女三人寄れば姦しいと言います。
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「あらマルティナちゃん、来てたのね」
ちょうど話題が途切れたところにシルビアさんが登場してきた。
今まで散々踊ってきたからかわずかだがさすがに息が上がっている。
しかしとても楽しそうだ。
「そういうシルビアは休憩?」
「ええ。さすがにちょっと疲れちゃったわ」
年かしらねぇ、と本気とも冗談ともとれない言葉を発しながら席につくシルビアさんの元に、
給仕のバニーさんがお酒を持ってくる。
あらかじめ注文していたらしい。
ぐいと豪快にあおる。
「あーーー!!!!これよこれ!ほんっと最高だわ!!」
快哉を叫んだ。
「おっさんだ。ふつーにおっさんだ」
とついもらすと、
「ちょっと何よ訂正して」
と怒られる。
「いいけど、何がお好みなの?」
マルティナさんが聞いてシルビアさんは少し迷ってから、
「おとめかしら」
と結論を出した。
「おとめだ、ふつーにおとめだ」
そこでさっそく訂正案を諳んじてみる。
「そうそうエルザちゃんいい感じ」
どうやらシルビアさんのお気には召したらしいが、
「おとめもおっさんもあんま変わらないけどね」
マルティナさんが口を挟むとおり、
「だよねー」
私たちの先ほどまでの醜態を思うにシルビアさんが思うほど乙女とは素敵な生き物ではないのだ。
…いや己の理想を貫き通すシルビアさんはすごいし尊敬するのだけど、本物の実態は少なくともそこまで尊くはない。
それも違う。
むしろ、シルビアさんこそが真のおとめであり、きっと自分たちが贋物に違いない。
「え?どういうことなの?さすがに意味がわからないわよ?」
「いいの。シルビアさんはそのままでいて」
夢見るおとめシルビアさんは、夢を追いかけるからこそ美しい。
それをわざわざ壊すことはないというのが、汚れた乙女二人(もはや乙女とは言わない)の総意である。
年上の男性を必死で言いくるめる姿は傍から見たら割と滑稽だろうけどまあいいや。
「ところで話は変わるけど、エルザちゃん」
つまみが知らないうちに追加されていくのを目で追いながら返事する。
誰だこんなに頼んだの。
「次はアタシと一緒に舞台にあがらない?さっきからアナタのご指名が多いのよ」
引くほどきらっきらの目で問うてくるシルビアさん。
確かに先ほど舞台に上がってた人たちの中で、私の方をちらちら見る顔はいないこともなかった。
自意識過剰だと思いスルーしたけど、そうでもなかったのかシルビアさんが口を滑らせたのか。
「私踊ったことないし…」
「やあね、何のためにアタシがいると思ってるのよ!教えるわよぉ、手取り足取り」
誘うようなあざとい熱視線。
さしもの私もときめくより先に確信した。
わざとだ。
自分の世界に引き込みたいがためにわざと仲間に私の話をしたんだこの人。
たまに割と卑怯なところがあるが、騎士道精神には反しないのだろうか。
「いやあ、でも」
とはいえ、シルビアさんがそこまで誘ってくれるなら乗るのも悪くなかった。
私だって肉体労働に従事する身だ。
筋肉もそれなりにある。
だからきっとうまくやれるはず、なんて根拠のない自信もないこともなかった。
…しかし。
「マルティナさんにお酒のペースあわせてたせいで多分今まともに歩けない気がする…すみません」
「てへぺろ(はあと)」
ウインクして額をこつんとやるマルティナさん。
美人で所作も完璧なのになぜだかすごいかわいくない。
何も悪いことはしていないのに、不思議と憎たらしい。
多分はあとまで発音したせいだろう。
「うーん。じゃあ仕方ないわねぇ」
「ていうかシルビア?なんで私には声をかけてくれないのよ?」
