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「この船で医師のお手伝いをさせてほしいです。」
ただ乗船しているなんて申し訳ない。わたしができることで、役立てることなんてこれしかない。
お願いの返答は、もちろんNO。
「お前は保護対象だ。大人しくしてろ。」
そうキッパリ言われてしまった。
その日は医務室で過ごすことになり、たしぎさんが付き添ってくれるそう。
監視の為だろうと思うのは、この部屋には似合わない刀があり、いつでも抜けるよう彼女の横に立て掛けてある。
物騒なものとは対照的に、彼女はとてもにこやかだ。
「少しの間は私の私服で過ごして下さい。」
「すいません。ありがとうございます。」
「ナマエさんの好みでは無いかと思いますが…」
「お借りするのに、そこは気にしないですよ!」
「小さめのお洋服が好きなんですか?」
「そんなことないですけど…なんでですか?」
驚くことに、わたしはこの世界に来て背が伸びていた。
元々160cmなのに、今は170cmくらいになっている。昨夜、わたしはパツパツのパジャマ姿だったことから、たしぎさんは小さめサイズが好みかと思ったと。
自分の手足が長くなっていて、心なしか胸も…
今はサラシが巻かれているけど、谷間がある…
もしかしてと鏡を借りて顔を見るが、残念ながら顔は変わっていなかった。
突然たしぎさんは立ち上がり、「そういう変化があるなら、軍医とスモーカーさんを呼んできますね。」と急いで立ち上がり、ドアに激突しながら廊下へと出ていった。
何度か手を開いたり握ったりしたが、体の感覚は変わっていない。
骨だけが伸びたようで、なんとも言えない不思議な気分になる。向こうの世界だったら良かったのにな…。
廊下から複数の足音と話し声が聞こえて、たしぎさんが戻ってきたことがわかり、なんとなく姿勢を正す。
休養と言われていたのに、突如事情聴取のようなものが始まった。
ベッドサイドに軍医、その後ろにスモーカーさんが仁王立ち、たしぎさんはドアを塞ぐように立っていた。
名前、住んでいた場所、生年月日、年齢、血液型、仕事。
どこで何をして、ここにたどり着いたのか。
身長以外の変化はあるのか。
少し歩いてみろと言われたり、この世界の文字は読めるのかなど…必要が無さそうなことも聞かれた。
質問に答えた所で、何かわかるわけではなく、結果的に個人情報を晒すだけになった。
住んでいた場所の地名を言っても知らないと言われ、違う世界から来たことが明白になる。
何もわからないことだけが露呈し、軍医とスモーカーさんは1度目を合わせて、ため息吐いた。
太陽が没みかける頃、スモーカーさんと軍医が退出し、たしぎさんとふたりきりに。
「疲れた…」
「お疲れ様でした。休養をと思っていたのに、すいません。」
「そんなことないですよ!たいした情報が無くて申し訳ないです。」
「わからないものは仕方ないですよ。伺ったお話しもきっとヒントになるはずです。」
嘘ではなく、本当にそう思ってくれているのが伝わってきて少し胸が軽くなった。
彼女の笑顔は癒やし効果がある気がする。
「わたし、ナマエさんは年下かと思っていました。」
「女性に年齢の話は失礼ですよね」と慌てるたしぎさんが可愛く頬が緩む。
「わたしもたしぎさんは年上かと思っていましたよ。しっかりしてらっしゃるので。」
「しっかりしてないですよ!毎日スモーカーさんにのろまとかグズとか言われてます。」
たしぎさんとの会話は楽しくて、彼女との距離を縮めるのは、あっという間だった。
