時代が生んだ深い闇
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人生始まって類を見ないレベルの危機的状況に置かれている。
そりゃ私も戦場に身を置く人間なので、命の危機に陥ったことは10や20ではない。
しかし。現状に比肩するレベルのことはどれだけあっただろうか。
何があったのかわからない。宿名物の大浴場に行って、温泉を満喫しただけだ。…それなのに。
装備がなくなっていた。下着を含めて。
どこを探してもまるで始めからそこにはなかったかのようにきれいさっぱり消えている。
それだけならまだ良い。良くはない。
代わりに置かれていた、うっすい白い布。
ひらりと軽すぎるそれを手に取った時には泣きそうになった。
というか今でも泣いてる。涙は出ないが、心で泣いている。
それでもそれ以外に身につけるに足るものがないため本当に泣く泣くそうした。
上からタオルで身体を巻いたが、羞恥という点でも頼り無さという点でも何ら変わりなかった。
そうして裸エプロンでシルビアさんの部屋に駆け込んだ時の彼の顔は、多分一生忘れられない。
びっくりするくらい口あんぐりだった。
これ以上ないくらい動揺している私が更に驚くレベルで。
そして星降りの腕輪でも装備しているのかと思うほどの速度でシーツを半ば投げるように渡され、
それにとにかく包まり、今に至る。
「何がどうしてそうなったの?って聞いてもどうせ無駄よねぇ…」
「無駄ですねー。浴場で盗まれたっていうのが一番妥当なセンだとは思うけど」
「裸エプロンに変わってたっていうのがどうも引っかかるわ。っていうか今日日裸エプロンって」
そう言われるとなんだか悲しくなってくる。
今までどうにかこらえてきた涙がとうとう溢れて、はらはらと落ちる。
シルビアさんは焦ってフォローしてきた。
「あぁ、別にエルザちゃんのせいじゃないのよ落ち着いて!裸エプロンのエルザちゃんもかわいいから!」
「…ほんと?」
「ほんとよ。…ねえアタシ今失言しちゃった気がするけれど、エルザちゃんはそれでいいの?」
「…案外イイかも」
「何か誤解された気がするわ」
状況はどうあれシルビアさんに褒められるのは嬉しい。
でもシーツを取ってお披露目はできない。
この手の衣装を完璧に着こなすマルティナさんへの引け目だった。
私じゃなくてマルティナさんが着てればそれはもう見事な裸エプロンが拝めたのだろう。
胸なんかそれこそぱっつんぱっつんになっていたに違いない。同性からしても実に刺激的な絵だ。
しかも彼女ならば実に堂々としたもので、私みたいに泣いたりなんかしないのだろう。
ああ、なんだか情けない。
「それにしても、女の子たちの部屋には行かなかったの?
セーニャちゃんからなら、替えの服を借りられたでしょうに」
「大浴場から部屋が近くて、しかもこんな時頼れそうなのがシルビアさんしかいなかったから…」
私を含めた女性陣の部屋は皆シルビアさんの部屋に比べれば遠い。
鋼の精神を持つであろう(と勝手に思っている)シルビアさんを頼るのはある意味必然だった。
「あぁ、そっか。脱衣場からそのカッコだものね。って言っても…」
でもそのシルビアさんは言葉を濁す。
とても気まずそうに。
「ごめんなさい…」
「いいのよ…とも言えないのよね。アタシだってムリなことってあるから」
思わず謝ると、そう言われる。
拒絶というわけではなく、むしろどこか気まずく、申し訳なさそうだった。
「まぁいいわ。それでも他の人の所へ行かれるよりはマシだし」
無理矢理ポジティブに捉えることにしたらしい。眉間に指を当て、頭痛を堪えるようにシルビアさんは続けた。
「でも次からはこういう時はお願いだから、なるべく女の子たちを頼ってちょうだいね…」
「だってシルビアさんなら信用できるって思って」
「ほんっと信頼が突き刺さるわ」
だめだこりゃと言わんばかりに首を振られる。何かまずいことを言っただろうか。
困った顔でこちら見てくるシルビアさんは、一定の距離からこちらに近づこうとはしない。
そういうところが全幅の信頼を寄せられる根拠になるのだけど…彼にも都合の悪いこともあるのか。
そういえば、最近シルビアさんに甘え過ぎな気がする。うん、もっと自立した大人にならないと。
と、今はどうでもいい決意を固める。
「でも、これからどうするの?
