真っ直ぐな正義
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「ナマエさん!足元、気をつけてくださいね!」
そう忠告したのも束の間、たしぎさんは何もない平坦な道で見事に転んだ。眼鏡が真っ青な空に放物線を描いて飛んでいく。反射的に手を伸ばすと、それは私の手にすっぽりと収まった。
「大丈夫ですか?」
埃だらけになりながらも、彼女は笑顔で立ち上がる。
「ありがとうございます!助かりました!」
いや、助かってないよ、たしぎさん。心の内でそうツッコミながら、私は眼鏡を彼女に渡した。
服に付着した砂をパンパンと叩いて、「さあ!行きましょう!」と勇む彼女は、頼もしいのか、そうでないのか。
久しぶりの陸へ降り、大地を踏みしめる。この靴もたしぎさんの物だ。足元が安定していることが心地良いと初めて知った。
自分が乗船しているものはどんな船なのかと、後ろの軍艦へ体を向けてみる。
その外観は、とても大きく勇ましい姿。砲台があり、無数の傷や凹んだ所などもある。それは争いが当たり前にあることをまざまざと感じさせられる。
できることなら、争いなんて無ければいいのに。それと同時に外傷の処置を再度習得することを決めた。無いに越したことはないが、何が起るかわからいない海。自由時間は学びに使おう。
「ナマエさん、まずは洋服から行きましょう。」
「はい!お願いします!楽しみです!」
今回上陸したのは、遠征ルート上にある海軍御用達の島だ。そのためか治安も良く、島は活気に満ちていた。レストランやカフェ、洋服店にインテリア、コスメまで、あらゆる店が軒を連ねている。
何軒かお店を回り、洋服、下着、パジャマにトレーニングウエアなどを購入。
可愛いワンピースやスカート、パンプスもあったが船では着ないので見るだけだった。
わたしの様子を察した、たしぎさんは「本部に戻ったら、また一緒に買い物行きましょうね。」と、優しい笑顔で言ってくれる。
本部に行っても、仲良くしてくれると言ってくれたことで頬が緩む。
「たしぎさん、ありがとうございます!可愛い服が多くて目移りしちゃいます!」
「良かったです!ゆっくり見ましょうね。でも、そろそろランチにしませんか?」
一旦メイン通りを出て、高台にあるたしぎさんのお気に入りのお店へ向かった。
緩やかな坂道を歩くと、爽やかな風が髪を靡かせる。
レストランは、ヨーロッパを彷彿させる外観で、石造りの壁や鉄製のテラスもあり、何組かが優雅に食事をしている。
店内は白とゴールドを基調とした内装で、エレガントな雰囲気を醸し出す。ドレスコードは無いようで皆さん普段着。対照的過ぎて少し違和感を感じるが、こちらとしては気楽でありがたい。
窓際の席へ案内され、開放的な窓から海が広がり、先程まで大きく見えた軍艦がとても小さく見える。太陽の光が海に反射してキラキラと美しく輝いていた。
ゆっくり景色を見るのはいつ振りだろう…
空と海のコントラストが美しい。
「ここのレストランは、魚介よりもお肉が美味しんですよ!」
目をキラキラさせて教えてくれるたしぎさん。この世界で初めての外食に胸が躍る。たしぎさんお勧めのチキンステーキを頼むことにした。
色とりどりの野菜が盛り付けられたチキンステーキが運ばれてくる。ジューシーで、お肉に甘みがあり、初めて味わう酸味のあるソースが良く合う。ソースは自家製でこの島の特産品を使用しているらしい。想像以上に美味しくて、食が進む。
「美味しい!!」
「お口にあって良かったです!」
パンは固めだったが、中はフワフワでバターの香りが強く、何もつけない方が美味しい。
見たことの無い野菜が盛り付けられたサラダは、「美容効果の高いお野菜にしました。」とウエイターに言われたもの。
どのお野菜も新鮮で、味が濃く、ドレッシングが必要ないくらい美味しい。
たしぎさんがドレッシングを持ち、「ここのドレッシングも美味しいので是非!」と。
ドレッシングは、はちみつのようなトロッとしていて一見甘めかなと思うが、オリーブオイルベースで野菜の旨味が増した。
「美味しい!」
最後は自家製のとろけるように滑らかなプリンと果実がたっぷりと入ったフルーツティをいただく。
