デフォルト名は「柚木八重(ゆずきやえ)」です。
悪魔の花嫁
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授業が終わり、グラウンドのほうから部活を始めようとする生徒たちの声が聞こえてくるアメフト部の部室。
突然蛭魔に連行された八重は、彼に指示された通りに大人しく部室にある机の前に座っていた。
蛭魔の専属栄養士として彼のサポートをしている八重は、時々アメフト部のマネージャーのような仕事も任される時がある。
ただ、今日は特にそういった仕事は無いと聞いていたはずだったが…。
「えーと、なにかお手伝いが必要になった?」
「いや、今日は特にねェ。それより柚木、オメー携帯とか持ってねぇだろ。連絡取りづれーし色々面倒だから俺のを1台貸してやる。この中から適当に選べ」
そう言うと蛭魔はおもむろに持っていた鞄をひっくり返し、机の上に鞄の中身をぶち撒けた。
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャ……
一体どうやって詰め込んでいたのか、ゴロゴロと大量の携帯電話が鞄の中から転がり落ちて机の上に積み上げられていく。
八重は家計に負担がかかるのが嫌で携帯電話は持っていない。
だが、あまりそういった事情には詳しくない彼女でも、机の上に乗りきらず床の上にまで転がっていく携帯電話を見て、この量を個人が所持しているのは流石におかしいと察することができた。
「……蛭魔くんは携帯電話屋さんでもやってるの?」
「ア゙ァ?…ンなことやってねーよ。情報収集で必要だから持ってるだけだ」
「なるほど…」
いつもこんなに沢山の携帯電話を持ち歩いているのか、どうやって契約したのか、そもそも大量の携帯電話が必要になる情報収集とは一体なんなのか…。
他にも様々な疑問が頭の中を巡り、八重は思わず蛭魔へ問いかけそうになったが、ぐっと堪えて目の前に積まれた携帯電話の山を眺めた。
蛭魔と関わるようになって八重が最初に身に着けたのはスルースキルだ。
泥門の悪魔と呼ばれる男の破天荒かつ傍若無人な言動を、善良な一般人である八重が理解しようとするだけ無駄である。
…というより恐ろしくてあまり深く考えたくない。
少なくとも今のところ蛭魔の行いで不利益を被ったり、不快な思いをさせられたことは一度も無いので、八重は基本的に大抵のことは受け流すようにしようと心に決めている。
いつも通り全ての疑問を遠くへと放り投げた八重は、蛭魔の善意に素直に甘えることにした。
「こんなにあると、逆にどれを選んだらいいか分からないかも…」
「どれでも大して変わんねぇよ。さっさとしねーと俺が決めるぞ」
「うーん…蛭魔くんが選んでくれたのでも別にいいけど…でも折角だし選ばせてもらうね。……よし、これにします」
山のように積まれた携帯電話の中から1つだけ選ぶというのは携帯事情に詳しくない八重にとって難易度が高いことだが、わざわざ選ばせようとしてくれた彼の気遣いを無下にするのは忍びない。
八重は少し考えたのち、最初に目に入っていた赤い折り畳み式のものを手に取った。
「…うん、これなら鞄の中でも目立って見つけやすそう。それに赤は泥門デビルバッツの色だしね…って、え?…な、なに…どうしたの?」
初めて手にした携帯電話が物珍しくて開けたり閉じたりひっくり返したりして一通り眺めてから、浮足立った気持ちで顔を上げると、蛭魔が眉間に皺を寄せこちらを凝視していることに気が付いた。
さっきまで普通の表情だったはずなのに、気付かぬうちに何かとんでもないことをやらかしてしまったのかと怯えた八重は咄嗟に携帯電話から両手を離し、そのまま手を顔の横まで持ち上げた。