アタシの服を貸すって言ってもどう見繕ったってサイズが違いすぎるし…。
やっぱりアタシがセーニャちゃんから借りてきましょうか?」
「下着は替えがあるけど、上は…うーん、そうして貰うしかないかも…」
でもセーニャさん細いからなー。サイズが合う保証は全くなかった。
あと、明らかに小さいベロニカちゃんはともかく、マルティナさんという言葉が始めから出てこないのは、
多分気遣いなのだと思う。
いや彼女に比べたらみんな幼児体型だ。悲しくなんて…ない…。
「じゃあ掛け合ってみるから、エルザちゃんは待っててね」
自室のキーを渡すと、シルビアさんは安心させるような落ち着いたトーンで受け取ってくれる。
「あの」
「なぁに?」
「できるだけっ、ゆったり系でお願いしますって…」
「ふふ。はぁい」
にこっとシルビアさんは笑った。
実はこの人何気に私以上に私のサイズを把握していそうだ。
と自分で思っただけなのに、羞恥心で顔が赤くなる。いや、なんか…過激な妄想に持って行かれた。
話はまとまり、いざ、という時だった。
こんこん、と部屋がノックされる。
「エルザー。いるんでしょう?」
マルティナさんの声だった。
「ちょっとマルティナちゃん」
と、出迎えに行くのは私ではなくシルビアさん。
「ここ、エルザちゃんの部屋じゃないわよ」
「本人の部屋にいなかったから、じゃあシルビアのところかなと思って」
「…よくわかっていらっしゃること」
ひきつった笑みを浮かべるシルビアさん。
微笑むマルティナさん。
やっぱりこの小悪魔は色々と油断ならない。
と思いながら会話に参加しようと駆けつけると、彼女が両手に何か乗せていることに気づく。
「マルティナさん…これって」
丁寧に畳まれた分厚い布の塊。
それ以上に見覚えのある白い上下装備。
「これ、あなたのでしょう?気がついたら私の部屋にあったんだけど。どういうことなの?」
「わかんない…。私もお風呂に行ったら、それなくなってて」
「え、じゃあシーツの下は下着とか全裸なわけ?」
ちらちらとマルティナさんはシルビアさんを見ながら聞く。シルビアさんは露骨に目をそらした。
「どっちでもない…んだけど。なんていうか裸みたいな格好?っていうか」
「よくわからないけど、とにかく…。
私の装備とすり替えられたのかも知れないわね。ちょっと見せてもらうわよ?」
うん、と返事をして、シルビアさんからなるべく見えないようにひっそりとシーツを捲る。
「わかんないわよ」
マルティナさんはイラッとしたようだった。
普段から露出が多い装備をしている都合上、羞恥心がないわけではないだろうけど、
少なくとも心は強い彼女と私はだいぶ違う。
「きゃ、…っん」
つまりシーツをひん剝かれるのは、私にとっては大ダメージだ。
シルビアさんが止める間もなく、素肌が冷たい空気に露わになる。
全裸ではない。
そうではないのだけれど…そうではないだけで、ひたすら恥ずかしい格好。裸エプロン。
しかし一切動じなかったあたりはやはりさすがのマルティナさんで、
彼女の顔はむしろこれ以上ないくらい冷え切っていた。
「あー、ぜんっぜん違う。私こんなダサいの持ってない。何この胸のハート。昭和?