「どれも美味しかったです!たしぎさんありがとうございます!!わたし、美味しいしか言ってない。」
「喜んで貰えて嬉しいです!是非また来ましょうね!」
お腹もいい感じになり、買物再開。
メイン通りへ戻る際、小さい花屋を見つけた。
「ここ寄ってもいいですか?」
「新しいお店ですかね?行きましょう。」
花屋に入ると若い夫婦が出迎えてくれた。
ここの花は、ある工程を経ていて、1年間みずみずしいままだと言う。プリザーブドフラワーのようなものらしい。
たしぎさんはニュース・クー定期便で毎週お花を届けてもらっているが、わたしはそれをするお金も部屋も無い。
殺風景な医務室にお花があったらいいなと思っていたので、すぐに購入を決めた。
目に止まったのは、グロリオサに良く似た花。
グロリオサの花言葉は確か…『栄光』『勇敢』『燃える情熱』『頑強』だったはず。軍人にはピッタリだ。
この花の本当の名前を聞いてしまうと、花言葉が違ってしまうだろうから、聞かずに小さなブーケにしてもらう。
メイン通りへ戻りまたお店を回り、太陽が傾く頃には、予定していた必要な物は全て購入出来た。
シャンプーやコスメは初めて見る物ばかりで、たしぎさんと店員さんと相談しながら決めた。驚くことに、この世界のものは殆どが自然由来のもの。皆さんの肌も髪も綺麗なわけだと納得した。
「ありがとうございました!」
「わたしも楽しくて結構買っちゃいましたー!」
「たしぎさん、最後にウイスキーを買いに行きたいのですが…」
「スモーカーさんへお土産ですか?」
「はい。」
酒屋はメイン通りの最奥だと案内してもらう。
店内は所狭しとウイスキーが並んでいた。呑まないわたし達にはさっぱりわからない。たしぎさんが「スモーカーさんが良く呑まれているのはこれですね。」と、見たことある瓶を指差す。
これ以上悩んでいても仕方がないので、店員さんに声を掛けた。
「このウイスキーを好む人が、飲みやすいものはありますか?」と。
店員さんから、いくつか質問されてたしぎさんは葉巻のメーカーなどを説明した。
「じゃあ、これっすね。吸われている葉巻と合いますよ。おれも葉巻は色々試しましたし、それに合わせて色々飲んだけど、お勧めはこれっすね。」
出してもらった瓶は、ワインボトルに似た形で色もどこか赤っぽい。一見ウイスキーとは思えかった。
「これウイスキーなんですか?」
「珍しいでしょ。でもウイスキーですよ。」
たしぎさんと店員さんが話している間、わたしは何故かそのウイスキーボトルから目が離せなかった。
ウイスキーといくつかおつまみを合わせてギフト用にラッピングをしてもらう。
珍しい品だと値が張ると思ったがそこまででは無く安心した。
お財布の中を確認し、数枚のお札が残っている。軍艦に戻ったらスモーカーさんの所へ行こう。
楽しかった時間はあっという間だった。空が紺色に染まり、急いで軍艦へ戻る。たしぎさんに挨拶を済ませ、私は一度、スモーカーさんの部屋へと向かった。
ノックを三回。
「ナマエです。」
少しの沈黙の後、重いドアがゆっくりと開く。
「只今、戻りました。」
扉の向こうにいたスモーカーさんは、心なしか疲れた顔をしていた。 短く「あぁ」とだけ言って、私を部屋の中へ招き入れる。
「今日はありがとうございました。これ、お土産です。あと残った分のお金をお返しに…」
私はテーブルの上に、ラッピングされたウイスキーと残りのお金を置いた。
ソファに座り、目元をマッサージしているスモーカーさんは短く「あぁ。わざわざわりぃな。」と。
本部とのやり取りは余程大変なんだろう…。
「あの…ウイスキーなんですけど、この前飲まれていた物ではなくて…葉巻に合うもので、珍しい物だそうです。お口に合えばいいのですが…」
グレーで統一されたラッピング。
男性に渡すとは言わなかったが、スモーカーさんに渡すにはピッタリ。
両手でテーブルに置く。もう少し反応があるかと思ったけれど、ほぼ無反応で気持ちが降下していくのがわかる。私は、何を期待しているのだ。
「お前、座んねぇのか?」
「え?お渡ししたら、すぐお暇します。」
「今日はたしぎの部屋か」と小さく言い、わたしを見た。
