Hell o Halloween
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騎士に騎士のコスプレをさせられている状況に誰か名前をつけてほしい。
「やだ、エルザちゃんったら思った以上に格好良いじゃない!」
いわゆる男装。
いつ測ったのか知らないけれど恐ろしいくらいに体型に沿ったの真っ黒なスーツに、
羽つきつば広の帽子。
金糸の刺繍とシルバーの装飾品が豪華かつ品が良くて、しかも動く邪魔はしない。
実用性を犠牲にしていないどころかむしろ戦いやすそうですらあるあたりが、
なんともシルビアさんらしいチョイスだった。
「んもう!まさにアタシの好みドストライクよ惚れ直しちゃうわ!」
「そりゃシルビアさんの趣味全開ですからね…」
「ああん、もう我慢できない!」
と言うのと同時にシルビアさんが抱きついて頬ずりしてくる。
やめて、ファンデーションが取れるから。
それあなたが先ほど一生懸命塗ってくれたやつですシルビアさん。
ヘアアレンジも含めて数時間のあなたの成果がご自分の手で台無しになってます!!
女子失格覚悟で言うけど、この異様な拘束時間が嫌だから逃げてたのに!
それでも覚悟を決めたのに!
ほんと、本当に…!
とはいえそういう魂の叫びはそれ以上の喜びによって瞬殺された。
だから、
「シルビアさん!そういうのはあとで!あーとーでー!」
と妙に上ずった声で叫ぶのが精一杯だった。
「ああ、ごめんなさい。それにしても、まったく。
ここまでの仕上がりになるなんて、自分の才能が怖くなっちゃうわ」
それはわかる。と、全身鏡を見る。
今回は『旅芸人の護衛の美少年黒猫騎士』という設定らしい。
まあ確かに私が私じゃないみたいというか、
入念に塗り上げられた化粧のおかげで元の面影を残しつつもまるで別人だし、そして間違いなく美少年だ。
ただし、くだんの彼はちょっと疲れた顔をしていた。
この流れなら当然だ。背後でご満悦のシルビアさんを鏡越しに見る。
「ん、っていうか黒猫?この格好猫要素ってあります?」
「エルザちゃん。猫耳とシッポなんて安易で安っぽいコスプレを、このアタシがさせると思って?」
吊り目がちにアイラインを強調され、確かに猫っぽいというかそういう印象は受ける気がする。
多分そのことを言っているのだろう。
なんというか、シルビアさんの目はマジと書いて本気で読ませる強引さがあった。
「じゃあこのなんちゃって騎士は…」
「エルザちゃん」
肩にポンと手を置かれる。
「かわいいは正義なの」
さっきと言っていることが全力で矛盾している彼の表情はひたすら晴れやかだった。
「…う、うん」
今日は完全にダメな時のシルビアさんだと悟りつつ宿屋を一旦出る。
今晩宿泊とはいえ見映えも悪いしメイクセットは片すべきなのだが、
残念ながらその常識を履行していては定刻に間に合わなくなってしまう(半分くらいは自分のせいだが)。
よって放置だ。
「…でも、ほんとに私で良かったんですか?」
歩く度にアクセサリーがぶつかってチャリチャリと音が鳴る。
このあたりは鈴をつけた飼い猫っぽいとなんとなく思う。
「当然よ、今更何言ってるの」
「でも、」
「アタシはエルザちゃんが好きだからってだけでアシスタントをお願いしたわけじゃないのよ。
あなたなら、アタシを素晴らしく引き立ててくれる。だから旅芸人シルビアとして依頼したの」
そう言うシルビアさんの表情は、いつも向けてくれる優しかったり甘かったりする類のものではない。
完璧に整えられた眉毛は己の判断に絶対の自信があることを証明するかのようにつり上がる。
不遜なまでに不敵な笑みを浮かべ。
完全に恋人ではなく、ビジネスパートナーを見る目で、言い放つ。
「ねえ。あなたは仕事を選ばないんでしょう、傭兵さん?
