デフォルト名は「柚木八重(ゆずきやえ)」です。
悪魔の花嫁
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「ねぇ、良かったら連絡先教えてよ」
「………え?」
アメフト部の練習試合を終え、帰り支度で慌ただしい部員たちに混ざり、片付けなどの手伝いをしていた八重は突然かけられた声に思わず足を止めた。
声のした方に顔を向けると、対戦校の生徒と思われる見知らぬ男子がニコニコとした笑みを浮かべて立っている。
「…私ですか?」
「うん、今日見かけてずっと可愛いなって思ってて」
「はぁ…」
こういうの、本当にあるんだ…と他人事のように考えながら、八重は目の前に立つ男子生徒を見つめた。
見た感じは人の良さそうな好青年に見えるが、いくらなんでも初めて会う人間に個人情報を教えるのは少し…いや、かなり抵抗がある。
「申し訳ないんですが、よく知らない人に教えたくありません。ごめんなさい」
こういう時はきっぱり断るに限る。
以前、怪しい訪問販売を毅然と断わっていた祖母の姿を思い浮かべながら、八重は姿勢を正すとぺこりと頭を下げた。
「え!?…じゃあ、これからお互いのこと知っていけばよくない?」
断られると思っていなかったのか、男子生徒は驚いた様子で声を上げたが、めげることなく歩み寄ってきた。
すかさず八重も負けじと男子生徒を見据えながら後ろに大きく一歩下がる。
「……すみません、お断りします」
「そんなこと言わないでって。ね?メアドだけでも良いからさ」
「私、携帯持ってないので無理ですね」
「またまたぁ、さっき赤い携帯使ってたじゃん!」
「……あれは業務用に借りてるものです。私用で使うわけにはいきません」
まさか携帯を使ってるところまで観察されていたとは。
…これはいよいよ怪しい、絶対にここで折れて教えてしまうわけにはいかない。
警戒心を一層強めた八重は眉を寄せて睨みつけるが、男子生徒はそんな様子の八重に苦笑いを浮かべるだけで気にする様子もない。
それどころか、更に八重の方へと近付いてきた。
「もーせっかく可愛いんだから、そんな怖い顔しないでよ。ちょっとメールするくらい良いじゃ…「おやおやぁ?ウチの関係者に何かご用かなァ?茂部くん?ケケケッ」――ッ!?」
これは全力で逃げた方が良いかもと八重が身構えたところで、男子生徒の背後から見慣れた金髪がぬるりと出てきて肩を組み、こちらへ近付こうとしていた彼の動きを止めた。
「…あ、蛭魔くん」
「は?え?なんで俺の名前知って…っつーか手ェ離せよ!」
「おーおー茂部くんは威勢がイイなぁ!ケケケケケッ!…オイ、そんなテメーにイイコト聞かせてやるよ」
「はぁ?マジでなんなんだよお前!…おい、近付くなって!」
突然現れ、馴れ馴れしく肩を組んできた蛭魔に男子生徒は顔を顰めて力いっぱいに手を振り払おうとしたが、蛭魔はガッシリと彼の肩を掴んだまま涼しい顔でそれを受け流している。
そして抵抗している男子生徒を思いっきり引き寄せると、凶悪な笑みを浮かべて耳打ちをし始めた。
一体何を言われているのか、最初は不快そうに顔を歪めていた男子生徒の顔が段々と驚愕に染まり、顔色がみるみるうちに土気色になっていく。
「…ヒュッ………ちょ、なんで…そ、それを……」
「いやぁ〜ビックリだなァ!まさか茂部くんともあろう男が「ヒィィ!すみません!なん、何でもしますから、どうかそれだけは誰にも言わないでください!」
男子生徒は大声で蛭魔の発言を遮ると、ざっと地面に膝をつき、それはもう見事な土下座をしてみせた。
先程までの姿からは想像も出来ないほど追い詰められた男子生徒の様子に、なぜか八重もつられて変な汗が出てくる。
蛭魔はそんな必死な様子の男子生徒にゆっくりと近寄ってしゃがみ込み、悪魔のような笑い声を上げて彼の肩に手を乗せた。
「ケーケケケケッ!理解が早くて助かるぜ、茂部くん!……いいか?命が惜しけりゃ二度とコイツに関わろうとすんじゃねーぞ」
「!?――ハ、ハイ!分かりました!」
