胸焼けするような愛を
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「カイジさん、またあした!!」
「いや、もう0時超えてんだから今日だぜ」
「そういやもうそんな時間でしたねw本気で急いで帰んないとなぁ」
この人は伊藤開司さん。俺のバイト先の先輩。今日は先輩と麻雀をうちに行き、門限(勝手に決められた)を2時間堂々とオーバーしてお開きとなった。なかなかいい勝負ができて、次の約束を取り付けていたらいつの間にか日をまたいでいた。
そして門限なんて決めたヤツが面倒くさい同居人。赤木しげるっていう麻雀がすっごく強い、白髪頭。あいつはなんでも俺の事を決めようとしたりして、いちいち面倒くさい。だから今日ぐらいは、ということで門限を無視した。俺はアイツのペットじゃないんだし、大人だ。自分のことぐらい自分で決められるってのに...
「ただいまー」
寝てるとは思ってたけど一応言わなくちゃいけない。これは俺も賛成した唯一のルールだ。さすがにいってきますとただいまぐらい言おうってことになったのはいつだったか。
「...おかえり」
「うぉっ!!アカギ、起きてたのか」
「うん。こんな時間までどこほっつき歩いてたの」
「なんだよ。別に俺がどこに誰と行こうと勝手だろ」
イラッとくる。なんでそんなの報告しなきゃいけねぇんだよ。俺は子供じゃないっての。
「よくない。俺はあんたを心配して言ってんだ」
「う...」
こういうところがあるから突き放せない。こっちが怒ってるような雰囲気出すとすぐ悲しそうに目を背ける。そのまま俯いて、小さく「ごめん...」なんて言い出すから、普段とのギャップもあって可愛く見えてしまう。子犬のようなそれに俺はなかなか逆らうことができずにいた。
が、それもここまで。今日こそは意志を貫き通してみせる!!
「あっそ。だからっていちいち俺の行動にケチつけるなよ」
「...そう」
自分でやっといてあれだが、結構心にクるものがある。しょんぼりとしてうなだれるアカギを見て俺の決意が揺らぐ。しかし俺も漢だ。やり抜いてみせる。とりあえずアカギの顔を見ないために風呂に入ろうか。
「はぁ、極楽ぅ」
湯船に漬かり日頃の疲れをとっていく。ぼーっと換気扇を眺めていると、扉の反対側からガタリ、と音がした。カゴでもズレたのだろうか?
服を着てリビングに向かう。まだ仕返し足りない。今までが甘すぎたんだ。同居してるだけの男の願い事なんて叶えてやるギリなんてない。
「アカギ〜、風呂上がったぞ。お前はもう入っただろうから湯は抜いといたからな」
アカギは何故か俺より先に風呂に入りたがらない。今日も多分入ってなかったとは思うけど、俺の知ったことか。既に時刻は1時を迎えようとしていた。こんな夜中まで入ってないのが悪いんだ。
「え...抜いたの?俺まだ入ってないけど」
「なんだよ、おっそいな。普通こんな時間に風呂入ろうとするやついねぇだろ。何考えてんの」
「俺が何考えててもいいだろ。じゃあシャワー浴びてくる」
「じゃあこっちは寝るか...ら...?!おいお前!その手に持ってる服俺のじゃねぇの?!」
「バレちゃったか。そうだよ、これはさっきササキが脱いだ服。それで?もう風呂入ってくるから」
「お、おい、ちょっとま...」
俺の制止の声を聞かず風呂場に行ったアカギ。アイツマジで何がしたいんだ?なんで俺のシャツなんか持って......
まぁ考えても埒が明かねぇし、さっさと寝るか。
寝室の電気を消して布団に入る。はぁ、なんで同居人がアカギなんだよ。カイジ先輩だったらもっと楽しかっただろうに。
ガッシャーンッ!!
「うぉ!!ってて、なんだよ。驚いて頭打っちまったじゃねぇか」
「おいアカギ!!何やって、っておい大丈夫か!」
風呂を覗けば、転倒して棚から落ちてきたものに埋もれているアカギの姿。返事がない。意識を失っているのか?
「アカギ、しっかりしろ!...気絶、してる...」
泡がついたままだったので流してやってからタオルで拭く。床に寝そべらせて服を着せ、寝室の俺の布団に寝かせてやった。こんなことになるんだったらアカギの布団も引いときゃ良かったな...。
「うぅ、ここ、は?」
「アカギ!ここは寝室。それよりお前大丈夫なのか?風呂で頭打ってたが...」
「どうりで頭が痛いわけだ。すまないがもう少し、寝かせ、て」
「あぁ、隣にお前の布団引いといたから」
「イヤだ。このまま...ササキも入ってよ」
「おいおい、バカ言うなよ。その布団は1人用だ。大の大人2人がなんで密着して寝なきゃならねぇんだよ。てか、お前布団「いいから」はぁ、しょうがないな...」
アカギが端によって、空いたところに俺が寝る。かなり狭苦しいが、俺だって怪我人の願いも叶えねぇほど鬼畜じゃない。たとえその怪我人がアカギだとしても、だ。それにしてもあのアカギが人肌寂しくなるとは。意外な一面だな。
「ん、もうちょっとこっち」
「はいはい、わかったから引っ張るな」
「もっと」
「これ以上は近すぎるっての!」
なんだコイツ、いつもクールなのに怪我した途端こうなっちゃって。腹部にサワリとなにかが触れる。手だ。アカギの左手。なんで俺は抱きしめられてるんだよ。
「んぅ、裕香...」
コイツ、色気とかは無駄にあるんだよな。性格はアレだけど。金もあるんだから女でもつくったらいいのに、麻雀ばっかやってやがる。
そんなことを考えていたら、いつの間にか眠っていた。
.
