ウクライナのひまわり(高校生モクバ夢)
海馬ホールでの演奏から数日。
ソフィヤの《シャコンヌ》の音源は、瀬人の独断(プロデュース)によって、童実野町の学生向けSNSコミュニティに「匿名の天才ヴァイオリニスト」として限定公開されていた。
その反響は、モクバの予想を遥かに超えていた。
放課後の校門前。
モクバはいつものようにソフィヤと一緒に帰ろうと待っていたが、そこには見慣れない制服を着た一人の男子生徒が立っていた。
有名進学校として知られる「海王高校」の制服。そして、その手には高価そうな花束がある。
「君が……あの『シャコンヌ』を弾いたソフィヤさんだね?」
知らない男子に急に話しかけられたソフィヤが、目を丸くして立ち止まる。
「Ah... Yes. 私、ソフィヤ。……でも、どうして私の名前を知ってるデスか?」
「君の演奏を聴いて、魂を揺さぶられたんだ。僕は海王高校の弦楽部部長、一条だ。……ぜひ、我が校の定期演奏会に特別ゲストとして招待したい。もちろん、謝礼も君の望むままに……」
一条と名乗った少年は、ソフィヤの手を恭しく取ろうと一歩踏み込んだ。
「……悪いけど。その手、引っ込めてくれないか?」
冷ややかな、だが有無を言わせぬ圧力を孕んだ声。
ソフィヤと一条の間に、182cmの長身が壁のように割り込んだ。
学ランのボタンを一番上まで留めたモクバだ。そのダークパープルの瞳には、学校で見せる温和な光は1ピクセルも存在しなかった。
「……君は? 童実野高校の生徒会か何かかな。今は彼女と話しているんだ、邪魔をしないで――」
「邪魔をしてるのはどっちだ。……ソフィヤのマネジメントは、すべて俺……海馬コーポレーションが一括管理している。他校の、しかも出所不明な誘いを受ける権利は彼女にはない」
モクバは一条の視線を真っ向から射抜き、懐からお馴染みのKC端末を取り出した。
「一条……海王高校2年。父親は不動産グループのCEOだな。……悪いが、お前の家のメインフレームに『業務妨害』のログを残したくないなら、その花束を持って今すぐここから退散しろ。」
「……っ!? な、何なんだ君は……! まるで、あの海馬瀬人のような……!」
「海馬瀬人は俺の兄だ。あいにく俺は兄ほど気が長くなくてね。……10秒やる。……9、8……」
モクバの放つ「支配者のオーラ」に気圧され、一条は顔を青くして逃げるように去っていった。
「モクバ? ……今の、誰だったの? 知り合い?」
一条が消えた瞬間、モクバはくるりとソフィヤの方を向き、いつもの「優しいモクバ」の笑顔を貼り付けた。
「……ああ、なんでもないよ。ただの道迷いだ。……それよりソフィヤ、今日は新作のハンバーガーショップに寄って帰らないか? 俺、お前のために席を予約……いや、貸し切りにしておいたからさ」
「Wow! 貸し切り!? モクバ、トッテモ親切ネ! 嬉しいデス!デモ貸切はやり過ぎネ。」
ソフィヤは無邪気に喜んで歩き出す。
その背中を追いかけながら、モクバはこっそりとスマホで「海王高校・弦楽部・予算凍結」の文字を打ち込みかけ、思い止まって舌打ちした。
(……あぶねぇ。……つい兄サマみたいなやり方で、あいつの学校ごと潰すところだったぜ……)
モクバは自分の心の奥底に渦巻く、どす黒いほどの「独占欲」に驚きながらも、ソフィヤの隣に並んだ。
(……ソフィヤ。お前の音を聴いていいのは、俺と、せいぜい兄サマだけだ。……外のノイズには、1音だって聴かせてたまるかよ……)
学ランのポケットの中で、モクバの手は固く握りしめられていた。
一軍男子としての余裕を演じながらも、彼の心臓は嫉妬という名の過負荷で激しく脈打っていた。
