プリンではない
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変な魔物が町を襲うから退治してくれという依頼があった。といっても犠牲者はおろか、そこまで深刻な怪我を負った被害者はいない。
ただ深刻に町は汚された。茶色と白の謎の粘液で、徹底的に。
妙に油けたそれはもうむせかえるほど甘い匂いがしたそうだ。
その後街中をひっくり返すように掃除をした後に来た私たちですら強烈に臭ったのだから、決して大げさではないと思う。少々香る程度ならむしろ好きな人も多そうな部類な気もするのだが、限度を超えればとにかく話は別だ。町長の話が終わる頃には胸焼けがし始めていた。
そういうわけで正体不明のそいつは立派に物的被害および人的被害を出していた。
充分、退治されるに値する凶悪な魔物なのである。
「おじいちゃんも心当たりがない、なんて不思議よね。一体どんな魔物なのかしら」
くだんの魔物の潜伏先は、町の勇敢な青年がすでに突き止めてくれて(そして粘液まみれになって泣きながら帰ってきて)いた。
はずれの小さな洞窟。
中は戦闘ができる程度には広くて、平坦で、途中まではほぼ一本道。
当初こそ九人でぞろぞろと歩いていたが、途中で道がふた手に分かれていた。
だから今回は被害はどうあれあまり危険なターゲットでもなさそうなのもあって、隊列の前後でチームも分かれることとなった。
こちらのメンバーは私とベロニカちゃん、シルビアさんとグレイグさま。あとは向こうだ。
非常に変則的な感じもするが、たまには良いのだろう。しかしツッコミキャラがこちらにばかり偏っているので、向こうのロウさんの心労を思うと少し胃に来るものがあった。
それはまあいいか。
そして話題はやはり、謎の魔物の話ばかりになる。
先ほどベロニカちゃんが首を傾げた通り、誰もそんなバカみたいに甘い匂いの粘液を垂れ流すが変に無害な魔物の存在など知らないのだ。あらゆる知識が豊富なロウさんや、百戦錬磨の猛将グレイグさままで。
無論私も知るはずがない。
「全然想像もつかないなぁ。早いとこお目にかかりたいよね。話を聞く限りだと、見たらというか匂いですぐわかりそうだけど」
「たしかにねー!あのあっまい匂い!あれだけでも胸焼けしそうよ。一体何なのかしら」
ベロニカちゃんは顔をしかめる。
彼女は確か甘いものや香りは好きだったと思うが――それでも許容範囲など軽く超えていたのだろう。
過ぎたるは及ばざるがごとしの好例としか、もはや思えなかった。
「あれは菓子の匂い、のようではなかったか。チョコレートとかいう」
そこへ、唐突に口を挟んでくるグレイグさま。
あまりそういう嗜好品に興味がありそうなふうではなさそうだし実際ないようで、だからこそ雑に出すことのできた考えのようだったが、それで私たちはようやく気づくことができた。
「それよグレイグさん!」
「匂いきつすぎて逆にわかんなかったよね、ベロニカちゃん。さっすがグレイグさま、たまに鋭い」
うんうんと先ほどとは対象的にすっきりした顔で頷くベロニカちゃん。
「それは褒めているつもりか聞こうかエルザ」
「やっば…!褒めてます!褒めてますって!」
抜刀しかけるグレイグさまを宥める。最近この方は妙に容赦がない。
仕えている姫の影響かと最初は思ったが、どうも違う。
十中八九、むしろ彼女からのストレスによるもののようだ。
「あらー。グレイグの口からチョコレートなんて言葉が聞けるなんて…もしかしなくても将軍様のモテ自慢かしら」
あとこの人からもか。
「いつものことだが何を言っているかまるでわからん」
シルビアさん。
いつも誰にでも優しいこの人の言動は、しかしグレイグさまに向けられる時だけやけに遠慮も容赦もない。
「やぁねぇ、グレイグったらとぼけちゃって。この時期、チョコレートっていったらアレしかないじゃないのよん」
歌うような口調でなぜだか上機嫌のシルビアさんが、グレイグさまではなくどういうわけか私に視線を投げてくる。
が、全く心当たりがない。
眉間にシワを寄せ、一生懸命に思い出そうとするが、少なくとも今日はシルビアさんを含めた誰の誕生日でもない。
そしてチョコレートに関連付けられる記念日はもっと思いつかない。
グレイグさまも同じようだった。
「あ、わかったシルビアさん!」
しかし、ベロニカちゃんは違ったようだ。
子どもらしく(?)挙手をし、発言する。
「あたし聞いたことあるわ!バレンタインデーってやつでしょう!」
「ベロニカちゃん、せ・い・か・い・よ」
シルビアさんは笑顔で膝を折ってベロニカちゃんとハイタッチする。
私は聞いたこともない。なんだそれ。
しかし心当たりをひとつだけ、思考のどこかに見つけた。それが赴くまま、付け足す。
「ヴィンセント・ヴァレンタイン…?」
「だれ?」
「さあ。思いついたのはいいけど…わかんない」
話の腰が全力で折れたところで、記念日に詳しい都会っ子シルビアさんが強い口調で入る。
「バレンタインデーっていうのは由来はあるんだけど、それはおいといて簡単に説明するとね!