消灯時間まで、海軍と海賊のことや彼女が入隊した理由、今の海の情勢、悪魔の実の能力者が居ることなど色々な話をした。
部屋のランプを消し、わたしはベッドで、たしぎさんは簡易ベッドへ横になる。
眠いはずなのに、頭が冴えていて眠れない。
無理矢理に目を瞑り、昨夜からの出来事を思い出した。
突如としてグランドラインという不思議な海に来てしまった。向こうのわたしは生きているのか…
家族は知っているのか…
ルームシェアをしているナミに迷惑かけちゃったな…
仕事にも穴開けちゃったし…
夜に考え事をするから不安がドンドンと膨れ上って鼻の奥がツンとし、鼻が詰まる。
はぁ~とため息に似た深呼吸をして、目を開け窓の外を見る。
雲一ない深い紺色の空。
細い月が穏やかに輝いて、部屋に降り注ぐ。
小さく弱く光る星。
空も海も一緒なんだよね…。
『戻る方法を探すしかねぇな。』
スモーカーさんの声が耳の奥に響く。
至極真面目な顔で言われた言葉。
あれこれ悩んでも仕方が無く、これからやることは戻る方法を探すこと、それまではこの世界で生き抜くこと、その2つだ。
もう一度、深く深く深呼吸をする。
改めて、この世界の方々を思い出す。
皆さん大人びていて、驚いたし、サイズ感が全く違う。きっとこれから、初めて知ることがたくさんあるのだろう。
優しい人達の所で良かったと心から思う。
わたしの年齢はたしぎさんより少し上だけど、たしぎさんのほうが年上っぽく見えたな。スモーカーさんももしかしたら、わたしと変わらない年齢なのかも。
軍艦の穏やかな揺れと波の音は、ゆっくりと眠気を誘った。
もう少し起きていたかったが、抗わずに眠りについた。
そして、今。
この軍艦に来てから3日目。
今日から救護室の出入りのみ許可が降りたからと、入り浸って医学書を読み漁っていた。
「あっちの世界との違いはどうだ?」
「たくさんあって面白いですけど、やっぱり血液が違うのは理解出来ないです。」
つまらなさそうに「あぁ。そうかい。」と相槌するのは軍医で名前をハリーと言う。
この軍艦内でスモーカーさんにタメ語を使う唯一の人と聞いていたけど、この人と同じ空間に居るのは不思議と居心地がいい。
ページを捲りながら、自分の世界とのズレを確認していく。違う世界だから流れる時間も違い、治療法も違っている。古い治療法もあれば、珍しい治療法もある。知らない症状や病気も。借りたペンを走らせ、頭を整理させていった。
薬品などの整理をしながらハリーさんが声をかけてくる。
「勉強熱心もいいが、嬢ちゃんが怪我しても輸血してやらねぇから、最低でも自力で隠れるとか逃げられる術を持ったほうがいいぞ。」
続けざまに「籠もってねぇで走って体力つけろ」と言われてしまう。
それは問題だ。もし大怪我すれば、わたしは死ぬんだ。自己輸血の手筈を整理しなくては。
薬品を整理するハリーさんの背中を見ながら、大きなため息が出た。
「ハリーさん輸血用のパックはどこに保管してるんですか?」
「軍艦にはねぇよ。輸血が必要なら、同じ血液型の海兵のを使う。」
「ここには無いなら、どこにあるんですか?」
「本部だよ。彼処は冷凍保存可能なシステムがあるからな。」
「わたしが失血したら助からないんですね…」
ハリーさんはゴニョゴニョ何か言っていて、聞き取れた言葉は「ザン」「能」「どく」。
一応メモっておこう。
休憩するつもりで、大きく伸びたら欠伸も出ちゃった。
ハリーさんに横目で見られてちょっと恥ずかしくなり、冷え切ったコーヒーに口をつける。
「嬢ちゃんは手術だけか?」
それはとても真剣な表情で、わたしの技量を見定めるように少し棘のある声で問われた。
手術だけ?オペ看のことかな?
