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日記を書いていた夜更け過ぎ。
月の明かりが室内を照らす。
窓の外には大きな満月。
月明かりがここまで美しくて、明るいことを海に出てから知った。
随分前のことを、ふと思い出す。
モビーに乗船した日、初めての戦闘、世界が広いと知った日……
どの思い出にも、必ず彼がそばに居る。
「懐かしいな…」
ガラスペンを置き、窓から甲板を見下ろす。
月明かりに照らされた甲板に、愛おしい金髪が見えた。
船縁に凭れて月を眺めている。
煙草の煙がフワリと上がる。
遠くてもわかるくらい、月明かりをキラキラと反射させる金髪。
不寝番なのに、仕事もせずにたそがれている。
暫く様子を見ていたが、マルコがその場から動く気配は無かった。
日記を閉じ、ガラスペンをホルダーに戻し、インクに蓋をする。
寝間着の上から長めのカーディガンを羽織り、部屋を出た。
向かうのはキッチン。
甲板に出ると、マルコは相変わらず船縁に凭れかかり、月を眺めている。
夜風に金髪とシャツが揺れている。
私の気配に気づいたマルコが、ゆっくり振り返る。
「寝てたんじゃねぇのかい?」
「マルコが不寝番だから、遊びに来たよ」
ニコニコと笑って、マルコの隣へ歩いていく。
両手には2つのマグカップ。
彼のカップには、濃いめのコーヒー。
私のカップは、カモミール。
「はい。差し入れ」
「お!ありがとねい。飲みてぇなと思ってたところだ」
「月見ながら一服してただけなのに?」
「見てたのかよ」
「部屋から良く見えたよ」
「隊長がサボれるくらい平和な夜だよい」
「ダメでしょー。仕事しなさいよ」
笑いながら、私はマルコの腕に、軽く肩をぶつけた。
マルコも小さく息を笑わせて、肩で押し返してくる。
コツン、と互いの肩が触れる。
今度は私も負けじと押し返した。
ふたりで何度か、押し合って──
クスクス笑いあった。
ひとしきりふざけた後、マルコの肩に寄りかかる。
途端に彼の香りが近くなる。
潮の香りとマルコの香りが混ざると、私は安心感を覚えるようになっていた。
それは、彼と共に海で生きてきた証みたいに。
「ん〜」
――幸せだなぁ…。
カップを両手に包み、海を見つめる。
頬が緩んでいるのは、自分でもよくわかる。
「どうした?そんな楽しそうな顔して」
「来月……クリスマスでしょ?丁度冬島に寄港するよね?」
マルコに顔を向けて、ニッコリ笑う。
「休み貰って、マルコとゆっくり過ごしたいなって思ってるの。どうかな?」
一瞬だけ止まったマルコ。すぐにフワリと笑った。
「実はな………休み、貰ってんだよねい。
俺も同じこと考えてたからな」
「本当に?嬉しい!!」
マルコと過ごす何度目かのクリスマス。でも、冬島で過ごすのは初めてだ。
サンタが来るわけじゃないけど、雪の中でイルミネーションを見て、クリスマスマーケットにも行きたい。プレゼントよりも、マルコと楽しく過ごす時間がほしい。
「ちょっといいホテルで、ちょっといいレストランにも行こうね!でねー」
マルコと一緒にやりたいことを話す私を見て、彼の瞳が細くなり、柔らかい笑顔を向けられた。
優しい蒼い瞳。
寒さでマルコの高い鼻の頭が少し赤くて、可愛い。
視線が自然に唇へ下りていく。
ゆるく弧を描く厚めの唇から、目が逸らせなくなった。
――キス、したいなぁ……。
「……ナマエ」
マルコの柔らかく、少しの笑いを含んだ声に我に帰った。
「えっ!?何?どうしたの?」
慌てて、声が上擦る。
それは、私から見てもわかるくらい『可愛い』とか『求められて嬉しい』とか。
好きな人にだけ向ける、そういう類の笑顔。
でも……瞳の奥には欲が見える。
「……そんな顔されたら、キスしたくなっちまうよい」
呟くように言い、私の唇に吸い寄せられるようにマルコの視線が落ちてくる。
そして、ゆるやかに距離を詰めてきて――
「ナマエ……
していいかい?」
甘くて、低い声。
断らないってわかっているのに、私の返事を待つ。
