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「結構切ってるねい。跡残らねぇようにしねぇとなぁ」
背後から、真剣な声が聞こえた。
先の戦闘での負傷者として、医務室でマルコの診察を受けている。
消毒液と、血の匂いと、戦闘後の特有の熱気に、潮の香りがする医務室。
診察中は、ベッドにうつ伏せで寝たまま、自分より重症なクルーがいるかもしれないと、キョロキョロしていた。
アドレナリンに感謝だった。腰辺りを斬られたのは覚えている。
斬られた一瞬だけ、強い痛みと熱を感じた。
戦闘中なんてそんなものだからと、私の体は結構傷が多い。
前線に出なきゃいいと言われることもあるけど、性格上難しかった。
マルコの診断を聞き、ホッとした。
縫うだけ済むなら良かったと。
以前は、骨折数カ所に、手術なんてこともあったから。
「私気にしないから、パパっと処置して大丈夫だよ」
軽く笑って返事をするが――その言葉にマルコの手が止まる。
「……おれが気にするんだよい」
「え?」
「マルコー!おれにも優しくして!」
遠くから返り血まみれのサッチが太陽みたいに笑っていた。
小さく舌打ちして、「ちょっと待ってろい」と私の肩に触れ、サッチの方へ向かっていく。
その後姿を見ていた。
使い捨てのゴム手袋を外し、ゴミ箱に捨て、すぐに新しい手袋をパチンッとつける。
合間にナースへ指示を出し、面倒くさそうにサッチの方へ。
指示を受けたナースが、注射や点滴を持ってきた。
「傷の洗浄、麻酔、点滴しますね。洗浄中は少しだけ痛みますので、我慢していただきます。大丈夫そうですか?」
「あ……うん。大丈夫。よろしくお願いします」
洗浄は苦手。傷が痛むから。
「痛っ……」
「破片?剣のサビかしら?ちょっとごめんなさい」
カランッ
銀のトレーには次々と破片が数個投げ込まれていく。
「まだ、ある?結構痛い……」
「もう大丈夫そうですよ。……ナマエさんは、マルコ隊長に特に大切にされてますね」
「え?」
「ちょっ!!マルコ!待て!」
「うるせえよい。さっさと脱臼治してやるって言ってんだろう。俺は忙しいんだよい」
「いや!!!お前にやってもらうと、痛てぇんだよ!!爺さん先生がいい!俺っち!」
「あ?ジジイはオペ中だよい。……うるせえからコイツに鎮静剤3本くらい打ってくれ。海王類用の」
「マルコ……そんなに打ったら俺死んじゃうよ?」
ギャーギャーと遠くからサッチとマルコの声がうるさく響く。
「……サッチ隊長は、違う意味で特別ですけどね」
ナースの表情は見えないけれど、苦笑いしてそうな声。
「マルコ隊長、結構わかりやすいんですよ」
「……」
「ここに来る皆さんに優しいですけど、ナマエさんの怪我には細心の注意を払ってますよ」
「私が怪我多いからじゃなくて?」
「……じゃぁ、そういうことにしておきましょうか?」
彼女は流れるように、局所麻酔と点滴を施してくれる。
「では、すぐに処置するのでもう少し待っていてください」
「ありがとう」
ひとりになり、鎮静剤と麻酔のおかげなのか、段々と眠くなってきた。
パチンッ
「縫合終了」
ハサミの音とマルコの声が聞こえて目が醒めた。
――処置終わったんだ
縫合された所と、他にも数カ所がフワリと温かくなった。
「……マルコ、終わった?」
「あぁ。綺麗に治るから安心しろ。……寝ちまうくらい疲労してたんだな」
「鎮静剤?点滴したら眠くなっちゃた。縫合とかありがとう」
「あんまり怪我増やしてほしくねぇんだけどな」
「炎もありがとう。あったかい……」
「小せぇ傷とか打撲はこれで十分だよい」
うとうとしたまま
「いつもありがとう。怪我ばっかりして、仕事増やしてごめんね」
「……」
返事が無いことを不思議に思い、顔をあげた。
マルコは、眉を下げて苦笑いをしている。
「どうしたの?」
「お前に戦場出るなとも言えねえし、怪我するなとも言えねぇから、悩んでんだよい」
「みんな怪我してんじゃん」
「好きな女の治療してる俺の身にもなれよ……」
頭をガシガシと撫でられ、「少し安静にしてろ」と、マルコは席を立つ。
さっき洗浄してくれたナースが、片付けながら、ポカンと口を開けた私に向けて優しく微笑む。
「ね?マルコ隊長が大切にしている理由わかりました?」
「……わかりました」
――叶うはずがないと思っていたのに……
急に手が届きそうになって、どうしていいのかわからなくなる。
