ガンダムビルドファイターズSEED
あれから少し経って、アスランとキラは帰路についていた。
あの後シャニは自分のガンプラを持ってちくしょう、だの何だの言いながらそそくさと退散していった。自分が負けたことにかなり傷ついているようだった。以外と打たれ弱いのだろうか。兎にも角にも、これでキラには近づかなくなるだろう。アスランは少しほっとしてふう、と息をついた。
「本当にアスランのおかげだよ!ありがとう、アスランっ!」
キラは先ほどから勝利の余韻から覚めないのか、ずっと目をきらきらと輝かせている。子供のように喜んでいるキラは、正直言ってとてもかわいい。殺人的と言っても申し分ないだろう。特にバトル直後、キラに抱きつかれたときなんかそれはもう大変だった。やったやったと頬を紅潮させて抱きついてきたキラはそれはもう天使のように、いや天使以上に愛くるしくて本気でこのまま押し倒してしまおうかと思ったほどだ。勿論そんなことをすればキラに嫌われるのは必至だし、あの場にはまだシャニもいた。自分の持てる全ての理性を総動員して衝動を抑えたが、かなりキツいものがあった。
ふと、キラが何かを思い出したようにアスランに問うた。
「そういえばさ、アスラン」
「ん?」
「君、ガンプラバトルの経験ゼロだよね?どうしてあんなに完璧に動かせたの?」
「ああ…いや、キラのバトルを見てたらなんとなく操作方法分かったから。それに…」
「それに?」
「キラの笑顔を守りたかったんだ」
そう言って微笑むと、キラがみるみるうちに真っ赤になっていくのが見えた。恥ずかしさを紛らわすためか、答えになってないだとか何とか子犬のようにきゃんきゃんと喚いている。――ああもう、なんでこんなにもかわいいんだお前は!
そんな思いが顔に出てしまったのかキラが「なんで笑ってるの!」とまたも文句を言ってくる。
ごめん、と言って頭を撫でてやると途端に力を抜いて大人しくなる。それがまた可愛らしい。アスランはキラの頭を撫でるのが好きだった。キラの髪はいつもさらさらでいい匂いで、とても触り心地がいいのだ。それに、撫でていると次第にキラが気持ちいいのかうっとりとして身体を委ねてくるのだ。たまにそのまま眠ってしまいそうなり、慌てたように謝ってくるのがたまらない。
「…でもさ、アスラン。それってもしかして才能じゃない?」
「――え?」
一頻り頭を撫でられて機嫌を直したのか、キラが唐突に言葉を発した。
「ガンプラファイターの才能。だって今日初めてであんなに使いこなしてたでしょ?それにあれは僕がギリギリまで能力を上げた機体だ。並大抵のファイターには扱えないよ。僕が保障する!」
だからアスランには天性の才能があるんだよ!とまた目を輝かせてキラが言う。そんなキラを見て、アスランは少し罪悪感を感じた。
キラはアスランがガンプラバトルを今日初めてやったとばかり思っているが、それは全くの嘘だ。アスランは初めてどころか、10年以上もファイターをやっている。
アスランの家であるザラ家は表向きはただの資産家の家だが、裏ではある研究機関と繋がりを持っている。詳しくはアスランも知らないが、ガンプラやガンプラバトルを使った研究であるのは確かだ。アスランはその研究にテストパイロットとして参加させられていた。父が言うには、「お前にはファイターの素質がある」ので訓練として自分をテストパイロットにしているらしい。そのテストで長いこと様々なタイプのガンプラをいくつも操作してきたこともあって、今やアスランのファイターとしての実力は世界レベルと言っても過言ではない。
だが、アスランはこの事実をキラに伝えてザラ家の事情に巻き込ませるのが嫌だった。キラはアスランに天性の才能があると言ったが、それはキラにこそあるとアスランは思う。今日操作したフリーダム2.0――今まで動かしたどのガンプラよりも性能がよく、扱いやすいものだった。昔からそうだ。キラの作るガンプラはとても丁寧に作りこまれていて、性能が恐ろしくいい。特にこのフリーダムは他とは比べようが無いと言い切れる出来だ。きっとこれはキラにビルダーとしての天性の才能があるのだろう。
そんなキラがもし機関の人間に見つかったら、機関に利用される危険性が出てくる。だから、今までアスランはこの事実を隠してきたのだ。
