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ハリーさんの下でナースとして働く許可を告げられたのが昨日。そして今朝の失態。
少し慣れたと言ったが、体は正直で寝心地のいい寝具にリラックスし過ぎてしまった。
磨き上げられたドレッサーの鏡。自分の顔を確認し大きく深呼吸をした。久しぶりに看護師スイッチを入れる為に。人の命に関わる仕事の慣れたのか、いつからか気持ちの切り替えが上手くなっていた。恋人に振られようが上司や先輩から怒られようが、テンションが高かろうが、平常心を保てるようになっていた。職業病なのかもしれない。
短い期間でも、この軍艦の医務室がわたしの居場所となる。もう一度深呼吸をして、医務室へ向かった。
ハリーさんにきちんとした挨拶をし、不手際があるだろうから、その際は必ず注意して欲しい旨を伝えた。
仕事のタイムテーブルや設備などについて、細かく教えてもらえたことに驚く。これは、即戦力になれという意味だろうから自然と背筋が伸びる。
起床は朝5時。
支度をして6時に不寝番の方々の健康チェックシートの確認。
軽く食事をして、8時の朝礼に合わせて他の方々のチェックシート確認。不寝番と合わせると約400名。
ハリーさんと打合せをして、10時には怪我人等の処置。
昼食などはその都度変わってくる。
何事もなければ、18時には自由行動。
拘束時間は、恐ろしく長いが、何もなければ待機時間は洗濯などをしていていいと。
決まった休日は無く、ハリーさんと相談して決めることになった。
「早速で申し訳ないんですが、島に着港したら日用品を買うのでお休みをいただきたいです。」
おずおずと休日の申請をするが、始めたばかりで申し訳なくなさすぎる…。
「スモーカーから聞いてる。」
「ありがとうございます。」
今日はカルテの確認を命じられた。
約400名が乗る軍艦。
最初に渡されたカルテはハリーさんのもので、顔写真が張られ、個人情報が目一杯記載されている。その中にはアレルギー、過去の怪我や病気などの既往歴、薬や悪魔の実の能力の有無。
「これいいんですか?個人情報だらけのカルテをわたしが見ても…」
「お前が俺たち何かすれば、すぐ消せるからな。」
大笑いのハリーさんを見て、笑えないよと思ったが口には出せなかった。
すると、目の前にドン!ドン!カルテの山が出来上がり、あっという間に前が見えなくなる。
「これ…今日中ですか?」
椅子から立ち上がり、壁掛けのシンプルな時計を見ると現在朝の8時。弱々しい声が出てしまう。
「何があるかわかんねぇだろ。右の山からやれ。各班の班長だ。」
ハリーさんから見て右なのか、わたしから見て右なのかわからないが、ハリーさんから見て右の山の1番上にあるカルテを手に取る。
写真はよく見る顔だった。それはスモーカーさんのカルテ。
相変わらず怖い顔をしているが、少し若いスモーカーさんは新鮮だった。
「スモーカーさんのやつからですか?」
「それだ。せめて顔と名前は覚えとけ。」
言われた通りに班長ブロックから攻めよう。自慢じゃないけど、記憶力だけはあるんだから。
「ハリーさん!ノート欲しいです。」
無言の後に、カルテの山の奥からノートが飛んできた。「うわ!」と声が出てしまったが、なんとかキャッチ。あり得ない渡し方で驚きつつ男所帯では当たり前なのかもと思うしかなかった。習うより慣れろだ。
失礼なことだが、悪魔の実の有無にとても興味が湧いた。スモーカーさんは能力者だと記されている。どんな能力なのかはわからないが、いつか見れる時が来たらいいなと、不躾な事を考えていた。
スモーカーさんやハリーさん達のカルテ内容をノートへ控えて、顔は特徴を交えながら似顔絵を描く。絵心は無いけれど自分がわかればいい。
「飯食うぞ。」
そう声を掛けられて、お腹が空いていた事を思い出した。集中すると周りが見えなくなるのがわたしの悪い癖だな。
「ここで食べていいんですか?」
「食堂遠いんだよ。」
おにぎりを食べながらもカルテを読むわたしを見たハリーさんが大声で怒鳴った。
「食える時にしっかり食え!戦闘になったらどうすんだ!カルテなんて後にしろ!!」
吃驚した。怒鳴られたことでは無い。食事を優先したことにだ。
病院勤務の時は食事なんて二の次。長引いた手術があっても、次の手術があるからと、着替えながら適当に食べていた。手軽なゼリータイプの栄養ドリンク、カロリー多めのパンで済ませて、散々残業した後に暴飲暴食。
「ここは海の上だ。いつ何があるかわかんねぇんだぞ。医療に携わってんならお前自身の健康に気をつけろ!!」