.
「おはよう」
「ん、アカギか。おはよう。ん?」
そこで気づいた。足になにかくっついてる。輪っかのようななにか。そこから鎖が伸びている感覚がする。
「アカギ、お前なんか足にくっつけた?なんかジャラジャラいってんだけど」
「ククッ気づくのが早いね。それは足枷だよ」
「...」
あしかせ、アシカセ、足かせ......足枷か。ん?足枷?
「なんでそんなのついてんの?昨日俺酒飲んでなかったよな?」
俺は酒を飲むと記憶が飛んでしまう。なのでアカギに酒を禁止されていた。酒を飲んでなにかやらかしたのだろうか。
「そう、ササキが昨日酒飲んで暴れてたから、仕方なくつけたんだ」
アカギを寝かせたあと1人酒でもしてたのだろうか。アカギが止めたってことは起こしちまったってことじゃねぇかよ...
「すまん。頭打ってたのに迷惑かけたな。それで、これはいつになったらとってくれるんだ?」
「何言ってんの?とるわけないじゃん。やっと捕まえたんだ。絶対に逃がさない。じゃあ、俺はちょっと外行ってくるから。ご飯はそこにあるよ」
「おい待てアカギ!!」
名前を呼ぶもアカギはどこかえ行ってしまった。
この寝室、実は安眠できるようにと防音壁を使っている。さらに外の光を防ぐために窓は鉄の板もつけてある。そう、アカギが去った今、この部屋は無音、暗闇。そして鉄の戸にはアカギの持って言った鍵。隣のトイレまでは何とか行けるが、トイレも同様。真っ暗だ。電源を入れようとしたら、スイッチが見つからない。手探りで探すも、謎の凹みがあるだけで電気はつかなかった。
まだ三十分も経ってないだろうに、既に2時間経過したような気分になってくる。つまずきながらも元の布団まで戻り、また手探りで食料を探す。クシャッと音がなり、手が袋を捉える。3つだ。パンの袋が3つ。それと何かが入ったペットボトルが1つ。多分これは水だろう。アカギはいつ帰ってくるのだろうか。このまま俺はここで死ぬのか?
孤独。圧倒的孤独。何も無いこの部屋でササキは一人。ササキは泣き出しそうになった。
アカギのせいだ。アイツ、ついに気が狂いやがった。真っ暗になるってわかってながら俺を閉じ込めていきやがった。
暗闇がササキを飲み込む。ササキにできるのはただただアカギを待つことだけだ。
.
.
「誰か、誰か来て!助けて!ここから俺を出して!!」
一日がようやく過ぎた頃、ササキの神経はついに狂ってしまった。目に何も映らず、音は自分の発するもののみ。誰も来ない。アカギも帰ってこない。アカギへの怒りも薄れ、恐怖がササキを支配する。
「誰か...カイジ先輩、来てよ...」
今日はバイトのシフトが入っていた。が無断欠席することになったのだ。カイジ先輩も違和感を感じているはず。そしたら、来てくれるかもしれない。そんな淡い希望に縋るしか無かった。
.
.
それから2日後、ようやく帰宅したアカギ。手洗いを済ませ、寝室の戸を開く。そこに居たのは。
「誰か、助けて...。誰か...」
延々と同じ言葉を繰り返しながら涙を流すササキ。暗闇が彼を狂わせた。戸を開けたというのにこちらを一切見向きもしない。
「ササキ、大丈夫だったか?」
「ア、カギ?」
「そう、アカギだ。もう大丈夫、怖がらなくていいよ」
元凶であるアカギでさえ、今のササキにとっては救いだった。いくら願っても来なかった先輩よりも、今助けてくれたアカギに好感度が傾く。というより、あまりの孤独でこうなった原因である3日前の会話など、その辺の記憶が飛んでいた。つまりアカギは彼の救世主。ここに閉じ込めたのは他の誰か。ササキの脳内はアカギの都合のいいように書き換えられていった。
「本当に良かった。カイジさんがササキを閉じ込めたなんて聞いた時は耳を疑ったけど、ともかくササキが無事でよかった」
「カイジ、先輩が、俺、を?」
「そうだ。覚えていないのか?俺がいない日にカイジさんはアンタとこの家にやってきた。そしてアンタを1人残して帰って行ったのさ」
冷静に考えれば、何故そんなことをアカギが知っているのかという疑問が生まれ、これが嘘であると見抜けたはずだ。しかし錯乱状態のササキにこのことをすり込ませるのは簡単だった。
「そう、だったんだ。ありがとうアカギ。アカギが救けてくれなかったら、俺...」
「あぁ、あいつも酷いことするよな。俺だったら、そんなことしないのに」
少しずつササキの意識を自分へと寄せていくアカギ。最大関門のカイジを突破した今、あとはゆっくりと堕とすだけだ。慎重に、気づかれないように。
「アカギ、一緒にご飯食べよう」
あれから1ヶ月後、心做しか言動が幼くなったササキを連れ、アカギは飲食店へとやってきた。しかし、そこには誤算があった。
「あれ、アカギじゃないか!ササキが最近顔見せなかったから心配してたんだが、アイツは今どこにいるんだ?」
カイジ、現 る。今ササキに最も合わせたくなかった人物がアカギの目の前にいる。幸いササキは現在トイレへ行っており、まだカイジの姿を見た訳では無い。しかし、すぐに出てくるだろうし、カイジの姿を見て記憶が戻ってしまったら今度こそ一生足枷を嵌めさせて、光の届かないところに隠さなくてはいけなくなる。それはアカギにとっても、ササキにとっても喜ばしくはない事だ。どうにかして避けなくては...