恐らくキラは自分をファイターにと誘ってくるだろう。二人で選手権に出ようと。しかし、そうすると確実にキラの存在が機関にばれてしまう。もうすでにばれているのかもしれないが。だとしたらキラのそばを離れるのはかえって危険だ。ばれていないのであれば、自分が離れてキラをザラ家から遠ざけたほうがいい。どうするのが一番いい選択なのか、アスランは考えあぐねていた。
「ね…アスラン」
不意にキラが、真剣な顔つきでアスランに向き直った。
「ん…何?」
「…僕、アスランにどんな秘密があってもアスランの親友だから!」
「…えっ?」
ファイターの誘いをかけてくるのかと思いきやまるで心を読まれたかのような言葉に、アスランは内心ヒヤリとした。まさか、無意識にザラ家の事情を喋ってしまっていたのか?しかし、キラが発したのはアスランも想像していなかった斜め上の言葉だった。
「アスランに、実は遺伝子操作されて生まれた人間だとか、誰かのクローンだっていう秘密があっても、僕はアスランから離れたりしないからね!」
「え?……ええと、キラ、一体何の話だ?」
「だってアスラン、さっきからなんか難しい顔してるから何かあるのかなって」
「それがなんで遺伝子だのクローンだのって話になるんだ」
「こういうときって、出生の秘密とか言うのがお約束じゃない?」
「…悪いけど、俺にそんな秘密は無いぞ」
「え、そうなの?」
大真面目だったのか、本気で驚いたような表情をするキラに、アスランはいろいろと馬鹿らしくなってきて声を上げて笑った。
「っふふ…はは…!」
「なっ、アスラン!そんな笑わなくたって…!」
「いや、ごめん。だって、キラが大真面目にそんな…ははっ」
「だから笑わないでよ!」
キラは最初こそむくれたようにしていたが、アスランがあまりに笑うのでついつられて、いつの間にか二人で声を出して笑っていた。
――本当に、キラといると楽しい。
キラはアスランにいろんな感情を与えてくれる。喜びや楽しみや悲しみ。そして愛しさ。キラがいなければ今の自分はいないだろう。そう言い切れるくらい、キラはアスランにたくさんの色をくれた。ガンプラのことだってそうだ。キラと出会う前のアスランはガンプラをただのおもちゃとしか思っていなかったが、キラの作ったガンプラを見せてもらったとき、初めてアスランはガンプラを人の気持ちが込められた一つの作品だと認識した。
アスランの世界は、キラという存在を介して初めて輝く世界なのだ。
いつしかアスランは必然というべきか、キラに対して友情以上の想いを抱くようになっていた。それを自覚したのはいつのことだったか。それからも想いは消えることなく、むしろ日に日に大きくなっていく。
キラに想いを伝えようとしたことは何度もあるが、いざ伝えようとすると怖気づいてしまい、結局今でも伝えられずにいる。
――だが、今はこれでいい。今はただ、キラの笑顔が見たい。キラが望むことだったら何でもしてやりたい。そのためならなんだってする。――そこまで考えてアスランはハッとした。そうか、そうだった。選択肢なんて最初からあって無いようなものじゃないか。
「アスラン?どうしたの?」
ずっと黙っているアスランを心配に思ったのか、キラが不安げに呼びかけてきた。
「いや、ごめん。なんでもないんだ。…キラ、お前のGPベース、少し貸してくれないか」
「え?うん、いいよ」
はい、と躊躇い無く渡されたキラのGPベースを馴れた手つきで操作する。それから少しして。
「…よし。ほら」
「あ、うん。でも何を…」
キラは戻ってきた自分のGPベースの表示が少し変わっていることに気づき、なんだろうと思って画面をまじまじと見つめた。それからさらに数秒、まるでぱああ、と音が聞こえてきそうなほどキラの表情が明るくなっていくのが分かった。
「ア、アスラン…!これって!」
「…ほら、早く帰ろう。一週間前なんだろ?フリーダムの調整手伝うから」
「…!うんっ!」
キラと一緒に大会に出場する。これが最善の選択だ。もしキラに何かあればアスランがすぐ助けることが出来るし、部の存続も可能性が出てくる。それになにより、キラの笑顔が見れる。アスランは零れ落ちんばかりのキラの満面の笑みを優しい表情で見つめながらも、ある決意を固めていた。
――キラは俺が守る。守り通す。
「行こう、キラ」
二人はどちらともなく手を差し出し、幼い頃と同じようにぎゅっと繋ぎながら夕焼け色の道を歩いていった。
《BUILDER:KIRA YAMATO
FIGHTER:ATHRUN ZALA
ZGMF-X1OA2 FREEDUM GUNDAM VER.2.0》