でもグレイグやロウ様あたりは喜びそうね。っていうかそもそも今日日裸エプロンとか」
もはや歯に絹を着せてほしいレベルの毒々しい物言い。
マルティナさんは一通り吐き捨てると、やはり誰かと同じくフォローするように言った。
「でも、かわいいわよエルザ。うんとってもかわいい」
優しい、優しい笑顔だった。
きらきらした、ピュアな少女の笑顔だった。
「良かったわね!シルビアさん!ぶっかけたって大丈夫!!」
ただし言動はその限りではなかった。
マルティナさんは渡したからねと私のマスカレード装備を置いて出ていってしまった。
「…良かったわねぇ、エルザちゃん」
「本当に。助かりましたシルビアさん。ありがとうございます!」
とはいえ本当はそんなに良くなかった。下着がない。インナーもない。
この後に及んでマルティナさんがそんな意地悪をするとは到底思えないから、
やはり一度盗まれたという事実には変わりはないだろう。それでも、良かった。
とりあえず着よう。それで体裁は整う。下着などの替えなら部屋まで戻れば多少はある。
なくなったぶんを買い足さねばならないのは痛いが、どちらにしろ消耗品だし仕方ないということに――。
「エルザちゃん」
振り返ると、にっこり笑うシルビアさん。
「せっかくだから、詳しく聞いていってちょうだい。アタシの、こういう時に頼られたくない理由」
「え、でも…」
言葉を濁す半裸の私を、シルビアさんは襲うでもなくそっと抱き寄せる。
慈愛に満ちた行動。しかし言動のギャップは、マルティナさん並か、それ以上。
「エルザちゃんが聞きたくないっていうのなら、いいのよ。
あくまでアタシが個人的に聞いてほしいだけだ・か・ら」
耳元でそんな風に甘く囁かれ、くすぐったいような、なんとも耐えがたい刺激に襲われる。
ぺろりと縁を舐められ、耳たぶを甘噛みされる。しかも結構強く。痛くないわけがない。
なのに、おそろしいくらい甘い。
「どう?」
なんて短く聞かれて、私に拒絶できる精神力などあろうはずもなかった。
そりゃ私も戦場に身を置く人間なので、命の危機に陥ったことは10や20ではない。
しかし。現状に比肩するレベルのことはどれだけあっただろうか。
何があったのかわからない。宿名物の大浴場に行って、温泉を満喫しただけだ。…それなのに。
装備がなくなっていた。下着を含めて。
どこを探してもまるで始めからそこにはなかったかのようにきれいさっぱり消えている。
それだけならまだ良い。良くはない。
代わりに置かれていた、うっすい白い布。
ひらりと軽すぎるそれを手に取った時には泣きそうになった。
というか今でも泣いてる。涙は出ないが、心で泣いている。
それでもそれ以外に身につけるに足るものがないため本当に泣く泣くそうした。
上からタオルで身体を巻いたが、羞恥という点でも頼り無さという点でも何ら変わりなかった。
そうして裸エプロンでシルビアさんの部屋に駆け込んだ時の彼の顔は、多分一生忘れられない。
びっくりするくらい口あんぐりだった。
これ以上ないくらい動揺している私が更に驚くレベルで。
そして星降りの腕輪でも装備しているのかと思うほどの速度でシーツを半ば投げるように渡され、
それにとにかく包まり、今に至る。
「何がどうしてそうなったの?って聞いてもどうせ無駄よねぇ…」
「無駄ですねー。浴場で盗まれたっていうのが一番妥当なセンだとは思うけど」
「裸エプロンに変わってたっていうのがどうも引っかかるわ。っていうか今日日裸エプロンって」
そう言われるとなんだか悲しくなってくる。
今までどうにかこらえてきた涙がとうとう溢れて、はらはらと落ちる。
シルビアさんは焦ってフォローしてきた。
「あぁ、別にエルザちゃんのせいじゃないのよ落ち着いて!裸エプロンのエルザちゃんもかわいいから!」
「…ほんと?」
「ほんとよ。…ねえアタシ今失言しちゃった気がするけれど、エルザちゃんはそれでいいの?」
「…案外イイかも」
「何か誤解された気がするわ」
状況はどうあれシルビアさんに褒められるのは嬉しい。
でもシーツを取ってお披露目はできない。
この手の衣装を完璧に着こなすマルティナさんへの引け目だった。
私じゃなくてマルティナさんが着てればそれはもう見事な裸エプロンが拝めたのだろう。
胸なんかそれこそぱっつんぱっつんになっていたに違いない。同性からしても実に刺激的な絵だ。
しかも彼女ならば実に堂々としたもので、私みたいに泣いたりなんかしないのだろう。
ああ、なんだか情けない。
「それにしても、女の子たちの部屋には行かなかったの?