「もしかして、これって選んだらダメなやつだった?…他のにした方がいい?」
「……なんでもねーし、ダメでもねーよ。それで良いんだな?」
「…絶対なんでもない顔じゃなかった……まぁいっか。うん、これでお願い」
なんとなく腑に落ちないが、本人がそう言うなら気にしても仕方がない。
気を取り直した八重は、改めて自分の選んだ携帯電話を手に取り蛭魔へと渡す。
蛭魔は決まり悪そうに軽く息を吐きながら受け取ると、手慣れた様子で操作をして八重の方へと放り投げた。
「ホラ、色々設定してやったぜ。確認してみろ」
「わっ…と。あ、このボタン押すと電話帳が出てくるんだね。…っ!?、………うん…うん、なるほどね。…ふぅー……」
取りこぼしそうになるのを慌てて受け止め、言われた通りにボタンを押して電話帳を開けば蛭魔のものと思われる電話番号と、まだ八重が教えてない筈の自宅の電話番号が既に登録されていた。
なんで家の番号知ってるの?という疑問は持つだけ無駄である。
むしろ自分で登録する手間が省けて良かったと前向きに捉えることにした八重は、心を落ち着かせるため目をつむり大きくため息をついた。
「ケケッ、どうかしたか?八重チャン?」
「……ナンデモナイデス。それより設定してくれてありがとう。あ、電話ってどうやってかけたらいいの?」
「そっからかよ…しかたねーな。じゃあ俺の番号選択して、そこのボタン押してみろ」
「こう?」
蛭魔に促されるまま操作すると、彼のポケットから軽快な着信音が鳴り出した。
八重が おぉ、と小さく感動したのもつかの間、携帯電話をポケットから取り出して耳に当てた蛭魔にジェスチャーで同じようにしろと指示され、慌てて八重も携帯電話を耳に当てる。
『も、もしもし?』
『…おう』
『わ、凄い。本当に電話できてる…』
『…年寄りみてーな感想だな。まぁ電話のかけ方はこれで分かっただろ』
『うん、理解した。…ねぇなんか、ふふっ、蛭魔くんが目の前にいるのにわざわざ電話で話してるの面白くなってきた…ふふふ』
携帯電話を使って話すのはこれが初めてな八重は、むずむずと楽しくなってきて思わず小さく笑い声が零れてしまう。
そんな八重の様子を見て、蛭魔は呆れたように笑い目を細めた。
『よく分かんねぇ事で笑ってんじゃねーよ。一旦切るぞ』
『はーい』
携帯電話を顔から離し通話を切る蛭魔の様子を見ながら、八重も同じように顔を離し通話を切る。
ふと画面を見れば通話履歴に蛭魔の名前があり、八重は自然と口元が緩んだ。
「凄いね、誰と電話したかも分かるんだ」
「…オメーまじで何も知らねーのな」
「だって携帯電話って今まで触ったこともなかったし…ちなみに、帰りが遅くなりそうな時とかこれで家に電話しても平気?」
「……いいに決まってんだろ。なんの為にオメーん家の電話番号を登録してやったと思ってんだ」
ぇ、と小さく声を上げて蛭魔の方へ顔を向けると、彼は八重の視線から顔を逸らすように下を向き、机に残った携帯電話を雑に鞄へと詰めている。
なんだか照れ隠しのようにも見える彼の行動に、八重は一瞬目を見張ったあとこっそりと笑みを零した。
蛭魔が時々見せる、こういうさり気ない気遣いをもっと前面に押し出せば皆の印象も変わるのに…と一瞬考えたが、彼には彼の理由があって普段ああいう言動をしているのだろうと思い直す。
それに、蛭魔のこういった面を知っている数少ないメンバーの1人が自分なんだと思うと、ほんの少しだけ誇らしいような気がしてくる。
「蛭魔くん…色々と、どうもありがとう」
「…おう。せっかくこの俺が貸してやったんだから丁重に扱えよ」
「もちろん気を付けるけど、そんな扱いを見せた後に言うの流石だね…」
思わず呟いた八重に、蛭魔はチラリと目を向けて楽しそうに目を細めてケケケと笑った。
