駆られたが、そんな空気ではとてもなかった。
シルビアさんからすれば不自然に感じられるのももっともな話。
だって私普段から自分でも引くくらいシルビアさんをガン見しているのだ。(いきすぎた)愛ゆえに。
ところが今日はどうだ。
あの見慣れた道化じみた格好ではない。
前衛的な私服でもない。
スーツだ。あまり一般的とは言えないライムグリーン色をしているとはいえ、その事実には変わりない。
ただでさえ格好が良いのに、これは反則を突っ切っている。
直視できるわけがないのだ。
「だって無理だもん」
「え?」
だから、自分の容姿に少々自覚が薄いシルビアさんにちょっと罰を受けてもらおうと、仮面を被ることにした。
欠かせなくも眩しすぎて直接見ることができない太陽を見る感覚で、あまりにも尊く、
素敵な彼をお望み通り見据える。
私は女優だ、言い聞かせる。
マルティナさんみたいな、クールで小悪魔的に微笑むことをひたすら意識する。
「今日のシルビアさんイケメンすぎて無理。惚れなおしちゃったの」
私の居直ったかのようなまさかの態度に言葉を失うシルビアさん。
もちろん反省はしていない。
シルビアさんは口もとを押さえ、一本取られたわね、なんてうそぶく。
「…だから嫌だったのよ、エルザちゃんと会う日にこれを着るの。
これ以上夢中にさせたら悪いわって思って」
いっそ心地良いくらいの負け惜しみだった。
珍しく私が(多分)勝ちを収め、
そして完全にバカップルの様相を呈しつつ、ようやく本題に入る。
「さて。今日の依頼はなんですか」
姿勢を改める。口に馴染んだ文句。
シルビアさんも先ほどまでの照れ行った様子はどこへやら、テーブルの上でゆっくりと手を組み、顎を乗せる。
「ボディガード、お願いできるかしら」
「ボディガード?なんでまた」
この人からにしては珍しい依頼だった。
そういう仕事はむしろ勇者さまたちが率先してこなすもので、私には通常まわってこない。
ではシルビアさんの?
…いや、彼が直接戦った方が間違いなく早い。
「アタシね、サーカスから声がかかったの。出演しないかって。
もちろん状況が状況だしお断りしようかと思っていたのだけど…。
みんなが良いんじゃないかとか、ベロニカちゃんやイレブンちゃんあたりはむしろ観たいって言ってくれて」
「私も観たいんですが」
シルビアさんが困ったように笑うが、それよりも気になる発言を聞いてしまった。
勇者さまが言った?
詳しく聞くよりも先にシルビアさんが再び口を開いてしまって、結局有耶無耶になってしまった。
「それで引き受けることにしたんだけど、そこの花形の女の子を誘拐するって犯罪予告が来ちゃって」
「察した。その子を守れってことね」
「そう。アタシからの紹介ってカタチになるかしらね。
ただでさえワガママ言ってる状況に近いから、
さすがにイレブンちゃんたちには頼めないし、アタシも恐らく動けないし…」
かと言ってサーカスに丸投げして放置するわけにもいかないし、というところか。
むしろ腕に覚えのある集団のこと、それ込みでの出演の依頼だったのかも知れない。
細かいことはわからないし追及する気もないが。
とにかくなんともシルビアさんらしい悩みだったし、実力でだいぶ劣る私にお声がかかるのも頷ける。
「わかった。当日の昼ご飯代で受けましょう!」
「本当に?本当にそんなので良いの?」
「シルビアさんと、私の仲だもの」
にっこりと笑ってみせるが、本音は今日の眼福のお礼である。
