DQ11
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魔法戦士は世間にはお洒落だ、と思われている節がある。
確かに有名所の最たるところであるホメロスさま
(ただしこの人はすでに行方不明だ)のように、
イケメンがスマートに鎧を着こなし優雅に片手剣を振り、
クールに魔法を使うみたいなイメージは確かにある。
私もああいう風になりたいなという憧れもなくはないが、
魔法戦士としての技能はともかく、
服飾においてセンスが皆無だということは、
これまで生きてきてもう何度も理解させられてきている。
おまけに、最近シルビアさんという
あまりにも最先端をぶっちぎるセンスの知人ができたお陰で、
装備を買うことすら近頃億劫だ。
なぜかって、なんとなく負い目を感じるからである。
気にしなくていいのに、と心の中のシルビアさんが言う。
そうだよね、と心の中で返す。
地道に働いたおかげでお金はある。
私はおよそ数カ月ぶりに、革の匂いが充満する防具屋に入る覚悟を決めた。
強くなることにおいて装備は絶対ではないがあるに超したことはない。
と言っていたのは誰だっただろうか。
もはや覚えてすらもいないが、それは割とどうでもいい。
なんとなく思い出したまでだ。
重要なのは新しい装備に身を包み、実際強くなれたかどうか。
装備も高級なものになってくると、魔法的な性能を持つものが出てくる。
属性や異常攻撃に耐性を持つものや、魔力をアップするものあたりが有名だろう。
私が選んだものもメジャーの範疇から外れない性能を持っていた。
以前メガトンケイルに良いようにやられた反省から、
魅了耐性を持つ防具を選んだ。
ついでにおまけ程度のものだが、魔力も増やしてくれる。
魔力電池の名をほしいままにする私に相応しい。
あと全体的にデザインが中々好みでもある。
兜とセットでついていた仮面なんか最高だ。
なんだかちょっとグロッタの仮面武闘会の闘士になったみたいでかっこいい。
マスカレードセット。
白で統一された雰囲気は何とも清らか。
短いスパンで装備を買い換えるスタイルだと到底手が出ない高級品だが、
今回ばかりはコンプレックスに多少感謝しても良いかもしれない。
それから数日とにかく気分が良かった。
さすが庶民とっては高嶺の花レベルの高級品
(っていうか魔法戦士の装備は全般的に高い)だけあって、
町人の注目を一身に浴びた。
少し恥ずかしかったが、これも努力の結果とそれ以上に誇らしかった。
強力な装備をしていることが目についたのか、魔物退治の依頼も増えた。
永らく鉄の胸当てとかだった以前と比較して、こんなに違うのかと驚くほど。
胡散臭いスピリチュアル商品のような成功ぷりに近いかもしれない。
この利益を今度は武器にまわそうか、とか皮算用していると、知った顔を見かけた。
「セーニャさん!」
ブロンドの美女はこちらを見て、微笑みかけようとして――固まった。
「ど、どちら様ですか?」
「やだなぁセーニャさん。エルザだよ」
たぶん兜も仮面もつけっぱなしだからわからなかったのだろう。
一旦それらを外すと、セーニャさんはほっとしたように笑う。
「エルザ様でしたか。失礼しましたわ。
…装備新調なさったんですか?」
「そうなの。お金も貯まったことだし、思い切っていいやつ買っちゃった」
「素敵です。とても、色もきれいで、その…個性的なデザインで」
「ありがとうセーニャさん!」
にっこりかわいらしく、いつものおっとりとした口調で褒めてくれる。
どことなく歯切れが悪い気がしたような、いやいや思い直す。
元々この人はこういう喋り方だった気がする。
「で、セーニャさんはどうして一人で?」
他の人たちはともかく、
いつも一緒にいるベロニカちゃんまでいないのは不思議だ。
手持ちのままでは邪魔な兜を被りなおしながら考える。
戦士系や兵士系の職業の人々は町中でも兜をつけたままの人が多いので、
別段不自然にはならない。
決して未だにはしゃいでいるわけではないと自分に言い聞かせる。
「実はちょっとそこのスイーツの屋台に気を取られていた隙に、
お姉様とはぐれてしまいまして…」
なんともセーニャさんらしい可愛らしい理由に微笑ましくなる。
もう彼女妙齢と呼ばれる年な気もするけど。
