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「おい!待てよい!」
俺の顔を見て一目散に逃げる女。探していたんだ、あの日からずっと。
ーー始まりの島
まだ俺がガキだった頃の話だ。
何の変哲もない春島に、ようやく到着した。
補給の為に寄った島の近辺には、気まぐれで来ていたガープが偶然いて、満足に補給できないまま、海へ戻る羽目になった。あのジジイが投げまくる砲弾を回避しながら逃げる最中、そこそこの海賊からの襲撃に遭う。三つ巴でめんどくせぇ事態になっていたが、最高のタイミングで大嵐が来て、海軍は足止めされ、海賊は勝手に海に沈んでいった。
嵐はモビーに憑いてくるように四日間続いた。
やっと見えた島は、冒頭の何の変哲もない春島だ。観光客も海賊も海軍も寄らない、非加盟国。漁業と酪農がある、のんびりとした島だった。
大きな港はなく、浅瀬に錨を降ろして停泊。初めて見る巨大な船に、海岸にいた島民は怖がることもなく、目を輝かせていたのを覚えている。オヤジと島民の話合いの末、補給と船の修理の承諾が得られたが、漁と農業を手伝うことが条件だった。能力者は陸、それ以外のクルーは漁へ。漁はナミュールが中心となる。船大工は船の修理と、島民の家の修理、と分担が決まった。
数日過ごしたある夕方、ふらっと行ったことのない山へ向かった。毎晩の宴会に飽きていたから、鍛錬のつもりで道なき道を行き、山頂を目指してみた。獣がいれば狩って宴に差し入れしよう。
「旅のお方」と、気配もなく後ろから声をかけられた。
振り返ればそこには老婆が一人。
「これより先は魔女がおる。魔力に当てられる。引き返しなさい」
そう言いながら、街への道を下っていった。
「まじょ?魔女?」
昔、どこかで聞いたことがある。飛んだり、魔法を使う奴。ドラゴンとかも出せるんだよな?
山頂よりも興味が湧いた。山の奥へ奥へとどんどん進んでいく。木々が生い茂り、知らない鳥の鳴き声が聞こえたり、見たことのない植物もたくさんある。面白いが、獣も出ねぇし、魔女もいない。
空を見上げれば月もそこそこの高さになってきたから、収穫はないがそろそろ帰るか、そう思った時だった。
ガサッ
物音がした!魔女か?獣か?
気配を消して音のする方向へ進むと、そこにいたのは、俺よりだいぶ小さい女だった。驚きすぎて声が出ないのか、目をまん丸にしてしゃがんでいる。腕にたくさんの葉っぱを抱え、さらに草を抜いているようだ。
「お前、どうしたんだい?」
途端に焦りだし周囲をキョロキョロ。
その姿は、昔の自分のようだった。捕らわれていたヒューマンショップから逃げ出した時の、あの時の俺自身に。
「誰かに追われてるのかい?」
バチッと目が合った瞬間、女は何かを唱えだし、瞳の色が茶色から深い紺色に変わり、紺色の中に小さな星のような物が現れた。髪がふわりと膨らみ、木々が騒がしくなった。「大丈夫だよい」と手を差し出した途端、女は数回指を鳴らして箒を出し、跨って空へ舞い上がった。それは、ノックアップストリームのような勢いで、俺は風圧に吹き飛ばされた。
「痛ってぇ……!」
見上げた空には、女の姿はない。尻もちをついて汚れたボトムの尻をパンパンと払い、「アレが魔女か」と呟きニヤリと笑った。
ーーー
なんで?こんな所に人間が来るなんてあり得ない!
跨った箒にピタリと身体を預け、ぐんぐんとスピードを上げた。
早く戻らなきゃ!逃げなきゃ!
後ろから自分より早いスピードの何かの気配を感じ、振り返る。
そこにいたのは、見たこともない蒼い鳥だった。人間が読む絵本で見た『幸せを運ぶ蒼い鳥』だ。大好きな話で何度も何度も読んだ。蒼い鳥がいたらいいなと毎日森にいたけれど、まさか今日出会えるなんて!
箒のスピードを緩めて、蒼い鳥の隣へ。鳥は一度こちらを見て、同じスピードを保ってくれた。
おずおずと手を蒼い鳥へ伸ばす。一瞬ふわっと感じたが、自分の手が透けて見える不思議な状況に混乱した。
「不死鳥は初めてかい?」
蒼い鳥が喋った!!!!