物凄い勢いで立ち上がった男子生徒は酷い顔色のままぐるりと八重たちに背を向けると、申し訳ありませんでした!と叫びなから全力疾走で逃げていく。
あっという間に小さくなった彼の背中を見ながら、八重は詰めていた息を大きく吐き出した。
「ふぅー…蛭魔くん、ありがとう。助かったよ」
「…チッ!あの糞モヤシ野郎、マジで次はねーぞ…。それと柚木、オメーもオメーだ!あんなのにいちいち構ってんじゃねェ!声掛けられても無視しろ!無視!」
「うん…ごめん。あの人、たぶん私から蛭魔くんの情報を引っ張ろうとしてたんだよね?…今回は油断して話を聞いちゃったけど、これからはもっと警戒する」
「……ハァ?」
拳をぐっと握り気合を入れた八重が蛭魔の方へ顔を向けると、まるで苦いものでも飲み込んだような顔をした蛭魔と目が合った。
「……情報がなんだって?」
「?ほら、私って蛭魔くんと話してること多いでしょ?それで利用できると思って近付いてきたんじゃないかな。なんか私のこと観察してたっぽいし…」
「……………」
「とりあえず可愛いとか言っておけば上手いこと丸め込める思ったんだろうけど、考えが甘いよね。うち、おばあちゃんを狙った訪問販売とか変な電話がよく来るから、防犯には気を付けてるの」
ほら、と八重はポケットにいつも入れている防犯ブザーを取り出してみせるが、蛭魔は相変わらず苦い顔をしたまま何も言わずにこちらを見下ろしている。
思っていた反応と違う蛭魔の様子に八重が首を傾げていると、彼はしばし考えを巡らせるように黙り込み、やがて盛大なため息を吐き出した。
「…オメー成績は悪くねぇのに、わりとアホだな」
「え、突然の悪口…」
いきなりアホ呼ばわりされた八重は思わず目を丸くして蛭魔を見るが、当の本人は八重の反応を気にすることなく携帯で何かを確認し始めている。
「まぁ…確かにオメーが色々情報持ってんのは事実だ。今後は目ェ付けらんねーように気を付けとけ」
「うん、気を付ける。蛭魔くんの情報は絶対守るから安心してね」
「ケケケッ、いい心掛けじゃねーか。せいぜい頑張れよ」
そう言うと蛭魔は八重が持っている荷物をひったくり、もう行くぞと呟いてスタスタと歩き出した。
「え、蛭魔くん待って、歩くの早い早い!」
不意打ちで荷物を取られて思わずよろけた八重だったが、慌てて体勢を立て直すと小走りで蛭魔の背中を追いかけた。
この数日後、知らない間に蛭魔の手によってホームセキュリティが家に導入されていたことが祖母の証言から判明し、流石の八重も頭を抱えたのであった。
***
「なぁ、あの子可愛くね?」
「え?どの子?」
「ほら、あそこで泥門のでっかい奴と一緒にいる子」
――泥門、という単語に思わず足を止めた蛭魔が声のする方へ目を向けると、対戦校の応援に来ているらしき生徒2人が肩を寄せなにやら楽しげに話をしている。
試合前に連中の弱みのひとつでも握れりゃ上等と周囲をうろついていた蛭魔だったが、聞き捨てならない話題に片眉を上げると、彼らに気取られぬようにこっそりと背後へ近付いた。
そのまま彼らの視線の先を追って見てみれば、チームメイトの栗田と、蛭魔の専属栄養士兼、仮のマネージャーとして一緒に試合に来ていた柚木が呑気に笑い合っているのが見える。
「えー…あの黒髪の子?まぁキレイな子だけどさぁ…ちょっと地味じゃね?」
「分かってねぇなぁ!あの真面目そうな感じが良いんじゃん!ちょっと試合終わったら声かけてみよっかな〜」
「マジ?お前こないだイイ感じになってる子がいるって言ってたじゃん!そっちはいいのかよ?」
「あー…それはそれ、これはこれだよ」
「うーわっ、本当に最悪だなお前!ハハハッ」
(……くだらねェな)
後ろで聞いている人間がいることにも気付かず、女の子余ってるなら俺にくれよ、などと言いながら騒いでいる彼らに蛭魔は無意識で顔を顰めたが、すぐさま思考を切り替えて頭の中にあるデータベースから彼らの情報を引っ張り出す。
害が無さそうな一人は捨て置いてやるとして、もう一人の方は今後の動向次第で色々と“お話”をしないといけなくなりそうだ。
どうやって効率よく“お話”をしてやろうか、と情報を精査しながら踵を返した蛭魔は試合の準備に向かうことにしたのだった。