「今の仕事はオペ室専属ですね。前は外科病棟勤務でした。」
「なぜ外科病棟から変わった?」
ハリーさんの目つきが鋭くなったのがわかり、緊張感が走る。わたしは無意識に背筋を伸ばした。
「病棟では見られないものが見たかったんです。」
続けろと無言の圧力。
「オペの前後しか看られないのが病棟でした。知りたかったんです。オペとは何か。患者さんを救うとは何かを。」
「そうかい。」
ガンガンガンガン
ドアを殴る大きな音と、ドア越しで叫ぶ海兵の声。
「ハリーさん!倒れたやつが居る!」
チッと舌打ちをして、ドアを開けた。
「入れろ。」
「嬢ちゃん手伝え。」
「はい!」
運ばれて来たのは、若い海兵。
顔面蒼白で頸部や前腕には発疹があり、意識混濁していた。
「バイタル。」
言われた瞬間、体温計、血圧計を棚から出して運ばれてきた海兵の隣へ。
いくつか声掛けをして、測定をする。
「お前、こいつは直前に何していた?」
「一緒に飯を食ってただけです。」
ハリーさんは「何食ってた?」と質問しなが、大きなファイルを開きバラバラと確認している。海兵が質問に答えて、ハリーさんは「アレルギーか」と言っていた。
バイタル計測が終わって、すぐにハリーさんに伝える。
「アナフィラキシーだ。アドレナリン打つから、消毒しとけ。」
「はい。」
周囲を確認しハサミを見つけ、大腿部あたりで制服を裁断。近くにあった消毒液を確認し、綿花で消毒。準備が完了しハリーさんを探すとそちらも注射器の準備し終えていた。
注射を打つ時刻を確認して、メモを取る。
「あとは点滴しとくか。お前やっとけ。」
「ハリーさん、わたしが刺していいんですか?」
「人命が優先だ。お前はやらされたと言えばいい。」
指示された点滴袋を準備し、点滴針を打つ。
「経過観察だな。」
「良かった。」
メモに時間、点滴の内容等を記載した。
ハリーさんはドアの前に居た海兵へ「おい。お前らはスモーカーに報告してこい。ついでに後でここに来るよう伝えろ。」と伝言し、コーヒーを啜った。
処置に使用したものを消毒しようと思ったが、全ての指示をしてもらったことに申し訳なさが募り、ハリーさんに声を掛けた。
指示待ち人間だった新人の自分と重なり、不甲斐なく思ってしまう。
「ハリーさん…足手まといですいませんでした。」
「あ?おれが足手まといと言ったか?」
「いえ。」
「なんだっていいんだよ。コイツは助かったんだ。」
そういいながら、わたしがつけた記録を読んでいる。
消毒も終わり、バイタルチェックに行く旨を伝えるとドアがノックされ、スモーカーさんが入室してくる。
「スモーカーか。こっち来い。」
奥の病室へ消えていくふたり。
時計を確認し、患者のバイタルチェックと経過観察。
ハリーさんに指示されたわけではないが、病棟でやっていた仕事だから、指示が無くてもやってしまう。
暫くして戻ってくると「あとは頼んだ。」とスモーカーさんはハリーさんに軽く頭を下げた。
「お前は今日おれの部屋だろ?」
「はい。」
「行くぞ。」
経過観察したメモをハリーさんに渡し、医務室をあとにした。
ただ乗船しているなんて申し訳ない。わたしができることで、役立てることなんてこれしかない。
お願いの返答は、もちろんNO。
「お前は保護対象だ。大人しくしてろ。」
そうキッパリ言われてしまった。
その日は医務室で過ごすことになり、たしぎさんが付き添ってくれるそう。
監視の為だろうと思うのは、この部屋には似合わない刀があり、いつでも抜けるよう彼女の横に立て掛けてある。
物騒なものとは対照的に、彼女はとてもにこやかだ。
「少しの間は私の私服で過ごして下さい。」
「すいません。ありがとうございます。」
「ナマエさんの好みでは無いかと思いますが…」
「お借りするのに、そこは気にしないですよ!」
「小さめのお洋服が好きなんですか?」
「そんなことないですけど…なんでですか?」
驚くことに、わたしはこの世界に来て背が伸びていた。
元々160cmなのに、今は170cmくらいになっている。昨夜、わたしはパツパツのパジャマ姿だったことから、たしぎさんは小さめサイズが好みかと思ったと。
自分の手足が長くなっていて、心なしか胸も…
今はサラシが巻かれているけど、谷間がある…
もしかしてと鏡を借りて顔を見るが、残念ながら顔は変わっていなかった。
突然たしぎさんは立ち上がり、「そういう変化があるなら、軍医とスモーカーさんを呼んできますね。」と急いで立ち上がり、ドアに激突しながら廊下へと出ていった。
何度か手を開いたり握ったりしたが、体の感覚は変わっていない。
骨だけが伸びたようで、なんとも言えない不思議な気分になる。向こうの世界だったら良かったのにな…。
廊下から複数の足音と話し声が聞こえて、たしぎさんが戻ってきたことがわかり、なんとなく姿勢を正す。
休養と言われていたのに、突如事情聴取のようなものが始まった。
ベッドサイドに軍医、その後ろにスモーカーさんが仁王立ち、たしぎさんはドアを塞ぐように立っていた。
名前、住んでいた場所、生年月日、年齢、血液型、仕事。
