「うふふふふふふ。追い詰めたわよぉ。いい加減観念して、アタシの手に落ちなさい」

「…し、シルビアさん…？」

怖い。普段は道化師然とした姿かたちながらどこまでも紳士的、そんなみんなのおネエ様ことシルビアさん。
そんな彼が豹変（？）した。
私とてこれまでだてに魔法戦士として戦ってきたわけではないけれども、
本気を出したこの方になんて敵うはずもない。

「ちょっと、マジで恐いんだけど…」

「怖くないわよ。うん、全然怖いことはしないわ」

「目が据わってるから…」

思わず剣を抜いたら手刀で落とされた。
攻撃呪文を唱えたらバギマで相殺された。
ガチ騎士相手にエセ戦士が徒手空拳で挑んだところで結果は言うまでもなく。
それでも諦めてなるものかと持ち前の素早さを活かして逃げてはいたが、
しかし相手は身軽な旅芸人。
悪役みたいな笑みを浮かべ、狩りでも楽しむように、じわじわと追い回された。
そんなこんなで現在私の背中はぴったり壁に張り付いている。逃げ場はもうない。

「うふふ。アタシのエルザちゃん。もう逃さないわん」

ほとんど密着していると言って差し支えない距離で、シルビアさんが私の頬をするりと撫で下ろす。

「…私の身体は思い通りになっても心までは」

「何言ってるのよん」

少しおどけた口調。
唐突に唇を柔らかく奪われる。

「エルザちゃんの心はとっくにアタシのもの。そうでしょう？」

あ、無理だこれは否定できない。
妖艶に、うっとりと、シルビアさんは目を細める。甘ったるく溶かされるような暖かさを否定できるはずもなく黙り込む羽目になる。
だってシルビアさんのともすればトンデモ発言は、恐ろしいくらいに的をぶち抜いているのだから。

「あら、急に大人しくなったわねぇ」

「わかってるくせに」

直視したくてもできない。
もうやだこの人大好きとこの状況でごく自然に思えてしまうのが我ながら恐ろしい。
色々と観念を通り越しもはや屈服している。
なす術なく思い通りにされていることに屈辱感がないわけではないが、
それを与えてくるのがこの人であるならばむしろ喜んで受け入れてしまえていた。

「エルザちゃんならわかってくれるって信じてたわ！さあ、早速始めちゃいましょう！」