HappyBirthday,My Alice.
――やっと見つけた、可愛い可愛い俺のアリス。
君をずっと探していたよ、まさかこんな所に居たなんて。
ああ、早く俺の傍へ連れて来なければ。
…そうだ、どうせならパーティーをしよう。君のバースデーパーティーだ。君が喜ぶような最高のものを用意して待っていよう。
だから早くこちらへ来てくれ、アリス。
「聞いた?昨日もあったらしいぜ!」
「マジ?これでもう6件目じゃん、内臓くり貫いて回ってるんだろ?」
「そうそう、しかもさ…昨日の事件、この近くだって。俺達と間逆の通学路の方」
「うわ、じゃあ今日あっち警察いっぱい居るのか」
放課後の賑やかな教室。誰もが世間話に花を咲かせている時間。ある者は箒を片手に世間話、またある者は箒を握って真面目に掃除。どこの学校でも同じ、平和な風景だ。
だが、そんな平和な空間に一つだけ異質な存在がある。
教室の片隅で友人と話すこともなく、一人で手早く荷物を纏めている少年。
「……っ」
彼は怯えたように、慌てて――しかし誰にも気づかれないようこっそりと――教室を抜け出したのだった。
「――っ、はぁ…っ」
学校から少し離れた静かな公園、人気が無いのを確認すると"彼"――キラは人の目に当らないような茂みの近くにぺたんと腰を下ろした。
――捕まらなくてよかった。
キラは乱れた息を整え、大きく深呼吸をする。
前回は酷かった。見つからないよう逃げたつもりだったが、下校途中にクラスの"あいつら"と鉢合わせてしまった。そのままいつものように体育倉庫に引き擦り込まれ、財布を取られ、おまけに蹴られて殴られて…逃げたせいもあって、いつもより酷くやられた。そのため、今のキラは顔に湿布や絆創膏を付けていてかなり痛々しい外見になってしまっている。服の下にも数箇所痣が出来ていて、文字通りぼろぼろの状態だ。
けれど今日は何故だかこちらに目もくれず皆で何か話し込んでいた。そのお陰で逃げることができたが…どうせならいつもああしていればいいのに、そうぼんやり思いながら、キラは携帯を取り出そうと鞄に手を伸ばした。そのとき―
「……何?」
近くからゴソゴソッと何かが動く音がした。猫だろうか?普段ならそんなこと気に留めもしないのだが、最近噂になっている例の事件が頭をよぎる。
『一人でいる子供を襲い内蔵だけをくり貫く悪魔が居る』
それが、ここ最近街に流れている噂だった。
犯人の姿は誰も見たことが無い。その人間とは思えない所業から"悪魔"と勝手に皆が呼んでいるのだ。
実際、キラの通う高校からも被害者が何人か出ている。キラはあまり気にしていなかった――気にする余裕が無かったというのが正しいか――が、今自分は人気の無い公園に一人。悪魔の格好の餌になっているのではないか。
そう考えると背筋がすっと冷えた感覚がした。ここに居てはいけない、早く帰ろう。キラは痛む身体を叱咤して立ち上がろうとした。
――ガサガサッ
「うわっ!」
その瞬間、またしても大きな音がした。立ち上がりかけていたキラは驚いてバランスを崩し、尻餅をついてしまった。まずい、もしかして今目の前には…
「――キュウ?」
「…えっ」
しかし予想は見事に裏切られ、返ってきたのは可愛らしい動物の鳴き声。
キラの目の前には、真っ赤な目をした黒ウサギがちょこんと座っていた。
「え…ウサ、ギ?何で?だってこんなところに普通…」
ここは都内の住宅街だ。田舎でもないのにウサギ?ありえない。こんな街中の公園に野生のウサギなんていないだろう、普通。
しかしウサギはそんなキラの困惑など気にも留めず、ごそごそとキラの鞄の中を物色している。
そうしてウサギは、器用に前足を使って鞄の中から携帯電話を引っ張り出した。最初はこつんこつんと鼻先でつついてみたりしていたのだが、次の瞬間、目を疑うような出来事が起きた。
「…ええぇっ!?」
あろうことかウサギはその場で二足で立ち上がり、前足で携帯電話を抱え走り去っていった。ウサギらしくぴょんぴょんと跳ねるように走っていったが、二足歩行な時点でウサギらしくない。
「――あっ!?僕の携帯!」
そんな衝撃的な光景を目の当たりにしてキラは暫しぽかんと放心してしまっていたが、すぐにはっと我に返る。ウサギに携帯電話を奪われてしまった。
何が起こったのかキラ自身あまり理解していないが間違いない。ウサギに取られたのだ。それも丁寧に両手で抱えられて持っていかれた。
「ちょ…待って、返してよ!えっと…ウサギさん!」
携帯電話は母親との大切な連絡手段だ。失くしてしまっては困る。キラは状況を飲み込みきれないまま、ウサギを追って走っていった。