「アカギ!戻った、ぞ...」
遅かった。戻ってきてしまった。どうする。洗脳するのはなかなかクるものがある。ササキの俺に縋る姿はなんとも甘美だが、あまり意識の書き換えを行いすぎてもササキ自身が狂ってしまう。そうなればもう元の生活はできない。俺を見てくれないササキにはなって欲しくない。カイジを消すか...
「アカギ、どうしたんだよ、ぼーっとし、て...」
「ササキ...」
「おっ、ササキじゃないか!心配してたんだぞ、急に顔を見せなくなったから!ササキ?どうしたんだよ固まって」
もうダメかと思ったその時、予想外の返答が返ってくる。
「カイジ、先、輩...なんでこんなとこに...ヒュ」
あの時のアカギのすり込みが予想以上に効いており、ササキは完全にカイジを恐怖の対象と捉えていた。アカギはまだすり込みが足らないと思っていたのだが、これは嬉しい誤算だった。カイジの姿を捉え、過呼吸になりつつあるササキ。それを心配してカイジが足を踏み出す。
「おい大丈夫か?どっか具合悪いなら...「アカギ!」うぉ?!ササキなんで逃げんだよ!!」
アカギの背後へと逃げたササキ。彼はアカギの悪どい笑顔に気づいていない。
「おいアカギ、どうしてアイツは隠れてんだよ」
「それをアンタが言うかい?カイジさん」
なんの事だかわからず困惑するカイジ。それを見てササキを連れて歩き出したアカギ。後に神域の男と呼ばれる彼は、既に一人の男を思うがままにして見せた。
「ケホケホッ」
「大丈夫だった?ごめん、きちんと確認して行けば良かったな」
「ううん、アカギは悪くないよ。俺が逃げたせいで昼食とれなかったんだし」
「ササキはもっと自分のことを気遣って。いつかダメになっちゃうよ」
「なんで、アカギは俺に優しくしてくれるの?俺はダメなやつなのに...」
以前のササキなら言わなかった弱音。自分をダメだと言うようになった彼。しかし、その裏にもやはりアカギはいた。
アカギはあの洗脳のあと、さらなる洗脳を施した。自分をダメなやつだと思い込ませることに成功したのだ。自分を卑屈に考えるようになったササキはアカギの優しさに疑問を抱くようになった。ここまでも計算済みなアカギはもはや人外と言ってもいいのではないだろうか。
「なんで、か。ササキはなんでだと思う?」
「えっ...と......俺の事を後で売るから?」
「クククッなんでそんな変な思考にたどり着くかな...」
「ご、ごめんなさい」
「謝らなくていい。俺もイジワルしたね。大した理由なんてないよ。ただササキと一緒に居たいだけ。それだけだ」
「俺と、一緒?」
「そう。それで、ササキは?」
「お、俺も一緒にいたい。アカギとずっと居たい」
「そうこなくっちゃ」
これで洗脳は終了した。ここまでくればもう解けることはないだろう。ササキはアカギに依存した。その事実がアカギの心を震わせる。ずっと欲しかった。でも届かなかった人が今、自分の手中にいて、自分を、自分だけを見ている。狂おしいほどの愛情が身を焦がしそうだった。
時刻は10時30分、アカギはササキを寝かしつけたあと、約束の場所へと向かっう。
人気のない公園でポツンとカイジはベンチに座っていた。足音がしたので振り返ってみれば、アカギがたっている。
「遅かったな。それで、ササキに何をした」
「おっと、1言目からそれかい?俺になんの疑いがあるってんだ?」
「...いつもササキが俺に愚痴ってたんだよ。お前がベタベタしてくるから離れたい、てな。それなのに今日は自らそっちに行きやがった。しかも俺に怯えて、だ。これがお前の仕業じゃなかったら誰だってんだ」
「ふーん、それで俺が何かしたって思ってんのね。......じゃあ俺が言うことは1つ。ササキに関わるな」
「上等だ。やってやろうじゃないか」
「交渉は決裂、か」
「友達賭けてまで金を欲するほど落ちぶれちゃいねぇよ」
背を向けて歩き出す二人。1人は手に入れた男を思って、1人は友人を心配してそれぞれの道を戻る。
ポツポツと雨が降り出した。
「ただいま」
起きているはずはないが一応言ってみる。雨で冷えた体がササキを欲してやまない。今すぐ抱きしめたい。あの男に渡す気は一切ない。一抹の不安を消すためにもササキの温かさが欲しい。でも起こす訳にはいかなかった。
仕方がなく1人風呂に入ろうとしたとき。
「アカギ?起きてるの?」
ササキが眼を擦りながら起きてきた。早く欲しい。早く、早く。
「アカギ?どうしたの?」
不思議そうにこちらを見つめるササキ。無意識のうちに手が伸びていた。
「っあぁ、風呂に入ろうと思って」
「あれ、でもさっきお風呂入ってたよね?」
寝ぼけて口調が柔らかくなったササキも可愛い。写真に収めたい。
「ちょっと外に散歩しに行ってたら雨降っちゃってさ。体冷えたから「ん」っ?!ササキ、どうしたの?急に抱きついてくるなんて珍しい」
「体冷えてるから温かくする。手、まわして」
キュッと抱きしめられ、背中をさすられる。まるで赤子をあやすかのような手つきに思わず寝かけてしまった。
「...アカギ、カイジさんと会った?」
