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波に合わせてゆったりと揺れるモビー。それは、まるで、大きなゆりかごのよう。
月が高い位置から少し傾く頃…私は眠れずにいた。
今日はちょっとはしゃぎ過ぎたのかもしれない。戦闘もあったし、昼過ぎから宴もあった。
下戸だから呑まないけど、それでも今日も生きてて、皆が居ることが嬉しくて、やっぱり宴でははしゃぎ過ぎてしまう。あちこちで乾杯して、笑って、ふざけて、笑い転げて―――本当に、楽しかった。
その余韻が、まだ身体に残っている。眠れない夜は、たまーにある。不安に押しつぶされそうになったり、悩み事があったり、こうしてテンションが落ち着かなかったり……。
みんなは酔っぱらって寝ていたり、興奮しても眠れるんだろうけど、私にはなかなか難しい時がある。
ベッドの上で何度も寝返りをうつ。目を閉じて、抱き枕の特大クジラを抱きしめて、ゴロゴロと……ゴロゴロと。
ダメだ……。食堂で水を貰って、甲板で夜風に当たろう。寝間着の上に薄いガウンを羽織り、いつものサンダルではなく、可愛いルームシューズで自室を出る。
扉を開けると、部屋の籠もった空気とは違った潮の香りが流れ込み、少し冷たい風が肌を撫でた。海面に映る月が、深夜ひとりぼっちになった私のようで、少し寂しそうに見えた。ガウンの前を両手で押さえて、ゆっくりと食堂まで歩いていく。
今日の不寝番は1番隊だ。すれ違うクルーに挨拶をして、食堂へ。寒くなりそうだからと、マグカップに白湯を入れ、甲板を目指した。
誰も居ない甲板。月明かりに照らされる、そこは昼間の賑やかさを失っていて、まるで世界中でひとりぼっちになった錯覚を起こさせる。誰も居ないわけじゃなくて、不寝番のクルー達の気配は闇に溶けていた。
でも、人の視覚というのは不思議だ。少しばかり不安にさせる。
月がよく見える船縁に肘をつき、温かい白湯をコクリと一口飲む。朝から16番隊と手合わせがあるから、本当は早く寝たいのになぁ――
「なぁに、黄昏てんだい?」
後ろから声を掛けられた。誰と聞かなくても分かる声と、特徴的な語尾。
「眠れないんだよね」と、彼のほうを振り向かずに答える。
マルコは隣へ来ると「はしゃぎ過ぎか?」と笑った。本当に笑ったかどうかはわからない。彼を見ていないから。でも、笑った気配がした。
「せいかーい」
「羨ましいねぃ。オレもはしゃぎたかったよい」
「不寝番だから仕方ないよね」
「眠れねぇなら、添い寝してやろうか?」
「ふふふ。ちゃんと仕事してね」
「はぁ…つれねぇなぁ」
マルコは、皆の前じゃ絶対にこんな軽口は言わない。二人きりの時だけ。私たちは付き合っているわけではない。けれど、互いに好意を抱いていることはわかっている。よくいう、微妙な関係。
そして言い方を変えれば、先に進むのが怖い。失うくらいなら、このままが幸せ――そう思っているのだ。
「ナマエ、ココア淹れてやるから食堂行くぞ。身体冷えちまうよい」
「はーい。……マルコのココア、味薄いんだよね」
「我儘言うんじゃねぇよい。はっ倒すぞ」
「こわっ。事実じゃん」
並んで歩いて、軽口を言える距離が好き。
でもね、マルコは私側の手を、私はマルコ側の手をいつも下ろしていて、もし指が触れ合ったら……それを、きっかけに指先だけでも繋ぎたいって思っている。
偶然という、きっかけが欲しいと……。
静かな夜で敵襲も無いだろうからと、食堂で話し相手になってくれるマルコ。長椅子に並んで座り、声を潜めて他愛ない話をした。
その声が心地よい。マルコの笑い交じりの相槌も、穏やかな表情も心地よい。
だから、深夜テンションで色々話してしまうよね。マルコの良いところとか、かっこいい所とか、背中に乗せてほしいとか、パイナップルを皮ごと食べるのはどうかと思う、でも面白いから止めないでねとか。
