Call
『…では、夫からいきなり電話で「自分のことどう思ってる?」と聞かれたら妻はどう答えるのか!観察開始!』
賑やかな声が聞こえるテレビの中では、飲み会中であろう男性が電話をかけようとしている。それをぼおっと見ている人間がソファに一人。
「シン!あんたこんなところで何やってるのよっ!」
「いてっ!」
ぼかっ、と音が聞こえてきそうな勢いで殴られた人間――シン・アスカはソファにうずくまりながらも殴ってきた同僚――ルナマリア・ホークに抗議した。
「なんだよ、別に殴ることないだろ!」
「うっさい!あんたがサボった分の仕事、誰がやってやったと思ってんのよ!」
「うぐっ…」
そう言われてしまっては返す言葉が無い。シンはばつが悪そうにルナマリアから視線をそらした。
シンはおよそ一時間前、あまりの書類の多さに嫌気が差してルナマリアに悟られぬよう、こっそりとこの休憩スペースへと逃げ込んでいたのだ。10分休んだら帰るつもりが、たまたま点いていたテレビに見入ってしまい気がついたら一時間。ルナマリアが激怒しないわけがない。
だがこんなところでくどくどと嫌味を言われてしまったら何時に解放されるか分かったものじゃない。ルナマリアの説教はひたすら長いことをシンは己の経験からよく知っていた。
朝帰りはごめんだ。何か、何か話を逸らせるようなものは無いものか…
「あたしが真面目にこつこつ書類こなしてるときに、あんたはだらだらテレビ見てるなんて…ホンット神経疑うわ」
――テレビ?…そうだ!
「あーっと、それはマジでごめん!悪かった!テレビでめちゃくちゃ面白いのやっててさ、なんだっけ、人間観察バラエティ?。それ見てたらつい…」
「えっ、人間観察!?うそ、あれ今やってんの!?」
「そう、なんかスペシャルだとかなんとかって」
「何よそれ聞いてない!シン、ちょっとどいて!」
ルナマリアはシンをソファから追い出し、真ん中にどっかりと座り込んだ。完全にテレビを視聴するポーズだ。どうやら話を逸らすことに成功したらしい。ルナマリアがこのバラエティ番組をとても気に入っていることも、シンは毎日彼女の雑談に付き合うことでよく知っていた。毎日毎日役に立たないような話を長々と聞かされてうんざりしていたがまさかこんなところで使えるとは。
「あ、これ夫が妻に電話するってやつでしょ?あたしこれ好きなのよね~」
さっきの怒りはどこにいったのか、ルナマリアは興味津々といった感じでテレビを見つめている。番組が終わる頃には完璧にいつものルナマリアに戻っているだろう。ほっとしたシンは一応機嫌取りにコーヒーでも買ってやろう、と自販機へ向かおうとした。が、
「そうだ、いいこと思いついた!」
ルナマリアの明るい声に引き止められてしまった。その声にシンの顔が思わず引き攣る。
今までの経験からすると、ルナマリアが思いつく「いいこと」は九割九分九厘シンにとって良いことではない。最近だと、確か自分にラクス・クラインのライブ衣装を着せて本人に見せに…思い出すだけでもぞっとする。はっきり断らない自分にも問題があるのはちゃんと理解しているが、ルナマリアの「やってくれるわよね、シン?」というにっこり笑顔つきの言葉にはどうしたって逆らえない。逆らっちゃいけない。そんな迫力があの笑顔には込められている。
「…なんだよ、いいことって」
嫌な予感から自然と低くなる声をも全く意に介さず、ルナマリアはよくぞ聞いてくれました、という風にソファから立ち上がった。
「このドッキリ、あたしたちがやってみるの!」
「…はあ?」
何を言い出すんだこいつは。
「だから、今やってるこの『夫が妻に電話する~』ってやつを、あたしたちが仕掛けるのよ」
「仕掛けるったって…ザフト内でか?そもそも誰が既婚者で誰が独身だとか、全く分かんねーじゃん。指輪つけてる人に片っ端から話しかけるのかよ?」
「別にそんな大勢に仕掛けるつもりは無いわよ、めんどくさいし。それに、あたしが仕掛けたいペアはもう決まってるの」
「…それって?」
「アスランとヤマト隊長よ」
「……」
シンは言葉通り、開いた口がふさがらなかった。
アスランって、あのアスランか?ヤマト隊長って、あの隊長だよな?