「......よくわかったな」
「煙草の匂い。アカギのと違う匂いがする」
まさか俺の匂いまで覚えているとは、結構ササキも俺に染まってきたな。そしてカイジの匂いまでわかる、というのは大問題だ。あの憎たらしい顔が脳裏に浮かぶ。いっその事消してしまいたいが、アイツには知り合いが多くいる。突然行方不明になったりしたら、俺も疑われるかもしれない。なんとももどかしい。アイツを消せたら一生2人きりだってのに。
「アカギ、温かい?」
「うん、温かい。けどササキも濡れたじゃん。一緒に風呂入る?」
「うん//」
これはまずい。今までのササキなら絶対に見せなかった一面。頬を赤く染めながらこっちを見てくるなんてズルい。平常心を保つのが大変だってのに...
「ちょっと狭いな」
「確かに。1人用だからな」
眠気もだんだん覚めてきたのか口調も元に戻ってきたササキを見る。
今まで一緒に入ったことなんてなかったから不思議な感じだ。ササキの細い足が俺の腰に当たっているせいでくすぐったい。どこかを見つめているササキの耳元で「好きだよ」と囁いてみた。
「ひぅっ...ア、カギやめろよ!恥ずかしいだろ//」
「耳、弱いね」
「んな、そんなことない!」
雨のおかげでより親密な関係になれたんだから、人生塞翁が馬っていうのもあながち間違ってないかもな。
「のぼせる前に上がるぞ」
「分かってる」
先にササキを上がらせて、着替え終わってから俺も上がる。設計の問題で脱衣所が狭くなってしまったため大の大人2人は入り切らない。
「アカギ、今度こそおやすみ」
「おやすみ」
幸せだ。ササキに会うまでの日々がまるで夢だったかのように思える。命を晒してギャンブルをするのも良かったが、それでは味わえなかったものがササキとの生活で満たされていく。
寝息をたてるササキを撫でて、アカギも眠ることにした。
.
.
「アカギ!目が覚めたか!」
目を覚ますと目の前には南郷さん。おかしい、さっきまではササキと一緒にいたのに。
「ササキは?ササキはどこにいる?」
「ササキは死んだ。事故でな」
「_____南郷さん、冗談にしては笑えないよ。アイツが死んだなんて嘘、俺の前でつくなよ!!」
声を荒げて怒るアカギに驚き、つい演技だったことをばらしてしまった南郷。しかし事故に遭ったというのは本当で、頭を打ったアカギは1週間意識を失っていたらしい。
「ササキは今どこにいる」
「それは......言えない。それを言ったらお前、ササキを閉じ込めるだろ」
「だから?そんな理由で俺からササキを、裕香を離すな。さっさと教えろ」
獲物を射殺すような目つきで睨まれた南郷だったが、それでも下がれない。
「あのなぁ、ササキにだって幸せってもんがあるんだよ。お前と一緒にいることだけがあいつにとっての幸せじゃあないんだ。わかってくれ、アカギ」
「わかる?その妄言を理解する必要なんてない。俺とアイツは生涯を共にするんだ。一生を2人で過ごすのが俺らの幸せ。勝手なことを押し付けるな」
「...そこまで重症とはな。とにかく今のお前とは会わせられない」
怒りが募る。何とか手を出さないように我慢しているが、このままだと南郷さんを殴ってしまいそうだ。
と、その時。病室の戸が大きな音をたてて開かれた。その先にいたのは
「アカギ、会いたかった!!」
「ササキ?!なんでお前が!お前はカイジさんが足止めしているはず!」
「へぇ、カイジも参加してるんだ」
失言によりアカギのヘイトが南郷からカイジへ向けられる。カイジは俺らを離すつもりだった。それだけで殺すに値する。
「ヒッアっアカギ!やめろ、カイジさんを殺ろうだなんて」
「よくわかったね南郷さん」
「顔がやばいぞ!ササキも怖がっているから!!」
「え、ササキ?」
確かにそこに居たのはこちらを涙目で見つめているササキだった。怖がらせてしまった、その事実がアカギの心に冷や水をぶっかけた。
冷静になったアカギはまずササキを宥めることから始めた。南郷たちの計画も失敗に終わり、アカギとササキはまた2人で過ごすことができるようになったのだ。
「絶対に離さない」
「俺だって、アカギから離れてやるもんか。アカギが嫌がったとしてもくっついていくからな!」
「こっちだって、嫌われても話してやらないから。ササキ」
Happy End
「いや、もう0時超えてんだから今日だぜ」
「そういやもうそんな時間でしたねw本気で急いで帰んないとなぁ」
この人は伊藤開司さん。俺のバイト先の先輩。今日は先輩と麻雀をうちに行き、門限(勝手に決められた)を2時間堂々とオーバーしてお開きとなった。なかなかいい勝負ができて、次の約束を取り付けていたらいつの間にか日をまたいでいた。
そして門限なんて決めたヤツが面倒くさい同居人。赤木しげるっていう麻雀がすっごく強い、白髪頭。あいつはなんでも俺の事を決めようとしたりして、いちいち面倒くさい。だから今日ぐらいは、ということで門限を無視した。俺はアイツのペットじゃないんだし、大人だ。自分のことぐらい自分で決められるってのに...
