ウクライナのひまわり(高校生モクバ夢)

某日、ソフィヤは授業が終わると数人の友人達(女子)と共に帰路に着いていた。
モクバが居ればモクバとふたりで歩いているこの道も、女子高生が複数人一緒にいれば自然と女子トークという名の恋バナに花が咲く。

「ねぇねぇ、ソフィヤって海馬君の友達なんでしょ?どうやって出会ったの?」

「それウチも気になってた!超知りたい!」

2人の女子高生が興味津々に瞳を輝かせながらソフィヤに聞いていた。

「うん、いいヨ!私がモクバと初めて会ッタのは6年前、10歳の頃。私の祖国、ウクライナで経営者同士の社交パーティーがあったデス。そのパーティーで出会いマシタ。あの頃のモクバは可愛かったナァ、身長、小さいデ、お兄さんとイッショに居ルだったネ。」

「海馬君のお兄さんって海馬先輩だよね!うちの高校の伝説のOB、海馬瀬人先輩!…でもさ、経営者同士の社交パーティーだよね?海馬君は分かるけど…ソフィヤはなんで参加してたの?」

「私のお父サンはウクライナのリヴィウで病院を経営シテル経営者デス。だからパーティー、ヨバレタだよ。」

「えー!!そうなの!?ソフィヤってそんなお嬢様だったの!?全然そんな感じしないから気づかなかった!」

ソフィヤは先日モクバに指摘された通りのたどたどしい、怪しい日本語だが笑顔で女子生徒達と話していた。

「え、ぶっちゃけソフィヤって海馬君のことどう思ってるの?やっぱり好きだったりする?」

「モクバは好きネ!優しいシ、ゲーム強いダカラ。イイFriendネ!」

「いやいや、そうじゃなくて…何て言うの?えーと…恋?Love?してるの?って意味だよ。」

ソフィヤはそう言われると、少し考えた。

「ウーン…Like or Loveナラ…Likeネ。モクバはトモダチ!Sweetheartじゃないネ!」

ソフィヤは顔色ひとつ変えず、満面の笑顔でそう答えた。
そう、6年前の社交パーティーでソフィヤに一目惚れしたモクバからしたら、ソフィヤは「全力で振り向かせたいスーパー片思い中の初恋の女の子」だが、ソフィヤからしたらモクバはまだ恋愛対象にはなっておらず、「友達止まり」なのである。

「えー!!マジで!?あんなに仲良いのに!?」

「嘘でしょ!?だって海馬君って言ったら女子の憧れの一軍男子だよ!?それを"ただの友達"とか…ソフィヤの恋愛観ってどうなってるの!?」

「イチ…グン…ダンシ?って何デスカ?」

「…ええっと…一軍男子っていうのは……あっ、ソフィヤ、あっちの目立ってるグループ見て!あの中にいる、クラスで一番発言力があってキラキラしてる男子たちが「一軍男子」だよ。
見た目もオシャレで運動もできるし、何よりそこにいるだけで空気が変わっちゃうような、学校内のピラミッドの頂点にいる人気者たちのこと!」

ソフィヤはしばらく考えると、頭の上に電球マークを浮かべて、パッと明るい顔をした。

「イチグンダンシはEveryoneのStarネ!人気モノ男子!分かったヨ!」

「そうそう!そういう事だよ。…で、ソフィヤってどんな人がタイプなの?海馬君でも友達止まりとかマジで信じられないんだけど…。」

「Ah…ソレはよく聞かれるネ。日本人みんな好きなQuestionデスカ?…私のタイプの人は"私がLoveッテ思っタ人"ヨ
。だって"Love"って思っタ人ジャナイと惚れないデショ?」

ソフィヤがそう言うと、女子生徒達は苦笑いをした。

「(……哲学? 哲学なの……? 結局、海馬君がどれだけ『一軍』でも、ソフィヤの『Loveスイッチ』が押されてないってこと……? 詰んでない、これ?)」

「(あー……。それ、一番攻略不可能なやつだわ……。海馬君、どんまい……)」

ソフィヤは新しい言葉(一軍男子)を覚えて嬉しそうにしているが、女子生徒達は相変わらず苦笑いのままだ。

「じゃあみんなまた明日ネ!バイバ〜イ!」

ソフィヤはそう言って女子生徒達と別れると、一人で帰路についた。
友人達と別れたソフィヤは家には帰らず、一人で街中を散策していた。
まだ童実野町の事が分からないソフィヤにとって、この「下校時のひとり散歩」は新しい発見と新しい刺激に満ちていた。
ソフィヤがその刺激と発見に心を踊らせていると、一際目を引く1件のカフェが目に入った。

「…Cafe Blue-Eyes?へぇ…童実野町ってこんなお店もあるんだ。ちょっと入ってみよっと。」

ソフィヤはこの「一際目を引くカフェ」に、興味本位でふらりと入って行った。
店に入ると店内は沢山の客で賑わっており、周りを見渡すと仲間内で談笑している主婦グループや、パソコンを使って仕事をしている人もいる。
奥の一角は全面防弾・マジックミラー仕様の特殊ガラスで仕切られているようで、ガラスの質感がほかのガラスと違う。特殊ガラスの壁に付いているドアには「KC役員専用コンファレンスルーム」と書かれていた。
ソフィヤがふとガラスの向こうを見ると、そこには今日学校を欠席したはずのモクバの姿が見えた。

「(……あれは…モクバ…?今日学校休んでたけど、ここで何してるんだろう…)」

白いジャケットに濃いめの紫のベスト。そこに青いネクタイでビシッと決めた、スリーピーススーツを纏い、ジャケットの左襟には兄・瀬人と同じ銀色に光るKCバッジをつけている。さらにモクバは、髪を少しかき上げ、耳にはインカムを付けていた。