その言葉の意味がわからず、首をコテンと右に傾けた。
「珍しいもんなら、今から飲むか。少し付き合えよ。」
「疲れているのに、いいんですか?」
「1杯くらい問題ねぇよ。」
「用意してきますね!」
私は弾むような気持ちで部屋を飛び出し、食堂へと急いだ。その前に、たしぎさんの部屋に寄り、スモーカーさんの相手をすることになった旨を伝える。
「お待たせしました!」
食堂から戻ってきた私の手には、ウイスキー用のグラスと、氷、マドラー、そして私用の紅茶が入ったマグカップが載ったトレイがあった。おつまみに合わせて、小さな取り皿も四枚添える。
「わりぃな。任せちまって。」
シャワーを浴びたスモーカーさんの短い髪は下りていて、少し幼く感じる。
「髪乾かしてきて下さいね。用意しますので。」
水滴がポタポタと落ちている様子をみると、急かしてしまったかなと、思ってしまう。
テーブルに準備している間、スモーカーさんはラッピングを丁寧に取り、ボトルを持ち上げた。無骨な手が器用にラッピングを開ける様に釘付けになってしまう。
「珍しいな。」
キュポッと栓を抜き、洋酒独特の音を出しながらグラスに注ぐ。
葉巻を1本カットし、マッチで火を点ける。
何度か蒸して、ウイスキーをコクリと一口。
もう一度葉巻を蒸し、目を閉じ煙をゆっくりと吐き出す。そして、静かに微笑んでから「旨い」と呟いた。
その穏やかな声に、私の心臓が小さく跳ねる。グラスをゆっくりと回し、香りを楽しみながら再度グラスに口をつける彼の姿に、ようやく肩の力が抜ける。
「良かった…」
安堵の声が、思わず漏れた。
「呑みすぎないでくだね。」
「お前、見過ぎだろ。」
「贈り物とかって緊張しませんか?お口に合うか不安で。」
「今回のは葉巻をやらねぇなら不安かもな。」
伏し目がちに笑うスモーカーさんに、今度は心臓が大きく跳ねる。
今日の買物の話などをしながら、お互いにゆっくりと時間をかけて1杯だけ飲む。その時間はひどく穏やかで満たされた。
わたしは部屋を出て、食堂へ向かう。カチャカチャとグラスと食器が音を奏でる。食堂までの廊下で、スモーカーさんの笑顔を何度も思い出した。
そう忠告したのも束の間、たしぎさんは何もない平坦な道で見事に転んだ。眼鏡が真っ青な空に放物線を描いて飛んでいく。反射的に手を伸ばすと、それは私の手にすっぽりと収まった。
「大丈夫ですか?」
埃だらけになりながらも、彼女は笑顔で立ち上がる。
「ありがとうございます!助かりました!」
いや、助かってないよ、たしぎさん。心の内でそうツッコミながら、私は眼鏡を彼女に渡した。
服に付着した砂をパンパンと叩いて、「さあ!行きましょう!」と勇む彼女は、頼もしいのか、そうでないのか。
久しぶりの陸へ降り、大地を踏みしめる。この靴もたしぎさんの物だ。足元が安定していることが心地良いと初めて知った。
自分が乗船しているものはどんな船なのかと、後ろの軍艦へ体を向けてみる。
その外観は、とても大きく勇ましい姿。砲台があり、無数の傷や凹んだ所などもある。それは争いが当たり前にあることをまざまざと感じさせられる。
できることなら、争いなんて無ければいいのに。それと同時に外傷の処置を再度習得することを決めた。無いに越したことはないが、何が起るかわからいない海。自由時間は学びに使おう。
「ナマエさん、まずは洋服から行きましょう。」
「はい!お願いします!楽しみです!」
今回上陸したのは、遠征ルート上にある海軍御用達の島だ。そのためか治安も良く、島は活気に満ちていた。レストランやカフェ、洋服店にインテリア、コスメまで、あらゆる店が軒を連ねている。
何軒かお店を回り、洋服、下着、パジャマにトレーニングウエアなどを購入。
可愛いワンピースやスカート、パンプスもあったが船では着ないので見るだけだった。
わたしの様子を察した、たしぎさんは「本部に戻ったら、また一緒に買い物行きましょうね。」と、優しい笑顔で言ってくれる。
本部に行っても、仲良くしてくれると言ってくれたことで頬が緩む。
「たしぎさん、ありがとうございます!可愛い服が多くて目移りしちゃいます!」
「良かったです!ゆっくり見ましょうね。でも、そろそろランチにしませんか?」