若干不安になりながら相槌を打つ。
「うーん。私も一緒に探すよ。こう人が多いと大変だよね」
「ありがとうございます…。
えっと…その…。話は戻りますが、できたら、
せめて仮面だけでも外していただけるとありがたいのですが」
「あ、セーニャさんもしかして仮面苦手?」
「え、えぇまぁ…」
セーニャさんがきまり悪く頷いた。
「ちょっと、そこの子困ってるじゃないのよ。
っていうかアタシの連れなんだけど。
ナンパとかやめてくれる?」
いつもの高く作った声ではない。
むしろ地声であり、ふつうに男声だ。
が、特徴的な声質とその女性口調が、
シルビアさんその人だと判断するには充分だった。
いつもは優しい彼が、私の肩を不機嫌に掴む。
あ、いつもと違う格好だから誤解が起きてる。
と、先ほどのセーニャさんの例もあったことですぐに判断できた私はなるべく冷静に、
「シルビアさん、私だよ」
と振り向いてみせる。
凄まれて正直ビビリ気味になっていたから、
むしろ意識してそうしなければならなかったのだ。
「は?え?エルザちゃん…?」
一方シルビアさんは思いっきり混乱する。
「シルビア様。確かにその方はエルザ様ですわ」
と、セーニャさんも援護をしてくれた。
もう一度、兜と仮面を外す。
「まー!」
シルビアさんはぽかんとした表情を浮かべた。
結構珍しい光景かもしれない。
「ご、ごめんなさいね、エルザちゃん。アタシてっきり…」
「見慣れない格好だし無理ないよ…」
いくら露出も凹凸も少ないとはいえ、
そして後ろから見ればマントで体型が見えないとはいえ、
ちょっとあんまりではないかと思うと傷つかないでもなかった。
ま、まあ以前の装備が装備だし、ということにしよう。
ほんと…じゃないと泣きそうだった。
「ねえ!シルビアさんおいてかな…エルザ?」
とてとてと可愛らしい歩調でこちらに歩いてくるも、
口調だけはとてもきつい。
ベロニカちゃんはシルビアさんに文句を言いながら現れるも、
すぐに私に気づいた。
「驚いた。装備買ったの?全然雰囲気違うじゃない」
「えっへへ。かっこいいでしょ」
「え、う、うん」
「お姉様!」
ベロニカちゃんからの感想も聞きたかったのに、
唐突にセーニャさんに邪魔される。
「どこに行ってらしたんですか?私、すごく探しましたのに!」
「いや、うん。
それすごいこっちのセリフ。
探したのどっちかって言うとシルビアさんとあたしだからね?」
そんな姉妹の微笑ましい漫才を眺めながら今一度兜を被る。
今回初めて買って知ったことだが、
頭装備を一々手持ちにすると心底邪魔なのである。
町中でも、肩こりと戦う羽目になってでも、
重たいのに兜をかぶり続ける戦士たちの気持ちが
この機会にようやくわかった。
閑話休題。
「さてと。セーニャちゃんとも無事再会できたことだし…」
シルビアさんが唐突にぱんと手を叩く。
「ちょっとエルザちゃん借りてもいいかしら」
「え?」
「ちょーーーーーっとお話したいことがあるの!」
「どうぞ」
「セーニャさん!?」
たまにセーニャさんは異様に辛辣なことがあるのだが、
そのたまにがなぜか私に発動した。
シルビアさんに半ば引きずられるように姉妹の元を後にする。
「もう、はぐれないでね!」
と残すと、
「ありがとうございました!」
とセーニャさんは天使のように笑った。
「正直に答えてちょうだい」
手っ取り早く人気のない路地裏に連れ込まれた。
シルビアさんの目は、真剣だった。
戦闘時、いやそれ以上。
もう一度ナンパと間違えたことを謝罪してからこの発言。
背中に冷たいものを感じながら、黙って続きを促す。
「どうしてその装備を買ったの?」
「え?」
「知ってるのよ。マスカレード装備は結構高いって。
…でもね。
ふつう、よっぽどの理由がない限りあえてそれを選ばない。
だって高いっていっても色々と性能は半端だし、
同じような価格ならそもそももっといいものがあるんだもの。
…だからなんでエルザちゃんがそれを選んだのか知りたいの」
何がそんなに気に入らないのかわからなかった。
こんなに不機嫌なシルビアさんは初めて見た気がする。
でもなぜかはわからない。
見当もつかない。
世間には自分の恋人が好きな服を買うのを制限するような人間がいるらしい。