「(モクバ…何か雰囲気がいつもと違うような気がするけど…気のせい?)」

ソフィヤが知っているモクバは親切で人当たりがよく、柔らかな雰囲気を纏っている。
だが今の彼は笑っていない。それどころか、タブレットを叩きながら多言語で何事かを冷徹に宣告している。その眼光は、兄・瀬人そのものの「支配者の目」だ。
ソフィヤはそんな「いつもと違うモクバ」を見て今までに無い複雑な感覚を覚えた。

「……その投資プランは論理的じゃない。10秒以内に代替案を出せ。さもなければ貴様の会社をデリートする。」

ガラスの向こうのモクバは、学校で見せる「優しさ」は1ピクセルも存在せず、ただひたすらに「効率と勝利」のみを追求する冷徹なマシーンのようにも見えた。
仕事に没頭しているモクバはガラスの向こうに居るソフィヤにも気付かず、淡々と冷徹な支配者の目をパソコンの画面に向けている。

「(なんだかモクバが……怖い。でも、あんなに一生懸命に何かと戦っている姿、見たことないよ……。)」

ソフィヤは、ガラス一枚隔てた「氷のようなモクバ」に圧倒され、カフェのラテを持つ手が微かに震えていた。

「(モクバ…いったいどうしちゃったの…?あんなモクバ、私知らないよ…。)」

モクバは会議が終了し、ホッと息をついてネクタイを少し緩めたその時、ふと顔を上げた視線の先、ソフィヤからは見えているが、モクバ側は明るさの加減でうっすら見える程度だが、にマジックミラーの向こう側で絶句して固まっているソフィヤと目が合った。

「(……あ。……え? ……ソフィヤ……? な、なんでここに……!? いや、マジックミラーだから見えてないはず……いや、さっき思いっきり睨みつけるような顔で『デリートだ!』とか言ってた俺、見られてた!?)」

モクバは椅子を蹴る勢いで立ち上がろうとしると、足がデスクに激突して、ガシャン!とコーヒーのカップを倒してしまった。
システムリブートして椅子から転げ落ちそうになったモクバは、大急ぎでマジックミラーのドアを暗証番号を3回くらい打ち間違えながら開けて、カフェ側に飛び出してきた。

「ソフィヤ! 違うんだ、今の、その……あれは、演技っていうか! ほら、部下を教育するのに、たまには厳しく言わないと……ああっ、もう! 兄サマの真似してただけだよッ!!」

「……モクバ。……ナンカ怖いだったヨ…さっきの人、ダレ? English『買収スル』言ってたヨネ?……モクバ、……本当は、スゴく怖いの人?」

「ソフィヤ! 違う!違うんだ!そうじゃなくて今の俺は……! 確かに仕事では厳しいかもしれないけど、君に見せたあれは、海馬の男としての責務というか、でも君の前ではいつだって……! たとえ世界を敵に回しても、俺が君の『盾』になって……ッ!!」

モクバが必死に弁解しようとするも、ソフィヤはただラテのカップを持ったまま目を丸くしているだけだ。

「……モクバ? 聞キ取れないダヨSlow down, please...(ゆっくり話して)」

「……えっ? あ、いや、だから! 俺は、世界中を敵に回してでも君を守るために……ッ!」

モクバの必死の熱弁を聞いたソフィヤは小首を傾げて、頭の上に大量の「?」を浮かべながらもモクバの必死の熱弁を理解しようとしていた。

「……モクバ、顔が真っ赤ヨ? 熱出てるデスカ? ……アト、さっきの『セカイ』って何?Ah ……Sorry? モウ一回、英語で言ってくれる?Oh, ウクライナ語でもイイよ?」

「……っ!!!(英語でって…嘘だろ…つーかウクライナ語とか分からねぇよ…。いや、分かってても言えないって…)」

【モクバの脳内(メインフレーム)】
• エラーログ: 告白内容の受信に失敗しました。
• 原因: 受信側の言語プロトコルが未対応(日本語Lv.2)。
• 結果: 副社長の「最高にかっこいいシーン」が、ただの「顔の赤い慌てている男子高校生」としてアーカイブされました。

モクバはガックリと膝をつきそうになりながら、頭を抱えた。

「(……英語で言えって……。……無理だよ、ソフィヤ。……『世界中を敵に回しても君を守る』なんて……英語で言ったら、恥ずかしすぎて俺が死ぬ……ッ!!)」

「? ……モクバ、疲れてるデスカ?……Oh! 私モクバのお兄サンに『モクバを休まセテ』って言ってアゲルようカ?」

「や、やめてくれッ!! 兄サマにそんなこと言ったら、俺の副社長としてのキャリアが(物理的に)終わる……ッ!!」

結局、ソフィヤには「モクバは何か難しい仕事でパニックになっている」という誤った解釈をされて、モクバの「支配者としての威厳」はマイナスまで急降下してしまった。

「…ちくしょう……なぁ、ソフィヤ……。俺、今……人生で一番かっこいい台詞、言ったつもりだったんだぜ……。(英語で『I'll protect you from the whole world』なんて……言えるかよッ!!)」

ソフィヤは頭を抱えたままのモクバを見て、首を傾げながらゆっくりとした日本語でモクバに声をかけた。

「…Oh…モクバ、ダイジョウブ?」

「……マジかぁ……」

モクバは両手で顔を隠すと、もはや言葉にならない衝撃を受けた。
モクバには瀬人が「ワーッハッハッハッハ!……バカめ!『世界を敵に回す』前に、貴様自身の羞恥心に完敗するとはな!」と、高笑をしている姿が見えるようだった。
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