それとも、まだ見てもない観客のプレッシャーに圧しつぶされたのかしら?」
挑発されている。
この人は仕事のことになると非常に厳しいところがある。
が、そこで慄くような臆病な人間では、ゴリアテという人物のパートナーはあらゆる意味で務まらない。
「まさか。ちょっと確認したかっただけだよ。
…むしろシルビアさんこそ私にステージを食われないかって心配でもした方が良いんじゃない?」
だから喝を入れられたのだとし、強気に言い返す。
いっそ睨みつけるように、傲慢にでも笑んでみせる。
ハロウィンというと、理性も飛ばす乱痴気騒ぎを想像する。
しかし演者側はそうはいかない。
むしろ収穫祭も引っ括めて祭もステージも観客も多いこの時期は、一年の中でも正念場も正念場。
ともすればシルビアさんにとっては邪神討伐に並びかねないほどの重要な日なのかもしれない。
「その言葉が聞きたかったわ。さすがエルザちゃんね」
だから、アシスタントに選ばれたことを誇らしく思う。
そんなほのぼのとしたやり取りをしていると。
「エルザちゃん」
シルビアさんは大きな袋を持っていた。
もう時間がないので現地で打ち合わせのあとに着替えるらしい。
多分中には彼好みの原色をふんだんに使った派手派手な衣装が入っているのだろうが、
どう見ても服の袋のサイズではなかった。
そんな巨大なそれを唐突に押し付けられる。
基本的に、彼は紳士だ。
よほどの事情がない限り女性に荷物をもたせるようなことはしない。
…つまり、今はその例外が起きている。
「本当に無粋だこと」
眉間にしわを寄せ不機嫌な声音に変貌させながら、
シルビアさんはどこに持っていたのか短剣数本を投げる――私に向かって。
もちろん違う。私の背後にいた、魔物のきぐるみに向かってだ。
「アタシの護衛ちゃんに手を出そうなんて、いい度胸してるわ!」
きぐるみ怯んだ隙。鮮やかな身のこなし。
剣を抜きながら高くジャンプし、その異様なまでの身体能力を見せつけながら、一閃。
「紛れ込んでたのか…ありがとう、シルビアさん」
鋭く斬り伏せられ、断末魔も許されないまま闇に還る魔物のきぐるみの中には、本物の魔物が入っていた。
グリゴンダンスという、コミカルな見た目ながら知能の高いあくま系のモンスターである。
「ええ。人間も魔物の仮装するから、そこに目をつけたのかも知れないわね…」
シルビアさんよく気づいたなと思う反面、
非戦闘員が襲われていたらと思うとどこまでもぞっとする。
「このお祭りも、タダじゃ済まないかも知れないね…」
私に預けた荷物を受け取りながら、シルビアさんはさっきとはまた別方向に真剣な面持ちで言った。
「いいえ。それを済ませるのがアタシたちの仕事よ。…できるわね?」
「シルビアさんと一緒なら、なんでも」
「うふふ。エルザちゃんってば頼もしくてステキよ」
ハロウィンに飾り付けられ、浮かれる都会の街並み。
まだ魔物は他にいるのかいないのかすらわからない。
だけどショーの時間は迫る。
逢魔が時に、私たちは足を踏み入れた。
「やだ、エルザちゃんったら思った以上に格好良いじゃない!」
いわゆる男装。
いつ測ったのか知らないけれど恐ろしいくらいに体型に沿ったの真っ黒なスーツに、
羽つきつば広の帽子。
金糸の刺繍とシルバーの装飾品が豪華かつ品が良くて、しかも動く邪魔はしない。
実用性を犠牲にしていないどころかむしろ戦いやすそうですらあるあたりが、
なんともシルビアさんらしいチョイスだった。
「んもう!まさにアタシの好みドストライクよ惚れ直しちゃうわ!」
「そりゃシルビアさんの趣味全開ですからね…」
「ああん、もう我慢できない!」
と言うのと同時にシルビアさんが抱きついて頬ずりしてくる。
やめて、ファンデーションが取れるから。
それあなたが先ほど一生懸命塗ってくれたやつですシルビアさん。
ヘアアレンジも含めて数時間のあなたの成果がご自分の手で台無しになってます!!
女子失格覚悟で言うけど、この異様な拘束時間が嫌だから逃げてたのに!
それでも覚悟を決めたのに!
ほんと、本当に…!