唇が触れそうな距離で。
ここは深夜の甲板。
不寝番のクルー達が何処かにいるはず。
そんなことわかっているけど……
この時だけは、ここには私とマルコしかいないような静けさだ。
話していても、顔を見ても、匂いを感じても、マルコが好きだなって思う。
蒼い瞳の奥の優しい色。
この距離で彼を堪能できる幸せ。
キスをする前に毎回思うことは、瞼を閉じるのが勿体ない。
彼を見つめていたい。
「ダメって言ったらどうする?」
私は小さく笑って、瞼を閉じる。
マルコがフッと笑った音がする。
「ダメって言われたら……そりゃあ、我慢するよい。
――でも」
マルコは、触れるか触れないかのぎりぎりの距離まで唇を寄せる。唇を撫でるのは、彼の吐息。
――囁くように零された、低く甘い声。
「嬉しいよい」
全身にゾクッとした甘さが広がっていく。
そして、柔らかいキスが落ちてきた。
少しだけ冷たくて、カサついた唇。
それは、初めてのキスのように短くて、でも触れた瞬間に、愛おしさが滲むような……伝染するような。
純粋な愛情だけが詰まった、温かくて優しいキス。
名残惜しくて、離れる唇を追いかけてたくなる……
その衝動を我慢し、目の前の蒼い瞳を見つめ返した。
「……こういうの、内緒にしないとクルーに冷やかされるよい」
声は冗談めいているのに、表情は甘くて、ずるいほど優しい。
「……ね?見られちゃったかな?」
おでこをつけてクスクス笑った。
マルコの纏う甘い空気に蕩けてそうになる。
誤魔化すように「マルコ隊長、職務怠慢ですよー」とおどけてみせた。
彼は肩を揺らして笑う。
けれど、その笑い方はキスの余韻を隠しきれていない。
「今は休憩中だよい」
おでこを合わせたまま、彼の指先が頬をそっとなぞる。
蒼い瞳は笑っていた。
「……あと少しだけな」
その低音に胸の奥が甘く苦しくなる。
「仕事戻る前に……もう一回キスしよ……?」
自分の口から出た甘い音。
マルコにしか聞こえない、小さな囁き。
「してくれたら……いい子で部屋に戻るから……」
マルコが、一瞬だけ目を見開く。
すぐに眉を下げて、少し切なげになる。
「……そういう言い方……反則だな」
囁きと吐息の境界みたいな声。
さっきよりも、甘さが滲んでいる。
頬に触れていた指が、ゆっくりと顎へ。
そのまま、そっと持ち上げる。
キスはさっきより深く、甘く、ゆっくり落ちてくる。
手は後頭部に回されて、私を逃がすつもりなんてまったくない。
名残惜しげに唇を離したあと、息が触れ合う距離のまま、低い声で囁く。
「……いい子で、部屋に戻れよい」
「……うん。不寝番頑張ってね」
ゆっくりとマルコから離れる。
彼のマグカップを受け取り、自分のカップも忘れずに。
「マルコ……おやすみ。また朝にね」
名残惜しいのは、お互い様。たった一晩離れるのが寂しいというわけでもない。
同室じゃないから、1人の夜は当たり前にある。
ただ、今日はなぜか朝まで傍に居たかった。
マルコに背を向け歩きだす。
静かな甲板に、私の足音が小さく響く。
立ち止まり、振り返ると……
満点の星空を背に、船縁に少し前屈みに座り、月明かりに照らされたマルコが、微笑んでいた。
月明かりのおかげで、マルコの表情がよく見える。
静かで、優しくて
――名残惜しそうだ。
その柔らかい笑顔のまま、音のない口の動きで「あいしてる」と形を作った。
誰にも聞かせたくない、私にだけ届いたマルコの声。
彼の小さくて深くて、甘い告白。
マルコは、ほんの少しだけ首を傾けて、目を細める。
そして──
胸に手を当てて、指で小さく "トン" と叩く。
そこは心臓のある場所。
冷たくなった2つのカップをキュッと胸に抱き締める。
私の表情は月明かりで影になっているから、見えないかも……
「わたしもだよ!!」
声に出して、甲板を後にした。
――あいしてるの答えになったかな?
あの嬉しそうな笑顔なら、きっと伝わった。
深夜の逢瀬。
幸せな、ひととき。
――翌朝、イゾウにイジられたのは言うまでもない。