それに、ありがとうと言っていかにもほっとしたような笑みを浮かべるシルビアさん役に立てることが、私はそもそも嬉しいのだ。
「…でもシルビアさんのステージ見たかったな」
「ソデから意外と見えるわよ。もっとも、ほぼほぼ後ろからになるけど…」
「マジっすか。特等席じゃないですか」
「…お願いだからお仕事忘れないでね」
ちょっとだけ呆れたようにシルビアさんは言って、すっかり冷めてしまったお茶を飲み干す。
私はこくこくと頷いてから同じくそうした。
…それで伝票を持って席を立とうとしたのだけど、シルビアさんにふと思いついたように止められる。
「ねえ、やっぱりお昼食べていかない?アタシお腹減っちゃって」
そんなお誘いを断る理由が私のどこにあるだろうか。いやない(反語)。
何一つ躊躇いなく席に座り直した。
ここからはただの女子会でありデートでしかなかったのは、言うまでもないことである。
「ええそうよ。何かおかしいかしら?」
「いえ、おかしくはない…です…」
つい敬語になりながら、顔そむける。
ダーハルーネの洒落たオープンカフェ。
待ち合わせにやや遅れて登場したシルビアさんは、
普段のアバンギャルドな姿からは想像もできないほどかっちりとしたスーツに身を包んでいた。
ただ席につくという動作ですら彼のはひいき目なしに美しいのだが、
貴族然としたその格好はそれを一層引き立てていた。
注文をとりに来たウエイターにとりあえず飲み物だけお願いする。
「まずは…ごめんなさいね、エルザちゃん。魔物ちゃんがずいぶんとしつこくて、着替える暇がなかったの」
シルビアさんは最初にそう弁明してくる。
待ち合わせに遅刻した、といってもたかが数分だ。
ましてや魔物が凶暴化している昨今、予定通りに動けないことなどまるで珍しくなかった。
「仕方ないよ。私は大丈夫」
「…本当に?怒ってない?」
「本当」
「なら、なんでさっきから目を合わせてくれないの?」
首を僅かに傾げる彼は、なぜ自分がそんな目に遭っているのか皆目検討もつかないようだ。
普通に失礼だし申し訳ないのだけれど、格好良すぎて直視できないのだ。
…まさか自分にスーツ萌えの素養があるとは思わなかったが。
「それは、その…」
どうやってこれらをうまく説明しようか、いっそ誤魔化してしまおうかなどと考えあぐねていると。
「お待たせいたしました」
先ほどのウェイターが先ほど注文したお茶を置いていく。
早速シルビアさんは、可愛らしい装飾が施されたカップをとった。
「んー、ふふ。いい香り。アタシ、ここのお茶大好きなの」
「あ、私も好き。お茶ってよくわかんないけど、これは飲みやすくて」
「これ、さえずりのみつが入っているの。だからとっても甘いのよ」
「なるほどー。勉強になります」
ごくごくシンプルで最低限の説明でも充分に納得がいった。先に来ていた同じそれを、私も改めていただく。
華やかな香りが、なんだかとても楽しい気分にさせる。
いやしかし、今日は遊びに来たわけでも、ましてやデートしに来たわけでもない。
「ねえ、シルビアさん。そろそろ…」
ビジネスである。
道具袋から仕事用のメモとペンをひっぱり出して、かまえる。
「そうね。でもその前に、アタシは蒸し返すわよ。納得いってないから」
少々厳しい顔になったシルビアさんが、改めて言う。
「なんで目を合わせてくれないの?しかもさっき言ったのに」
このイベントスルーできなかったかー、たっはー!