どこで何をして、ここにたどり着いたのか。
身長以外の変化はあるのか。
少し歩いてみろと言われたり、この世界の文字は読めるのかなど…必要が無さそうなことも聞かれた。
質問に答えた所で、何かわかるわけではなく、結果的に個人情報を晒すだけになった。
住んでいた場所の地名を言っても知らないと言われ、違う世界から来たことが明白になる。
何もわからないことだけが露呈し、軍医とスモーカーさんは1度目を合わせて、ため息吐いた。
太陽が没みかける頃、スモーカーさんと軍医が退出し、たしぎさんとふたりきりに。
「疲れた…」
「お疲れ様でした。休養をと思っていたのに、すいません。」
「そんなことないですよ!たいした情報が無くて申し訳ないです。」
「わからないものは仕方ないですよ。伺ったお話しもきっとヒントになるはずです。」
嘘ではなく、本当にそう思ってくれているのが伝わってきて少し胸が軽くなった。
彼女の笑顔は癒やし効果がある気がする。
「わたし、ナマエさんは年下かと思っていました。」
「女性に年齢の話は失礼ですよね」と慌てるたしぎさんが可愛く頬が緩む。
「わたしもたしぎさんは年上かと思っていましたよ。しっかりしてらっしゃるので。」
「しっかりしてないですよ!毎日スモーカーさんにのろまとかグズとか言われてます。」
たしぎさんとの会話は楽しくて、彼女との距離を縮めるのは、あっという間だった。
消灯時間まで、海軍と海賊のことや彼女が入隊した理由、今の海の情勢、悪魔の実の能力者が居ることなど色々な話をした。
部屋のランプを消し、わたしはベッドで、たしぎさんは簡易ベッドへ横になる。
眠いはずなのに、頭が冴えていて眠れない。
無理矢理に目を瞑り、昨夜からの出来事を思い出した。
突如としてグランドラインという不思議な海に来てしまった。向こうのわたしは生きているのか…
家族は知っているのか…
ルームシェアをしているナミに迷惑かけちゃったな…
仕事にも穴開けちゃったし…
夜に考え事をするから不安がドンドンと膨れ上って鼻の奥がツンとし、鼻が詰まる。
はぁ~とため息に似た深呼吸をして、目を開け窓の外を見る。
雲一ない深い紺色の空。
細い月が穏やかに輝いて、部屋に降り注ぐ。
小さく弱く光る星。
空も海も一緒なんだよね…。
『戻る方法を探すしかねぇな。』
スモーカーさんの声が耳の奥に響く。
至極真面目な顔で言われた言葉。
あれこれ悩んでも仕方が無く、これからやることは戻る方法を探すこと、それまではこの世界で生き抜くこと、その2つだ。
もう一度、深く深く深呼吸をする。
改めて、この世界の方々を思い出す。
皆さん大人びていて、驚いたし、サイズ感が全く違う。きっとこれから、初めて知ることがたくさんあるのだろう。
優しい人達の所で良かったと心から思う。
わたしの年齢はたしぎさんより少し上だけど、たしぎさんのほうが年上っぽく見えたな。スモーカーさんももしかしたら、わたしと変わらない年齢なのかも。
軍艦の穏やかな揺れと波の音は、ゆっくりと眠気を誘った。
もう少し起きていたかったが、抗わずに眠りについた。
そして、今。
この軍艦に来てから3日目。
今日から救護室の出入りのみ許可が降りたからと、入り浸って医学書を読み漁っていた。
「あっちの世界との違いはどうだ?」
「たくさんあって面白いですけど、やっぱり血液が違うのは理解出来ないです。」
つまらなさそうに「あぁ。そうかい。」と相槌するのは軍医で名前をハリーと言う。
この軍艦内でスモーカーさんにタメ語を使う唯一の人と聞いていたけど、この人と同じ空間に居るのは不思議と居心地がいい。
ページを捲りながら、自分の世界とのズレを確認していく。違う世界だから流れる時間も違い、治療法も違っている。古い治療法もあれば、珍しい治療法もある。知らない症状や病気も。借りたペンを走らせ、頭を整理させていった。
薬品などの整理をしながらハリーさんが声をかけてくる。
「勉強熱心もいいが、嬢ちゃんが怪我しても輸血してやらねぇから、最低でも自力で隠れるとか逃げられる術を持ったほうがいいぞ。」
続けざまに「籠もってねぇで走って体力つけろ」と言われてしまう。
それは問題だ。もし大怪我すれば、わたしは死ぬんだ。自己輸血の手筈を整理しなくては。
薬品を整理するハリーさんの背中を見ながら、大きなため息が出た。
「ハリーさん輸血用のパックはどこに保管してるんですか?」
「軍艦にはねぇよ。輸血が必要なら、同じ血液型の海兵のを使う。」
「ここには無いなら、どこにあるんですか?」
「本部だよ。彼処は冷凍保存可能なシステムがあるからな。」
「わたしが失血したら助からないんですね…」
ハリーさんはゴニョゴニョ何か言っていて、聞き取れた言葉は「ザン」「能」「どく」。
一応メモっておこう。
休憩するつもりで、大きく伸びたら欠伸も出ちゃった。
ハリーさんに横目で見られてちょっと恥ずかしくなり、冷え切ったコーヒーに口をつける。
「嬢ちゃんは手術だけか?」
それはとても真剣な表情で、わたしの技量を見定めるように少し棘のある声で問われた。
手術だけ?オペ看のことかな?
