第一回壁ドン選手権
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「壁ドンね」
「壁ドンですわ」
「壁ドンだな」
壁ドンでそろそろゲシュタルトが崩壊しそうだがおよそ自分のせいである。
今日はダーハルーネ開催のイベント運営バイトの一観として、ビラ配りをしている。
ノルマは一人一日300枚だが、その内8枚を勇者様一行の一人一人に渡してしまった。
故にか彼らには意外と興味を持たれてこそいるが、勤務態度としてはかなりよろしくない。
まあバレなければなんてことない話だ。
「そうでーす。
『誰が一番ドキドキさせ上手?壁ドン選手権』優勝者には豪華な景品も出るのでぜひご参加くださーい」
「うわぁ…サイテーなコピーね」
真顔のベロニカちゃんが、ごもっともなことを言う。
「まあ確かに豪華ではあるけど…」
ビラに改めて目を落とすのはマルティナさん。優勝賞品はメタルのカケラが30個。
確かに基本的には硬くてすぐ逃げるあいつらからしか入手できないので間違いなく貴重ではあるのだが、
換金は別にせよ加工もされてないそれを必要としている人間は一体どれだけいるのだろうか。
「や、やる気充分じゃのイレブン」
と思ってたらロウさんの言うように、少なくともここにはいた。
実は鍛冶名人の勇者様が、(彼にとって)豪華な景品を前に、きらきらのお目々でやる気を出している。
「あらだめよイレブンちゃん。アナタに出場資格はないわ」
「なんでだ!?」
なんで?と哀れっぽく言いたげな勇者様の代わりにカミュくんが聞く。
異常に無口な勇者様の代弁を普通にしていることにまずツッコミを入れてほしいのだけど、
案の定スルーしてシルビアさんは応える。
「真エマのおまもり」
「なる程な。うんすげえ納得」
びっくりするくらい飾らないシルビアさんの言葉に、みな一様に納得していた。
私にはその単語の持つ意味がよくわからなかったけど。
「何がいけないんだ?」
そしてよく意味がわかってない人がもう一人。
グレイグさまである。
この人は何かと脳筋扱いされがちだが、仮にも将軍が務まっているくらいなので実はそう頭は悪くない。
ただ、仕事オア鍛錬みたいな生き方があまりにも浮世離れしすぎていて、俗世に疎いことが割とあった。
もしくは、仕事や戦い以外に対する頭の働きはやはり鈍かった。
結局今回もそのどちらかだろう。
それが前者であると察したシルビアさんは、心底面倒臭そうにため息をつく。
「ほんっと面倒くさいおじさんね。いいこと?壁ドンっていうのは」
彼に引っ掴まれ、手頃な壁に追いやられる私。
どん、と壁を叩かれ、公然でシルビアさんに迫られる。
「…こういう二人のロマンチックな状況のことを言うのよ」
壁ドンををあっという間に演出してみせる彼に、仲間内はおろか通行人からも拍手が沸き立った。
なんだかんだで目立つのが好きな旅芸人はその喝采を一身に受け、一礼。
ちゃっかりとちょっとしたパフォーマンスに仕上げてしまう。
恥ずかしさとなんだかなぁという気持ちとちょっと(かなり)嬉しいのとで大変複雑な気分だった。
「なる程」
「…もう結婚してるイレブンちゃんが出場しちゃったら、お嫁ちゃんがどんな顔するか」
「邪神を倒す前にイレブンが死ぬかもしれん」
唐突に話を戻すシルビアさんにしっかりついて行くグレイグさま。
これが旧知の仲が成せる技なのだろうか。
いやそれよりも、勇者様のお嫁さんってどういう人なんだろうということの方が気になってしょうがない。
怖い。
「では、どなたが出場なさるんでしょう。カミュ様?それともシルビア様ですか?」
セーニャさんが珍しく話の起動を修正する。
シルビアさんは間髪入れずに回答する。
「グレイグよ」
「ええ」
さすがのセーニャさんも困惑していた。
多分仲間の中でも一番そういう女の子の夢的な位置から遠い場所にいる男の壁ドン。
「全然想像がつきませんわ」
私はおろか、セーニャさんにも、ベロニカさんやマルティナさんにも予想がつかない。
そんな女性陣の様子を見て、シルビアさんはどや顔をする。
「想像できない?そうでしょうそうでしょう。アタシも想像できないわ。
この堅物筋肉おじさんがかわいい女の子に壁ドンして迫る絵なんて!