一旦メイン通りを出て、高台にあるたしぎさんのお気に入りのお店へ向かった。
緩やかな坂道を歩くと、爽やかな風が髪を靡かせる。
レストランは、ヨーロッパを彷彿させる外観で、石造りの壁や鉄製のテラスもあり、何組かが優雅に食事をしている。
店内は白とゴールドを基調とした内装で、エレガントな雰囲気を醸し出す。ドレスコードは無いようで皆さん普段着。対照的過ぎて少し違和感を感じるが、こちらとしては気楽でありがたい。
窓際の席へ案内され、開放的な窓から海が広がり、先程まで大きく見えた軍艦がとても小さく見える。太陽の光が海に反射してキラキラと美しく輝いていた。
ゆっくり景色を見るのはいつ振りだろう…
空と海のコントラストが美しい。
「ここのレストランは、魚介よりもお肉が美味しんですよ!」
目をキラキラさせて教えてくれるたしぎさん。この世界で初めての外食に胸が躍る。たしぎさんお勧めのチキンステーキを頼むことにした。
色とりどりの野菜が盛り付けられたチキンステーキが運ばれてくる。ジューシーで、お肉に甘みがあり、初めて味わう酸味のあるソースが良く合う。ソースは自家製でこの島の特産品を使用しているらしい。想像以上に美味しくて、食が進む。
「美味しい!!」
「お口にあって良かったです!」
パンは固めだったが、中はフワフワでバターの香りが強く、何もつけない方が美味しい。
見たことの無い野菜が盛り付けられたサラダは、「美容効果の高いお野菜にしました。」とウエイターに言われたもの。
どのお野菜も新鮮で、味が濃く、ドレッシングが必要ないくらい美味しい。
たしぎさんがドレッシングを持ち、「ここのドレッシングも美味しいので是非!」と。
ドレッシングは、はちみつのようなトロッとしていて一見甘めかなと思うが、オリーブオイルベースで野菜の旨味が増した。
「美味しい!」
最後は自家製のとろけるように滑らかなプリンと果実がたっぷりと入ったフルーツティをいただく。
「どれも美味しかったです!たしぎさんありがとうございます!!わたし、美味しいしか言ってない。」
「喜んで貰えて嬉しいです!是非また来ましょうね!」
お腹もいい感じになり、買物再開。
メイン通りへ戻る際、小さい花屋を見つけた。
「ここ寄ってもいいですか?」
「新しいお店ですかね?行きましょう。」
花屋に入ると若い夫婦が出迎えてくれた。
ここの花は、ある工程を経ていて、1年間みずみずしいままだと言う。プリザーブドフラワーのようなものらしい。
たしぎさんはニュース・クー定期便で毎週お花を届けてもらっているが、わたしはそれをするお金も部屋も無い。
殺風景な医務室にお花があったらいいなと思っていたので、すぐに購入を決めた。
目に止まったのは、グロリオサに良く似た花。
グロリオサの花言葉は確か…『栄光』『勇敢』『燃える情熱』『頑強』だったはず。軍人にはピッタリだ。
この花の本当の名前を聞いてしまうと、花言葉が違ってしまうだろうから、聞かずに小さなブーケにしてもらう。
メイン通りへ戻りまたお店を回り、太陽が傾く頃には、予定していた必要な物は全て購入出来た。
シャンプーやコスメは初めて見る物ばかりで、たしぎさんと店員さんと相談しながら決めた。驚くことに、この世界のものは殆どが自然由来のもの。皆さんの肌も髪も綺麗なわけだと納得した。
「ありがとうございました!」
「わたしも楽しくて結構買っちゃいましたー!」
「たしぎさん、最後にウイスキーを買いに行きたいのですが…」
「スモーカーさんへお土産ですか?」
「はい。」
酒屋はメイン通りの最奥だと案内してもらう。
店内は所狭しとウイスキーが並んでいた。呑まないわたし達にはさっぱりわからない。たしぎさんが「スモーカーさんが良く呑まれているのはこれですね。」と、見たことある瓶を指差す。
これ以上悩んでいても仕方がないので、店員さんに声を掛けた。
「このウイスキーを好む人が、飲みやすいものはありますか?」と。
店員さんから、いくつか質問されてたしぎさんは葉巻のメーカーなどを説明した。
「じゃあ、これっすね。吸われている葉巻と合いますよ。おれも葉巻は色々試しましたし、それに合わせて色々飲んだけど、お勧めはこれっすね。」