「当たり前よ。マルティナちゃんお酒はいると無茶苦茶するもの」
目を細め全力で拒絶するシルビアさん。
大体のことは笑って許容する器の持ち主でもだめなことをするとなると本当によっぽどなのだろう。
マルティナさん本人に聞いてみた。
「えー?大したことないわよ。たちの悪い酔っ払いに絡まれたから、ちょっとしっかり話し合っただけ」
「その人たちの負った怪我は、あとから聞くところによると全治二週間」
「そして私は無傷!」
「何回も言ってるし何回でも言うけど、なんの自慢にもならないのよそれ」
頭を抱えるシルビアさんはまるでマルティナさんのお母さんみたいだった。
わんぱくすぎる娘に手を焼いて疲れきってる、そんな感じだろうか。
「とはいえマルティナちゃんみたいなことになったら、アタシでもそうするから強く言えないのよね」
「いやシルビアさんに喧嘩売る人はそういないと思う…」
見た目がすでに強キャラ感満載だった。
「あらそう?残念ね」
「えぇ…」
「エルザ」
マルティナさんが美しい眉を吊り上げ、不敵に笑う。
「力こそパワーよ」
「…今心底あなたたちが人類の味方でよかったって思ってる」
「大げさねー」
けらけらと彼女らが笑ってまじめに目眩がしたが、酒の飲みすぎが原因とはとても思えなかった。
あったとしても二割くらいだ。
それでも、ぐらんと身体が傾いたのを紳士が見逃すはずもなかった。
「あらやだエルザちゃん。だいじょうぶ?飲みすぎじゃない?」
「あ、ありがとう。でも大丈夫原因絶対違うから」
「何言ってるのよ、マルティナちゃんにペース合わせてたってさっき自分で言ってたじゃない。
送るから宿に行きましょう。立てる?」
生返事をして立ち上がる。
ダンスのように激しい運動はできないとは思うが、座ってるぶんには本当に大丈夫だけどな。
シルビアさんは時々心配症だというか過保護というか。
とはいえ自分で言ったことだ仕方ないか。
と思った瞬間、
「あれ?」
よろけた。
そしてバランスを崩してぺたんと床に座りこんだ。
「やっぱり大丈夫じゃないじゃない」
呆れたようにシルビアさんは言って手を貸してくれる。
遠慮なく拝借して立ち上がると、席についたままマルティナさんがにっこり笑っていた。
天使のような純真無垢な顔だ。
そして彼女はアイコンタクトでこう言っていたとしか思えない。
『任せて』
いやいやいや、何を。
悪魔の善意ほど恐ろしいものはないなんとかして彼女の企みを阻止しなければと思ったが時すでに遅し。
「ねえシルビア」
「なあに?」
「お仲間(ナカマ)の皆さんには私がうまく言っておくわね」
「…あぁ。ありがとう。お願いするわね」
「それから、ここの支払いも任せて。でも貸し1にしておいてあげる」
ますます笑みを深くするマルティナさんに若干怪訝になりながらもシルビアさんはもう一度お礼を言う。
いや、マルティナさんは基本的には善人だ。
百人いたら百人が善人だと判断するくらい善良な人だが、
その一方で無茶苦茶自由奔放でちょっぴりいたずら好きなのだ。
つまりあれだ。彼女の動機を察した。
「ふふ。ごゆっくり」
彼女は彼女なりの善意を私達に向けた。
私には『セックスしないと出られない部屋』でのリベンジのチャンスを。
シルビアさんには今彼の周りにおける諸々の若干面倒なことを引き受けた。
なぜならば自分の好奇心を満たすためである。
多分私は後日また色んなことを彼女に聞かれてしまうのだろう。
という推理と抗議を発表するタイミングを失ってしまった私は、
シルビアさんに支えられながらその場を後にせざるを得なかった。
そしてやはりマルティナさんの企みは私が予想したとおりだったことが判明するが、
彼女の思うような(彼女が)面白い展開にならなかったことは確かであり、また私は同情された。