「寝れねぇ時は付き合ってやるから、いつでも言えよい」
「ありがとう。……そんなに多くはないけど、その時はお願いね」
「あぁ、任せろよい」
彼の言葉は、まるで「いつでも頼ってくれ」という甘い呪文のようだった。そして、その呪文は、私の心に、ゆっくりと、しかし確実に染み込んでいった。
彼からは隊長たちの裏話を聞いた。
ビスタの詩集や、ジョズの秘蔵のお宝。サッチとイゾウが同じシャンプーを使っていること。フォッサのお気に入りの香水。見習い時代にビスタとジョズと冒険した昔話――普段なら聞けないようなことばかり。
一体どこで誰に話せばいいのか、わからない程くだらない話ばかりだったけど、私の胸のざわつきを落ち着けるにはとても効果的だ。
マルコはコーヒーを、私は彼の淹れた薄いココアを飲みながら、深夜の食堂で笑い合った。
「おい。ここで寝んなよ」
薄く笑う声が、心地よく遠のいていく。返事をしようとしても瞼が重く、舌が動かない。
それでも、隣にマルコがいると思うだけで安心してしまう。
「ん……部屋戻る……」
「はぁ……」
――そこで、私の記憶は途切れた。
目が覚めると、真上にマルコの顎髭が見えた。あのまま寝落ちした私は、マルコの肩にもたれていたのに、ズルズルと崩れ落ち膝に着陸したらしい。やっと寝た私の為に彼は一晩中膝枕をしていた。
「ごめん……」
か細く呟くと、彼は「謝んな」と肩をすくめる。
「気にすんなよ。寝顔見てりゃ暇つぶしになったよい」
本当かどうかはわからない。けれど、冗談めかした言い方が嬉しくて、胸の奥がじんと温かくなる。
――手を繋ぐより先に膝枕なんて。
そんなことを思って、頬が少し熱くなった。
「座り過ぎてケツが痛ぇ」
「ごめんごめん!マルコの太ももが柔らかくて。つい」
「ついじゃねェよ。……あ、ナマエ。部屋から出る時はブラ忘れんなよい」
最後の軽口に、思わず吹き出してしまう。
こうして迎える朝も悪くない――そう思えるほど、胸が甘く満たされていた。
月が高い位置から少し傾く頃…私は眠れずにいた。
今日はちょっとはしゃぎ過ぎたのかもしれない。戦闘もあったし、昼過ぎから宴もあった。
下戸だから呑まないけど、それでも今日も生きてて、皆が居ることが嬉しくて、やっぱり宴でははしゃぎ過ぎてしまう。あちこちで乾杯して、笑って、ふざけて、笑い転げて―――本当に、楽しかった。
その余韻が、まだ身体に残っている。眠れない夜は、たまーにある。不安に押しつぶされそうになったり、悩み事があったり、こうしてテンションが落ち着かなかったり……。
みんなは酔っぱらって寝ていたり、興奮しても眠れるんだろうけど、私にはなかなか難しい時がある。
ベッドの上で何度も寝返りをうつ。目を閉じて、抱き枕の特大クジラを抱きしめて、ゴロゴロと……ゴロゴロと。
ダメだ……。食堂で水を貰って、甲板で夜風に当たろう。寝間着の上に薄いガウンを羽織り、いつものサンダルではなく、可愛いルームシューズで自室を出る。
扉を開けると、部屋の籠もった空気とは違った潮の香りが流れ込み、少し冷たい風が肌を撫でた。海面に映る月が、深夜ひとりぼっちになった私のようで、少し寂しそうに見えた。ガウンの前を両手で押さえて、ゆっくりと食堂まで歩いていく。
今日の不寝番は1番隊だ。すれ違うクルーに挨拶をして、食堂へ。寒くなりそうだからと、マグカップに白湯を入れ、甲板を目指した。
誰も居ない甲板。月明かりに照らされる、そこは昼間の賑やかさを失っていて、まるで世界中でひとりぼっちになった錯覚を起こさせる。誰も居ないわけじゃなくて、不寝番のクルー達の気配は闇に溶けていた。
でも、人の視覚というのは不思議だ。少しばかり不安にさせる。
月がよく見える船縁に肘をつき、温かい白湯をコクリと一口飲む。朝から16番隊と手合わせがあるから、本当は早く寝たいのになぁ――