セーニャちゃんからなら、替えの服を借りられたでしょうに」
「大浴場から部屋が近くて、しかもこんな時頼れそうなのがシルビアさんしかいなかったから…」
私を含めた女性陣の部屋は皆シルビアさんの部屋に比べれば遠い。
鋼の精神を持つであろう(と勝手に思っている)シルビアさんを頼るのはある意味必然だった。
「あぁ、そっか。脱衣場からそのカッコだものね。って言っても…」
でもそのシルビアさんは言葉を濁す。
とても気まずそうに。
「ごめんなさい…」
「いいのよ…とも言えないのよね。アタシだってムリなことってあるから」
思わず謝ると、そう言われる。
拒絶というわけではなく、むしろどこか気まずく、申し訳なさそうだった。
「まぁいいわ。それでも他の人の所へ行かれるよりはマシだし」
無理矢理ポジティブに捉えることにしたらしい。眉間に指を当て、頭痛を堪えるようにシルビアさんは続けた。
「でも次からはこういう時はお願いだから、なるべく女の子たちを頼ってちょうだいね…」
「だってシルビアさんなら信用できるって思って」
「ほんっと信頼が突き刺さるわ」
だめだこりゃと言わんばかりに首を振られる。何かまずいことを言っただろうか。
困った顔でこちら見てくるシルビアさんは、一定の距離からこちらに近づこうとはしない。
そういうところが全幅の信頼を寄せられる根拠になるのだけど…彼にも都合の悪いこともあるのか。
そういえば、最近シルビアさんに甘え過ぎな気がする。うん、もっと自立した大人にならないと。
と、今はどうでもいい決意を固める。
「でも、これからどうするの?
アタシの服を貸すって言ってもどう見繕ったってサイズが違いすぎるし…。
やっぱりアタシがセーニャちゃんから借りてきましょうか?」
「下着は替えがあるけど、上は…うーん、そうして貰うしかないかも…」
でもセーニャさん細いからなー。サイズが合う保証は全くなかった。
あと、明らかに小さいベロニカちゃんはともかく、マルティナさんという言葉が始めから出てこないのは、
多分気遣いなのだと思う。
いや彼女に比べたらみんな幼児体型だ。悲しくなんて…ない…。
「じゃあ掛け合ってみるから、エルザちゃんは待っててね」
自室のキーを渡すと、シルビアさんは安心させるような落ち着いたトーンで受け取ってくれる。
「あの」
「なぁに?」
「できるだけっ、ゆったり系でお願いしますって…」
「ふふ。はぁい」
にこっとシルビアさんは笑った。
実はこの人何気に私以上に私のサイズを把握していそうだ。
と自分で思っただけなのに、羞恥心で顔が赤くなる。いや、なんか…過激な妄想に持って行かれた。
話はまとまり、いざ、という時だった。
こんこん、と部屋がノックされる。
「エルザー。いるんでしょう?」
マルティナさんの声だった。
「ちょっとマルティナちゃん」
と、出迎えに行くのは私ではなくシルビアさん。
「ここ、エルザちゃんの部屋じゃないわよ」
「本人の部屋にいなかったから、じゃあシルビアのところかなと思って」
「…よくわかっていらっしゃること」
ひきつった笑みを浮かべるシルビアさん。
微笑むマルティナさん。
やっぱりこの小悪魔は色々と油断ならない。
と思いながら会話に参加しようと駆けつけると、彼女が両手に何か乗せていることに気づく。
「マルティナさん…これって」
丁寧に畳まれた分厚い布の塊。
それ以上に見覚えのある白い上下装備。