「ただいまー」
寝てるとは思ってたけど一応言わなくちゃいけない。これは俺も賛成した唯一のルールだ。さすがにいってきますとただいまぐらい言おうってことになったのはいつだったか。
「...おかえり」
「うぉっ!!アカギ、起きてたのか」
「うん。こんな時間までどこほっつき歩いてたの」
「なんだよ。別に俺がどこに誰と行こうと勝手だろ」
イラッとくる。なんでそんなの報告しなきゃいけねぇんだよ。俺は子供じゃないっての。
「よくない。俺はあんたを心配して言ってんだ」
「う...」
こういうところがあるから突き放せない。こっちが怒ってるような雰囲気出すとすぐ悲しそうに目を背ける。そのまま俯いて、小さく「ごめん...」なんて言い出すから、普段とのギャップもあって可愛く見えてしまう。子犬のようなそれに俺はなかなか逆らうことができずにいた。
が、それもここまで。今日こそは意志を貫き通してみせる!!
「あっそ。だからっていちいち俺の行動にケチつけるなよ」
「...そう」
自分でやっといてあれだが、結構心にクるものがある。しょんぼりとしてうなだれるアカギを見て俺の決意が揺らぐ。しかし俺も漢だ。やり抜いてみせる。とりあえずアカギの顔を見ないために風呂に入ろうか。
「はぁ、極楽ぅ」
湯船に漬かり日頃の疲れをとっていく。ぼーっと換気扇を眺めていると、扉の反対側からガタリ、と音がした。カゴでもズレたのだろうか?
服を着てリビングに向かう。まだ仕返し足りない。今までが甘すぎたんだ。同居してるだけの男の願い事なんて叶えてやるギリなんてない。
「アカギ〜、風呂上がったぞ。お前はもう入っただろうから湯は抜いといたからな」
アカギは何故か俺より先に風呂に入りたがらない。今日も多分入ってなかったとは思うけど、俺の知ったことか。既に時刻は1時を迎えようとしていた。こんな夜中まで入ってないのが悪いんだ。
「え...抜いたの?俺まだ入ってないけど」
「なんだよ、おっそいな。普通こんな時間に風呂入ろうとするやついねぇだろ。何考えてんの」
「俺が何考えててもいいだろ。じゃあシャワー浴びてくる」
「じゃあこっちは寝るか...ら...?!おいお前!その手に持ってる服俺のじゃねぇの?!」
「バレちゃったか。そうだよ、これはさっきササキが脱いだ服。それで?もう風呂入ってくるから」
「お、おい、ちょっとま...」
俺の制止の声を聞かず風呂場に行ったアカギ。アイツマジで何がしたいんだ?なんで俺のシャツなんか持って......
まぁ考えても埒が明かねぇし、さっさと寝るか。
寝室の電気を消して布団に入る。はぁ、なんで同居人がアカギなんだよ。カイジ先輩だったらもっと楽しかっただろうに。
ガッシャーンッ!!
「うぉ!!ってて、なんだよ。驚いて頭打っちまったじゃねぇか」
「おいアカギ!!何やって、っておい大丈夫か!」
風呂を覗けば、転倒して棚から落ちてきたものに埋もれているアカギの姿。返事がない。意識を失っているのか?