きゃーーーーーーーーー
そのまま箒から滑って落ちる。魔力を失った箒は重力に従って落下しながら消えた。
ーーーガシッ
「グェっ!」
「うるせぇ魔女だな。」
もっと上手く助ければいいものを、俺の脚で両肩を掴んでやることしかできなかった。
森へゆっくりと降りて、能力を解いた。
「俺はマルコ。お前は?」
「ナマエ。」
「ナマエ。魔女なんだろい?」
「うん。マルコは鳥?」
「人間だよい。ただ……」右手を不死鳥の翼へ変える。
「おれは悪魔の実の能力者だ。」
「あくま……の……み?」
「あぁ。魔女は生まれつきの能力とか魔力だろ?おれはある実を食って能力を得たんだよい。」
能力を解く俺の姿を、彼女は真剣な眼差しで見つめていた。
「蒼い鳥になれる能力?」
「概ね合ってるが、違うねい。」
「あなたは、わたしを怖くないの?」
「質問が多いなぁ。怖いって、なんでだい?」
「わたしたちは代々人間に嫌われてるって。魔女は化け物だって……」
「じゃあ俺も同じ化け物だよい。俺の能力は不死鳥。知ってるかい?」
「フェニックスでしょ?知ってるよ。」
「俺は致命傷でも死ねねェんだよい。だから化け物って言われるねい。」
「マルコは化け物じゃないよ!!」
「?」
「だって蒼い鳥になれるんだよ!蒼い鳥はね、幸せを運ぶの!」
さっきとは違う目の輝き。興奮してきらきらと輝く瞳に、俺は少し面食らった。
「俺はその話は知らねぇ。」
「じゃあ教えてあげるね!」
今のナマエの瞳は先ほどのきらきらと輝く星が散りばめられた紺の瞳ではなく、茶色に戻っていた。モビーの修復が終わるまで、俺たちは毎晩会って他愛もない話をして、森の中で遊び回った。
「ナマエが街に出られねぇ理由は何なんだい?」
「魔法を使う時に目が変わっちゃうから。わたし以外の人は、こんな風にならないんだけど。」
ぶちぶちと雑草を抜きながら、沈んだ声で彼女は言った。あの時見た瞳のことだ。
「お前の目、星空みてぇでおれは好きだねい!綺麗だよい!」
「本当に?」
「あぁ!おれは星空が好きよい!不寝番の時の楽しみでねい!お前の目はそれに似てる!すげぇ綺麗だよい。」
地面から俺の方へゆっくりと顔を上げたナマエの頬が、みるみる赤くなったかと思うと、一筋の涙が伝っていた。
「ど、どうした??」
慌てる俺を見て、泣きながら笑うナマエ。
「綺麗って言われたことなくて……ずっと気持ち悪いって……」
「そんな事ねぇよ。魔女は世界を知らねえんだ。世界は広いんだよい!ナマエ、俺たちと一緒に海に出ねぇか?」
「……」
「オヤジもクルーもお前を気持ち悪いとか言わねぇし泣かせたりしねぇ。こんな狭い所にいるからダメなんだよい。一緒に世界を見に行かねぇか?」
「世界……」
答えはもらえず、その後はさらっと話題を変えられてしまった。
今更だが、簡単に言うことじゃなかったと、ずっと後悔している。
ーーー
遊び回って、そろそろ船に戻る時間だ。
「明日出発するよい。」
「そっか。寂しくなるな…。」
「朝、迎えに来るから。」
「マルコ?」
「一緒に世界を見に行こうよい。」
ナマエは困ったように笑い、俺にキスをした瞬間に、フッと消えてしまった。
目の前にあるのは、たくさんの名も知らぬ小さな花たち。その1つを拾い上げ、「そんな事できるなら言ってくれよい……」と一粒の涙が頬を伝った。
ーーー
あれから、どの島へ上陸してもナマエを探した。手掛かりもなく、途方に暮れる時もあったが、いつからか探し出すことよりも、彼女は元から存在しなかったことを証明したいがために、街や山を歩くようになっていた。
娼婦を抱いては、あの時のナマエの唇と温もりを思い出して、落胆する。今思い出しても子供のキスだ。ただ一瞬だけ唇が触れ合っただけの。いつまでも忘れられない。彼女は存在していた。その現実を突きつけられるたびに、自嘲した。
「くそっ!」
逃げ足だけは速いと思っていたが、さすがは魔女。人気のない路地へ入り、パチンと指を弾き、箒を出す。その後ろ姿に、彼女だと確信した。
飛ぶんだろい?
走りながら不死鳥になり、彼女が離陸する瞬間に、隣へ並べば速度を上げられた。
「また逃げんのかい?」
俺は自然と口角が上がっていた。
もしどこかで会えたら、彼女を責めるのか、はたまた涙を流すのか、知らないふりをするのか、色々な自分を想像したが、まさか高揚し、こんな風に笑うとは思わなかった。
大きな森へ一直線に飛行する彼女は、あえて速度を落とす。すぐさま「不死鳥は初めてかい?」と声をかける。
振り向いた彼女は、俺が想像していたより、遥かに美しく輝く女になっていた。魔法を使っているからか、昔と同じように深い紺色の瞳には小さな星がたくさん散りばめられている。
「まさか。何度も会っていたよ。」
「そりゃ残念。」
「幸せを運ぶ蒼い鳥は二度目だけどね。」
互いに目を合わせて微笑む。ナマエは、また指を弾いて箒を消した。艶のある笑顔で俺を見てから両手を開いて急降下。
後を追うように急降下し、不死鳥を解いて抱き寄せる。
「マルコは、やっぱり幸せを運ぶ蒼い鳥だね。」
あの時は、上手く抱えてやれなくて悪かったな。
「また会えたら話したいことがあったの。」
「何だい?」
「あのときからずっと好きだったんだよ。マルコなら見つけてくれると思ってた。」
「あぁ。遅くなって悪かったな。俺もあの時から好きだったよい。」
「このまま着地するの?」
「出来るくらい、俺も強くなったんだよい。そのうち、背中に乗せてやるから、今は抱き締めさせてくれよ。」