とはいえそういう魂の叫びはそれ以上の喜びによって瞬殺された。
だから、
「シルビアさん!そういうのはあとで!あーとーでー!」
と妙に上ずった声で叫ぶのが精一杯だった。
「ああ、ごめんなさい。それにしても、まったく。
ここまでの仕上がりになるなんて、自分の才能が怖くなっちゃうわ」
それはわかる。と、全身鏡を見る。
今回は『旅芸人の護衛の美少年黒猫騎士』という設定らしい。
まあ確かに私が私じゃないみたいというか、
入念に塗り上げられた化粧のおかげで元の面影を残しつつもまるで別人だし、そして間違いなく美少年だ。
ただし、くだんの彼はちょっと疲れた顔をしていた。
この流れなら当然だ。背後でご満悦のシルビアさんを鏡越しに見る。
「ん、っていうか黒猫?この格好猫要素ってあります?」
「エルザちゃん。猫耳とシッポなんて安易で安っぽいコスプレを、このアタシがさせると思って?」
吊り目がちにアイラインを強調され、確かに猫っぽいというかそういう印象は受ける気がする。
多分そのことを言っているのだろう。
なんというか、シルビアさんの目はマジと書いて本気で読ませる強引さがあった。
「じゃあこのなんちゃって騎士は…」
「エルザちゃん」
肩にポンと手を置かれる。
「かわいいは正義なの」
さっきと言っていることが全力で矛盾している彼の表情はひたすら晴れやかだった。
「…う、うん」
今日は完全にダメな時のシルビアさんだと悟りつつ宿屋を一旦出る。
今晩宿泊とはいえ見映えも悪いしメイクセットは片すべきなのだが、
残念ながらその常識を履行していては定刻に間に合わなくなってしまう(半分くらいは自分のせいだが)。
よって放置だ。
「…でも、ほんとに私で良かったんですか?」
歩く度にアクセサリーがぶつかってチャリチャリと音が鳴る。
このあたりは鈴をつけた飼い猫っぽいとなんとなく思う。
「当然よ、今更何言ってるの」
「でも、」
「アタシはエルザちゃんが好きだからってだけでアシスタントをお願いしたわけじゃないのよ。
あなたなら、アタシを素晴らしく引き立ててくれる。だから旅芸人シルビアとして依頼したの」
そう言うシルビアさんの表情は、いつも向けてくれる優しかったり甘かったりする類のものではない。
完璧に整えられた眉毛は己の判断に絶対の自信があることを証明するかのようにつり上がる。
不遜なまでに不敵な笑みを浮かべ。
完全に恋人ではなく、ビジネスパートナーを見る目で、言い放つ。
「ねえ。あなたは仕事を選ばないんでしょう、傭兵さん?
それとも、まだ見てもない観客のプレッシャーに圧しつぶされたのかしら?」
挑発されている。
この人は仕事のことになると非常に厳しいところがある。
が、そこで慄くような臆病な人間では、ゴリアテという人物のパートナーはあらゆる意味で務まらない。
「まさか。ちょっと確認したかっただけだよ。
…むしろシルビアさんこそ私にステージを食われないかって心配でもした方が良いんじゃない?」
だから喝を入れられたのだとし、強気に言い返す。
いっそ睨みつけるように、傲慢にでも笑んでみせる。
ハロウィンというと、理性も飛ばす乱痴気騒ぎを想像する。
しかし演者側はそうはいかない。
むしろ収穫祭も引っ括めて祭もステージも観客も多いこの時期は、一年の中でも正念場も正念場。
ともすればシルビアさんにとっては邪神討伐に並びかねないほどの重要な日なのかもしれない。
「その言葉が聞きたかったわ。さすがエルザちゃんね」
だから、アシスタントに選ばれたことを誇らしく思う。
そんなほのぼのとしたやり取りをしていると。
「エルザちゃん」
シルビアさんは大きな袋を持っていた。
もう時間がないので現地で打ち合わせのあとに着替えるらしい。
多分中には彼好みの原色をふんだんに使った派手派手な衣装が入っているのだろうが、
どう見ても服の袋のサイズではなかった。
そんな巨大なそれを唐突に押し付けられる。
基本的に、彼は紳士だ。
よほどの事情がない限り女性に荷物をもたせるようなことはしない。
…つまり、今はその例外が起きている。
「本当に無粋だこと」
眉間にしわを寄せ不機嫌な声音に変貌させながら、
シルビアさんはどこに持っていたのか短剣数本を投げる――私に向かって。
もちろん違う。私の背後にいた、魔物のきぐるみに向かってだ。
「アタシの護衛ちゃんに手を出そうなんて、いい度胸してるわ!」
きぐるみ怯んだ隙。鮮やかな身のこなし。
剣を抜きながら高くジャンプし、その異様なまでの身体能力を見せつけながら、一閃。
「紛れ込んでたのか…ありがとう、シルビアさん」
鋭く斬り伏せられ、断末魔も許されないまま闇に還る魔物のきぐるみの中には、本物の魔物が入っていた。
グリゴンダンスという、コミカルな見た目ながら知能の高いあくま系のモンスターである。
「ええ。人間も魔物の仮装するから、そこに目をつけたのかも知れないわね…」
シルビアさんよく気づいたなと思う反面、
非戦闘員が襲われていたらと思うとどこまでもぞっとする。
「このお祭りも、タダじゃ済まないかも知れないね…」
私に預けた荷物を受け取りながら、シルビアさんはさっきとはまた別方向に真剣な面持ちで言った。
「いいえ。それを済ませるのがアタシたちの仕事よ。…できるわね?」
「シルビアさんと一緒なら、なんでも」
「うふふ。エルザちゃんってば頼もしくてステキよ」
ハロウィンに飾り付けられ、浮かれる都会の街並み。
まだ魔物は他にいるのかいないのかすらわからない。
だけどショーの時間は迫る。
逢魔が時に、私たちは足を踏み入れた。