「これ、あなたのでしょう?気がついたら私の部屋にあったんだけど。どういうことなの?」
「わかんない…。私もお風呂に行ったら、それなくなってて」
「え、じゃあシーツの下は下着とか全裸なわけ?」
ちらちらとマルティナさんはシルビアさんを見ながら聞く。シルビアさんは露骨に目をそらした。
「どっちでもない…んだけど。なんていうか裸みたいな格好?っていうか」
「よくわからないけど、とにかく…。
私の装備とすり替えられたのかも知れないわね。ちょっと見せてもらうわよ?」
うん、と返事をして、シルビアさんからなるべく見えないようにひっそりとシーツを捲る。
「わかんないわよ」
マルティナさんはイラッとしたようだった。
普段から露出が多い装備をしている都合上、羞恥心がないわけではないだろうけど、
少なくとも心は強い彼女と私はだいぶ違う。
「きゃ、…っん」
つまりシーツをひん剝かれるのは、私にとっては大ダメージだ。
シルビアさんが止める間もなく、素肌が冷たい空気に露わになる。
全裸ではない。
そうではないのだけれど…そうではないだけで、ひたすら恥ずかしい格好。裸エプロン。
しかし一切動じなかったあたりはやはりさすがのマルティナさんで、
彼女の顔はむしろこれ以上ないくらい冷え切っていた。
「あー、ぜんっぜん違う。私こんなダサいの持ってない。何この胸のハート。昭和?
でもグレイグやロウ様あたりは喜びそうね。っていうかそもそも今日日裸エプロンとか」
もはや歯に絹を着せてほしいレベルの毒々しい物言い。
マルティナさんは一通り吐き捨てると、やはり誰かと同じくフォローするように言った。
「でも、かわいいわよエルザ。うんとってもかわいい」
優しい、優しい笑顔だった。
きらきらした、ピュアな少女の笑顔だった。
「良かったわね!シルビアさん!ぶっかけたって大丈夫!!」
ただし言動はその限りではなかった。
マルティナさんは渡したからねと私のマスカレード装備を置いて出ていってしまった。
「…良かったわねぇ、エルザちゃん」
「本当に。助かりましたシルビアさん。ありがとうございます!」
とはいえ本当はそんなに良くなかった。下着がない。インナーもない。
この後に及んでマルティナさんがそんな意地悪をするとは到底思えないから、
やはり一度盗まれたという事実には変わりはないだろう。それでも、良かった。
とりあえず着よう。それで体裁は整う。下着などの替えなら部屋まで戻れば多少はある。
なくなったぶんを買い足さねばならないのは痛いが、どちらにしろ消耗品だし仕方ないということに――。
「エルザちゃん」
振り返ると、にっこり笑うシルビアさん。
「せっかくだから、詳しく聞いていってちょうだい。アタシの、こういう時に頼られたくない理由」
「え、でも…」
言葉を濁す半裸の私を、シルビアさんは襲うでもなくそっと抱き寄せる。
慈愛に満ちた行動。しかし言動のギャップは、マルティナさん並か、それ以上。
「エルザちゃんが聞きたくないっていうのなら、いいのよ。
あくまでアタシが個人的に聞いてほしいだけだ・か・ら」
耳元でそんな風に甘く囁かれ、くすぐったいような、なんとも耐えがたい刺激に襲われる。
ぺろりと縁を舐められ、耳たぶを甘噛みされる。しかも結構強く。痛くないわけがない。
なのに、おそろしいくらい甘い。
「どう?」
なんて短く聞かれて、私に拒絶できる精神力などあろうはずもなかった。