「アカギ、しっかりしろ!...気絶、してる...」
泡がついたままだったので流してやってからタオルで拭く。床に寝そべらせて服を着せ、寝室の俺の布団に寝かせてやった。こんなことになるんだったらアカギの布団も引いときゃ良かったな...。
「うぅ、ここ、は?」
「アカギ!ここは寝室。それよりお前大丈夫なのか?風呂で頭打ってたが...」
「どうりで頭が痛いわけだ。すまないがもう少し、寝かせ、て」
「あぁ、隣にお前の布団引いといたから」
「イヤだ。このまま...ササキも入ってよ」
「おいおい、バカ言うなよ。その布団は1人用だ。大の大人2人がなんで密着して寝なきゃならねぇんだよ。てか、お前布団「いいから」はぁ、しょうがないな...」
アカギが端によって、空いたところに俺が寝る。かなり狭苦しいが、俺だって怪我人の願いも叶えねぇほど鬼畜じゃない。たとえその怪我人がアカギだとしても、だ。それにしてもあのアカギが人肌寂しくなるとは。意外な一面だな。
「ん、もうちょっとこっち」
「はいはい、わかったから引っ張るな」
「もっと」
「これ以上は近すぎるっての!」
なんだコイツ、いつもクールなのに怪我した途端こうなっちゃって。腹部にサワリとなにかが触れる。手だ。アカギの左手。なんで俺は抱きしめられてるんだよ。
「んぅ、裕香...」
コイツ、色気とかは無駄にあるんだよな。性格はアレだけど。金もあるんだから女でもつくったらいいのに、麻雀ばっかやってやがる。
そんなことを考えていたら、いつの間にか眠っていた。
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「おはよう」
「ん、アカギか。おはよう。ん?」
そこで気づいた。足になにかくっついてる。輪っかのようななにか。そこから鎖が伸びている感覚がする。
「アカギ、お前なんか足にくっつけた?なんかジャラジャラいってんだけど」
「ククッ気づくのが早いね。それは足枷だよ」
「...」
あしかせ、アシカセ、足かせ......足枷か。ん?足枷?
「なんでそんなのついてんの?昨日俺酒飲んでなかったよな?」
俺は酒を飲むと記憶が飛んでしまう。なのでアカギに酒を禁止されていた。酒を飲んでなにかやらかしたのだろうか。
「そう、ササキが昨日酒飲んで暴れてたから、仕方なくつけたんだ」
アカギを寝かせたあと1人酒でもしてたのだろうか。アカギが止めたってことは起こしちまったってことじゃねぇかよ...
「すまん。頭打ってたのに迷惑かけたな。それで、これはいつになったらとってくれるんだ?」
「何言ってんの?とるわけないじゃん。やっと捕まえたんだ。絶対に逃がさない。じゃあ、俺はちょっと外行ってくるから。ご飯はそこにあるよ」
「おい待てアカギ!!」
名前を呼ぶもアカギはどこかえ行ってしまった。
この寝室、実は安眠できるようにと防音壁を使っている。さらに外の光を防ぐために窓は鉄の板もつけてある。そう、アカギが去った今、この部屋は無音、暗闇。そして鉄の戸にはアカギの持って言った鍵。隣のトイレまでは何とか行けるが、トイレも同様。真っ暗だ。電源を入れようとしたら、スイッチが見つからない。手探りで探すも、謎の凹みがあるだけで電気はつかなかった。
まだ三十分も経ってないだろうに、既に2時間経過したような気分になってくる。つまずきながらも元の布団まで戻り、また手探りで食料を探す。クシャッと音がなり、手が袋を捉える。3つだ。パンの袋が3つ。それと何かが入ったペットボトルが1つ。多分これは水だろう。アカギはいつ帰ってくるのだろうか。このまま俺はここで死ぬのか?
孤独。圧倒的孤独。何も無いこの部屋でササキは一人。ササキは泣き出しそうになった。
アカギのせいだ。アイツ、ついに気が狂いやがった。真っ暗になるってわかってながら俺を閉じ込めていきやがった。
暗闇がササキを飲み込む。ササキにできるのはただただアカギを待つことだけだ。
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「誰か、誰か来て!助けて!ここから俺を出して!!」
一日がようやく過ぎた頃、ササキの神経はついに狂ってしまった。目に何も映らず、音は自分の発するもののみ。誰も来ない。アカギも帰ってこない。アカギへの怒りも薄れ、恐怖がササキを支配する。
「誰か...カイジ先輩、来てよ...」
今日はバイトのシフトが入っていた。が無断欠席することになったのだ。カイジ先輩も違和感を感じているはず。そしたら、来てくれるかもしれない。そんな淡い希望に縋るしか無かった。
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それから2日後、ようやく帰宅したアカギ。手洗いを済ませ、寝室の戸を開く。そこに居たのは。
「誰か、助けて...。誰か...」
延々と同じ言葉を繰り返しながら涙を流すササキ。暗闇が彼を狂わせた。戸を開けたというのにこちらを一切見向きもしない。
「ササキ、大丈夫だったか?」
「ア、カギ?」
「そう、アカギだ。もう大丈夫、怖がらなくていいよ」
元凶であるアカギでさえ、今のササキにとっては救いだった。いくら願っても来なかった先輩よりも、今助けてくれたアカギに好感度が傾く。というより、あまりの孤独でこうなった原因である3日前の会話など、その辺の記憶が飛んでいた。つまりアカギは彼の救世主。ここに閉じ込めたのは他の誰か。ササキの脳内はアカギの都合のいいように書き換えられていった。
「本当に良かった。カイジさんがササキを閉じ込めたなんて聞いた時は耳を疑ったけど、ともかくササキが無事でよかった」
「カイジ、先輩が、俺、を?」
「そうだ。覚えていないのか?俺がいない日にカイジさんはアンタとこの家にやってきた。そしてアンタを1人残して帰って行ったのさ」
冷静に考えれば、何故そんなことをアカギが知っているのかという疑問が生まれ、これが嘘であると見抜けたはずだ。しかし錯乱状態のササキにこのことをすり込ませるのは簡単だった。
「そう、だったんだ。ありがとうアカギ。アカギが救けてくれなかったら、俺...」
「あぁ、あいつも酷いことするよな。俺だったら、そんなことしないのに」
少しずつササキの意識を自分へと寄せていくアカギ。最大関門のカイジを突破した今、あとはゆっくりと堕とすだけだ。慎重に、気づかれないように。
「アカギ、一緒にご飯食べよう」
あれから1ヶ月後、心做しか言動が幼くなったササキを連れ、アカギは飲食店へとやってきた。しかし、そこには誤算があった。
「あれ、アカギじゃないか!ササキが最近顔見せなかったから心配してたんだが、アイツは今どこにいるんだ?」
カイジ、
「アカギ!戻った、ぞ...」
遅かった。戻ってきてしまった。どうする。洗脳するのはなかなかクるものがある。ササキの俺に縋る姿はなんとも甘美だが、あまり意識の書き換えを行いすぎてもササキ自身が狂ってしまう。そうなればもう元の生活はできない。俺を見てくれないササキにはなって欲しくない。カイジを消すか...