ソフィヤの《シャコンヌ》の音源は、瀬人の独断(プロデュース)によって、童実野町の学生向けSNSコミュニティに「匿名の天才ヴァイオリニスト」として限定公開されていた。
その反響は、モクバの予想を遥かに超えていた。
放課後の校門前。
モクバはいつものようにソフィヤと一緒に帰ろうと待っていたが、そこには見慣れない制服を着た一人の男子生徒が立っていた。
有名進学校として知られる「海王高校」の制服。そして、その手には高価そうな花束がある。
「君が……あの『シャコンヌ』を弾いたソフィヤさんだね?」
知らない男子に急に話しかけられたソフィヤが、目を丸くして立ち止まる。
「Ah... Yes. 私、ソフィヤ。……でも、どうして私の名前を知ってるデスか?」
「君の演奏を聴いて、魂を揺さぶられたんだ。僕は海王高校の弦楽部部長、一条だ。……ぜひ、我が校の定期演奏会に特別ゲストとして招待したい。もちろん、謝礼も君の望むままに……」
一条と名乗った少年は、ソフィヤの手を恭しく取ろうと一歩踏み込んだ。
「……悪いけど。その手、引っ込めてくれないか?」
冷ややかな、だが有無を言わせぬ圧力を孕んだ声。
ソフィヤと一条の間に、182cmの長身が壁のように割り込んだ。
学ランのボタンを一番上まで留めたモクバだ。そのダークパープルの瞳には、学校で見せる温和な光は1ピクセルも存在しなかった。
「……君は? 童実野高校の生徒会か何かかな。今は彼女と話しているんだ、邪魔をしないで――」
「邪魔をしてるのはどっちだ。……ソフィヤのマネジメントは、すべて俺……海馬コーポレーションが一括管理している。他校の、しかも出所不明な誘いを受ける権利は彼女にはない」
モクバは一条の視線を真っ向から射抜き、懐からお馴染みのKC端末を取り出した。
「一条……海王高校2年。父親は不動産グループのCEOだな。……悪いが、お前の家のメインフレームに『業務妨害』のログを残したくないなら、その花束を持って今すぐここから退散しろ。」
「……っ!? な、何なんだ君は……! まるで、あの海馬瀬人のような……!」
「海馬瀬人は俺の兄だ。あいにく俺は兄ほど気が長くなくてね。……10秒やる。……9、8……」
モクバの放つ「支配者のオーラ」に気圧され、一条は顔を青くして逃げるように去っていった。
「モクバ? ……今の、誰だったの? 知り合い?」
一条が消えた瞬間、モクバはくるりとソフィヤの方を向き、いつもの「優しいモクバ」の笑顔を貼り付けた。
「……ああ、なんでもないよ。ただの道迷いだ。……それよりソフィヤ、今日は新作のハンバーガーショップに寄って帰らないか? 俺、お前のために席を予約……いや、貸し切りにしておいたからさ」
「Wow! 貸し切り!? モクバ、トッテモ親切ネ! 嬉しいデス!デモ貸切はやり過ぎネ。」
ソフィヤは無邪気に喜んで歩き出す。
その背中を追いかけながら、モクバはこっそりとスマホで「海王高校・弦楽部・予算凍結」の文字を打ち込みかけ、思い止まって舌打ちした。
(……あぶねぇ。……つい兄サマみたいなやり方で、あいつの学校ごと潰すところだったぜ……)
モクバは自分の心の奥底に渦巻く、どす黒いほどの「独占欲」に驚きながらも、ソフィヤの隣に並んだ。
(……ソフィヤ。お前の音を聴いていいのは、俺と、せいぜい兄サマだけだ。……外のノイズには、1音だって聴かせてたまるかよ……)
学ランのポケットの中で、モクバの手は固く握りしめられていた。
一軍男子としての余裕を演じながらも、彼の心臓は嫉妬という名の過負荷で激しく脈打っていた。