ウクライナのひまわり(高校生モクバ夢)
翌朝、童実野町駅の東口改札前。
182cmの長身に、着崩さない清潔な学ラン姿のモクバは、手持ち無沙汰にスマホを眺めていた。
(……よし、待ち合わせの5分前。早すぎず、遅すぎない完璧なタイミングだ。……落ち着け、これはただの『通学路の同行』だ。……仕事の打ち合わせより緊張するなんて、どうかしてるぜ……!)
そこへ、軽やかな足音と共に、聞き慣れた明るい声が響いた。
「モクバ! お待たせだネ! 本当にここで待ち合わせ、なんだか日本のドラマみたいヨ!」
振り返ると、朝日を浴びたソフィヤが、リヴィウの青空をそのまま映したような笑顔で立っていた。彼女の肩には、昨日も持っていたヴァイオリンのケース。
「……お、おう。おはよう。……別に、家が同じ方向(※実際はKCのルート変更済み)なんだから、一緒に行ったほうが効率的だろ? ……ほら、行くぞ。」
モクバはあえて視線を逸らし、ぶっきらぼうに歩き出した。しかし、ソフィヤの歩幅に合わせて、無意識にその長い足の速度を落としている。
「モクバ。日本のTrainって、みんな静か。ビックリだったヨ……リヴィウでは、知らない人同士でもイッパイお喋りしてたデス。……Oh、あの看板の漢字、なんて読むデスカ?」
ソフィヤが指差したのは、駅前の「安全第一」の看板。
「あれは『あんぜんだいいち』。……時間よりも何よりも安全が一番大事って意味。……お前も知らない奴に声掛けられたら、とりあえず安全第一で無視しろよ?日本語がまだ不自由なんだろ?」
「Oh…日本人は親切チガウの?」
「日本人=全員親切だと思ったら大間違いだぜ?気をつけろよ。」
ソフィヤが障害物や人を避けるために距離を詰めてくるたび、モクバの脳内デバイスは「接近警告(近すぎ!)」「回避不能」「全速前進(?)」「現状維持」という矛盾したエラーログで埋め尽くされていた。
(……やばい。……香水の匂いじゃない、ソフィヤの……ひまわりのような匂いがする。……これ、学校に着くまでに俺の理性がデリートされるんじゃないか……?)
二人が踏切を渡り、通学路の坂道を登っていく。
その後方、約100メートル地点。
電信柱の陰から、新聞を広げて(上下逆さまに)隠れている磯野が、インカムでボソリと呟いた。
「……こちら磯野。モクバ様、現在、令嬢との距離15センチ。……耳の裏が真っ赤であります。……瀬人様、これ以上の接近はモクバ様の精神衛生上、危険かと……!」
通信機の向こうから、瀬人の低く、かつ愉悦に満ちた声が響く。
「……フン。案ずるな、磯野。……それもまた『進化』へのプロセスだ。……モクバよ、女の歩幅に合わせるという非効率を、せいぜいその身に刻み込むがいいッ! ……全速前進だ、徒歩でなッ!!」
学校の正門が見えてくる頃、モクバは心の中で「この坂道が、あと100キロくらい続いてくれればいいのに」と、副社長らしからぬ非論理的な願いを抱いていた。
学校への心臓破りの坂道。182cmのモクバにとってはなんてことのない傾斜だが、今の彼にとっては「精神的」な急勾配だった。
「ねえ、モクバ。リヴィウでは冬になると、みんな…Everyoneで歌を歌いながら歩くヨ。日本は歌いマスカ?」
「……歌? いや、日本では登校中に歌う奴は……あんまりいないな。いたら多分、変な目で見られるか、即座にSNSで拡散される。」
「Oh…、楽しいないネ! ナゼ日本人ってそんなに楽しいないデス?あ、学校、見えたヨ!」
ソフィヤが嬉しそうに駆け出そうとして、ヴァイオリンのケースが少し肩からずれ落ちそうになる。
「あ……っ、危ないだろ! 貸せよ、それ。落としそうだし危なっかしくて見てられねーよ。」
モクバは反射的に手を伸ばし、彼女のヴァイオリンケースをひょいと肩に担いだ。中身が楽器なのは分かっているが、彼にとっては羽毛のように軽く感じられた。
「私落とさない、大丈夫だヨ…。」
「……ふーん。ヴァイオリンて結構軽いんだな。」
顔を真っ赤にしながら、モクバは無愛想に歩きを速める。
そして、正門をくぐり、昇降口へ向かった時——。
「お、おい! あれ見ろよ、海馬モクバだぜ!」
「えっ、隣の金髪美少女って……昨日の転校生!? しかもモクバ様、彼女の楽器ケース持ってる……!?」
登校中の生徒たちが一斉に足を止め、二人に注目する。
童実野高校きっての有名人である「若き副社長」が、女子生徒の荷物を持って並んで歩く姿など、開校以来のビッグニュースだ。
「……おいおい、モクバ! お前、それ……『確定』か!? ついに春が来たのかよッ!!」
友人たちがニヤニヤしながら駆け寄ってくる。
「……っ、違う! これはただの……あいつが道を知らないから、案内役としてだな……!」
「モクバ、"確定"って何?何か決まったノ?」
ソフィヤが天然全開の100万ボルトの笑顔で追撃をかける。
「この…リア充め!でも、ご馳走様です、副社長!」
「うるさいッ!! 散れ、お前ら! さもないと全員、明日から海馬ランド出禁にするぞッ!!」
モクバの必死の叫びが響き渡る中、チャイムが鳴る。
「初恋の修行」は、これから始まる「音楽の時間」で、更なる高みへと向かうことになる。
182cmの長身に、着崩さない清潔な学ラン姿のモクバは、手持ち無沙汰にスマホを眺めていた。
(……よし、待ち合わせの5分前。早すぎず、遅すぎない完璧なタイミングだ。……落ち着け、これはただの『通学路の同行』だ。……仕事の打ち合わせより緊張するなんて、どうかしてるぜ……!)