あの後シャニは自分のガンプラを持ってちくしょう、だの何だの言いながらそそくさと退散していった。自分が負けたことにかなり傷ついているようだった。以外と打たれ弱いのだろうか。兎にも角にも、これでキラには近づかなくなるだろう。アスランは少しほっとしてふう、と息をついた。
「本当にアスランのおかげだよ!ありがとう、アスランっ!」
キラは先ほどから勝利の余韻から覚めないのか、ずっと目をきらきらと輝かせている。子供のように喜んでいるキラは、正直言ってとてもかわいい。殺人的と言っても申し分ないだろう。特にバトル直後、キラに抱きつかれたときなんかそれはもう大変だった。やったやったと頬を紅潮させて抱きついてきたキラはそれはもう天使のように、いや天使以上に愛くるしくて本気でこのまま押し倒してしまおうかと思ったほどだ。勿論そんなことをすればキラに嫌われるのは必至だし、あの場にはまだシャニもいた。自分の持てる全ての理性を総動員して衝動を抑えたが、かなりキツいものがあった。
ふと、キラが何かを思い出したようにアスランに問うた。
「そういえばさ、アスラン」
「ん?」
「君、ガンプラバトルの経験ゼロだよね?どうしてあんなに完璧に動かせたの?」
「ああ…いや、キラのバトルを見てたらなんとなく操作方法分かったから。それに…」
「それに?」
「キラの笑顔を守りたかったんだ」
そう言って微笑むと、キラがみるみるうちに真っ赤になっていくのが見えた。恥ずかしさを紛らわすためか、答えになってないだとか何とか子犬のようにきゃんきゃんと喚いている。――ああもう、なんでこんなにもかわいいんだお前は!
そんな思いが顔に出てしまったのかキラが「なんで笑ってるの!」とまたも文句を言ってくる。
ごめん、と言って頭を撫でてやると途端に力を抜いて大人しくなる。それがまた可愛らしい。アスランはキラの頭を撫でるのが好きだった。キラの髪はいつもさらさらでいい匂いで、とても触り心地がいいのだ。それに、撫でていると次第にキラが気持ちいいのかうっとりとして身体を委ねてくるのだ。たまにそのまま眠ってしまいそうなり、慌てたように謝ってくるのがたまらない。
「…でもさ、アスラン。それってもしかして才能じゃない?」
「――え?」
一頻り頭を撫でられて機嫌を直したのか、キラが唐突に言葉を発した。
「ガンプラファイターの才能。だって今日初めてであんなに使いこなしてたでしょ?それにあれは僕がギリギリまで能力を上げた機体だ。並大抵のファイターには扱えないよ。僕が保障する!」
だからアスランには天性の才能があるんだよ!とまた目を輝かせてキラが言う。そんなキラを見て、アスランは少し罪悪感を感じた。
キラはアスランがガンプラバトルを今日初めてやったとばかり思っているが、それは全くの嘘だ。アスランは初めてどころか、10年以上もファイターをやっている。
アスランの家であるザラ家は表向きはただの資産家の家だが、裏ではある研究機関と繋がりを持っている。詳しくはアスランも知らないが、ガンプラやガンプラバトルを使った研究であるのは確かだ。アスランはその研究にテストパイロットとして参加させられていた。父が言うには、「お前にはファイターの素質がある」ので訓練として自分をテストパイロットにしているらしい。そのテストで長いこと様々なタイプのガンプラをいくつも操作してきたこともあって、今やアスランのファイターとしての実力は世界レベルと言っても過言ではない。
だが、アスランはこの事実をキラに伝えてザラ家の事情に巻き込ませるのが嫌だった。キラはアスランに天性の才能があると言ったが、それはキラにこそあるとアスランは思う。今日操作したフリーダム2.0――今まで動かしたどのガンプラよりも性能がよく、扱いやすいものだった。昔からそうだ。キラの作るガンプラはとても丁寧に作りこまれていて、性能が恐ろしくいい。特にこのフリーダムは他とは比べようが無いと言い切れる出来だ。きっとこれはキラにビルダーとしての天性の才能があるのだろう。
そんなキラがもし機関の人間に見つかったら、機関に利用される危険性が出てくる。だから、今までアスランはこの事実を隠してきたのだ。
恐らくキラは自分をファイターにと誘ってくるだろう。二人で選手権に出ようと。しかし、そうすると確実にキラの存在が機関にばれてしまう。もうすでにばれているのかもしれないが。だとしたらキラのそばを離れるのはかえって危険だ。ばれていないのであれば、自分が離れてキラをザラ家から遠ざけたほうがいい。どうするのが一番いい選択なのか、アスランは考えあぐねていた。