普通に犯罪よそんなの!」
「おい」
舞台上で演技するように大げさに身振りを入れて暴走を始めたシルビアさんを、グレイグさまが一声で止める。
「んん、失礼。とにかくね、カミュちゃんみたいなイケメンはきっといくらでも出てくるわ。
そこにただカミュちゃんを投入しても、きっと埋もれてしまうだけ…」
「オレなんかけなされてない?」
「多分気のせいじゃないわよ」
「マジか」
カミュくんとベロニカちゃんの雑談。
ビラを穴が開くほど見つめる勇者様、孫の熱心すぎる様子に引き気味のロウさん。
この中でシルビアさんの演説をまじめに聞く気があるのはセーニャさんと私くらいで。
なお自由人・マルティナさんは早くも飽きたらしく、先ほど出店にクレープを買いに行ってしまった。
「そ・こ・で!意表をついてデルカダール双頭の鷲の一角様の出番よん。意表はつけるわ、間違いなく」
「まあ!さすがシルビア様ですわね!」
ぱちぱちぱち、とセーニャさんが笑顔で拍手をする音が空しく響く。
彼女がどういう感情でシルビアさんを称賛したのかさっぱりわからない。
まさか変な電波で繋がってるんじゃなかろうな、と真剣に考えてしまう。
「…なんだかよくわからんが」
グレイグさまはそこで言葉を切る。
真剣そのものの視線の先にはコンテスト出場禁止を余儀なくされた勇者様。
「俺が出れば、優勝する可能性はあるわけだな?」
きりりと眉毛が上がる。
戦いに赴くかのようなその雄姿はまさしく、勇者の盾。
オフの彼は何かと残念だが、一度将軍の風格を纏えばそこらへんのイケメンになんか負けるはずがないのだ。
個人的な好みを抜きにすれば、顔だって悪くない。
「それはグレイグ次第よ」
シルビアさんは尤もなようで無責任なことを言った。
それに気づかないグレイグさまは何かの決意を固めたように、頷いた。
「壁ドンですわ」
「壁ドンだな」
壁ドンでそろそろゲシュタルトが崩壊しそうだがおよそ自分のせいである。
今日はダーハルーネ開催のイベント運営バイトの一観として、ビラ配りをしている。
ノルマは一人一日300枚だが、その内8枚を勇者様一行の一人一人に渡してしまった。
故にか彼らには意外と興味を持たれてこそいるが、勤務態度としてはかなりよろしくない。
まあバレなければなんてことない話だ。
「そうでーす。
『誰が一番ドキドキさせ上手?壁ドン選手権』優勝者には豪華な景品も出るのでぜひご参加くださーい」
「うわぁ…サイテーなコピーね」
真顔のベロニカちゃんが、ごもっともなことを言う。
「まあ確かに豪華ではあるけど…」
ビラに改めて目を落とすのはマルティナさん。優勝賞品はメタルのカケラが30個。
確かに基本的には硬くてすぐ逃げるあいつらからしか入手できないので間違いなく貴重ではあるのだが、
換金は別にせよ加工もされてないそれを必要としている人間は一体どれだけいるのだろうか。
「や、やる気充分じゃのイレブン」
と思ってたらロウさんの言うように、少なくともここにはいた。
実は鍛冶名人の勇者様が、(彼にとって)豪華な景品を前に、きらきらのお目々でやる気を出している。
「あらだめよイレブンちゃん。アナタに出場資格はないわ」
「なんでだ!?」
なんで?と哀れっぽく言いたげな勇者様の代わりにカミュくんが聞く。
異常に無口な勇者様の代弁を普通にしていることにまずツッコミを入れてほしいのだけど、
案の定スルーしてシルビアさんは応える。
「真エマのおまもり」
「なる程な。うんすげえ納得」
びっくりするくらい飾らないシルビアさんの言葉に、みな一様に納得していた。
私にはその単語の持つ意味がよくわからなかったけど。
「何がいけないんだ?」
そしてよく意味がわかってない人がもう一人。
グレイグさまである。
この人は何かと脳筋扱いされがちだが、仮にも将軍が務まっているくらいなので実はそう頭は悪くない。