君をずっと探していたよ、まさかこんな所に居たなんて。
ああ、早く俺の傍へ連れて来なければ。
…そうだ、どうせならパーティーをしよう。君のバースデーパーティーだ。君が喜ぶような最高のものを用意して待っていよう。
だから早くこちらへ来てくれ、アリス。
「聞いた?昨日もあったらしいぜ!」
「マジ?これでもう6件目じゃん、内臓くり貫いて回ってるんだろ?」
「そうそう、しかもさ…昨日の事件、この近くだって。俺達と間逆の通学路の方」
「うわ、じゃあ今日あっち警察いっぱい居るのか」
放課後の賑やかな教室。誰もが世間話に花を咲かせている時間。ある者は箒を片手に世間話、またある者は箒を握って真面目に掃除。どこの学校でも同じ、平和な風景だ。
だが、そんな平和な空間に一つだけ異質な存在がある。
教室の片隅で友人と話すこともなく、一人で手早く荷物を纏めている少年。
「……っ」
彼は怯えたように、慌てて――しかし誰にも気づかれないようこっそりと――教室を抜け出したのだった。
「――っ、はぁ…っ」
学校から少し離れた静かな公園、人気が無いのを確認すると"彼"――キラは人の目に当らないような茂みの近くにぺたんと腰を下ろした。
――捕まらなくてよかった。
キラは乱れた息を整え、大きく深呼吸をする。
前回は酷かった。見つからないよう逃げたつもりだったが、下校途中にクラスの"あいつら"と鉢合わせてしまった。そのままいつものように体育倉庫に引き擦り込まれ、財布を取られ、おまけに蹴られて殴られて…逃げたせいもあって、いつもより酷くやられた。そのため、今のキラは顔に湿布や絆創膏を付けていてかなり痛々しい外見になってしまっている。服の下にも数箇所痣が出来ていて、文字通りぼろぼろの状態だ。
けれど今日は何故だかこちらに目もくれず皆で何か話し込んでいた。そのお陰で逃げることができたが…どうせならいつもああしていればいいのに、そうぼんやり思いながら、キラは携帯を取り出そうと鞄に手を伸ばした。そのとき―
「……何?」
近くからゴソゴソッと何かが動く音がした。猫だろうか?普段ならそんなこと気に留めもしないのだが、最近噂になっている例の事件が頭をよぎる。
『一人でいる子供を襲い内蔵だけをくり貫く悪魔が居る』
それが、ここ最近街に流れている噂だった。
犯人の姿は誰も見たことが無い。その人間とは思えない所業から"悪魔"と勝手に皆が呼んでいるのだ。
実際、キラの通う高校からも被害者が何人か出ている。キラはあまり気にしていなかった――気にする余裕が無かったというのが正しいか――が、今自分は人気の無い公園に一人。悪魔の格好の餌になっているのではないか。
そう考えると背筋がすっと冷えた感覚がした。ここに居てはいけない、早く帰ろう。キラは痛む身体を叱咤して立ち上がろうとした。
――ガサガサッ
「うわっ!」
その瞬間、またしても大きな音がした。立ち上がりかけていたキラは驚いてバランスを崩し、尻餅をついてしまった。まずい、もしかして今目の前には…
「――キュウ?」
「…えっ」
しかし予想は見事に裏切られ、返ってきたのは可愛らしい動物の鳴き声。
キラの目の前には、真っ赤な目をした黒ウサギがちょこんと座っていた。
「え…ウサ、ギ?何で?だってこんなところに普通…」
ここは都内の住宅街だ。田舎でもないのにウサギ?ありえない。こんな街中の公園に野生のウサギなんていないだろう、普通。
しかしウサギはそんなキラの困惑など気にも留めず、ごそごそとキラの鞄の中を物色している。
そうしてウサギは、器用に前足を使って鞄の中から携帯電話を引っ張り出した。最初はこつんこつんと鼻先でつついてみたりしていたのだが、次の瞬間、目を疑うような出来事が起きた。
「…ええぇっ!?」
あろうことかウサギはその場で二足で立ち上がり、前足で携帯電話を抱え走り去っていった。ウサギらしくぴょんぴょんと跳ねるように走っていったが、二足歩行な時点でウサギらしくない。
「――あっ!?僕の携帯!」
そんな衝撃的な光景を目の当たりにしてキラは暫しぽかんと放心してしまっていたが、すぐにはっと我に返る。ウサギに携帯電話を奪われてしまった。
何が起こったのかキラ自身あまり理解していないが間違いない。ウサギに取られたのだ。それも丁寧に両手で抱えられて持っていかれた。
「ちょ…待って、返してよ!えっと…ウサギさん!」
携帯電話は母親との大切な連絡手段だ。失くしてしまっては困る。キラは状況を飲み込みきれないまま、ウサギを追って走っていった。
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