「今の仕事はオペ室専属ですね。前は外科病棟勤務でした。」
「なぜ外科病棟から変わった?」
ハリーさんの目つきが鋭くなったのがわかり、緊張感が走る。わたしは無意識に背筋を伸ばした。
「病棟では見られないものが見たかったんです。」
続けろと無言の圧力。
「オペの前後しか看られないのが病棟でした。知りたかったんです。オペとは何か。患者さんを救うとは何かを。」
「そうかい。」
ガンガンガンガン
ドアを殴る大きな音と、ドア越しで叫ぶ海兵の声。
「ハリーさん!倒れたやつが居る!」
チッと舌打ちをして、ドアを開けた。
「入れろ。」
「嬢ちゃん手伝え。」
「はい!」
運ばれて来たのは、若い海兵。
顔面蒼白で頸部や前腕には発疹があり、意識混濁していた。
「バイタル。」
言われた瞬間、体温計、血圧計を棚から出して運ばれてきた海兵の隣へ。
いくつか声掛けをして、測定をする。
「お前、こいつは直前に何していた?」
「一緒に飯を食ってただけです。」
ハリーさんは「何食ってた?」と質問しなが、大きなファイルを開きバラバラと確認している。海兵が質問に答えて、ハリーさんは「アレルギーか」と言っていた。
バイタル計測が終わって、すぐにハリーさんに伝える。
「アナフィラキシーだ。アドレナリン打つから、消毒しとけ。」
「はい。」
周囲を確認しハサミを見つけ、大腿部あたりで制服を裁断。近くにあった消毒液を確認し、綿花で消毒。準備が完了しハリーさんを探すとそちらも注射器の準備し終えていた。
注射を打つ時刻を確認して、メモを取る。
「あとは点滴しとくか。お前やっとけ。」
「ハリーさん、わたしが刺していいんですか?」
「人命が優先だ。お前はやらされたと言えばいい。」
指示された点滴袋を準備し、点滴針を打つ。
「経過観察だな。」
「良かった。」
メモに時間、点滴の内容等を記載した。
ハリーさんはドアの前に居た海兵へ「おい。お前らはスモーカーに報告してこい。ついでに後でここに来るよう伝えろ。」と伝言し、コーヒーを啜った。
処置に使用したものを消毒しようと思ったが、全ての指示をしてもらったことに申し訳なさが募り、ハリーさんに声を掛けた。
指示待ち人間だった新人の自分と重なり、不甲斐なく思ってしまう。
「ハリーさん…足手まといですいませんでした。」
「あ?おれが足手まといと言ったか?」
「いえ。」
「なんだっていいんだよ。コイツは助かったんだ。」
そういいながら、わたしがつけた記録を読んでいる。
消毒も終わり、バイタルチェックに行く旨を伝えるとドアがノックされ、スモーカーさんが入室してくる。
「スモーカーか。こっち来い。」
奥の病室へ消えていくふたり。
時計を確認し、患者のバイタルチェックと経過観察。
ハリーさんに指示されたわけではないが、病棟でやっていた仕事だから、指示が無くてもやってしまう。
暫くして戻ってくると「あとは頼んだ。」とスモーカーさんはハリーさんに軽く頭を下げた。
「お前は今日おれの部屋だろ?」
「はい。」
「行くぞ。」
経過観察したメモをハリーさんに渡し、医務室をあとにした。