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イグドラシルへの忠誠は絶対だった。イグドラシルの正義こそがこの世界の正義で、それが俺自身の正義でもあった。そう信じて疑わなかったからこそ、俺はこの新世界に生きる選ばれなかった者も選ばれた者も、言われたままその全てを消して回った。心が揺れることもなかった。疑問を抱いてはいけなかった。私という存在は、イグドラシルの手駒でなくてはならない。己の存在意義などそれだけで十分だと思ってきた。しかし。
「こうすることでしか、確かめられぬことがある」
この左腕の剣がその装甲を貫いた感覚が嫌という程に残って消えない。今までどれだけのデジモンたちをこの剣で葬ってきたのだろう。だけれどこのような感覚を感じたことはなかった。倒すべき敵しか倒してこなかった。裏切り者は、その牙をイグドラシルに向ける前に排除しなければならない。たとえどのような相手であっても。それがたとえ、盟友と呼ぶ相手でも。
『本当にそう思っているのか』
背後から聞こえた声は随分と聞き慣れたもので、勢いよく振り返る。そこにいるはずのない影がひっそりと立っていた。ないはずの心臓がうるさく脈打つようで、内部のデジコアが急速に熱を上げた。自壊してしまいそうにコアが軋む音がする。
『後悔する資格すらないくせに』
責め立てる言葉に何も返せないのに、けれどそれは酷く俺を落ち着かせた。責めてほしがっている自分に気付いて、自己嫌悪で吐きそうだった。いっそこのままデジコアが壊れてくれれば、そんなことさえ思った。動揺してはいけないはずだった。疑問を持ってはいけないはずだった。だけどそれ以上に、彼の存在が自身の中であまりにも大きかった。殺した瞬間の光景が脳裏から離れない。刺し殺した左腕の感覚が消えてくれない。その全てが、俺を後悔の淵へ追いやっている。けれどどれだけ後悔を重ねたところで、自分から命を捨てることさえ俺には選択できないのだ。
「…デュークモン、俺は」
消え入りそうなほどに小さな声で名前を呼べば、影は呆れたように笑って消え去った。
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