相手の気持ちがわかったからと簡単に飛び込むには、付き合いが長すぎる。
だからと言って、付き合うことになっても甘い空気なんて……多分無理だろう。
耐えられない……
恋人といるときに甘い感じの自分をマルコに見せるなんて無理だな……
――
「ナマエ……またかよい」
「ごめん……今回は新人を庇って」
他のクルーに支えられて医務室に運ばれた。
「お前は下がっていいよい」とマルコはクルーを退席させる。
ベッドに手をつき、痛みに顔がゆがむ。息も上がる。
「背中なんだけど……痛っ」
マルコに背を向ける。
シャツが切られているから、言わなくてもわかっているだろうけど……
背後でパチンっとマルコがゴム手袋をはめた音がした。
シャツのボタンを外していると、マルコは無言でシャツを脱ぐ手伝いをしてくれた。
「ありがとう」
ナースから「胸元隠して」と大きなタオルを受け取る。
肩甲骨あたりをざっくり切られているらしい。
ブラもシャツも真っ二つだ。
淡々と診察される。マルコは私に声をかけない。
それには、ナースも気付き、重苦しい空気が医務室に流れる。
「縫合するが、完治するまで戦場にも訓練にも出るな。ドクターストップだよい」
冷たい声色だった。
「それだと、新人が気を病んじゃうから……約束したくない」
私の言葉は無視されて、ひと針、ひと針縫われていく。
「縫合完了」
背中の縫合部がじんわりと温かくなる。マルコの炎だとわかった。
「悪いが、すぐに片付けてくれよい」
ナースへ指示を出す。
この医務室に静寂が訪れる。
廊下や隣の診察室からみんなの声がするのに……
「……いい加減にしろい。お前、おれがどんな気持ちでその傷を縫ってると思ってんだよい」
静かだけど、怒気を含んだ声にビクッと肩が揺れた。
「仕事だから、医者だから平気なツラして触れてると思ってんなら、大間違いだよい。……おれはな、好きな女の体にこれ以上傷が増えるのも、こうして無防備に肌を晒されるのも、もう限界なんだよい」
「誰だよ。その新人、お前の隊の奴だろ?舐めた訓練してんのかよ。くそっ」
「……マルコ?」
「あ……新人は悪くねぇか。わりぃ。
……お前を傷つけた野郎はどこにいる?消してくるから」
「クリエルが仕留めたから……大丈夫」
「……そうか」
マルコはデスクの端に座り、深く大きなため息をついて天井を仰ぐ。
「……お前さ、1番隊こいよ。もう、俺の目の届かねえところで戦うな」
「っ!なんで?」
「なんでじゃねぇよ。これ以上怪我させねぇためだよい」
「なんで、マルコが決めるの」
低い声が落ちる。
「何回言ったら理解する?」
太陽の光を背にしたマルコの表情が読めない。
「お前は俺の好きな女だってことに」
「っ!」
背中のじんわりとあった温かみが消えて、マルコが灯した炎が消えたことがわかった。
すぐに、タオルを巻き直して背中を隠す。
「ち、治療ありがと……」
着るものが無いから、このまま部屋に戻るしかなく、胸元のタオルをギュッと握ってドアへ向かう。
「おい……そのまま戻んのか?俺の質問にも答えねぇし」
「うん。このまま戻る」
ギッ
床が鳴った。
「お前、話聞いてたか?何回言ったら理解するんだよい。口説いてるのに、そんな格好で部屋に戻るとか……」
「……聞いてたよ……ちゃんと答えたじゃん」
「それじゃねぇよ。何回言ったら理解するんだって聞いてんだよい」
ギッ…ギッ…
マルコが近づいて来るのがわかるのに、ドアノブを回せず、足も動かない。
扉を押さえられて、ドアは開けられなくなった。
「お前に惚れてるって言ったのは聞こえてんだろ?」
「……」
「聞こえてる」
「オウム返しばっかりだな」
「……なんて返せばいいの?好きな女、惚れてるとは言うけど、それ以上もそれ以下も言わないじゃん」
「……お前、それ意味わかって言ってんのか?」
「意味?」
低い声が耳元で響く。
「お前が、……それ以上を求めてるから……何も返事しねぇってことだろい?」
タオルを掴む手に力が入る。
――――
――マルコの部屋
「なんで脱げねぇんだよい。
診察の時は、あんなにホイホイ脱いでただろう」
半裸のマルコと、頑なにシャツを脱がないナマエ。
「……医者に見せるのと、好きな男に見せるのはわけが違うの!!!!バカ!!」
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