「ね…アスラン」
不意にキラが、真剣な顔つきでアスランに向き直った。
「ん…何?」
「…僕、アスランにどんな秘密があってもアスランの親友だから!」
「…えっ?」
ファイターの誘いをかけてくるのかと思いきやまるで心を読まれたかのような言葉に、アスランは内心ヒヤリとした。まさか、無意識にザラ家の事情を喋ってしまっていたのか?しかし、キラが発したのはアスランも想像していなかった斜め上の言葉だった。
「アスランに、実は遺伝子操作されて生まれた人間だとか、誰かのクローンだっていう秘密があっても、僕はアスランから離れたりしないからね!」
「え?……ええと、キラ、一体何の話だ?」
「だってアスラン、さっきからなんか難しい顔してるから何かあるのかなって」
「それがなんで遺伝子だのクローンだのって話になるんだ」
「こういうときって、出生の秘密とか言うのがお約束じゃない?」
「…悪いけど、俺にそんな秘密は無いぞ」
「え、そうなの?」
大真面目だったのか、本気で驚いたような表情をするキラに、アスランはいろいろと馬鹿らしくなってきて声を上げて笑った。
「っふふ…はは…!」
「なっ、アスラン!そんな笑わなくたって…!」
「いや、ごめん。だって、キラが大真面目にそんな…ははっ」
「だから笑わないでよ!」
キラは最初こそむくれたようにしていたが、アスランがあまりに笑うのでついつられて、いつの間にか二人で声を出して笑っていた。
――本当に、キラといると楽しい。
キラはアスランにいろんな感情を与えてくれる。喜びや楽しみや悲しみ。そして愛しさ。キラがいなければ今の自分はいないだろう。そう言い切れるくらい、キラはアスランにたくさんの色をくれた。ガンプラのことだってそうだ。キラと出会う前のアスランはガンプラをただのおもちゃとしか思っていなかったが、キラの作ったガンプラを見せてもらったとき、初めてアスランはガンプラを人の気持ちが込められた一つの作品だと認識した。
アスランの世界は、キラという存在を介して初めて輝く世界なのだ。
いつしかアスランは必然というべきか、キラに対して友情以上の想いを抱くようになっていた。それを自覚したのはいつのことだったか。それからも想いは消えることなく、むしろ日に日に大きくなっていく。
キラに想いを伝えようとしたことは何度もあるが、いざ伝えようとすると怖気づいてしまい、結局今でも伝えられずにいる。
――だが、今はこれでいい。今はただ、キラの笑顔が見たい。キラが望むことだったら何でもしてやりたい。そのためならなんだってする。――そこまで考えてアスランはハッとした。そうか、そうだった。選択肢なんて最初からあって無いようなものじゃないか。
「アスラン?どうしたの?」
ずっと黙っているアスランを心配に思ったのか、キラが不安げに呼びかけてきた。
「いや、ごめん。なんでもないんだ。…キラ、お前のGPベース、少し貸してくれないか」
「え?うん、いいよ」
はい、と躊躇い無く渡されたキラのGPベースを馴れた手つきで操作する。それから少しして。
「…よし。ほら」
「あ、うん。でも何を…」
キラは戻ってきた自分のGPベースの表示が少し変わっていることに気づき、なんだろうと思って画面をまじまじと見つめた。それからさらに数秒、まるでぱああ、と音が聞こえてきそうなほどキラの表情が明るくなっていくのが分かった。
「ア、アスラン…!これって!」
「…ほら、早く帰ろう。一週間前なんだろ?フリーダムの調整手伝うから」
「…!うんっ!」
キラと一緒に大会に出場する。これが最善の選択だ。もしキラに何かあればアスランがすぐ助けることが出来るし、部の存続も可能性が出てくる。それになにより、キラの笑顔が見れる。アスランは零れ落ちんばかりのキラの満面の笑みを優しい表情で見つめながらも、ある決意を固めていた。
――キラは俺が守る。守り通す。
「行こう、キラ」
二人はどちらともなく手を差し出し、幼い頃と同じようにぎゅっと繋ぎながら夕焼け色の道を歩いていった。
《BUILDER:KIRA YAMATO
FIGHTER:ATHRUN ZALA
ZGMF-X1OA2 FREEDUM GUNDAM VER.2.0》
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