「………え?」
アメフト部の練習試合を終え、帰り支度で慌ただしい部員たちに混ざり、片付けなどの手伝いをしていた八重は突然かけられた声に思わず足を止めた。
声のした方に顔を向けると、対戦校の生徒と思われる見知らぬ男子がニコニコとした笑みを浮かべて立っている。
「…私ですか?」
「うん、今日見かけてずっと可愛いなって思ってて」
「はぁ…」
こういうの、本当にあるんだ…と他人事のように考えながら、八重は目の前に立つ男子生徒を見つめた。
見た感じは人の良さそうな好青年に見えるが、いくらなんでも初めて会う人間に個人情報を教えるのは少し…いや、かなり抵抗がある。
「申し訳ないんですが、よく知らない人に教えたくありません。ごめんなさい」
こういう時はきっぱり断るに限る。
以前、怪しい訪問販売を毅然と断わっていた祖母の姿を思い浮かべながら、八重は姿勢を正すとぺこりと頭を下げた。
「え!?…じゃあ、これからお互いのこと知っていけばよくない?」
断られると思っていなかったのか、男子生徒は驚いた様子で声を上げたが、めげることなく歩み寄ってきた。
すかさず八重も負けじと男子生徒を見据えながら後ろに大きく一歩下がる。
「……すみません、お断りします」
「そんなこと言わないでって。ね?メアドだけでも良いからさ」
「私、携帯持ってないので無理ですね」
「またまたぁ、さっき赤い携帯使ってたじゃん!」
「……あれは業務用に借りてるものです。私用で使うわけにはいきません」
まさか携帯を使ってるところまで観察されていたとは。
…これはいよいよ怪しい、絶対にここで折れて教えてしまうわけにはいかない。
警戒心を一層強めた八重は眉を寄せて睨みつけるが、男子生徒はそんな様子の八重に苦笑いを浮かべるだけで気にする様子もない。
それどころか、更に八重の方へと近付いてきた。
「もーせっかく可愛いんだから、そんな怖い顔しないでよ。ちょっとメールするくらい良いじゃ…「おやおやぁ?ウチの関係者に何かご用かなァ?茂部くん?ケケケッ」――ッ!?」
これは全力で逃げた方が良いかもと八重が身構えたところで、男子生徒の背後から見慣れた金髪がぬるりと出てきて肩を組み、こちらへ近付こうとしていた彼の動きを止めた。
「…あ、蛭魔くん」
「は?え?なんで俺の名前知って…っつーか手ェ離せよ!」
「おーおー茂部くんは威勢がイイなぁ!ケケケケケッ!…オイ、そんなテメーにイイコト聞かせてやるよ」
「はぁ?マジでなんなんだよお前!…おい、近付くなって!」
突然現れ、馴れ馴れしく肩を組んできた蛭魔に男子生徒は顔を顰めて力いっぱいに手を振り払おうとしたが、蛭魔はガッシリと彼の肩を掴んだまま涼しい顔でそれを受け流している。
そして抵抗している男子生徒を思いっきり引き寄せると、凶悪な笑みを浮かべて耳打ちをし始めた。
一体何を言われているのか、最初は不快そうに顔を歪めていた男子生徒の顔が段々と驚愕に染まり、顔色がみるみるうちに土気色になっていく。
「…ヒュッ………ちょ、なんで…そ、それを……」
「いやぁ〜ビックリだなァ!まさか茂部くんともあろう男が「ヒィィ!すみません!なん、何でもしますから、どうかそれだけは誰にも言わないでください!」
男子生徒は大声で蛭魔の発言を遮ると、ざっと地面に膝をつき、それはもう見事な土下座をしてみせた。
先程までの姿からは想像も出来ないほど追い詰められた男子生徒の様子に、なぜか八重もつられて変な汗が出てくる。
蛭魔はそんな必死な様子の男子生徒にゆっくりと近寄ってしゃがみ込み、悪魔のような笑い声を上げて彼の肩に手を乗せた。
「ケーケケケケッ!理解が早くて助かるぜ、茂部くん!……いいか?命が惜しけりゃ二度とコイツに関わろうとすんじゃねーぞ」
「!?――ハ、ハイ!分かりました!」
物凄い勢いで立ち上がった男子生徒は酷い顔色のままぐるりと八重たちに背を向けると、申し訳ありませんでした!と叫びなから全力疾走で逃げていく。
あっという間に小さくなった彼の背中を見ながら、八重は詰めていた息を大きく吐き出した。