ーーその後、八重はまぁまぁの頻度で蛭魔から呼び出しをくらうようになるのだが、それはまた別のお話。
突然蛭魔に連行された八重は、彼に指示された通りに大人しく部室にある机の前に座っていた。
蛭魔の専属栄養士として彼のサポートをしている八重は、時々アメフト部のマネージャーのような仕事も任される時がある。
ただ、今日は特にそういった仕事は無いと聞いていたはずだったが…。
「えーと、なにかお手伝いが必要になった?」
「いや、今日は特にねェ。それより柚木、オメー携帯とか持ってねぇだろ。連絡取りづれーし色々面倒だから俺のを1台貸してやる。この中から適当に選べ」
そう言うと蛭魔はおもむろに持っていた鞄をひっくり返し、机の上に鞄の中身をぶち撒けた。
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャ……
一体どうやって詰め込んでいたのか、ゴロゴロと大量の携帯電話が鞄の中から転がり落ちて机の上に積み上げられていく。
八重は家計に負担がかかるのが嫌で携帯電話は持っていない。
だが、あまりそういった事情には詳しくない彼女でも、机の上に乗りきらず床の上にまで転がっていく携帯電話を見て、この量を個人が所持しているのは流石におかしいと察することができた。
「……蛭魔くんは携帯電話屋さんでもやってるの?」
「ア゙ァ?…ンなことやってねーよ。情報収集で必要だから持ってるだけだ」
「なるほど…」
いつもこんなに沢山の携帯電話を持ち歩いているのか、どうやって契約したのか、そもそも大量の携帯電話が必要になる情報収集とは一体なんなのか…。
他にも様々な疑問が頭の中を巡り、八重は思わず蛭魔へ問いかけそうになったが、ぐっと堪えて目の前に積まれた携帯電話の山を眺めた。
蛭魔と関わるようになって八重が最初に身に着けたのはスルースキルだ。
泥門の悪魔と呼ばれる男の破天荒かつ傍若無人な言動を、善良な一般人である八重が理解しようとするだけ無駄である。
…というより恐ろしくてあまり深く考えたくない。
少なくとも今のところ蛭魔の行いで不利益を被ったり、不快な思いをさせられたことは一度も無いので、八重は基本的に大抵のことは受け流すようにしようと心に決めている。
いつも通り全ての疑問を遠くへと放り投げた八重は、蛭魔の善意に素直に甘えることにした。
「こんなにあると、逆にどれを選んだらいいか分からないかも…」
「どれでも大して変わんねぇよ。さっさとしねーと俺が決めるぞ」
「うーん…蛭魔くんが選んでくれたのでも別にいいけど…でも折角だし選ばせてもらうね。……よし、これにします」
山のように積まれた携帯電話の中から1つだけ選ぶというのは携帯事情に詳しくない八重にとって難易度が高いことだが、わざわざ選ばせようとしてくれた彼の気遣いを無下にするのは忍びない。
八重は少し考えたのち、最初に目に入っていた赤い折り畳み式のものを手に取った。
「…うん、これなら鞄の中でも目立って見つけやすそう。それに赤は泥門デビルバッツの色だしね…って、え?…な、なに…どうしたの?」
初めて手にした携帯電話が物珍しくて開けたり閉じたりひっくり返したりして一通り眺めてから、浮足立った気持ちで顔を上げると、蛭魔が眉間に皺を寄せこちらを凝視していることに気が付いた。
さっきまで普通の表情だったはずなのに、気付かぬうちに何かとんでもないことをやらかしてしまったのかと怯えた八重は咄嗟に携帯電話から両手を離し、そのまま手を顔の横まで持ち上げた。
「もしかして、これって選んだらダメなやつだった?…他のにした方がいい?」
「……なんでもねーし、ダメでもねーよ。それで良いんだな?」
「…絶対なんでもない顔じゃなかった……まぁいっか。うん、これでお願い」