まさかシルビアさんもその手の人なのだろうか。
そんなことを思いびくびくしながら、正直に告白する。
以前メガトンケイルに魅了され、
それでシルビアさんを殺しかけたのを未だに申し訳なく思っていることを。
だから高いとはいえ、魅了耐性を持つこの防具セットを選んだことを。
「エルザちゃん…そんな…」
「だめ、だったかな…?」
また何か言われるだろうか。
しかしあの出来事は色んな意味で私に衝撃を与えたには違いなかった。
「そんなことないわ!ご、ごめんなさい、アタシ…」
「それに…」
後者の理由もまた強かったのも事実だ。
「デザインがとても気に入ったってのもあって」
「あぁこれが…」
シルビアさんは眉間にこれ以上ないくらいシワを寄せ、
額を押さえ、声にならないうめき声をあげる。
…何か悪いこと言っただろうか。
「…ね、エルザちゃん」
「だめでしたか」
「だめっていうか…。正直に言いたいことはほんと色々とあるけど…」
とりあえず今は、とシルビアさんは唐突に私の兜を外す。
広くなった視界。
「買っちゃったものは仕方ないし、
人の趣味を悪く言いたくはないけれど、
せめて町中では外した方がいいわよ、これ」
「でも、邪魔に」
「でもじゃないの」
くいと顎を上げられ、反論しようとした口を塞がれる。
…シルビアさんの口で。
「キスするのに邪魔でしょう?」
ドヤ顔。
今度は私が声にならない悲鳴をあげた。
頬が瞬間沸騰する。
だって路地裏とはいえ、町中であり外だ。
ほんの一瞬、そんなのわかってる。
とても、とにかく恥ずかしい。
とにかく兜を被ってしまいたいが、
今シルビアさんに取り上げられたばかりだった。
「エルザちゃん」
「…はい」
「次から防具を買う時は、
アタシでもベロニカちゃんでも、セーニャちゃんでも、
他に知り合いがいればその人でもいいわ。
とにかく誰かに、お願いだから誰かに相談してちょうだい」
「はい…」
謎の気迫に気圧され、つい承諾してしまう。
だがなぜシルビアさんがこんなに真剣なのか、私にはついぞわかることはなかった。
…と思ったら後ほど存外にあっさりわかった。
マルティナさんに「何そのカッコ。ダッサ」
と吐き捨てられたからである。
そして私は泣いた。
確かに有名所の最たるところであるホメロスさま
(ただしこの人はすでに行方不明だ)のように、
イケメンがスマートに鎧を着こなし優雅に片手剣を振り、
クールに魔法を使うみたいなイメージは確かにある。
私もああいう風になりたいなという憧れもなくはないが、
魔法戦士としての技能はともかく、
服飾においてセンスが皆無だということは、
これまで生きてきてもう何度も理解させられてきている。
おまけに、最近シルビアさんという
あまりにも最先端をぶっちぎるセンスの知人ができたお陰で、
装備を買うことすら近頃億劫だ。
なぜかって、なんとなく負い目を感じるからである。
気にしなくていいのに、と心の中のシルビアさんが言う。
そうだよね、と心の中で返す。
地道に働いたおかげでお金はある。
私はおよそ数カ月ぶりに、革の匂いが充満する防具屋に入る覚悟を決めた。
強くなることにおいて装備は絶対ではないがあるに超したことはない。
と言っていたのは誰だっただろうか。
もはや覚えてすらもいないが、それは割とどうでもいい。
なんとなく思い出したまでだ。
重要なのは新しい装備に身を包み、実際強くなれたかどうか。
装備も高級なものになってくると、魔法的な性能を持つものが出てくる。
属性や異常攻撃に耐性を持つものや、魔力をアップするものあたりが有名だろう。
私が選んだものもメジャーの範疇から外れない性能を持っていた。
以前メガトンケイルに良いようにやられた反省から、
魅了耐性を持つ防具を選んだ。
ついでにおまけ程度のものだが、魔力も増やしてくれる。
魔力電池の名をほしいままにする私に相応しい。
あと全体的にデザインが中々好みでもある。
兜とセットでついていた仮面なんか最高だ。
なんだかちょっとグロッタの仮面武闘会の闘士になったみたいでかっこいい。
マスカレードセット。
白で統一された雰囲気は何とも清らか。
短いスパンで装備を買い換えるスタイルだと到底手が出ない高級品だが、
今回ばかりはコンプレックスに多少感謝しても良いかもしれない。