「ふぅー…蛭魔くん、ありがとう。助かったよ」
「…チッ!あの糞モヤシ野郎、マジで次はねーぞ…。それと柚木、オメーもオメーだ!あんなのにいちいち構ってんじゃねェ!声掛けられても無視しろ!無視!」
「うん…ごめん。あの人、たぶん私から蛭魔くんの情報を引っ張ろうとしてたんだよね?…今回は油断して話を聞いちゃったけど、これからはもっと警戒する」
「……ハァ?」
拳をぐっと握り気合を入れた八重が蛭魔の方へ顔を向けると、まるで苦いものでも飲み込んだような顔をした蛭魔と目が合った。
「……情報がなんだって?」
「?ほら、私って蛭魔くんと話してること多いでしょ?それで利用できると思って近付いてきたんじゃないかな。なんか私のこと観察してたっぽいし…」
「……………」
「とりあえず可愛いとか言っておけば上手いこと丸め込める思ったんだろうけど、考えが甘いよね。うち、おばあちゃんを狙った訪問販売とか変な電話がよく来るから、防犯には気を付けてるの」
ほら、と八重はポケットにいつも入れている防犯ブザーを取り出してみせるが、蛭魔は相変わらず苦い顔をしたまま何も言わずにこちらを見下ろしている。
思っていた反応と違う蛭魔の様子に八重が首を傾げていると、彼はしばし考えを巡らせるように黙り込み、やがて盛大なため息を吐き出した。
「…オメー成績は悪くねぇのに、わりとアホだな」
「え、突然の悪口…」
いきなりアホ呼ばわりされた八重は思わず目を丸くして蛭魔を見るが、当の本人は八重の反応を気にすることなく携帯で何かを確認し始めている。
「まぁ…確かにオメーが色々情報持ってんのは事実だ。今後は目ェ付けらんねーように気を付けとけ」
「うん、気を付ける。蛭魔くんの情報は絶対守るから安心してね」
「ケケケッ、いい心掛けじゃねーか。せいぜい頑張れよ」
そう言うと蛭魔は八重が持っている荷物をひったくり、もう行くぞと呟いてスタスタと歩き出した。
「え、蛭魔くん待って、歩くの早い早い!」
不意打ちで荷物を取られて思わずよろけた八重だったが、慌てて体勢を立て直すと小走りで蛭魔の背中を追いかけた。
この数日後、知らない間に蛭魔の手によってホームセキュリティが家に導入されていたことが祖母の証言から判明し、流石の八重も頭を抱えたのであった。
***
「なぁ、あの子可愛くね?」
「え?どの子?」
「ほら、あそこで泥門のでっかい奴と一緒にいる子」
――泥門、という単語に思わず足を止めた蛭魔が声のする方へ目を向けると、対戦校の応援に来ているらしき生徒2人が肩を寄せなにやら楽しげに話をしている。
試合前に連中の弱みのひとつでも握れりゃ上等と周囲をうろついていた蛭魔だったが、聞き捨てならない話題に片眉を上げると、彼らに気取られぬようにこっそりと背後へ近付いた。
そのまま彼らの視線の先を追って見てみれば、チームメイトの栗田と、蛭魔の専属栄養士兼、仮のマネージャーとして一緒に試合に来ていた柚木が呑気に笑い合っているのが見える。
「えー…あの黒髪の子?まぁキレイな子だけどさぁ…ちょっと地味じゃね?」
「分かってねぇなぁ!あの真面目そうな感じが良いんじゃん!ちょっと試合終わったら声かけてみよっかな〜」
「マジ?お前こないだイイ感じになってる子がいるって言ってたじゃん!そっちはいいのかよ?」
「あー…それはそれ、これはこれだよ」
「うーわっ、本当に最悪だなお前!ハハハッ」
(……くだらねェな)
後ろで聞いている人間がいることにも気付かず、女の子余ってるなら俺にくれよ、などと言いながら騒いでいる彼らに蛭魔は無意識で顔を顰めたが、すぐさま思考を切り替えて頭の中にあるデータベースから彼らの情報を引っ張り出す。
害が無さそうな一人は捨て置いてやるとして、もう一人の方は今後の動向次第で色々と“お話”をしないといけなくなりそうだ。
どうやって効率よく“お話”をしてやろうか、と情報を精査しながら踵を返した蛭魔は試合の準備に向かうことにしたのだった。
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