なんとなく腑に落ちないが、本人がそう言うなら気にしても仕方がない。
気を取り直した八重は、改めて自分の選んだ携帯電話を手に取り蛭魔へと渡す。
蛭魔は決まり悪そうに軽く息を吐きながら受け取ると、手慣れた様子で操作をして八重の方へと放り投げた。
「ホラ、色々設定してやったぜ。確認してみろ」
「わっ…と。あ、このボタン押すと電話帳が出てくるんだね。…っ!?、………うん…うん、なるほどね。…ふぅー……」
取りこぼしそうになるのを慌てて受け止め、言われた通りにボタンを押して電話帳を開けば蛭魔のものと思われる電話番号と、まだ八重が教えてない筈の自宅の電話番号が既に登録されていた。
なんで家の番号知ってるの?という疑問は持つだけ無駄である。
むしろ自分で登録する手間が省けて良かったと前向きに捉えることにした八重は、心を落ち着かせるため目をつむり大きくため息をついた。
「ケケッ、どうかしたか?八重チャン?」
「……ナンデモナイデス。それより設定してくれてありがとう。あ、電話ってどうやってかけたらいいの?」
「そっからかよ…しかたねーな。じゃあ俺の番号選択して、そこのボタン押してみろ」
「こう?」
蛭魔に促されるまま操作すると、彼のポケットから軽快な着信音が鳴り出した。
八重が おぉ、と小さく感動したのもつかの間、携帯電話をポケットから取り出して耳に当てた蛭魔にジェスチャーで同じようにしろと指示され、慌てて八重も携帯電話を耳に当てる。
『も、もしもし?』
『…おう』
『わ、凄い。本当に電話できてる…』
『…年寄りみてーな感想だな。まぁ電話のかけ方はこれで分かっただろ』
『うん、理解した。…ねぇなんか、ふふっ、蛭魔くんが目の前にいるのにわざわざ電話で話してるの面白くなってきた…ふふふ』
携帯電話を使って話すのはこれが初めてな八重は、むずむずと楽しくなってきて思わず小さく笑い声が零れてしまう。
そんな八重の様子を見て、蛭魔は呆れたように笑い目を細めた。
『よく分かんねぇ事で笑ってんじゃねーよ。一旦切るぞ』
『はーい』
携帯電話を顔から離し通話を切る蛭魔の様子を見ながら、八重も同じように顔を離し通話を切る。
ふと画面を見れば通話履歴に蛭魔の名前があり、八重は自然と口元が緩んだ。
「凄いね、誰と電話したかも分かるんだ」
「…オメーまじで何も知らねーのな」
「だって携帯電話って今まで触ったこともなかったし…ちなみに、帰りが遅くなりそうな時とかこれで家に電話しても平気?」
「……いいに決まってんだろ。なんの為にオメーん家の電話番号を登録してやったと思ってんだ」
ぇ、と小さく声を上げて蛭魔の方へ顔を向けると、彼は八重の視線から顔を逸らすように下を向き、机に残った携帯電話を雑に鞄へと詰めている。
なんだか照れ隠しのようにも見える彼の行動に、八重は一瞬目を見張ったあとこっそりと笑みを零した。
蛭魔が時々見せる、こういうさり気ない気遣いをもっと前面に押し出せば皆の印象も変わるのに…と一瞬考えたが、彼には彼の理由があって普段ああいう言動をしているのだろうと思い直す。
それに、蛭魔のこういった面を知っている数少ないメンバーの1人が自分なんだと思うと、ほんの少しだけ誇らしいような気がしてくる。
「蛭魔くん…色々と、どうもありがとう」
「…おう。せっかくこの俺が貸してやったんだから丁重に扱えよ」
「もちろん気を付けるけど、そんな扱いを見せた後に言うの流石だね…」
思わず呟いた八重に、蛭魔はチラリと目を向けて楽しそうに目を細めてケケケと笑った。
ーーその後、八重はまぁまぁの頻度で蛭魔から呼び出しをくらうようになるのだが、それはまた別のお話。
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