カルテを閉じ、半分くらい食べたであろうおにぎりを見ると魚の角煮と半分にカットされた煮玉子が入っている。味わっていないから味がわからなかった。
ここは病院じゃないし、あの世界の様の何時でも食事ができるわけじゃないんだ…。
「はい。」
ごめんなさいとは言わなかった。悪い事をしたわけじゃなくて、わたしの医療人としての自覚が足りなかった。
「皿はお前が片付けろよ。」
そう言って、ハリーさんは奥の部屋へ行ってしまった。
黙々とおにぎりを咀嚼し、スープを飲む。
そういえば、この世界に来てからご飯が美味しくて、味があると思っていた。
今まで何を食べていたのだろう…色々限界だったのかな…と、医者の不養生と言う言葉を思い出す。
「ご馳走様でした。美味しかったです。」
賑わう食堂へ食器を返却に来た。
「おぉ。お粗末さん。その置いといてくれ。」
ニコニコ笑うのは、コックのルイスさん。
わたしは食堂をゆっくり見回し、楽しそうに食事をする海兵達の様子に釘付けになった。
「いいな…。」
「どうした?」
さっきの出来事を搔い摘んでルイスさんに話す。ゲラゲラ笑って「ハリーのジジイうるせえだろ?」と。
「でもな、食うことは生きることだ。飯を食うから健康。健康だから飯を食う。飯も治療みてぇなもんだぜ。」
食べる事は生きること。その言葉に深く納得した。そういう事、忘れてたな…。胸が少しだけ苦しくなる。
「俺が丹精込め作った料理だ!味わってくれよ。」
「ルイスさんのご飯美味しくて大好きですよ!」
ルイスさんは大喜びで、「次から大盛りにしてやるよ!」と笑ってくれた。
医務室へ戻り、ハリーさんにコーヒーを持っていく。
「ちゃんとご飯食べます。生きる為にも、誰かを救う為にも。」
「あぁ。俺に何かあったらよろしくな。」
ふざけたものでも怒ったものでも無く、真剣な声色で、返す言葉が見当たらなかった。
「シャワー先にいただきました。ありがとうございます。」
シャワーを出ると、フワリといい香りがした。
デスクの上にディフューザーがあり、たしぎさんは満足そうな顔でベッドに大の字に寝転んでいる。
「いい香りですね。癒やされる。」
「わかりますか?私、上陸前は気が昂ぶるので癒やされる香りを選ぶんです。」
目を瞑ったまま、口元を緩めるたしぎさん。穏やかな表情を見たのは初めてだった気がする。可愛いなと思いながら、自分の簡易ベッドへ腰掛けた。
「嬉しいものですか?上陸は。」
「そうですね。海は大好きですが、長く海に居ると陸が恋しくなりますね。上陸前しか思わないんですけど。ナマエさんは楽しみじゃないですか?」
「生きてきてずっと陸なので、あまり実感ないですね。海に慣れたわけでもないですし。」
「そうですよね。でも、私の気持ちがわかる時が来ると思いますよ。陸は何でもありますから。」
確かにそうだ。陸は何でも揃っているが、海は揃っておらず、常に不足した状態。今だってわたしは借り物を着ている。陸なら何も考えず服を買い好きな時に食事をしていたかもしれない。何でも揃っていて溢れていた前の世界と比べると足らないものばかり。この世界に、海上での生活に慣れることが、本当にできるのだろうか。
明日は上陸。風の関係で1日程早まったそうだ。
「ナマエさんの必要な物を決めておきましょう!」と、たしぎさんが紙とペンを用意してくれ。
「誰か荷物持ちを頼みますか?」
必需品とは言え、結構な量だ。3日分の服、下着、タオル類、スキンケアやシャンプーなど。他にも靴、トレーニングウエアと、ランニングシューズ…
「いえ、頑張りますよ。」
「軍艦に送れるか伺ってみましょうね。」
プルプルプルプル…プルプルプルプル…
デスクに居る電伝虫が鳴り、たしぎさんは慌てて受話器を取った。
仕事の話しだろうから、もう一度買い物リストを減らせるか考えよう。
「ナマエさん。スモーカーさんがお呼びです。」
今度はサラシを巻いて、軽く身支度を整えて、スモーカーさんの部屋へ。
「明日、これ持ってけ。」
入室した瞬間、ヒュンと投げられてた物を慌ててキャッチ。
「いきなり投げないで下さいよ!」
「……お前、反応良いな。」
キャッチできた自分に驚いていると、スモーカーさんも一緒に驚いていた。驚くならなぜ突然投げたんだ、この人は。海軍の人達は普通に物を渡せないのか…。
投げられた物を見ると、それは大きくて重い財布だった。
「財布?」
「あぁ。それ持ってけ。」
質のいい革の長財布。綺麗なキャメル色。
本来薄めだったであろう財布は、パンパンで不格好な二つ折りになっていた。
「足りるか確認しろよ。」
「し…失礼します。」
見たこともない量の札束が…
ひぃぃ。
「スモーカーさん!」
「足りねぇか?」
「違いますよ!こんなに必要ないです!」
「女は物入りだろ?」
誰と比べているんだ?
