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オメガモンにはずっと、彼がオメガモンというデジモンとして生まれた瞬間から、自分は決して幸福になってはならないのだという漠然とした意識が根底に根付いていた。それは不幸でありたいだとかそういうことではなくて、きっと彼が彼として生まれた経緯がそうさせていた。オメガモンというデジモンは、ある2体のデジモンが融合することで生まれる個体である。それは2体の意識が融合して一つになることもあれば、その2体を土台に、新たな意識が生まれることもある。彼は後者であった。だから、彼はずっと、自分は誰かの犠牲の上にその命が成り立っていると思っている。
だから、犠牲の上に立つ自分は、決して幸せになってはならないのだと。

「お前を幸せにする権利が欲しい」
真剣な瞳が真っすぐに自分を見つめている。言われた言葉にないはずの耳を疑って、目の前の真紅を見つめ返した。
それは突然だった。いや、相手からすればずっとずっと思い続けていたことだった。オメガモンが気付こうとしなかっただけで、デュークモンはずっと思っていた。彼を心の奥底から愛していた。だから幸福になってほしかった。いつも幸福から離れ不幸の方へ足を進めようとするから、その手を掴んで引き留めたかった。そうするための権利が、デュークモンは欲しかった。嬉しいと思う。だけどどうしようもなく根底に居座る意識がオメガモンを躊躇させた。幸福に、なるべきでは。
『いいんだよ』
聞こえた声に目を見開く。温かい声だった。二つの声が重なっていた。
『いいんだよ、君は望まれて生まれてきたんだから、幸せになっていいんだ』
『俺たちの分まで、ちゃんと幸せになって』
その声はどこまでも優しかった。デュークモンと同じように、彼らも幸福を望んでいた。彼らがそう言うのなら、俺は幸せを望んでもいいのだろうか。でももう今更、どうやって幸せを望めばいいのかも、何が自分にとっての幸福かも、オメガモンにはよくわからないから。
「…お前が、手を引いててくれるか」
小さな声でオメガモンがそう呟けば、デュークモンは嬉しそうに笑って頷いた。
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