「アカギ、どうしたんだよ、ぼーっとし、て...」
「ササキ...」
「おっ、ササキじゃないか!心配してたんだぞ、急に顔を見せなくなったから!ササキ?どうしたんだよ固まって」
もうダメかと思ったその時、予想外の返答が返ってくる。
「カイジ、先、輩...なんでこんなとこに...ヒュ」
あの時のアカギのすり込みが予想以上に効いており、ササキは完全にカイジを恐怖の対象と捉えていた。アカギはまだすり込みが足らないと思っていたのだが、これは嬉しい誤算だった。カイジの姿を捉え、過呼吸になりつつあるササキ。それを心配してカイジが足を踏み出す。
「おい大丈夫か?どっか具合悪いなら...「アカギ!」うぉ?!ササキなんで逃げんだよ!!」
アカギの背後へと逃げたササキ。彼はアカギの悪どい笑顔に気づいていない。
「おいアカギ、どうしてアイツは隠れてんだよ」
「それをアンタが言うかい?カイジさん」
なんの事だかわからず困惑するカイジ。それを見てササキを連れて歩き出したアカギ。後に神域の男と呼ばれる彼は、既に一人の男を思うがままにして見せた。
「ケホケホッ」
「大丈夫だった?ごめん、きちんと確認して行けば良かったな」
「ううん、アカギは悪くないよ。俺が逃げたせいで昼食とれなかったんだし」
「ササキはもっと自分のことを気遣って。いつかダメになっちゃうよ」
「なんで、アカギは俺に優しくしてくれるの?俺はダメなやつなのに...」
以前のササキなら言わなかった弱音。自分をダメだと言うようになった彼。しかし、その裏にもやはりアカギはいた。
アカギはあの洗脳のあと、さらなる洗脳を施した。自分をダメなやつだと思い込ませることに成功したのだ。自分を卑屈に考えるようになったササキはアカギの優しさに疑問を抱くようになった。ここまでも計算済みなアカギはもはや人外と言ってもいいのではないだろうか。
「なんで、か。ササキはなんでだと思う?」
「えっ...と......俺の事を後で売るから?」
「クククッなんでそんな変な思考にたどり着くかな...」
「ご、ごめんなさい」
「謝らなくていい。俺もイジワルしたね。大した理由なんてないよ。ただササキと一緒に居たいだけ。それだけだ」
「俺と、一緒?」
「そう。それで、ササキは?」
「お、俺も一緒にいたい。アカギとずっと居たい」
「そうこなくっちゃ」
これで洗脳は終了した。ここまでくればもう解けることはないだろう。ササキはアカギに依存した。その事実がアカギの心を震わせる。ずっと欲しかった。でも届かなかった人が今、自分の手中にいて、自分を、自分だけを見ている。狂おしいほどの愛情が身を焦がしそうだった。
時刻は10時30分、アカギはササキを寝かしつけたあと、約束の場所へと向かっう。
人気のない公園でポツンとカイジはベンチに座っていた。足音がしたので振り返ってみれば、アカギがたっている。
「遅かったな。それで、ササキに何をした」
「おっと、1言目からそれかい?俺になんの疑いがあるってんだ?」
「...いつもササキが俺に愚痴ってたんだよ。お前がベタベタしてくるから離れたい、てな。それなのに今日は自らそっちに行きやがった。しかも俺に怯えて、だ。これがお前の仕業じゃなかったら誰だってんだ」
「ふーん、それで俺が何かしたって思ってんのね。......じゃあ俺が言うことは1つ。ササキに関わるな」
「上等だ。やってやろうじゃないか」
「交渉は決裂、か」
「友達賭けてまで金を欲するほど落ちぶれちゃいねぇよ」
背を向けて歩き出す二人。1人は手に入れた男を思って、1人は友人を心配してそれぞれの道を戻る。
ポツポツと雨が降り出した。
「ただいま」
起きているはずはないが一応言ってみる。雨で冷えた体がササキを欲してやまない。今すぐ抱きしめたい。あの男に渡す気は一切ない。一抹の不安を消すためにもササキの温かさが欲しい。でも起こす訳にはいかなかった。
仕方がなく1人風呂に入ろうとしたとき。
「アカギ?起きてるの?」
ササキが眼を擦りながら起きてきた。早く欲しい。早く、早く。
「アカギ?どうしたの?」
不思議そうにこちらを見つめるササキ。無意識のうちに手が伸びていた。
「っあぁ、風呂に入ろうと思って」
「あれ、でもさっきお風呂入ってたよね?」
寝ぼけて口調が柔らかくなったササキも可愛い。写真に収めたい。
「ちょっと外に散歩しに行ってたら雨降っちゃってさ。体冷えたから「ん」っ?!ササキ、どうしたの?急に抱きついてくるなんて珍しい」
「体冷えてるから温かくする。手、まわして」
キュッと抱きしめられ、背中をさすられる。まるで赤子をあやすかのような手つきに思わず寝かけてしまった。