葉巻を灰皿に押し潰して、不思議そうな顔をしている。
「少しだけお借りします。」と、数枚のお札を抜いて財布はスモーカーさんのデスクへ返す。
「足りなきゃ言え。」
「足らせますよ!」
何か思い出したように、デスクの引き出しをゴソゴソと探りだし、「これ使え」と小さめのお財布を出してきた。いつも唐突で強引なスモーカーさんには割りと慣れてきていた。
「手入れしてねぇが、使える。」
お礼を伝えて、持ってみるとこれまた質がいいことがわかる。ダークグリーンのお財布は、使い込まれた傷や汚れがあるが手によく馴染んだ。
「気に入った財布が見つかるまで使ってていい。」と言った後、さっさと寝ろと言われる。
ドアの前に立ち、彼はこの上陸中、本部とのやり取りがあり軍艦から出られないことを思い出した。
「スモーカーさん、お土産は何がいいですか?」
読んでいた資料から目を離し、わたしを見る。薄暗い室内でよく見えなかったが、口元が少し笑っていたと思う。
「ウイスキー。」とだけ返された。
「わかりました!おやすみなさい。」
帰りに買って行こう。ついでにウイスキーに合う食べ物も。
「スモーカーさんからお金預かりましたか?」
「はい。大金渡されたので突き返しましたけど。」
「ナマエさん…スモーカーさん相手に凄いですね。」
歴代の婦長やドクターに比べたら、普段のスモーカーさんは優しく感じんだけどな。
少し慣れたと言ったが、体は正直で寝心地のいい寝具にリラックスし過ぎてしまった。
磨き上げられたドレッサーの鏡。自分の顔を確認し大きく深呼吸をした。久しぶりに看護師スイッチを入れる為に。人の命に関わる仕事の慣れたのか、いつからか気持ちの切り替えが上手くなっていた。恋人に振られようが上司や先輩から怒られようが、テンションが高かろうが、平常心を保てるようになっていた。職業病なのかもしれない。
短い期間でも、この軍艦の医務室がわたしの居場所となる。もう一度深呼吸をして、医務室へ向かった。
ハリーさんにきちんとした挨拶をし、不手際があるだろうから、その際は必ず注意して欲しい旨を伝えた。
仕事のタイムテーブルや設備などについて、細かく教えてもらえたことに驚く。これは、即戦力になれという意味だろうから自然と背筋が伸びる。
起床は朝5時。
支度をして6時に不寝番の方々の健康チェックシートの確認。
軽く食事をして、8時の朝礼に合わせて他の方々のチェックシート確認。不寝番と合わせると約400名。
ハリーさんと打合せをして、10時には怪我人等の処置。
昼食などはその都度変わってくる。
何事もなければ、18時には自由行動。
拘束時間は、恐ろしく長いが、何もなければ待機時間は洗濯などをしていていいと。
決まった休日は無く、ハリーさんと相談して決めることになった。
「早速で申し訳ないんですが、島に着港したら日用品を買うのでお休みをいただきたいです。」
おずおずと休日の申請をするが、始めたばかりで申し訳なくなさすぎる…。
「スモーカーから聞いてる。」
「ありがとうございます。」
今日はカルテの確認を命じられた。
約400名が乗る軍艦。
最初に渡されたカルテはハリーさんのもので、顔写真が張られ、個人情報が目一杯記載されている。その中にはアレルギー、過去の怪我や病気などの既往歴、薬や悪魔の実の能力の有無。
「これいいんですか?個人情報だらけのカルテをわたしが見ても…」
「お前が俺たち何かすれば、すぐ消せるからな。」
大笑いのハリーさんを見て、笑えないよと思ったが口には出せなかった。
すると、目の前にドン!ドン!カルテの山が出来上がり、あっという間に前が見えなくなる。
「これ…今日中ですか?」
椅子から立ち上がり、壁掛けのシンプルな時計を見ると現在朝の8時。弱々しい声が出てしまう。
「何があるかわかんねぇだろ。右の山からやれ。各班の班長だ。」
ハリーさんから見て右なのか、わたしから見て右なのかわからないが、ハリーさんから見て右の山の1番上にあるカルテを手に取る。
写真はよく見る顔だった。それはスモーカーさんのカルテ。