「なぁに、黄昏てんだい?」
後ろから声を掛けられた。誰と聞かなくても分かる声と、特徴的な語尾。
「眠れないんだよね」と、彼のほうを振り向かずに答える。
マルコは隣へ来ると「はしゃぎ過ぎか?」と笑った。本当に笑ったかどうかはわからない。彼を見ていないから。でも、笑った気配がした。
「せいかーい」
「羨ましいねぃ。オレもはしゃぎたかったよい」
「不寝番だから仕方ないよね」
「眠れねぇなら、添い寝してやろうか?」
「ふふふ。ちゃんと仕事してね」
「はぁ…つれねぇなぁ」
マルコは、皆の前じゃ絶対にこんな軽口は言わない。二人きりの時だけ。私たちは付き合っているわけではない。けれど、互いに好意を抱いていることはわかっている。よくいう、微妙な関係。
そして言い方を変えれば、先に進むのが怖い。失うくらいなら、このままが幸せ――そう思っているのだ。
「ナマエ、ココア淹れてやるから食堂行くぞ。身体冷えちまうよい」
「はーい。……マルコのココア、味薄いんだよね」
「我儘言うんじゃねぇよい。はっ倒すぞ」
「こわっ。事実じゃん」
並んで歩いて、軽口を言える距離が好き。
でもね、マルコは私側の手を、私はマルコ側の手をいつも下ろしていて、もし指が触れ合ったら……それを、きっかけに指先だけでも繋ぎたいって思っている。
偶然という、きっかけが欲しいと……。
静かな夜で敵襲も無いだろうからと、食堂で話し相手になってくれるマルコ。長椅子に並んで座り、声を潜めて他愛ない話をした。
その声が心地よい。マルコの笑い交じりの相槌も、穏やかな表情も心地よい。
だから、深夜テンションで色々話してしまうよね。マルコの良いところとか、かっこいい所とか、背中に乗せてほしいとか、パイナップルを皮ごと食べるのはどうかと思う、でも面白いから止めないでねとか。
「寝れねぇ時は付き合ってやるから、いつでも言えよい」
「ありがとう。……そんなに多くはないけど、その時はお願いね」
「あぁ、任せろよい」
彼の言葉は、まるで「いつでも頼ってくれ」という甘い呪文のようだった。そして、その呪文は、私の心に、ゆっくりと、しかし確実に染み込んでいった。
彼からは隊長たちの裏話を聞いた。
ビスタの詩集や、ジョズの秘蔵のお宝。サッチとイゾウが同じシャンプーを使っていること。フォッサのお気に入りの香水。見習い時代にビスタとジョズと冒険した昔話――普段なら聞けないようなことばかり。
一体どこで誰に話せばいいのか、わからない程くだらない話ばかりだったけど、私の胸のざわつきを落ち着けるにはとても効果的だ。
マルコはコーヒーを、私は彼の淹れた薄いココアを飲みながら、深夜の食堂で笑い合った。
「おい。ここで寝んなよ」
薄く笑う声が、心地よく遠のいていく。返事をしようとしても瞼が重く、舌が動かない。
それでも、隣にマルコがいると思うだけで安心してしまう。
「ん……部屋戻る……」
「はぁ……」
――そこで、私の記憶は途切れた。
目が覚めると、真上にマルコの顎髭が見えた。あのまま寝落ちした私は、マルコの肩にもたれていたのに、ズルズルと崩れ落ち膝に着陸したらしい。やっと寝た私の為に彼は一晩中膝枕をしていた。
「ごめん……」
か細く呟くと、彼は「謝んな」と肩をすくめる。
「気にすんなよ。寝顔見てりゃ暇つぶしになったよい」
本当かどうかはわからない。けれど、冗談めかした言い方が嬉しくて、胸の奥がじんと温かくなる。
――手を繋ぐより先に膝枕なんて。
そんなことを思って、頬が少し熱くなった。
「座り過ぎてケツが痛ぇ」
「ごめんごめん!マルコの太ももが柔らかくて。つい」
「ついじゃねェよ。……あ、ナマエ。部屋から出る時はブラ忘れんなよい」
最後の軽口に、思わず吹き出してしまう。
こうして迎える朝も悪くない――そう思えるほど、胸が甘く満たされていた。