「...アカギ、カイジさんと会った?」
「......よくわかったな」
「煙草の匂い。アカギのと違う匂いがする」
まさか俺の匂いまで覚えているとは、結構ササキも俺に染まってきたな。そしてカイジの匂いまでわかる、というのは大問題だ。あの憎たらしい顔が脳裏に浮かぶ。いっその事消してしまいたいが、アイツには知り合いが多くいる。突然行方不明になったりしたら、俺も疑われるかもしれない。なんとももどかしい。アイツを消せたら一生2人きりだってのに。
「アカギ、温かい?」
「うん、温かい。けどササキも濡れたじゃん。一緒に風呂入る?」
「うん//」
これはまずい。今までのササキなら絶対に見せなかった一面。頬を赤く染めながらこっちを見てくるなんてズルい。平常心を保つのが大変だってのに...
「ちょっと狭いな」
「確かに。1人用だからな」
眠気もだんだん覚めてきたのか口調も元に戻ってきたササキを見る。
今まで一緒に入ったことなんてなかったから不思議な感じだ。ササキの細い足が俺の腰に当たっているせいでくすぐったい。どこかを見つめているササキの耳元で「好きだよ」と囁いてみた。
「ひぅっ...ア、カギやめろよ!恥ずかしいだろ//」
「耳、弱いね」
「んな、そんなことない!」
雨のおかげでより親密な関係になれたんだから、人生塞翁が馬っていうのもあながち間違ってないかもな。
「のぼせる前に上がるぞ」
「分かってる」
先にササキを上がらせて、着替え終わってから俺も上がる。設計の問題で脱衣所が狭くなってしまったため大の大人2人は入り切らない。
「アカギ、今度こそおやすみ」
「おやすみ」
幸せだ。ササキに会うまでの日々がまるで夢だったかのように思える。命を晒してギャンブルをするのも良かったが、それでは味わえなかったものがササキとの生活で満たされていく。
寝息をたてるササキを撫でて、アカギも眠ることにした。
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.
「アカギ!目が覚めたか!」
目を覚ますと目の前には南郷さん。おかしい、さっきまではササキと一緒にいたのに。
「ササキは?ササキはどこにいる?」
「ササキは死んだ。事故でな」
「_____南郷さん、冗談にしては笑えないよ。アイツが死んだなんて嘘、俺の前でつくなよ!!」
声を荒げて怒るアカギに驚き、つい演技だったことをばらしてしまった南郷。しかし事故に遭ったというのは本当で、頭を打ったアカギは1週間意識を失っていたらしい。
「ササキは今どこにいる」
「それは......言えない。それを言ったらお前、ササキを閉じ込めるだろ」
「だから?そんな理由で俺からササキを、裕香を離すな。さっさと教えろ」
獲物を射殺すような目つきで睨まれた南郷だったが、それでも下がれない。
「あのなぁ、ササキにだって幸せってもんがあるんだよ。お前と一緒にいることだけがあいつにとっての幸せじゃあないんだ。わかってくれ、アカギ」
「わかる?その妄言を理解する必要なんてない。俺とアイツは生涯を共にするんだ。一生を2人で過ごすのが俺らの幸せ。勝手なことを押し付けるな」
「...そこまで重症とはな。とにかく今のお前とは会わせられない」
怒りが募る。何とか手を出さないように我慢しているが、このままだと南郷さんを殴ってしまいそうだ。
と、その時。病室の戸が大きな音をたてて開かれた。その先にいたのは
「アカギ、会いたかった!!」
「ササキ?!なんでお前が!お前はカイジさんが足止めしているはず!」
「へぇ、カイジも参加してるんだ」
失言によりアカギのヘイトが南郷からカイジへ向けられる。カイジは俺らを離すつもりだった。それだけで殺すに値する。
「ヒッアっアカギ!やめろ、カイジさんを殺ろうだなんて」
「よくわかったね南郷さん」
「顔がやばいぞ!ササキも怖がっているから!!」
「え、ササキ?」
確かにそこに居たのはこちらを涙目で見つめているササキだった。怖がらせてしまった、その事実がアカギの心に冷や水をぶっかけた。
冷静になったアカギはまずササキを宥めることから始めた。南郷たちの計画も失敗に終わり、アカギとササキはまた2人で過ごすことができるようになったのだ。
「絶対に離さない」
「俺だって、アカギから離れてやるもんか。アカギが嫌がったとしてもくっついていくからな!」
「こっちだって、嫌われても話してやらないから。ササキ」
Happy End
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