ただ、仕事オア鍛錬みたいな生き方があまりにも浮世離れしすぎていて、俗世に疎いことが割とあった。
もしくは、仕事や戦い以外に対する頭の働きはやはり鈍かった。
結局今回もそのどちらかだろう。
それが前者であると察したシルビアさんは、心底面倒臭そうにため息をつく。
「ほんっと面倒くさいおじさんね。いいこと?壁ドンっていうのは」
彼に引っ掴まれ、手頃な壁に追いやられる私。
どん、と壁を叩かれ、公然でシルビアさんに迫られる。
「…こういう二人のロマンチックな状況のことを言うのよ」
壁ドンををあっという間に演出してみせる彼に、仲間内はおろか通行人からも拍手が沸き立った。
なんだかんだで目立つのが好きな旅芸人はその喝采を一身に受け、一礼。
ちゃっかりとちょっとしたパフォーマンスに仕上げてしまう。
恥ずかしさとなんだかなぁという気持ちとちょっと(かなり)嬉しいのとで大変複雑な気分だった。
「なる程」
「…もう結婚してるイレブンちゃんが出場しちゃったら、お嫁ちゃんがどんな顔するか」
「邪神を倒す前にイレブンが死ぬかもしれん」
唐突に話を戻すシルビアさんにしっかりついて行くグレイグさま。
これが旧知の仲が成せる技なのだろうか。
いやそれよりも、勇者様のお嫁さんってどういう人なんだろうということの方が気になってしょうがない。
怖い。
「では、どなたが出場なさるんでしょう。カミュ様?それともシルビア様ですか?」
セーニャさんが珍しく話の起動を修正する。
シルビアさんは間髪入れずに回答する。
「グレイグよ」
「ええ」
さすがのセーニャさんも困惑していた。
多分仲間の中でも一番そういう女の子の夢的な位置から遠い場所にいる男の壁ドン。
「全然想像がつきませんわ」
私はおろか、セーニャさんにも、ベロニカさんやマルティナさんにも予想がつかない。
そんな女性陣の様子を見て、シルビアさんはどや顔をする。
「想像できない?そうでしょうそうでしょう。アタシも想像できないわ。
この堅物筋肉おじさんがかわいい女の子に壁ドンして迫る絵なんて!
普通に犯罪よそんなの!」
「おい」
舞台上で演技するように大げさに身振りを入れて暴走を始めたシルビアさんを、グレイグさまが一声で止める。
「んん、失礼。とにかくね、カミュちゃんみたいなイケメンはきっといくらでも出てくるわ。
そこにただカミュちゃんを投入しても、きっと埋もれてしまうだけ…」
「オレなんかけなされてない?」
「多分気のせいじゃないわよ」
「マジか」
カミュくんとベロニカちゃんの雑談。
ビラを穴が開くほど見つめる勇者様、孫の熱心すぎる様子に引き気味のロウさん。
この中でシルビアさんの演説をまじめに聞く気があるのはセーニャさんと私くらいで。
なお自由人・マルティナさんは早くも飽きたらしく、先ほど出店にクレープを買いに行ってしまった。
「そ・こ・で!意表をついてデルカダール双頭の鷲の一角様の出番よん。意表はつけるわ、間違いなく」
「まあ!さすがシルビア様ですわね!」
ぱちぱちぱち、とセーニャさんが笑顔で拍手をする音が空しく響く。
彼女がどういう感情でシルビアさんを称賛したのかさっぱりわからない。
まさか変な電波で繋がってるんじゃなかろうな、と真剣に考えてしまう。
「…なんだかよくわからんが」
グレイグさまはそこで言葉を切る。
真剣そのものの視線の先にはコンテスト出場禁止を余儀なくされた勇者様。
「俺が出れば、優勝する可能性はあるわけだな?」
きりりと眉毛が上がる。
戦いに赴くかのようなその雄姿はまさしく、勇者の盾。
オフの彼は何かと残念だが、一度将軍の風格を纏えばそこらへんのイケメンになんか負けるはずがないのだ。
個人的な好みを抜きにすれば、顔だって悪くない。
「それはグレイグ次第よ」
シルビアさんは尤もなようで無責任なことを言った。
それに気づかないグレイグさまは何かの決意を固めたように、頷いた。