ウクライナのひまわり(高校生モクバ夢)
「……ここが俺の部屋。ちょっと散らかってるけど、適当に座ってくれよ。」
モクバが気さくに扉を開けると、そこには最新のゲーミングデバイスと、16歳の男子高校生らしい趣味が混在した居心地の良さそうな空間が広がっていた。
「わあ……! すごいネ、モクバ! 6年前のあの小さなゲーム機とは全然違うヨ!」
「だろ? 今はホログラムでバトルができるんだ。……ほら、これを見てみろよ。ソフィヤ、驚くなよ?」
モクバがデスクのスイッチを入れると、部屋の中央に青白い光が集まり、6年前、リヴィウの公園で吹っ飛んだはずの「あの時の盤面」が立体的に浮かび上がった。
「これ……! あの時の!?凄い、ここまで再現できちゃうなんて……!」
「まぁな。俺、あの時負けそうだったのがマジで悔しくてさ。いつか絶対に決着つけてやるって思って、データをずっとデータとして保存してたんだ。……さあ、ソフィヤ。6年越しの俺のターン、行くぜ!」
「ふふ、負けないヨ!」
二人がコントローラーを握り、和気藹々とバトルを再開したその時――。
部屋の壁に埋め込まれたハイエンドスピーカーから、突如として冷徹な声が響き渡った。
『……甘いな、モクバ。そこは直進ではなく、右の遮蔽物を利用して背後に回り込むのが最適解だ。貴様のタクティクスは6年前から進歩していないのか。』
「……っ!? 兄サマ! また俺のメインフレームにハッキングして覗き見してるのかよッ! せっかく今いいところなんだから、黙っててくれよ!」
ソフィヤは驚いてスピーカーを見上げたが、すぐにクスクスと笑い出した。
「モクバのお兄サン、本当にゲームが大好きネ! まるで審判みたいヨ。」
『フン……。バグのような動きをするその女の思考を、モクバ、貴様が読み切れていないだけだ。……ソフィヤと言ったか。貴様の次の一手、論理的(ロジカル)ではないが……興味深い。』
「ちょっと兄サマ、ソフィヤにまでケチつけないでくれよ! ……あーもう、ごめんなソフィヤ。兄サマ、ああ見えて結構お節介っていうか……」
「いいヨ、賑やかで楽しいネ! 6年前は二人きりだったけど、今日はお兄サンも一緒ネ!」
ソフィヤが屈託のない笑顔でそう言うと、モクバもつられて「それもそうか」と笑ってしまった。
「マジかよ、兄サマを『賑やか』なんて言うのは世界中でソフィヤ、お前くらいだぜ。……よし、じゃあ兄サマの度肝を抜くようなコンボ、見せてやるからな!」
『……やってみるがいい。だが、計算ミスで自滅する姿をログに残すなよ。』
兄サマの「バグだ!」「ロジックが死んでいるぞ!」という辛辣な.しかしどこか楽しげなアドバイスという名のツッコミが飛ぶ中、モクバとソフィヤは顔を見合わせて大笑いした。
瀬人の厳しい声と、二人の弾んだ笑い声。
静まり返っていたはずの夜の海馬邸に、かつてないほど温かくて賑やかな時間が流れていく。
(……兄サマには色々言われてるけど……ソフィヤがこうして笑ってくれてる。……これだけで、6年待った甲斐があったよ。)
モクバはコントローラーを動かしながら、隣で楽しそうにモンスターを召喚するソフィヤを盗み見て、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。