相変わらず怖い顔をしているが、少し若いスモーカーさんは新鮮だった。
「スモーカーさんのやつからですか?」
「それだ。せめて顔と名前は覚えとけ。」
言われた通りに班長ブロックから攻めよう。自慢じゃないけど、記憶力だけはあるんだから。
「ハリーさん!ノート欲しいです。」
無言の後に、カルテの山の奥からノートが飛んできた。「うわ!」と声が出てしまったが、なんとかキャッチ。あり得ない渡し方で驚きつつ男所帯では当たり前なのかもと思うしかなかった。習うより慣れろだ。
失礼なことだが、悪魔の実の有無にとても興味が湧いた。スモーカーさんは能力者だと記されている。どんな能力なのかはわからないが、いつか見れる時が来たらいいなと、不躾な事を考えていた。
スモーカーさんやハリーさん達のカルテ内容をノートへ控えて、顔は特徴を交えながら似顔絵を描く。絵心は無いけれど自分がわかればいい。
「飯食うぞ。」
そう声を掛けられて、お腹が空いていた事を思い出した。集中すると周りが見えなくなるのがわたしの悪い癖だな。
「ここで食べていいんですか?」
「食堂遠いんだよ。」
おにぎりを食べながらもカルテを読むわたしを見たハリーさんが大声で怒鳴った。
「食える時にしっかり食え!戦闘になったらどうすんだ!カルテなんて後にしろ!!」
吃驚した。怒鳴られたことでは無い。食事を優先したことにだ。
病院勤務の時は食事なんて二の次。長引いた手術があっても、次の手術があるからと、着替えながら適当に食べていた。手軽なゼリータイプの栄養ドリンク、カロリー多めのパンで済ませて、散々残業した後に暴飲暴食。
「ここは海の上だ。いつ何があるかわかんねぇんだぞ。医療に携わってんならお前自身の健康に気をつけろ!!」
カルテを閉じ、半分くらい食べたであろうおにぎりを見ると魚の角煮と半分にカットされた煮玉子が入っている。味わっていないから味がわからなかった。
ここは病院じゃないし、あの世界の様の何時でも食事ができるわけじゃないんだ…。
「はい。」
ごめんなさいとは言わなかった。悪い事をしたわけじゃなくて、わたしの医療人としての自覚が足りなかった。
「皿はお前が片付けろよ。」
そう言って、ハリーさんは奥の部屋へ行ってしまった。
黙々とおにぎりを咀嚼し、スープを飲む。
そういえば、この世界に来てからご飯が美味しくて、味があると思っていた。
今まで何を食べていたのだろう…色々限界だったのかな…と、医者の不養生と言う言葉を思い出す。
「ご馳走様でした。美味しかったです。」
賑わう食堂へ食器を返却に来た。
「おぉ。お粗末さん。その置いといてくれ。」
ニコニコ笑うのは、コックのルイスさん。
わたしは食堂をゆっくり見回し、楽しそうに食事をする海兵達の様子に釘付けになった。
「いいな…。」
「どうした?」
さっきの出来事を搔い摘んでルイスさんに話す。ゲラゲラ笑って「ハリーのジジイうるせえだろ?」と。
「でもな、食うことは生きることだ。飯を食うから健康。健康だから飯を食う。飯も治療みてぇなもんだぜ。」
食べる事は生きること。その言葉に深く納得した。そういう事、忘れてたな…。胸が少しだけ苦しくなる。
「俺が丹精込め作った料理だ!味わってくれよ。」
「ルイスさんのご飯美味しくて大好きですよ!」
ルイスさんは大喜びで、「次から大盛りにしてやるよ!」と笑ってくれた。
医務室へ戻り、ハリーさんにコーヒーを持っていく。
「ちゃんとご飯食べます。生きる為にも、誰かを救う為にも。」
「あぁ。俺に何かあったらよろしくな。」
ふざけたものでも怒ったものでも無く、真剣な声色で、返す言葉が見当たらなかった。
「シャワー先にいただきました。ありがとうございます。」
シャワーを出ると、フワリといい香りがした。
デスクの上にディフューザーがあり、たしぎさんは満足そうな顔でベッドに大の字に寝転んでいる。
「いい香りですね。癒やされる。」
「わかりますか?私、上陸前は気が昂ぶるので癒やされる香りを選ぶんです。」