出してもらった瓶は、ワインボトルに似た形で色もどこか赤っぽい。一見ウイスキーとは思えかった。
「これウイスキーなんですか?」
「珍しいでしょ。でもウイスキーですよ。」
たしぎさんと店員さんが話している間、わたしは何故かそのウイスキーボトルから目が離せなかった。
ウイスキーといくつかおつまみを合わせてギフト用にラッピングをしてもらう。
珍しい品だと値が張ると思ったがそこまででは無く安心した。
お財布の中を確認し、数枚のお札が残っている。軍艦に戻ったらスモーカーさんの所へ行こう。
楽しかった時間はあっという間だった。空が紺色に染まり、急いで軍艦へ戻る。たしぎさんに挨拶を済ませ、私は一度、スモーカーさんの部屋へと向かった。
ノックを三回。
「ナマエです。」
少しの沈黙の後、重いドアがゆっくりと開く。
「只今、戻りました。」
扉の向こうにいたスモーカーさんは、心なしか疲れた顔をしていた。 短く「あぁ」とだけ言って、私を部屋の中へ招き入れる。
「今日はありがとうございました。これ、お土産です。あと残った分のお金をお返しに…」
私はテーブルの上に、ラッピングされたウイスキーと残りのお金を置いた。
ソファに座り、目元をマッサージしているスモーカーさんは短く「あぁ。わざわざわりぃな。」と。
本部とのやり取りは余程大変なんだろう…。
「あの…ウイスキーなんですけど、この前飲まれていた物ではなくて…葉巻に合うもので、珍しい物だそうです。お口に合えばいいのですが…」
グレーで統一されたラッピング。
男性に渡すとは言わなかったが、スモーカーさんに渡すにはピッタリ。
両手でテーブルに置く。もう少し反応があるかと思ったけれど、ほぼ無反応で気持ちが降下していくのがわかる。私は、何を期待しているのだ。
「お前、座んねぇのか?」
「え?お渡ししたら、すぐお暇します。」
「今日はたしぎの部屋か」と小さく言い、わたしを見た。
その言葉の意味がわからず、首をコテンと右に傾けた。
「珍しいもんなら、今から飲むか。少し付き合えよ。」
「疲れているのに、いいんですか?」
「1杯くらい問題ねぇよ。」
「用意してきますね!」
私は弾むような気持ちで部屋を飛び出し、食堂へと急いだ。その前に、たしぎさんの部屋に寄り、スモーカーさんの相手をすることになった旨を伝える。
「お待たせしました!」
食堂から戻ってきた私の手には、ウイスキー用のグラスと、氷、マドラー、そして私用の紅茶が入ったマグカップが載ったトレイがあった。おつまみに合わせて、小さな取り皿も四枚添える。
「わりぃな。任せちまって。」
シャワーを浴びたスモーカーさんの短い髪は下りていて、少し幼く感じる。
「髪乾かしてきて下さいね。用意しますので。」
水滴がポタポタと落ちている様子をみると、急かしてしまったかなと、思ってしまう。
テーブルに準備している間、スモーカーさんはラッピングを丁寧に取り、ボトルを持ち上げた。無骨な手が器用にラッピングを開ける様に釘付けになってしまう。
「珍しいな。」
キュポッと栓を抜き、洋酒独特の音を出しながらグラスに注ぐ。
葉巻を1本カットし、マッチで火を点ける。
何度か蒸して、ウイスキーをコクリと一口。
もう一度葉巻を蒸し、目を閉じ煙をゆっくりと吐き出す。そして、静かに微笑んでから「旨い」と呟いた。
その穏やかな声に、私の心臓が小さく跳ねる。グラスをゆっくりと回し、香りを楽しみながら再度グラスに口をつける彼の姿に、ようやく肩の力が抜ける。
「良かった…」
安堵の声が、思わず漏れた。
「呑みすぎないでくだね。」
「お前、見過ぎだろ。」
「贈り物とかって緊張しませんか?お口に合うか不安で。」
「今回のは葉巻をやらねぇなら不安かもな。」
伏し目がちに笑うスモーカーさんに、今度は心臓が大きく跳ねる。
今日の買物の話などをしながら、お互いにゆっくりと時間をかけて1杯だけ飲む。その時間はひどく穏やかで満たされた。
わたしは部屋を出て、食堂へ向かう。カチャカチャとグラスと食器が音を奏でる。食堂までの廊下で、スモーカーさんの笑顔を何度も思い出した。
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