それから数日とにかく気分が良かった。
さすが庶民とっては高嶺の花レベルの高級品
(っていうか魔法戦士の装備は全般的に高い)だけあって、
町人の注目を一身に浴びた。
少し恥ずかしかったが、これも努力の結果とそれ以上に誇らしかった。
強力な装備をしていることが目についたのか、魔物退治の依頼も増えた。
永らく鉄の胸当てとかだった以前と比較して、こんなに違うのかと驚くほど。
胡散臭いスピリチュアル商品のような成功ぷりに近いかもしれない。
この利益を今度は武器にまわそうか、とか皮算用していると、知った顔を見かけた。
「セーニャさん!」
ブロンドの美女はこちらを見て、微笑みかけようとして――固まった。
「ど、どちら様ですか?」
「やだなぁセーニャさん。エルザだよ」
たぶん兜も仮面もつけっぱなしだからわからなかったのだろう。
一旦それらを外すと、セーニャさんはほっとしたように笑う。
「エルザ様でしたか。失礼しましたわ。
…装備新調なさったんですか?」
「そうなの。お金も貯まったことだし、思い切っていいやつ買っちゃった」
「素敵です。とても、色もきれいで、その…個性的なデザインで」
「ありがとうセーニャさん!」
にっこりかわいらしく、いつものおっとりとした口調で褒めてくれる。
どことなく歯切れが悪い気がしたような、いやいや思い直す。
元々この人はこういう喋り方だった気がする。
「で、セーニャさんはどうして一人で?」
他の人たちはともかく、
いつも一緒にいるベロニカちゃんまでいないのは不思議だ。
手持ちのままでは邪魔な兜を被りなおしながら考える。
戦士系や兵士系の職業の人々は町中でも兜をつけたままの人が多いので、
別段不自然にはならない。
決して未だにはしゃいでいるわけではないと自分に言い聞かせる。
「実はちょっとそこのスイーツの屋台に気を取られていた隙に、
お姉様とはぐれてしまいまして…」
なんともセーニャさんらしい可愛らしい理由に微笑ましくなる。
もう彼女妙齢と呼ばれる年な気もするけど。
若干不安になりながら相槌を打つ。
「うーん。私も一緒に探すよ。こう人が多いと大変だよね」
「ありがとうございます…。
えっと…その…。話は戻りますが、できたら、
せめて仮面だけでも外していただけるとありがたいのですが」
「あ、セーニャさんもしかして仮面苦手?」
「え、えぇまぁ…」
セーニャさんがきまり悪く頷いた。
「ちょっと、そこの子困ってるじゃないのよ。
っていうかアタシの連れなんだけど。
ナンパとかやめてくれる?」
いつもの高く作った声ではない。
むしろ地声であり、ふつうに男声だ。
が、特徴的な声質とその女性口調が、
シルビアさんその人だと判断するには充分だった。
いつもは優しい彼が、私の肩を不機嫌に掴む。
あ、いつもと違う格好だから誤解が起きてる。
と、先ほどのセーニャさんの例もあったことですぐに判断できた私はなるべく冷静に、
「シルビアさん、私だよ」
と振り向いてみせる。
凄まれて正直ビビリ気味になっていたから、
むしろ意識してそうしなければならなかったのだ。
「は?え?エルザちゃん…?」
一方シルビアさんは思いっきり混乱する。
「シルビア様。確かにその方はエルザ様ですわ」
と、セーニャさんも援護をしてくれた。
もう一度、兜と仮面を外す。
「まー!」
シルビアさんはぽかんとした表情を浮かべた。
結構珍しい光景かもしれない。
「ご、ごめんなさいね、エルザちゃん。アタシてっきり…」
「見慣れない格好だし無理ないよ…」
いくら露出も凹凸も少ないとはいえ、
そして後ろから見ればマントで体型が見えないとはいえ、
ちょっとあんまりではないかと思うと傷つかないでもなかった。
ま、まあ以前の装備が装備だし、ということにしよう。
ほんと…じゃないと泣きそうだった。
「ねえ!シルビアさんおいてかな…エルザ?」
とてとてと可愛らしい歩調でこちらに歩いてくるも、
口調だけはとてもきつい。
ベロニカちゃんはシルビアさんに文句を言いながら現れるも、
すぐに私に気づいた。
「驚いた。装備買ったの?全然雰囲気違うじゃない」
「えっへへ。かっこいいでしょ」
「え、う、うん」
「お姉様!」
ベロニカちゃんからの感想も聞きたかったのに、