考えること数秒。
「はああっ!?」
「ちょ、何よ…いきなり大きい声出さないでくれる?」
「いや、だって、隊長って…何言ってんだよルナ」
「何よ、おかしいところでもあるの?」
「おかしいところしかねえよ!」
確かに、確かにオーブの高官アスラン・ザラと、シン自身も所属しているヤマト隊隊長キラ・ヤマトはとてつもなく仲が良い。普通の幼馴染では有り得ない程に。だからといって夫婦向けの企画を自分たちの上官であるこの二人にやらせるのはどうなんだ。
「つーか、アスランと隊長ってただの幼馴染だろ。確かにめちゃくちゃ仲いいけどそんなのやらせるのは流石に…」
「え…?」
「…何だよ」
何故かルナマリアが何を言ってるんだこいつは、という表情でシンを見てくる。その表情をしたいのはこっちだ。
「シン、あんたまさか知らないの?毎日隊長と顔合わせて話もしてるのに?」
「だから何をだよ」
「…そう、ふーん…知らなかったの…」
ルナマリアは何か納得したように俯いて一人で呟いている。こんな変なところで自己完結しないで欲しい。言いたいことがあるなら言え。しかしそう言うよりも先に変に晴れやかな表情のルナマリアが口を開いた。
「ま、それならそれでいいわ。あんたの反応も面白そうだし?さ、善は急げ!観察開始!行くわよ、シン!」
「はっ!?俺まだやるなんて…おい、待てよルナ!…ああもう!」
なんでいつもこうなんだよちくしょー、と悪態をつきながら、シンは一人でさっさと行ってしまうルナマリアを追いかけていった。
賑やかな声が聞こえるテレビの中では、飲み会中であろう男性が電話をかけようとしている。それをぼおっと見ている人間がソファに一人。
「シン!あんたこんなところで何やってるのよっ!」
「いてっ!」
ぼかっ、と音が聞こえてきそうな勢いで殴られた人間――シン・アスカはソファにうずくまりながらも殴ってきた同僚――ルナマリア・ホークに抗議した。
「なんだよ、別に殴ることないだろ!」
「うっさい!あんたがサボった分の仕事、誰がやってやったと思ってんのよ!」
「うぐっ…」
そう言われてしまっては返す言葉が無い。シンはばつが悪そうにルナマリアから視線をそらした。
シンはおよそ一時間前、あまりの書類の多さに嫌気が差してルナマリアに悟られぬよう、こっそりとこの休憩スペースへと逃げ込んでいたのだ。10分休んだら帰るつもりが、たまたま点いていたテレビに見入ってしまい気がついたら一時間。ルナマリアが激怒しないわけがない。
だがこんなところでくどくどと嫌味を言われてしまったら何時に解放されるか分かったものじゃない。ルナマリアの説教はひたすら長いことをシンは己の経験からよく知っていた。
朝帰りはごめんだ。何か、何か話を逸らせるようなものは無いものか…
「あたしが真面目にこつこつ書類こなしてるときに、あんたはだらだらテレビ見てるなんて…ホンット神経疑うわ」
――テレビ?…そうだ!