アタシみたいなおとめが、好きな子にチョコレートをプレゼントして告白するロマンチックな日なの!」
きゃんと喜ぶシルビアさんの説明になぜか全力で水を差す約一名。
「ゴリアテ」
「あらなにかしら」
「百歩譲ってもお前はおとめではないだろう。少しは年齢を考えたらどうだ」
憮然としたシルビアさんが久々に白く発光したのを見たのはその時だった。
ただ深刻に町は汚された。茶色と白の謎の粘液で、徹底的に。
妙に油けたそれはもうむせかえるほど甘い匂いがしたそうだ。
その後街中をひっくり返すように掃除をした後に来た私たちですら強烈に臭ったのだから、決して大げさではないと思う。少々香る程度ならむしろ好きな人も多そうな部類な気もするのだが、限度を超えればとにかく話は別だ。町長の話が終わる頃には胸焼けがし始めていた。
そういうわけで正体不明のそいつは立派に物的被害および人的被害を出していた。
充分、退治されるに値する凶悪な魔物なのである。
「おじいちゃんも心当たりがない、なんて不思議よね。一体どんな魔物なのかしら」
くだんの魔物の潜伏先は、町の勇敢な青年がすでに突き止めてくれて(そして粘液まみれになって泣きながら帰ってきて)いた。
はずれの小さな洞窟。
中は戦闘ができる程度には広くて、平坦で、途中まではほぼ一本道。
当初こそ九人でぞろぞろと歩いていたが、途中で道がふた手に分かれていた。
だから今回は被害はどうあれあまり危険なターゲットでもなさそうなのもあって、隊列の前後でチームも分かれることとなった。
こちらのメンバーは私とベロニカちゃん、シルビアさんとグレイグさま。あとは向こうだ。
非常に変則的な感じもするが、たまには良いのだろう。しかしツッコミキャラがこちらにばかり偏っているので、向こうのロウさんの心労を思うと少し胃に来るものがあった。
それはまあいいか。
そして話題はやはり、謎の魔物の話ばかりになる。
先ほどベロニカちゃんが首を傾げた通り、誰もそんなバカみたいに甘い匂いの粘液を垂れ流すが変に無害な魔物の存在など知らないのだ。あらゆる知識が豊富なロウさんや、百戦錬磨の猛将グレイグさままで。
無論私も知るはずがない。
「全然想像もつかないなぁ。早いとこお目にかかりたいよね。話を聞く限りだと、見たらというか匂いですぐわかりそうだけど」
「たしかにねー!あのあっまい匂い!あれだけでも胸焼けしそうよ。一体何なのかしら」
ベロニカちゃんは顔をしかめる。
彼女は確か甘いものや香りは好きだったと思うが――それでも許容範囲など軽く超えていたのだろう。
過ぎたるは及ばざるがごとしの好例としか、もはや思えなかった。
「あれは菓子の匂い、のようではなかったか。チョコレートとかいう」
そこへ、唐突に口を挟んでくるグレイグさま。
あまりそういう嗜好品に興味がありそうなふうではなさそうだし実際ないようで、だからこそ雑に出すことのできた考えのようだったが、それで私たちはようやく気づくことができた。
「それよグレイグさん!」
「匂いきつすぎて逆にわかんなかったよね、ベロニカちゃん。さっすがグレイグさま、たまに鋭い」
うんうんと先ほどとは対象的にすっきりした顔で頷くベロニカちゃん。
「それは褒めているつもりか聞こうかエルザ」
「やっば…!褒めてます!褒めてますって!」
抜刀しかけるグレイグさまを宥める。最近この方は妙に容赦がない。
仕えている姫の影響かと最初は思ったが、どうも違う。
十中八九、むしろ彼女からのストレスによるもののようだ。
「あらー。グレイグの口からチョコレートなんて言葉が聞けるなんて…もしかしなくても将軍様のモテ自慢かしら」
あとこの人からもか。
「いつものことだが何を言っているかまるでわからん」
シルビアさん。
いつも誰にでも優しいこの人の言動は、しかしグレイグさまに向けられる時だけやけに遠慮も容赦もない。
「やぁねぇ、グレイグったらとぼけちゃって。この時期、チョコレートっていったらアレしかないじゃないのよん」
歌うような口調でなぜだか上機嫌のシルビアさんが、グレイグさまではなくどういうわけか私に視線を投げてくる。
が、全く心当たりがない。
眉間にシワを寄せ、一生懸命に思い出そうとするが、少なくとも今日はシルビアさんを含めた誰の誕生日でもない。
そしてチョコレートに関連付けられる記念日はもっと思いつかない。
グレイグさまも同じようだった。
「あ、わかったシルビアさん!」
しかし、ベロニカちゃんは違ったようだ。
子どもらしく(?)挙手をし、発言する。
「あたし聞いたことあるわ!バレンタインデーってやつでしょう!」
「ベロニカちゃん、せ・い・か・い・よ」
シルビアさんは笑顔で膝を折ってベロニカちゃんとハイタッチする。
私は聞いたこともない。なんだそれ。
しかし心当たりをひとつだけ、思考のどこかに見つけた。それが赴くまま、付け足す。
「ヴィンセント・ヴァレンタイン…?」
「だれ?」
「さあ。思いついたのはいいけど…わかんない」
話の腰が全力で折れたところで、記念日に詳しい都会っ子シルビアさんが強い口調で入る。
「バレンタインデーっていうのは由来はあるんだけど、それはおいといて簡単に説明するとね!
アタシみたいなおとめが、好きな子にチョコレートをプレゼントして告白するロマンチックな日なの!」
きゃんと喜ぶシルビアさんの説明になぜか全力で水を差す約一名。
「ゴリアテ」
「あらなにかしら」
「百歩譲ってもお前はおとめではないだろう。少しは年齢を考えたらどうだ」
憮然としたシルビアさんが久々に白く発光したのを見たのはその時だった。