と額でも打ちたい衝動に駆られたが、そんな空気ではとてもなかった。
シルビアさんからすれば不自然に感じられるのももっともな話。
だって私普段から自分でも引くくらいシルビアさんをガン見しているのだ。(いきすぎた)愛ゆえに。
ところが今日はどうだ。
あの見慣れた道化じみた格好ではない。
前衛的な私服でもない。
スーツだ。あまり一般的とは言えないライムグリーン色をしているとはいえ、その事実には変わりない。
ただでさえ格好が良いのに、これは反則を突っ切っている。
直視できるわけがないのだ。
「だって無理だもん」
「え?」
だから、自分の容姿に少々自覚が薄いシルビアさんにちょっと罰を受けてもらおうと、仮面を被ることにした。
欠かせなくも眩しすぎて直接見ることができない太陽を見る感覚で、あまりにも尊く、
素敵な彼をお望み通り見据える。
私は女優だ、言い聞かせる。
マルティナさんみたいな、クールで小悪魔的に微笑むことをひたすら意識する。
「今日のシルビアさんイケメンすぎて無理。惚れなおしちゃったの」
私の居直ったかのようなまさかの態度に言葉を失うシルビアさん。
もちろん反省はしていない。
シルビアさんは口もとを押さえ、一本取られたわね、なんてうそぶく。
「…だから嫌だったのよ、エルザちゃんと会う日にこれを着るの。
これ以上夢中にさせたら悪いわって思って」
いっそ心地良いくらいの負け惜しみだった。
珍しく私が(多分)勝ちを収め、
そして完全にバカップルの様相を呈しつつ、ようやく本題に入る。
「さて。今日の依頼はなんですか」
姿勢を改める。口に馴染んだ文句。
シルビアさんも先ほどまでの照れ行った様子はどこへやら、テーブルの上でゆっくりと手を組み、顎を乗せる。
「ボディガード、お願いできるかしら」
「ボディガード?なんでまた」
この人からにしては珍しい依頼だった。
そういう仕事はむしろ勇者さまたちが率先してこなすもので、私には通常まわってこない。
ではシルビアさんの?
…いや、彼が直接戦った方が間違いなく早い。
「アタシね、サーカスから声がかかったの。出演しないかって。
もちろん状況が状況だしお断りしようかと思っていたのだけど…。
みんなが良いんじゃないかとか、ベロニカちゃんやイレブンちゃんあたりはむしろ観たいって言ってくれて」
「私も観たいんですが」
シルビアさんが困ったように笑うが、それよりも気になる発言を聞いてしまった。
勇者さまが言った?
詳しく聞くよりも先にシルビアさんが再び口を開いてしまって、結局有耶無耶になってしまった。
「それで引き受けることにしたんだけど、そこの花形の女の子を誘拐するって犯罪予告が来ちゃって」
「察した。その子を守れってことね」
「そう。アタシからの紹介ってカタチになるかしらね。
ただでさえワガママ言ってる状況に近いから、
さすがにイレブンちゃんたちには頼めないし、アタシも恐らく動けないし…」
かと言ってサーカスに丸投げして放置するわけにもいかないし、というところか。
むしろ腕に覚えのある集団のこと、それ込みでの出演の依頼だったのかも知れない。
細かいことはわからないし追及する気もないが。
とにかくなんともシルビアさんらしい悩みだったし、実力でだいぶ劣る私にお声がかかるのも頷ける。
「わかった。当日の昼ご飯代で受けましょう!」
「本当に?本当にそんなので良いの?」
「シルビアさんと、私の仲だもの」
にっこりと笑ってみせるが、本音は今日の眼福のお礼である。
それに、ありがとうと言っていかにもほっとしたような笑みを浮かべるシルビアさん役に立てることが、私はそもそも嬉しいのだ。
「…でもシルビアさんのステージ見たかったな」
「ソデから意外と見えるわよ。もっとも、ほぼほぼ後ろからになるけど…」
「マジっすか。特等席じゃないですか」
「…お願いだからお仕事忘れないでね」
ちょっとだけ呆れたようにシルビアさんは言って、すっかり冷めてしまったお茶を飲み干す。
私はこくこくと頷いてから同じくそうした。
…それで伝票を持って席を立とうとしたのだけど、シルビアさんにふと思いついたように止められる。
「ねえ、やっぱりお昼食べていかない?アタシお腹減っちゃって」
そんなお誘いを断る理由が私のどこにあるだろうか。いやない(反語)。
何一つ躊躇いなく席に座り直した。
ここからはただの女子会でありデートでしかなかったのは、言うまでもないことである。