唐突にセーニャさんに邪魔される。
「どこに行ってらしたんですか?私、すごく探しましたのに!」
「いや、うん。
それすごいこっちのセリフ。
探したのどっちかって言うとシルビアさんとあたしだからね?」
そんな姉妹の微笑ましい漫才を眺めながら今一度兜を被る。
今回初めて買って知ったことだが、
頭装備を一々手持ちにすると心底邪魔なのである。
町中でも、肩こりと戦う羽目になってでも、
重たいのに兜をかぶり続ける戦士たちの気持ちが
この機会にようやくわかった。
閑話休題。
「さてと。セーニャちゃんとも無事再会できたことだし…」
シルビアさんが唐突にぱんと手を叩く。
「ちょっとエルザちゃん借りてもいいかしら」
「え?」
「ちょーーーーーっとお話したいことがあるの!」
「どうぞ」
「セーニャさん!?」
たまにセーニャさんは異様に辛辣なことがあるのだが、
そのたまにがなぜか私に発動した。
シルビアさんに半ば引きずられるように姉妹の元を後にする。
「もう、はぐれないでね!」
と残すと、
「ありがとうございました!」
とセーニャさんは天使のように笑った。
「正直に答えてちょうだい」
手っ取り早く人気のない路地裏に連れ込まれた。
シルビアさんの目は、真剣だった。
戦闘時、いやそれ以上。
もう一度ナンパと間違えたことを謝罪してからこの発言。
背中に冷たいものを感じながら、黙って続きを促す。
「どうしてその装備を買ったの?」
「え?」
「知ってるのよ。マスカレード装備は結構高いって。
…でもね。
ふつう、よっぽどの理由がない限りあえてそれを選ばない。
だって高いっていっても色々と性能は半端だし、
同じような価格ならそもそももっといいものがあるんだもの。
…だからなんでエルザちゃんがそれを選んだのか知りたいの」
何がそんなに気に入らないのかわからなかった。
こんなに不機嫌なシルビアさんは初めて見た気がする。
でもなぜかはわからない。
見当もつかない。
世間には自分の恋人が好きな服を買うのを制限するような人間がいるらしい。
まさかシルビアさんもその手の人なのだろうか。
そんなことを思いびくびくしながら、正直に告白する。
以前メガトンケイルに魅了され、
それでシルビアさんを殺しかけたのを未だに申し訳なく思っていることを。
だから高いとはいえ、魅了耐性を持つこの防具セットを選んだことを。
「エルザちゃん…そんな…」
「だめ、だったかな…?」
また何か言われるだろうか。
しかしあの出来事は色んな意味で私に衝撃を与えたには違いなかった。
「そんなことないわ!ご、ごめんなさい、アタシ…」
「それに…」
後者の理由もまた強かったのも事実だ。
「デザインがとても気に入ったってのもあって」
「あぁこれが…」
シルビアさんは眉間にこれ以上ないくらいシワを寄せ、
額を押さえ、声にならないうめき声をあげる。
…何か悪いこと言っただろうか。
「…ね、エルザちゃん」
「だめでしたか」
「だめっていうか…。正直に言いたいことはほんと色々とあるけど…」
とりあえず今は、とシルビアさんは唐突に私の兜を外す。
広くなった視界。
「買っちゃったものは仕方ないし、
人の趣味を悪く言いたくはないけれど、
せめて町中では外した方がいいわよ、これ」
「でも、邪魔に」
「でもじゃないの」
くいと顎を上げられ、反論しようとした口を塞がれる。
…シルビアさんの口で。
「キスするのに邪魔でしょう?」
ドヤ顔。
今度は私が声にならない悲鳴をあげた。
頬が瞬間沸騰する。
だって路地裏とはいえ、町中であり外だ。
ほんの一瞬、そんなのわかってる。
とても、とにかく恥ずかしい。
とにかく兜を被ってしまいたいが、
今シルビアさんに取り上げられたばかりだった。
「エルザちゃん」
「…はい」
「次から防具を買う時は、
アタシでもベロニカちゃんでも、セーニャちゃんでも、
他に知り合いがいればその人でもいいわ。
とにかく誰かに、お願いだから誰かに相談してちょうだい」
「はい…」
謎の気迫に気圧され、つい承諾してしまう。
だがなぜシルビアさんがこんなに真剣なのか、私にはついぞわかることはなかった。
…と思ったら後ほど存外にあっさりわかった。
マルティナさんに「何そのカッコ。ダッサ」
と吐き捨てられたからである。
そして私は泣いた。