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HappyBirthday,My Alice.

「なんだよ、結局力ずくでやったんじゃん」
少し離れた場所に見慣れた人影が見える。声をかけてみると、いつもの感情が読めない声が返ってきた。
「…盗み見か?趣味が悪いな、シン」
「別に見てねーよ。そいつの状態見れば嫌でも分かるだろ」
シンはウサ耳をぴょんぴょん揺らしながらアスランの方へと歩を進める。歩く度に揺れるこの耳が鬱陶しい。
「ていうかさ、こうやるんだったら今までのあの茶番いらなくねーか?アンタが最初っから向こうで捕まえてくればよかったんだから。俺がわざわざ迎えに行ったの何だったわけ?」
「ああやって害が無いように見せたら自分から"こちら側"に来ると思ったんだ。…結局その目論見は外れたがな」
「そうか?…アンタってたまに馬鹿みたいなこと思いつくよな」
「何だ?ミンチになりたいなら素直にそう言え」
「わーっ、すいません冗談ですって!…ったく」
高位の奴は冗談が通じないから嫌なんだ、とシンが小声でぶつぶつと悪態をつく。しかしすぐにあ、と何かを思い出したように話題を変えた。
「なあ、何でアリスにしたんだ?」
「…何?」
「アンタの作った世界だよ。アリスとか帽子屋とか。警戒心解くって言うならアリス以外に他にも色々あっただろ。アンタの力なら何だって作れるんだから」
「ああ…そういうことか。そうだな…あの話は、帽子屋がアリスを救う話だろう?俺が帽子屋で、キラがアリス。話とぴったり当てはまる」
「…ええっと、アスラン。アンタあの話ちゃんと読んだ?」
「いや、粗筋を軽く見た程度だが。森でアリスにパーティーを開いていた」
「…はあ?あの、それはさ…あー、まあいいや」
つまり、話の内容が合っていたからアリスの世界を作り出した?何だそれは。そもそもあの話はそんな話じゃない、ちゃんと本編を読め。シンは心からそう言いたかったが、今更色々訂正するのも面倒だし、変に難癖付けるとまた殺されかねない。
「それに、楽しかっただろう?」
「は?」
「お前も案外この茶番を楽しんでいたじゃないか。その耳、取らないでおくか?」
アスランはちらりとシンの頭のウサ耳を見て問う。しかしシンはまさか、と肩をすくめて返した。
「いらねーよ。こんなの邪魔なだけだし」
「そうか」
アスランは別段気にすることもなくすぐに視線をキラへと戻した。その愛しげにキラを見つめる優しい表情はいつものあの冷徹なアスランとは似ても似つかなくて、シンは改めて彼にこんな表情をさせるこの少年をまじまじと眺める。16歳とは思えない幼い、少女めいた顔立ちをしていて可愛らしいという言葉がぴったり当てはまる。これで男と言うのだから驚きだ。もしかすると、それが原因で苛められてたんじゃないか。
「――それにしても、キラも可哀想だよな。よりにもよってアンタに気に入られるなんて。…食われたほうがまだマシだ」
そうシンが言った途端、周りの温度が急激に下がったかのような感覚がした。ああマズイ、見ればアスランの瞳に暗い濁った色が見える。
「可哀想?何処が。俺がずっと、永遠にキラを愛し続けるんだ。キラを傷つけるものには絶対に近づけさせない。これの何処が可哀想なんだ?」
アスランはキラの顔に付いた湿布やら絆創膏やらを忌々しそうに見つめ、それを一つずつ丁寧に剥がしていった。剥がすたびに痛々しい傷が表れたけれども、アスランが傷に手を触れさせるとそこにあったことが嘘かのように綺麗さっぱり消えてしまい、すぐに滑らかで柔らかい、元の綺麗な肌に戻っていた。―きっと服の下にも傷があるのだろう。そう考えるとアスランの苛立ちはさらに増していった。
「…そうだ、折角手を貸してくれたんだ。追加で代価をやろう、褒美と思ってくれていい」
「…褒美?アンタが?」
アスランらしからぬ気のいい言葉。褒美を貰えるのは嬉しいが、それを言う相手はあのアスランだ。悪い予感しかしない。
「子供の、男のものだ。…5、6人といったところか。キラと同じ服を着ている奴。心臓なり何なり好きに食って来い」
「……それってアンタがムカつくから俺に始末させようとしてるだけじゃあ…」
使われてる気がしなくもない。…実際使われているのだろうが食べ物が貰えるのは素直に嬉しい。しかも生きた人間のもの。最近では自分よりもっと高位の奴らが占有してて口に出来る機会が少ないのだ。目の前のこの悪魔は態度こそでかいが報酬や代価はうんと弾んでくれるのが美味しい。
「ま、貰えるモンは貰っとく。…また何かあったら呼んでくれよ、飯さえ用意してくれればいつでも来るからさ」
「ああ。暫くは無さそうだが、考えておこう」
シンはアスランと軽い挨拶を交わし、臨時のディナーへと軽い足取りで赴くのだった。


「…愛が重いって意味だったんだけど、多分、意味履き違えられてるよな」
シンのぼやきを聞くものは、誰一人としていなかった。
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