HappyBirthday,My Alice.
――悪魔に魅入られたものは現世とも、常世ともつかない世界に連れて行かれ二度と戻ることは無い。
人間の世界に長いこと伝わっている話だ。あながち間違ってはいないな、とアスランは思う。
キラと出会ったのは本当に偶然だった。幾年か前、"食事"の後にたまたまキラを目にしたのだ。その瞬間、身体の奥底から沸騰したように数多の欲望が溢れ出た。
―あの子供を自分のものにしたい。
それは、アスランが今までの長い生の中で一番強い願いだった。どうしてそう思ったのか、それはアスラン自身にも分からない。あえて言うなら"運命"だろうか。そうとしか言えないくらい、アスランはキラの全てに惹かれていた。
そうして今、とうとうキラはアスランの手に堕ちた。
シンはアリスの話に難色を示していたけれど、アスランはそうは思わない。
帽子屋の、時間の止まった狂ったお茶会に招待されたアリス。アスランに魅入られ、現世とは違う時を刻む、ある種狂った世界に招待されたキラ。…ほら、ぴったりじゃないか。違うところがあるとすればあの話は誕生日じゃない日を祝っていたけれど、自分はキラの誕生日を祝って―
その時、大事なことを思い出してふと足を止める。アスランが足を止めた場所は丁度、キラが待っている小さな家の目の前だった。
カチャ、と音を立てて扉を開く。机と椅子とベッド、それから本などの少しの娯楽用品。与えたときからまるで何一つ変わっていないその部屋に彼は居た。
ベッドの淵に腰掛けて何をするでもなくぼうっとしていた彼は、アスランを見るや虚ろだったアメジストに輝きを取り戻させ、ぱっと嬉しそうにこちらに駆け寄ってくる。
「――アスランっ!」
そうして彼―キラはそのまま自らアスランの胸へと飛び込んできた。懐くようにすりすりとアスランへ頬ずりするキラに愛しさがこみ上げ、そのまま抱き寄せて頭を撫でてやる。
「遅いよ、どこ行ってたの?僕ずっと待ってたのに」
「ああ…寂しい思いをさせてしまったな、すまない」
「ううん。…ね、アスラン。もう暫く出かけないんでしょ?だったら、その、アスランと一緒に寝たいんだけど…駄目?」
キラは顔を少し赤らめながら上目遣いでそう尋ねてくる。アスランが勿論、と答えるとほっとしたように笑顔になり、またもぎゅうと抱きついてくる。そんなところがたまらなく愛おしい。
「…そうだ」
「アスラン?」
「悪い、もう先日のことなんだが…キラに言い忘れていたことがあったんだ」
そこで一度言葉を切り、愛しげにキラの滑らかな、傷一つ無い頬を優しく撫でた。
――ああ、愛しいアリス。ようやく俺の傍に来てくれた。
これからずっと、永遠に二人きりでこの狂ったお茶会を楽しもう。
「――誕生日おめでとう、キラ」
アスランはそう言うと、キラの柔らかな唇に一つキスを落とした。
人間の世界に長いこと伝わっている話だ。あながち間違ってはいないな、とアスランは思う。
キラと出会ったのは本当に偶然だった。幾年か前、"食事"の後にたまたまキラを目にしたのだ。その瞬間、身体の奥底から沸騰したように数多の欲望が溢れ出た。
―あの子供を自分のものにしたい。
それは、アスランが今までの長い生の中で一番強い願いだった。どうしてそう思ったのか、それはアスラン自身にも分からない。あえて言うなら"運命"だろうか。そうとしか言えないくらい、アスランはキラの全てに惹かれていた。
そうして今、とうとうキラはアスランの手に堕ちた。
シンはアリスの話に難色を示していたけれど、アスランはそうは思わない。
帽子屋の、時間の止まった狂ったお茶会に招待されたアリス。アスランに魅入られ、現世とは違う時を刻む、ある種狂った世界に招待されたキラ。…ほら、ぴったりじゃないか。違うところがあるとすればあの話は誕生日じゃない日を祝っていたけれど、自分はキラの誕生日を祝って―
その時、大事なことを思い出してふと足を止める。アスランが足を止めた場所は丁度、キラが待っている小さな家の目の前だった。
カチャ、と音を立てて扉を開く。机と椅子とベッド、それから本などの少しの娯楽用品。与えたときからまるで何一つ変わっていないその部屋に彼は居た。
ベッドの淵に腰掛けて何をするでもなくぼうっとしていた彼は、アスランを見るや虚ろだったアメジストに輝きを取り戻させ、ぱっと嬉しそうにこちらに駆け寄ってくる。
「――アスランっ!」
そうして彼―キラはそのまま自らアスランの胸へと飛び込んできた。懐くようにすりすりとアスランへ頬ずりするキラに愛しさがこみ上げ、そのまま抱き寄せて頭を撫でてやる。
「遅いよ、どこ行ってたの?僕ずっと待ってたのに」
「ああ…寂しい思いをさせてしまったな、すまない」
「ううん。…ね、アスラン。もう暫く出かけないんでしょ?だったら、その、アスランと一緒に寝たいんだけど…駄目?」
キラは顔を少し赤らめながら上目遣いでそう尋ねてくる。アスランが勿論、と答えるとほっとしたように笑顔になり、またもぎゅうと抱きついてくる。そんなところがたまらなく愛おしい。
「…そうだ」
「アスラン?」
「悪い、もう先日のことなんだが…キラに言い忘れていたことがあったんだ」
そこで一度言葉を切り、愛しげにキラの滑らかな、傷一つ無い頬を優しく撫でた。
――ああ、愛しいアリス。ようやく俺の傍に来てくれた。
これからずっと、永遠に二人きりでこの狂ったお茶会を楽しもう。
「――誕生日おめでとう、キラ」
アスランはそう言うと、キラの柔らかな唇に一つキスを落とした。
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