目を瞑ったまま、口元を緩めるたしぎさん。穏やかな表情を見たのは初めてだった気がする。可愛いなと思いながら、自分の簡易ベッドへ腰掛けた。
「嬉しいものですか?上陸は。」
「そうですね。海は大好きですが、長く海に居ると陸が恋しくなりますね。上陸前しか思わないんですけど。ナマエさんは楽しみじゃないですか?」
「生きてきてずっと陸なので、あまり実感ないですね。海に慣れたわけでもないですし。」
「そうですよね。でも、私の気持ちがわかる時が来ると思いますよ。陸は何でもありますから。」
確かにそうだ。陸は何でも揃っているが、海は揃っておらず、常に不足した状態。今だってわたしは借り物を着ている。陸なら何も考えず服を買い好きな時に食事をしていたかもしれない。何でも揃っていて溢れていた前の世界と比べると足らないものばかり。この世界に、海上での生活に慣れることが、本当にできるのだろうか。
明日は上陸。風の関係で1日程早まったそうだ。
「ナマエさんの必要な物を決めておきましょう!」と、たしぎさんが紙とペンを用意してくれ。
「誰か荷物持ちを頼みますか?」
必需品とは言え、結構な量だ。3日分の服、下着、タオル類、スキンケアやシャンプーなど。他にも靴、トレーニングウエアと、ランニングシューズ…
「いえ、頑張りますよ。」
「軍艦に送れるか伺ってみましょうね。」
プルプルプルプル…プルプルプルプル…
デスクに居る電伝虫が鳴り、たしぎさんは慌てて受話器を取った。
仕事の話しだろうから、もう一度買い物リストを減らせるか考えよう。
「ナマエさん。スモーカーさんがお呼びです。」
今度はサラシを巻いて、軽く身支度を整えて、スモーカーさんの部屋へ。
「明日、これ持ってけ。」
入室した瞬間、ヒュンと投げられてた物を慌ててキャッチ。
「いきなり投げないで下さいよ!」
「……お前、反応良いな。」
キャッチできた自分に驚いていると、スモーカーさんも一緒に驚いていた。驚くならなぜ突然投げたんだ、この人は。海軍の人達は普通に物を渡せないのか…。
投げられた物を見ると、それは大きくて重い財布だった。
「財布?」
「あぁ。それ持ってけ。」
質のいい革の長財布。綺麗なキャメル色。
本来薄めだったであろう財布は、パンパンで不格好な二つ折りになっていた。
「足りるか確認しろよ。」
「し…失礼します。」
見たこともない量の札束が…
ひぃぃ。
「スモーカーさん!」
「足りねぇか?」
「違いますよ!こんなに必要ないです!」
「女は物入りだろ?」
誰と比べているんだ?
葉巻を灰皿に押し潰して、不思議そうな顔をしている。
「少しだけお借りします。」と、数枚のお札を抜いて財布はスモーカーさんのデスクへ返す。
「足りなきゃ言え。」
「足らせますよ!」
何か思い出したように、デスクの引き出しをゴソゴソと探りだし、「これ使え」と小さめのお財布を出してきた。いつも唐突で強引なスモーカーさんには割りと慣れてきていた。
「手入れしてねぇが、使える。」
お礼を伝えて、持ってみるとこれまた質がいいことがわかる。ダークグリーンのお財布は、使い込まれた傷や汚れがあるが手によく馴染んだ。
「気に入った財布が見つかるまで使ってていい。」と言った後、さっさと寝ろと言われる。
ドアの前に立ち、彼はこの上陸中、本部とのやり取りがあり軍艦から出られないことを思い出した。
「スモーカーさん、お土産は何がいいですか?」
読んでいた資料から目を離し、わたしを見る。薄暗い室内でよく見えなかったが、口元が少し笑っていたと思う。
「ウイスキー。」とだけ返された。
「わかりました!おやすみなさい。」
帰りに買って行こう。ついでにウイスキーに合う食べ物も。
「スモーカーさんからお金預かりましたか?」
「はい。大金渡されたので突き返しましたけど。」
「ナマエさん…スモーカーさん相手に凄いですね。」
歴代の婦長やドクターに比べたら、普段のスモーカーさんは優しく感じんだけどな。
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