そこへ、軽やかな足音と共に、聞き慣れた明るい声が響いた。
「モクバ! お待たせだネ! 本当にここで待ち合わせ、なんだか日本のドラマみたいヨ!」
振り返ると、朝日を浴びたソフィヤが、リヴィウの青空をそのまま映したような笑顔で立っていた。彼女の肩には、昨日も持っていたヴァイオリンのケース。
「……お、おう。おはよう。……別に、家が同じ方向(※実際はKCのルート変更済み)なんだから、一緒に行ったほうが効率的だろ? ……ほら、行くぞ。」
モクバはあえて視線を逸らし、ぶっきらぼうに歩き出した。しかし、ソフィヤの歩幅に合わせて、無意識にその長い足の速度を落としている。
「モクバ。日本のTrainって、みんな静か。ビックリだったヨ……リヴィウでは、知らない人同士でもイッパイお喋りしてたデス。……Oh、あの看板の漢字、なんて読むデスカ?」
ソフィヤが指差したのは、駅前の「安全第一」の看板。
「あれは『あんぜんだいいち』。……時間よりも何よりも安全が一番大事って意味。……お前も知らない奴に声掛けられたら、とりあえず安全第一で無視しろよ?日本語がまだ不自由なんだろ?」
「Oh…日本人は親切チガウの?」
「日本人=全員親切だと思ったら大間違いだぜ?気をつけろよ。」
ソフィヤが障害物や人を避けるために距離を詰めてくるたび、モクバの脳内デバイスは「接近警告(近すぎ!)」「回避不能」「全速前進(?)」「現状維持」という矛盾したエラーログで埋め尽くされていた。
(……やばい。……香水の匂いじゃない、ソフィヤの……ひまわりのような匂いがする。……これ、学校に着くまでに俺の理性がデリートされるんじゃないか……?)
二人が踏切を渡り、通学路の坂道を登っていく。
その後方、約100メートル地点。
電信柱の陰から、新聞を広げて(上下逆さまに)隠れている磯野が、インカムでボソリと呟いた。
「……こちら磯野。モクバ様、現在、令嬢との距離15センチ。……耳の裏が真っ赤であります。……瀬人様、これ以上の接近はモクバ様の精神衛生上、危険かと……!」
通信機の向こうから、瀬人の低く、かつ愉悦に満ちた声が響く。
「……フン。案ずるな、磯野。……それもまた『進化』へのプロセスだ。……モクバよ、女の歩幅に合わせるという非効率を、せいぜいその身に刻み込むがいいッ! ……全速前進だ、徒歩でなッ!!」
学校の正門が見えてくる頃、モクバは心の中で「この坂道が、あと100キロくらい続いてくれればいいのに」と、副社長らしからぬ非論理的な願いを抱いていた。
学校への心臓破りの坂道。182cmのモクバにとってはなんてことのない傾斜だが、今の彼にとっては「精神的」な急勾配だった。
「ねえ、モクバ。リヴィウでは冬になると、みんな…Everyoneで歌を歌いながら歩くヨ。日本は歌いマスカ?」
「……歌? いや、日本では登校中に歌う奴は……あんまりいないな。いたら多分、変な目で見られるか、即座にSNSで拡散される。」
「Oh…、楽しいないネ! ナゼ日本人ってそんなに楽しいないデス?あ、学校、見えたヨ!」
ソフィヤが嬉しそうに駆け出そうとして、ヴァイオリンのケースが少し肩からずれ落ちそうになる。
「あ……っ、危ないだろ! 貸せよ、それ。落としそうだし危なっかしくて見てられねーよ。」
モクバは反射的に手を伸ばし、彼女のヴァイオリンケースをひょいと肩に担いだ。中身が楽器なのは分かっているが、彼にとっては羽毛のように軽く感じられた。
「私落とさない、大丈夫だヨ…。」
「……ふーん。ヴァイオリンて結構軽いんだな。」
顔を真っ赤にしながら、モクバは無愛想に歩きを速める。
そして、正門をくぐり、昇降口へ向かった時——。
「お、おい! あれ見ろよ、海馬モクバだぜ!」
「えっ、隣の金髪美少女って……昨日の転校生!? しかもモクバ様、彼女の楽器ケース持ってる……!?」
登校中の生徒たちが一斉に足を止め、二人に注目する。
童実野高校きっての有名人である「若き副社長」が、女子生徒の荷物を持って並んで歩く姿など、開校以来のビッグニュースだ。
「……おいおい、モクバ! お前、それ……『確定』か!? ついに春が来たのかよッ!!」
友人たちがニヤニヤしながら駆け寄ってくる。
「……っ、違う! これはただの……あいつが道を知らないから、案内役としてだな……!」
「モクバ、"確定"って何?何か決まったノ?」
ソフィヤが天然全開の100万ボルトの笑顔で追撃をかける。
「この…リア充め!でも、ご馳走様です、副社長!」
「うるさいッ!! 散れ、お前ら! さもないと全員、明日から海馬ランド出禁にするぞッ!!」
モクバの必死の叫びが響き渡る中、チャイムが鳴る。
「初恋の修行」は、これから始まる「音楽の時間」で、更なる高みへと向かうことになる。
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