「あーっと、それはマジでごめん!悪かった!テレビでめちゃくちゃ面白いのやっててさ、なんだっけ、人間観察バラエティ?。それ見てたらつい…」
「えっ、人間観察!?うそ、あれ今やってんの!?」
「そう、なんかスペシャルだとかなんとかって」
「何よそれ聞いてない!シン、ちょっとどいて!」
ルナマリアはシンをソファから追い出し、真ん中にどっかりと座り込んだ。完全にテレビを視聴するポーズだ。どうやら話を逸らすことに成功したらしい。ルナマリアがこのバラエティ番組をとても気に入っていることも、シンは毎日彼女の雑談に付き合うことでよく知っていた。毎日毎日役に立たないような話を長々と聞かされてうんざりしていたがまさかこんなところで使えるとは。
「あ、これ夫が妻に電話するってやつでしょ?あたしこれ好きなのよね~」
さっきの怒りはどこにいったのか、ルナマリアは興味津々といった感じでテレビを見つめている。番組が終わる頃には完璧にいつものルナマリアに戻っているだろう。ほっとしたシンは一応機嫌取りにコーヒーでも買ってやろう、と自販機へ向かおうとした。が、
「そうだ、いいこと思いついた!」
ルナマリアの明るい声に引き止められてしまった。その声にシンの顔が思わず引き攣る。
今までの経験からすると、ルナマリアが思いつく「いいこと」は九割九分九厘シンにとって良いことではない。最近だと、確か自分にラクス・クラインのライブ衣装を着せて本人に見せに…思い出すだけでもぞっとする。はっきり断らない自分にも問題があるのはちゃんと理解しているが、ルナマリアの「やってくれるわよね、シン?」というにっこり笑顔つきの言葉にはどうしたって逆らえない。逆らっちゃいけない。そんな迫力があの笑顔には込められている。
「…なんだよ、いいことって」
嫌な予感から自然と低くなる声をも全く意に介さず、ルナマリアはよくぞ聞いてくれました、という風にソファから立ち上がった。
「このドッキリ、あたしたちがやってみるの!」
「…はあ?」
何を言い出すんだこいつは。
「だから、今やってるこの『夫が妻に電話する~』ってやつを、あたしたちが仕掛けるのよ」
「仕掛けるったって…ザフト内でか?そもそも誰が既婚者で誰が独身だとか、全く分かんねーじゃん。指輪つけてる人に片っ端から話しかけるのかよ?」
「別にそんな大勢に仕掛けるつもりは無いわよ、めんどくさいし。それに、あたしが仕掛けたいペアはもう決まってるの」
「…それって?」
「アスランとヤマト隊長よ」
「……」
シンは言葉通り、開いた口がふさがらなかった。
アスランって、あのアスランか?ヤマト隊長って、あの隊長だよな?
考えること数秒。
「はああっ!?」
「ちょ、何よ…いきなり大きい声出さないでくれる?」
「いや、だって、隊長って…何言ってんだよルナ」
「何よ、おかしいところでもあるの?」
「おかしいところしかねえよ!」
確かに、確かにオーブの高官アスラン・ザラと、シン自身も所属しているヤマト隊隊長キラ・ヤマトはとてつもなく仲が良い。普通の幼馴染では有り得ない程に。だからといって夫婦向けの企画を自分たちの上官であるこの二人にやらせるのはどうなんだ。
「つーか、アスランと隊長ってただの幼馴染だろ。確かにめちゃくちゃ仲いいけどそんなのやらせるのは流石に…」
「え…?」
「…何だよ」
何故かルナマリアが何を言ってるんだこいつは、という表情でシンを見てくる。その表情をしたいのはこっちだ。
「シン、あんたまさか知らないの?毎日隊長と顔合わせて話もしてるのに?」
「だから何をだよ」
「…そう、ふーん…知らなかったの…」
ルナマリアは何か納得したように俯いて一人で呟いている。こんな変なところで自己完結しないで欲しい。言いたいことがあるなら言え。しかしそう言うよりも先に変に晴れやかな表情のルナマリアが口を開いた。
「ま、それならそれでいいわ。あんたの反応も面白そうだし?さ、善は急げ!観察開始!行くわよ、シン!」
「はっ!?俺まだやるなんて…おい、待てよルナ!…ああもう!」
なんでいつもこうなんだよちくしょー、と悪態をつきながら、シンは一人でさっさと行ってしまうルナマリアを追いかけていった。
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